試乗を開始して首都高速を走りながら、ランボルギーニみたいな剛性感だ! と、私は思った。こりゃあ、スーパーカーだ。リア・フェンダーの膨らみがスゴイ。リア・タイヤは扁平率30で、ものすごく薄い。着座位置は低いし、フロント・ガラスも寝ている。
虎ノ門にあるポルシェ ジャパンで、広報車の新しい911カレラ4Sを引き取り、私は自宅方面に向かっていた。すでに大都会は夜の帳に包まれていた。走行中、隣のクルマとガードレールの位置が気になってしようがない。立ち気味のフロント・ガラスから、両サイドのフェンダーがセクシーな太もものごとく浮かび上がる、何より全幅が1660mmしかなかった964以前の911をふと思った。
【主要諸元】全長×全幅×全高:4519mm×1852mm×1300mm、ホイールベース:2450mm、車両重量:-kg、乗車定員:4名、エンジン:2981cc水平対向6気筒DOHCツインターボ(450ps/6500rpm、530Nm/2300~5000rpm)、トランスミッション:8AT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:フロント245/35ZR20、リア305/30ZR21、価格:1772万円(OP含まず)。乗り心地は終始一貫して硬い。ドライブ・モードはノーマルなのに。けれど、ボディとタイヤとの一体感が印象的で、首都高速の目地段差も、タン、タンという小さな音とショックのみで淡々とこなし、姿勢はつねにフラットに保たれている。新しい電子制御の可変ダンパーが効いてもいるのだろう。ホイールは前後異径、それも前20インチ、後ろ21インチというトンデモナイ大きさになった。4WDで前後異径は珍しい。
245/35ZR20、305/30ZR21という前後のタイヤ・サイズを確認したとき、う~む、こんな薄いのは見たことがない、と、思ったけれど、事実は違っていた。前後ともに20インチではあったけれど、先代(991フェイズ2)カレラGTSのトレッドと扁平率がそうだった。GTSは、カレラSとGT3のあいだに広がっている大きな隙間を埋めるべく設けられた、カレラSより上位に位置する高性能モデルで、つまり新しい992型においてはカレラSにして先代カレラGTS以上の内容を盛り込もうという、シュトゥットガルトのわかりやすい意図が読みとれるのだった。
タイヤサイズはフロント245/35ZR20、リア305/30ZR21。タイヤはグッドイヤーの「イーグル アシメトリック3」。試乗車のアルミホイールはオプションの「RS Spyder Designホイール」(38万2000円)。ATのみの設定その翌日、早朝4時半に私は起きて、眠っている911カレラ4Sを目覚めさせた。とにかく箱根方面に行ってみよう、と思った。ステアリングホイールの右側の、本来ならスターター・キイのある位置に設けられた固定式のつまみをひねると、電子制御の水冷直噴3.0リッター・フラット6のツインターボはもちろん一発で目覚めた。
カレラ4 Sが搭載するエンジンは2981cc水平対向6気筒DOHCツインターボ(450ps/6500rpm、530Nm/2300~5000rpm)。先代カレラSより30ps増しの450psを6500rpmで生み出す。最大トルクは30Nm増しの530Nmを2300~5000rpmで発揮する。
PDKという独自名称のデュアル・クラッチ・トランスミッションは新たに8スピードに多段化されている。ギアが1枚増えたおかげで、1速はより低くに、8速はより高くなり、性能と燃費の二兎を追う。マニュアルの設定はない。
トランスミッションはデュアル・クラッチ・タイプの8AT。シフトレバーは、細身の電子タイプ。電動パーキングブレーキ(オートホールド・モード付き)は標準。8代目になる新型ポルシェ911の、まずはカレラSとカレラ4Sがデビューしたのは、2018年秋の米国ロスアンジェルス・モーターショーである。それは2011年に登場した7代目991型911の正常進化モデルととらえられる。
2450mmのホイールベースは同一のまま、ボディを一新、991フェイズ2から引き継いだフラット6ターボを研ぎ澄ました。
もともとリアのトレッドはカレラSとカレラ4Sで異なっていたけれど、8代目では後輪駆動のカレラSも4WD同様のワイドなリア・フェンダーをまとう。話がややこしくて恐縮ながら、カレラSのみ先代比でリアのトレッドが39mmプラスとなり、フロントのそれはカレラS4ともども48mm広げられた。
フロント・トレッドの拡大は横方向のスタビリティ向上、リアの拡大は後輪駆動のトラクション向上のため、と説明されている。
2981cc水平対向6気筒DOHCツインターボ・エンジンはリアに搭載される。なお、エンジン・カバーをすべてあけるには特殊な工具が必要。オイルの給油口などにアクセス出来るサービス用カバーは、室内から簡単に開閉出来る。カレラSとカレラ4SではPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション)を標準装備する。初めて前後異径ホイールとの組み合わせとなるこれは、マグネティック・コントロール・バルブ付きの可変ダンパーがより俊敏で、より日常使用にふさわしい乗り心地を得るべく改良されている。決してソフト方向ではなくて、硬派のスポーツカー方向に。
