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ランチア復活へ! イタリアの高級ブランドの未来とは?

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ランチア復活へ! イタリアの高級ブランドの未来とは?

イタリアの「ランチア」が、新たなコンセプトカーを4月15日に発表する。長らくニューモデルが途絶えていたランチアの現在・過去・未来とは? イタリア車に造詣の深い松本葉が考える。

ランチアの歴史はドラマチック

「ブレイクアウト」は乗って楽しく、見て嬉しい新しいハーレー・ダビッドソンだ

長い間、滑走路の果てに置かれていたランチアが、いよいよ離陸体制に入った模様だ。テイクオフのアナウンスが小出しでなされている。

ステランティス誕生後、唯一、扱いが不透明だったブランドがランチアだ。1907年にヴィンチェンツォ・ランチアがイタリア・トリノに創設した同社は、技術面を中心にこんにちの自動車の原型を作り上げたメーカーである。が、道行は今日に至るまでアップダウンを繰り返すドラマチックなものである。

最初の不運は創設者の急逝。後継者となった息子が名設計者を迎え入れたことで存続し、自動車史上初のV6エンジンを搭載した「アウレリア」はグランツーリズモ・カテゴリーを確立した。

勢いに乗ってF1参戦を目指してマシンを開発するも、経費が嵩んで経営を圧迫。1955年、ランチアは企業家によって買い取られ、息子は自らの名を冠した自社から手をひき南米に消える。これを第二の不運とするならば、しかしこの時もその名に恥じぬ自動車作りを継続した。またしても優秀な設計者がくわわったことで「フラミニア」や「フラヴィア」など名車を作り上げたのである。

それでも経営が安定することはなかった。販売は好調だったが、帳簿は赤字。1969年に1リラ(感覚的には今の1000円以下と想像する)というシンボリック・プライスでフィアットに売却されたのだった。これがランチアの“立場が不安定なステランティスの一員”というポジションへの始まりである。

ちなみに当時を知るイタリア人によれば、フィアットがランチアを譲り受けたのは同社の技術力が欲しかったという積極的な理由ではなく、ランチアを放っておくことは許されない、そんな世論に後押しされた面が大きかったという。大統領公用車としてもフラミニアが採用されただけに、国の顔、シンボルだったようだ。ランチアは社会的な存在だったのだろう。

難しいブランドフィアット傘下となってからのランチアは、生産車こそ次第にランチアらしさを失っていくものの、一方でアバルトと手を組んだ結果、看板を架け替えただけの生産車を土台にスポーツモデルを作り上げてレースやラリーで大活躍を見せる。今でも絶大な人気を誇る「ストラトス」や「デルタ・インテグラーレ」は当時、生まれたモデルだ。後者はWRC制覇で圧倒的な力を見せつけた。

しかしながらフィアット車とのバランスをはじめとする社内事情、プラットフォームの共通化といった自動車製作の変化、そしてグループ内における”個人の思惑”もあったようで、徐々にランチアは居場所を失う。

現在、ランチアのロゴをつけるのは「イプシロン」のみ。しかもイタリア市場向けである。“アンチ・フィアット”、増えすぎたフィアット「500」の差異化のような存在ながら、本国のみのワンモデルに過ぎず、「(ランチアは)生きている」とは言い難い。

居場所を失った理由は、筆者個人としては、社内事情とコストと時間に縛られた製作の変化が要因と思ってきたものの、”個人の思惑”も侮れないと前述のイタリア人に教えられた。いかにも百の凡人の意見より鶴の一声がもの言うこの国らしい。

生粋のトリノ人であり強烈なランチア・ファンの彼によると、C.フィオリオの時代もランチアを巡っては、船頭多くして船山に登る状態だったそうだが、現況に至る”主犯”はふたり。WRCの栄光をスルーした当時のフィアットオートの社長、P.カンタレッラと、アルファ・ロメオは大切にしたが、最後までランチアを理解しようとしなかったS.マルキオンネという。

