COP27がエジプトで開催されているが、日本は、2050年カーボンニュートラルに向けて、さまざまな取り組みを行なっている。そうした中で自動車についてもいろいろな技術革新を目指し取り組んでいるのでその概要をお伝えしよう。
まずは、動力源としてのエンジンをどうするか? という課題に対し、大きく分けて2系統ある。ひとつはガソリンや軽油の代替燃料の開発という方向性。そしてもうひとつは電動化だ。いずれも一次エネルギーである原油からの脱却を掲げCO2排出を削減するという方向では一致している。
2022年に盗難されたクルマの車種、ワースト1位は2年連続であのクルマ
資源エネルギー庁発行。わかりやすくまとめられている。
そこで前回はモータースポーツに使われる燃料はどうなるのか? 脱化石燃料は可能なのかということをお伝えした。
※関連記事「モータースポーツはこれからどうなる?燃料の果たす役割を考える」
そして、11月上旬に行なわれた国内のモータースポーツで最も集客力があるスーパーGT最終戦で、レースをプロモートするGTアソシエーションからスーパーGTにおける脱化石燃料が表明された。
その内容を掻い摘んでお伝えすると、来年2023年からGT500/GT300クラスで使われる燃料はカーボンニュートラル燃料(CNF)に切り替えるというもので、100%ガソリンからの脱却を宣言したものだ。そして2030年目標としてCO2排出量を半減するということも併せて発表した。
スーパーGTで使うガソリンの代替燃料であるCNF(カーボンニュートラル・フューエル)はバイオマス由来の燃料ということだ。成分の詳細は明かされていないが、同様にスーパー耐久レースでテストされているCNFは水素と回収したCO2から作られており、スーパーGTで使用するCNFも原油からは生成されていないものだ。
GTAの会見でスーパーGTというレースの世界もカーボンニュートラルを目指すことを発表。
このCNFの考え方は、「地球上にあるCO2を増やしていない」という理屈のもの。じつは、そのCNF燃料をエンジンで燃焼するとCO2は排出される。さまざまな種類のCNFが開発されているが排出量に違いはあるにせよ排気するのだ。が、CNFを製造する過程において大気中にあるCO2を回収して製造するため、排出するCO2より回収するCO2のほうが多い。だから地球上にCO2を増やしていないという理屈。経産省からもこの大気中のCO2回収技術(DAC=Direct Air Catcher)の向上促進が促されている。
このように一次エネルギーである原油からの移行は、モータースポーツでは始まっているわけだ。少し脱線すると、一次エネルギーとは石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料、また風力や地熱、水力なのどの自然エネルギー、それと原子力があるが、自然エネルギーを除き「脱却」という動きが活発化し、原子力については国によってその対応も異なっているのが現状である。
一方で、ウクライナ情勢からの欧州におけるエネルギー事情の変化によって、石炭火力の見直しなども始まり、脱炭素、カーボンニュートラルな社会へが揺れている実情もある。
現実的な観点から注目を集める二次電池式BEV
さて、もうひとつの流れが電動化というストリームだ。ひとくちに電動化と言ってもさまざまなアプローチがあり、日本が得意としているハイブリッド技術がある。これは完全な電動車への移行期間に最適な技術と位置付けているものの、欧州では不人気な状況だ。
そして完全な電動化をするためにBEVがあり、もう一つが水素をつかった発電や水素燃焼といった技術が出てきている。この100%電動化するには電力が必要であり、その電力をどのように作るかという二次エネルギーの作り方という方向に課題が移っていく。
バッテリーEVでは現在主流のリチウムイオンバッテリーでは、レアメタルの使用がありコバルトやマンガンなどの地下資源の使用という課題がある。また中国がリチウムイオンのマーケットシェアが大きく価格への影響があることも課題になっている。
これらに対して全固体電池という技術でブレークスルーを狙っているというのがカーメーカーの現状だ。ただ、これらバッテリー技術としては充電という課題もあり、そもそもの電力をどうやって作るのかという問題は、エネルギー関連産業が出す答えによって決まってくるわけだ。もちろん、原油や天然ガスからの脱却を目指すものの、天然ガスは移行期間に最適という意見もあり、化石燃料からの脱却にはまだ時間が必要だろう。
そして原子力発電がありフランスや中国は積極的であり、EV化を加速させる要因の一つになっている。もちろん国内での原発は賛否があり容易な課題ではないことは言うまでもない。もうひとつは風力や太陽光、地熱などの自然エネルギーによる発電があるが、これも資源エネルギー庁の電源構成では2019年度はいずれも10%未満であり、メインストリームとは言い難いわけだ。
資源エネルギー庁が発表している日本の電源構成と需給予測。
そうなるとバッテリーEV以外での電動化はどうするか?というフェーズに入り注目されているのが、水素の存在だ。2021年の経産省グリーン成長戦略では、第6次エネルギー基本計画でエネルギーミックスの項目に水素が表記されている。
そのため水素バリューチェーン協議会など民間企業の活動も活発化している状況になったのだ。余談になるが、気候変動は+1.5度に抑えることで世界の一致を見たものの、この2050年カーボンニュートラルな社会という目標では日本は欧州、北米と足並みは揃っているものの中国、ロシアは2060年だし、インドは2070年とそれぞれの都合で目標年も異なっているのだ。