ご参考までに、さらにファームなスポーツ・サスペンションもオプションで用意されている。未体験で申しあげるのは愚なことだけれど、これ以上硬くする必要はないように現時点では思う。性能もさることながら、車高が10mm低くなるところがミソかもしれない。
一新されたボディ一見、991型と見分けがつかないけれど、ボディは一新されている。その証拠に、スティールとアルミニウムの配合比は、先代のスチール63%に対して、新型では30%にまで減っている。
ボディ外皮はドアも含めてアルミニウム製で、ダイキャスト(鋳造)のアルミニウム部品の使用も増えているという。ポルシェの主張によれば、トレッドの拡大にも関わらず、車両重量は約3kg軽くなっているという。
カレラ4 Sの最高速度は306km/h。静止状態から100km/hまでに要する時間は3.6秒。試乗車はオプションの後輪操舵システム(リア アクスル ステアリング)を装着していた。価格は36万8000円。ボディの剛性は、ねじり、曲げともに先代比5%アップしている。この5%という控えめな数値が先代のボディ剛性の高さをも表していると思うけれど、世のなかには「しきい値」というものがあって、5%のアップが少なくとも私という人間の「しきい値」、境目となるポイントを刺激して、ランボルギーニなる単語を呟かせたのではあるまいか。と、他人に聞いてもしかたがないので、これは単なるつぶやきです。
私が試乗したもっとも新しいランボは「ウラカン・ペルフォルマンテ スパイダー」で、考えてみたら640psもある文字通りのスーパーカーである。それを連想させるって、すごくないですか(つぶやきです)。
ドライバーのこころをざわつかせるポルシェ・サウンドより性能を上げることに集中したという新しいフラット6は、タービン・ホイールの直径が3mm、コンプレッサー・ホイールのそれが4mm拡大された、より大型のターボチャージャーや再設計された冷却および吸排気システム等を備えている。
450psの最高出力と530Nmの最大トルクは、8速PDKとのコンビでもって、電子制御多板クラッチを介して後輪と前輪に分配されるわけだけれど、フラット6自体はたいてい3000~4000rpmでまわっている。
メーターパネルは中央の回転計を除きデジタル。ナビゲーション・マップも表示出来る。アクセルを踏み込むと、ポルシェ独特のサウンドは3000から上で俄然力強くなり、8000rpmまで切ってあるタコメーターの針が7000rpmを超えるまでグオーッと音量を増し続けて、ドライバーのこころをざわつかせる。
そりゃそうである。サウンドだけではなくて、速度がとんでもないことになっている。いわば雷神風神の所業である。ひとならぬ、自動車の神が私をして、そうさせる。シフトをPDKに一任していると、それはシュパシュパッというウェストゲート・バルブの開閉音を思わせるサウンドを轟かせながらシフトアップする。
試乗車には42万6000円のオプションの「スポーツエグゾーストシステム」が装着されていて、それがこの6気筒編成の水平対向生バンドの魅力をいや増している。ちなみにこのオプション、テールパイプが楕円型になっていることで外からも判別できる。
物理スウィッチを極力少なくしたインテリア。自動防眩ミラーは9万円、マットカーボンのインテリアパネルは29万2000円のオプション。インフォテインメント・システム「PCM(ポルシェ コミュニケーション マネージメントシステム)」用の10.9インチ・モニターは全車標準。Apple CarPlayも使える。Boseサラウンドサウンドシステムは23万2000円のオプション。eスポーツの如しフラット6は、その特性上、高回転までまわしても振動を発したりすることはない。ドライブ・モードをノーマルからスポーツ、さらにスポーツ・プラスに切り替えると、街中でフツーに走っているときでも、アクセルオフするだけでブリッピングしながらダウンシフトする。
まるでGT3の如し、という惹句が浮かんだけれど、電子制御の切り替えによって生まれるそれは、そのレーシーなこと、eスポーツの如し。これは大人の振る舞いではない。グランツーリスモ等、コンピューター・ゲームで成功した若者のためのモードである、と思い直した。しっとりと911を味わいたい。少なくとも、この日の私はそういう気分だった。それにはノーマル・モードのほうが好ましい。
レーンキープ・アシストもオプションで選べる(9万6000円)。100km/h巡航は8速トップで1300rpm程度と極めて静かである。回転がもうちょっと高くても、アクセル一定であれば、フラット6はほとんど音無の構えで、踏むと俄然快音を発し始める。ポルシェ独特のサウンドは、もちろん空冷時代とおなじではないけれど、それを思わせる。より野太くて、より濃密で、より魅力的になっている。
ブレーキはいっそうキューッと効く。ブレーキの快楽というものがあるとすれば、これこそがそれだ。
試乗車のシートはオプションの14Way電動スポーツタイプ(37万円)。さらに、オプションのベンチレーション機能付き(17万4000円)だった。リアシートの居住性は、先代のタイプ991とさほど変わらない。シートベルトカラー(ブラウン)は、7万2000円のオプション。リアシートのバックレストは50:50の分割可倒式。フロントのラゲッジ・ルーム容量は132リッター。東名高速のくだり40kmポスト手前で、路面が荒れているのが伝わってくる。いつも通る道なのに、この日に限って、なんだかとっても荒れている、と感じる。