「上質なジャケットの表地をアルファとすれば、ランチアは裏地。アルファはミラノというよりイタリア的でわかりやすい。ランチアは骨の髄までトリノ。ランチアのエレガンスはある意味、トリノ人が好むアンダーステイトメントだからわかりにくい」

アルファ・ロメオの歴史もまたジェットコースターの如く上りと下りを繰り返したが、それは国の思惑に巻き込まれたところが大きかった。跳ね除けたのは内部の作り手の結束。ランチアは国に翻弄されることこそあまりなかったが、問題を作り出したのはいつも内部の人間だった、そういうことのようだ。アルフィスタはイタリア全土にいるけれど、ランチア好きは今でも圧倒的にトリノ人だという彼の言葉も印象的である。

PSAとFCAの合併に際して、これでランチアは終わったと思ったか? という質問を向けるとイタリア人は首を横にふり、「ポジティブな要素がふたつあったから」と続けた。

「ひとつはC.タバレスがCEOになったこと。もうひとつはL.ナポリターノがランチアCEOに据えられたから」

“個人の思惑”を挙げた彼らしい答えだが、なかなか説得力のある分析だと思う。元ドライバーのタバレスはラリー好きを隠さない。実際のところ、ランチアは1年ほど前にYouTube公式チャンネルでCEOによるラリー・モンテカルロ・ヒストリック参戦を公開、車両はストラトスだった。「なんか匂った」、彼は動画を見た時の感想をこう語ったが、当時、レポートを掲載した自動車雑誌の多くが同じニュアンスだった。確かにいま思うとあれは復活への布石だった気がしないでもない。

一方、現ランチアCEOのナポリターノは、フォードを経て2000年にFCA入りした販売の専門家。現職以前はアバルトの責任者として名をあげた人物だ。この国の自動車好きの間ではブランドイメージ作り(と話)が上手いことで知られている。PSAがマセラティと共に欲しかったブランド、アルファ・ロメオはPSA側から送り込まれたイタリア系フランス人がCEOに就任、代わってランチアは“こちら側”からの横滑りである。これを以て「ステランティスはランチアに本腰を入れるつもりはない」というのが一般人の意見だったが、このイタリア人は違う見方をしていた。「難しさを知っていたからこそ、イタリア車をよく知るプロに任せた」。

ランチア復活へのプラン離陸のアナウンスをおこなったのはもちろんナポリターノである。昨年11月に「ランチア・デザイン・デー」を開催、2024年から2年ごとに3台(イプシロン、フラッグシップモデル、デルタ)のニューカマーを投入すると発表した。

デザイン・スタディとして「Pu+Ra ZERO」をアンヴェールしたが、この“オブジェ”が新生ランチアのデザイン・コンセプトとなるそうだ。そういえばランチア・フリークにオブジェの感想を尋ねたが、彼は顔をしかめてこう言った。

「演出がちょっと凝りすぎだったかな。出し惜しみしないで欲しい」

同感で苦笑した。

第一弾のゼロの先にはエモーションが待っている。4月15日に「Pu+Ra EMOZIONE」と名を変えてミラノ・デザイン・ウィークで公開される模様だ。イプシロンの具体的なカタチを見せるのではないかと予測される。

本国では、何度も飲まされた煮湯をふたたび案ずるファンも多いようだが、さすがにこの期に及んでちゃぶ台がひっくり返されるのはないであろう。新しいロゴが発表され、プランにはディーラーの再構築も含まれている。

最初にオープンする専用ショールームはトリノではなくミラノ。「場所的にはいい選択。トリノのメンタリティから離れて広い世界に目を向けることが復活の鍵を握ると思うから」、イタリア人のランチア仲間はみなこう言っているそうだ。

いずれにしてもわかっているのはひとつ。多くの自動車好きがランチアの復活を待ち望んでいる、ということだ。

文・松本葉

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