その水素の利活用が着目され、以前トヨタの水素燃料エンジンは成功するのか?という記事でお伝えしたが、水素エンジンは多くのカーメーカー、エンジニアリング会社で継続研究されている。特に大型トラックの輸送用も踏まえたことで欧州でも脚光を浴びているのだ。
水素燃焼エンジンは既存の内燃エンジンとほぼ共通な部品構成で成立させることができ、既存のガソリン、ディーゼルエンジンの改良でも対応可能なことから、メーカーとしては製造コストや蓄積した技術の活用などからも期待されているというわけだ。
そしてもうひとつの利活用として燃料電池がある。燃料スタックと呼ばる装置で水素を使って発電する仕組みで、その仕組みを車載しているのがFCVと呼ばれる車両だ。トヨタ・MIRAI、ホンダのクラリティが相当している。
そのFCVも大型トラックの長距離輸送用としての可能性も出てきている。水素利活用としてのFCVは乗用車だけでなく大型商用車にも拡大し、また定置型電源(エネファーム)という利用も拡大すると期待されている。さらにFCVのパイオニアであるトヨタはディーゼル機関車をFCVへの切り替えの提案なども行なっているのだ。
だから今、語られている近未来の電動化へのアプローチとしては都市部での配送トラックはBEVを有力視。つまり走行距離が短いことから電池容量が少なくて済むことやインフラへの依存度が低くなることから二次電池式BEVがいいといわれている。
そして長距離ではFCVと水素エンジンだ。FCVでは導入コストの課題や積載量による負荷もあるが、トラックターミナルに水素充填ステーションがあれば対応できることなどからFCVの選択肢がある。実際アメリカのゼネラルモータース(GM)はアメリカのペンタゴンにFCVのシャシーを納品しており、米軍基地内に充填ステーションを作ることで基地間移動を可能としている。積載するものは多岐に渡るため荷台は都度変更できるようにシャシーの提供というわけだ。そして前述した水素エンジンも脚光を浴びる状況へとシフトしてきている。
トヨタが開発する水素燃焼エンジンを搭載するカローラ。スーパー耐久に参戦中。
水素エンジンがもつメリットと課題
ただその水素も二次エネルギーに位置付けられ、どうやって作るかという課題もあり、議論と技術開発がパラレルで進行している。自然界に水素は単体ではほぼ存在しておらず、水や化石燃料などの化合物として存在しているため、水素を取り出す技術が必要になる。だから水の分解という理論で燃料電池が存在しているわけだ。
やっかいなのは、特にFCVでは水素に純度が求められ、99.9%以上の純度の高い水素が必要といわれているのだ。そのために必要な綺麗な水、電力も、また圧縮する際の電力も課題とされているわけで、いずれも課題を背負っているのがわかる。
そして水素エンジンとした場合、前述のように既存の記述で対応でき産業としての再構築は小さい規模で対応できるため企業としてはメインストリームにしたいと考えているのではないだろうか。そうした場合、水素充填をどうするかという課題に対し、欧州ではすでにガスパイプラインが欧州中に張り巡らされているので、そのパイプ利用で水素ステーションが可能になるのではないかと検討されている。
もちろん、水素の扱いはこれまでのガソリンとは異なるわけで、仮に圧縮水素となった場合、その圧縮するための電源や、ステーションの設備費用なども課題にはなってくる。また、欧州以外では製造した水素をどうやって運ぶのかという課題もあり、その際の船やタンクローリーのパワーユニットは何か?といったことも検討していかなければならない。
このように次世代エネルギーに対し、未来に向けてマルチパスな状況であることから、カーメーカーとしては、具体的なモノづくりではない中で、会社の方向性を決めて進めていかなければならない難しさがあるわけだ。最後にホンダのロードマップを参考にすると、カーボンニュートラルに結び付けていくにはリサイクルも含め、社会全体でのサスティナブルな世界を目指すスキームでビジネスを捉えていることがわかる。
ホンダは電気、水素、炭素の3つのサイクルでカーボンニュートラルを目指している。
だから我々ユーザーはこうした状況の中で、未来に向けたエネルギー政策の正解はひとつではないというフェイズにいることを理解する必要があるだろう。目先の技術論で水素はダメだとか、EVに置き換わるわけがない、あるいはICEこそ大事だといった議論をしつつもカーボンニュートラルに向けてはマルチパスな状況であることを理解しておきたい。
文/高橋アキラ(モータージャーナリスト)
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みんなのコメント
これは、語弊があるよな。欧州の自動車メーカーが作ってくれないから売れないのは当たり前で、トヨタのHEVは相当数が売れているのが実態。
>ホンダは電気、水素、炭素の3つのサイクルでカーボンニュートラルを目指している。
正直言って、ホンダの規模(420万台)ではペイしないのでは。ホンダという会社がシステムを売って仲間を増やしたりするのを得意とする会社でもないし。一社でペイするのは、一社でプラットフォーム展開ができるトヨタ・VW・現代(660万台)くらいだろうと思う。あとはシステムサプライヤ頼みになるのでは。
ルノー・日産・三菱グループ(766万台)ですら、グループ化で20年以上経って、数の理論を生かし切っているだろうか? ステランティス(614万台)なんかやっとグループになったばかりだし。結果がすぐ出るわけでもないし。
水素やe-fuelはより大型で長距離走行するものに回すべき、自動車だけでなく船や航空機や鉄道にも必要
燃料電池もトヨタがやってるPEFCよりSOFCの方が有望だろうな、小型化に課題はあるが高効率で水素じゃなくても発電出来るし