路面を見ると、確かに舗装がデコボコしていて、つぎはぎがあったりする。それが明瞭に、ステアリング・フィールや腰への振動で伝わってくる。なのに、乗り心地は決して不快ではない。世界はこうなっている、と教えてくれるのだ。
新設「ウェット モード」の威力とは?やがて雨が降り始める。今年、何度目かの台風が西日本を襲っていて、その影響だろう、大井松田あたりから雨が激しくなる。楽しみにしていた高速ワインディング・セクションが危険なゾーンになってしまった。道路の両サイド、もしくは片側が「のり面」になっていて、そこから雨水が流れ出し、一部の路面で川をつくっている。思わぬところに水たまりができていたりもして、私はもう、たいへんビビった。
そのとき、液晶画面にWET MODE、という文字が出た。英語だったと思うけれど、カタカナだったかもしれない……。
パドルシフト付きのステアリング・ホイール。走行モード切り替えスウィッチは、ステアリング・ホイールのスポーク部分にもある。新たに設定されたポルシェ・ウェット・モードというシステムで、フロントのホイール・ハウジング内の音響センサーが水しぶきを検知すると、ドライバーにそれを通知して手動でこのモードに切り替えるように促す。そうすると、ポルシェ・スタビリティ・マネジメント・システム(PSM)やら同トラクション・ マネジメント・システム(PTM)やら、ポルシェ・トルク・ベクトリング・プラス(PTV Plus)やらが総動員され、ドライブトレーンのレスポンスが鈍くなる。
切り替えは、スタンダードだとダッシュボードに設けられた古風なトグル・スイッチによって行うわけだけれど、「スポーツクロノ パッケージ」(38万1000円)を装備している試乗車の場合、ステアリング・ホイールのスポークに設けられた丸い小さなスイッチをくるりとまわして、スポーツにもスポーツ・プラスにもノーマルにもエコにも、あるいはウェットにも切り替えることができる。
ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は27万8000円のオプション。私はくるりとまわしてウェット・モードを迷うことなく選び、無事ことなきを得た。そして、そもそも4WDモデルに乗っていたのを大いに喜んだ。脳裏に浮かんだのは、その昔、996のカレラ4の試乗会に行ったとき、広報マンの言っていたことばだった。996は993から使われ始めたヴィスカス・カップリングをセンター・ディファレンシャルに使っていた。前後輪の回転差が生じると自動的に前輪にトルクを伝えるそのシステムを、その広報マンは「いざというときに、後輪駆動の911から、もう1台、4WDの911が現れる」と表現していた。
新型カレラ4Sは電子制御多板クラッチのアクティブ4WDだから、そういう意味ではパッシブではなく、確実に進化している。ともかく、あの雨のなか、安心・安全だったのは、新たに採用されたウェット・モードと4WD、それと運のおかげであったろう。カレラ4Sは100万円ほど高価なわけだけれど、その選択には大いなる意味がある。事故を未然に防ぐ仕事をしてくれるのだから。
991型を再度、ギュッと引き締めた992型ステアリングのギア・レシオも見直されている。11%、よりダイレクトになっている。フィールはちょっと重めで、その重さが心地よい。試乗車は、36万8000円プラスの「リア・アクスル・ステアリング」と、52万5000円の「ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール(PDCC)」も装備していたりもする。
ロール抑制システム「ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール(PDCC)」は52万5000円のオプション。システム設定のスウィッチは、インパネ上部にある。360°カメラも搭載する。4輪を操舵し、ボディのロールを消すなどの各種の電子制御システムもさらなる進化・改良・改善が図られ、大型化によって、いまから考えるとちょっとユルくなっていた991型をもう一度、ギュッと引き締めた。ジムに行って、飯伏幸太のような身体を手に入れた。ごく簡単にいうと、992型とはそういう911である。
そうそう、991フェイズ2と992、外見で見分けがつかない人(筆者もそうです)は、ドア・ハンドルで区別されるとよい。992の場合、普段はボディと「ツライチ」になっていて、リコモン・キイのボタン、もしくはそのキイを持った人が触ると、ほとんど音もなく、ちょっとだけ飛び出る。
ドア・ハンドルは、ポップアップ式。ドアのロック/アンロックに応じ、電動で動く。ドア・ハンドルは、ポップアップ式。ドアのロック/アンロックに応じ、電動で動く。内装では、タコメーターだけ、実在の機械式が使われている。数字のカタチがバウハウスっぽいと言っていいのか、スッキリしていて、見やすい上にカッコイイ。車載のコンピューターによると、燃費は高速道路中心で7.5km/リッター、降雨のため、速度を控えめにしたら8km/リッター台だった。
車両価格は1772万円だけれど、オプションがてんこ盛りの試乗車は総額2173万4000円と、軽く2000万円クラスに突入している。さりとて、人生100年時代。ご同輩、あきらめるにはまだ早いですぞ~! と小沢昭一のマネ。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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