もくじ
どんなクルマ?
ー アルピーヌA110、まるで夢のクルマ
ー フランスの古典的ブランドの復活
ー 価格はポルシェ718ケイマン同等
どんな感じ?
ー 徹底した軽量化 重量は前後44:56
ー 内装の素材、荷室も軽量化重視
ー ステアフィール/乗り心地を検証
ー 惚れ惚れするようなバランス
「買い」か?
ー 驚くほどに、特別 ★★★★★
スペック
ー アルピーヌA110のスペック
どんなクルマ?
アルピーヌA110、まるで夢のクルマ
最初にいっておこう。アルピーヌA110は、わたしの長い運転歴の中でも最高にエキサイティングなクルマだ。この驚異の小型車は何から何まで素晴らしい。積年の望みを隅々まで実現した偉大なクルマのように、新鮮で活発な走りをわがものとしている。
トヨタGT86が常に必要なだけの十分なパワーを持ち、最新のマツダMX-5が正しいシート・ポジションと優れたロール・コントロールを持っているとわかったときと同様、わたしはとても嬉しい。
まるで夢のクルマだ。低体温症にならないアリエル・ノマド、素晴らしいギアボックスを備えたスマート・ロードスター・クーペ、ステアリングの軽いロータス・エキシージ、ドライブラインをリファインされたポルシェ964RS、修理可能なパネルを持つオリジナルのホンダNSXのように。
「このクルマ、好きなんだけどね……」という思いから「けどね……」をとってしまうことを想像してほしい。アルピーヌはそれをやってのけたのだ。
大げさすぎるだろうか? そうかもしれないが、そうでないと思いたい。この新しいアルピーヌA110はそれ自体素晴らしいクルマであるが、もっともっと大きなものの始まりかもしれないのだ。
フランスの古典的ブランドの復活
目の当たりにしているのは、1955年に創立し、ルノー傘下で1995年に幕を閉じたフランスの古典的ブランドの復活である。
永遠に幕を閉じたものと思われていたが、いまやルノーはこのブランドを復活させ、その最初のモデルがこの小型2シーター・クーペである。
幹部連中はこのクルマの将来の話をするとき、ミニを引き合いに出す。その将来についてあまりしゃべってはくれないが、強力バージョンや屋根なしの派生バージョンもあるようだ。
「決断をしないという決断をしました」アルピーヌのボス、ミヒャエル・ヴァン・デ・サンドはいう。誰でもこれがルノー・日産アライアンスのプレミアム・ブランドの始まりだと気づくだろう。インフィニティとは違って本当に欧州に根付くような。
ほかに考えようがないではないか。アルピーヌA110は他とプラットフォームを共有するスペシャルカーではない。全く新しいオール・アルミのアーキテクチャを持ち、アルピーヌ専門のディーラーで販売される。ルノーのディエップ工場の相当部分を新しくする必要もあるのだ。
ディエップはアルピーヌの本拠地で、ルノー・スポール・クリオは今でもそこで生産されているし、過去にはルノー・スピダーや2代目クリオV6も生産されていた。
いまだにアルピーヌに目をかけてくれる土地柄で、工場を完成するのに地方政府は助成金まで出してくれた。サプライヤーも多い。この場所が選ばれたのは、ノスタルジアのためではなくビジネスのためだ。
価格はポルシェ718ケイマン同等
ケータハムが一時期このプロジェクトに関係していたことを覚えているだろうか。プロジェクトが発表された2012年から、ほとんど何の説明もなくケータハムが撤退した2014年までだ。
同じ構造を持ったアルピーヌとケータハムの派生モデルは、グラス・エリアは同じだがボディは少し異なったクルマになるはずだった。
しかしケータハムが急に撤退して以降、アルピーヌはさらなる進化を遂げた。ケータハムのクルマはもっと軽かったかもしれないが、そうだとしても、アルピーヌA110の重量は油脂類満載でも1080kgしかない。来年の1月から8月にかけて1955台生産されるこのプレミア・エディションでも、たったの1103kgだ。
今日、1100kgを達成するというのは大変なことだ。「どのクラスであろうと、最軽量で最高に俊敏なクルマを作ろうと思います」とヴァン・デ・ダンドはいう。
ふーん、どのクラスであろうと、だって? とにかく、このクラスでは鉄では重すぎるし、かといって、この価格帯ではカーボンファイバーでは高すぎる。価格は5万ポンド(759万円)くらいだ。価格的にはポルシェ718ケイマンと同じである。ご注意のほど。
さて、実物を見てみよう。
どんな感じ?
徹底した軽量化 重量は前後44:56
オール・アルミのプラットフォームは、ほとんどが押出成型で作られており、周りのボディ・パネルはプレス成型、エンジンとサスペンションのマウントはちょっと変わって鍛造だ。
いたるところに軽量化の跡がみられる。アルピーヌがサベルトに作らせた軽量シートは、高さ調整にスパナが必要である。ふつうはひとつ1.5kgのスピーカーも、たったの450gしかない。
ちなみにリアのブレンボのブレーキ・キャリパーにはパーキング・ブレーキのアクチュエータが組み込まれており、機械式より軽いため電動のパーキング・ブレーキが採用された。徹底した軽量化が施される。
余談ではあるが、電動パーキング・ブレーキの採用には紆余曲折があった。アルピーヌのエンジニアが主人公だ。この連中はヘアピン・カーブでリア・ホイールをロックできる「熱狂のレバー」、つまりマニュアルのハンドブレーキの方が好きなのだ。ボス自身、アルファSZを所有しており、自分でケータハム7を組み立てたこともある。こんな連中、お好きでしょう?
A110はサスペンションもユニークだ。フロント、リアともにダブル・ウィッシュボーン。このため、すべてを車幅1.8mの中に収めるのは大変だった。ウィッシュボーンは水平方向にかなりのスペースを占有する。
一方、エンジンはリア・サスの間を横断するように搭載されており、燃料タンクはフロント・サスの間に置かれているのだ。しかし苦労の甲斐はある。燃料タンク位置のおかげで、重量配分はフロントが44%、リアが56%となり、重心はドライバーとナビのお尻のちょうど真ん中になっている。
タイヤ幅はフロントが205、リアが235で、標準のピュア・モデルのホイール径は17インチ。レジェンデとこのローンチ・エディションでは18インチだ。
内装の素材、荷室も軽量化重視
エンジンは1.8ℓの4気筒ターボで、最高出力は253ps。デュアルクラッチのオートマティック・ギアボックスを通してリア・ホイールを駆動する。
なぜマニュアルではないのか? これにはふたつの理由がある。ひとつ目はギアボックスをふたつも作る資金がないこと。ふたつ目は誰が買うか保証がないことだ。
そこで彼らは、ルノー・スポール・クリオに使われているゲトラクのDCTを改善することに金を使った。変速マナーとレスポンスを良くするため、DCTのクラッチは乾式ではなく湿式だ。
センター・コンソールは比較的すっきりしており、パドルはステアリング・コラムに取り付けられている。そしてインテリアは、例えばポルシェ718ケイマンと比べると、うーん、どんなもんだろう。
正直にいえば素材のクオリティは低い。硬いプラスティックが多いが、1100kg以下のクーペを作りたいなら仕方のないことだ。
適当なサイズのタッチスクリーンが付いていり、買うひとはA110には独自のインフォテインメント・システムがあるというかもしれないが、率直にいえば皆が持っているスマートフォンのミラーリングのほうがいいと思う。そのほうがサクサク動くし、経済的でもある。
室内環境はどうだろう?
A110はかなり小さいクルマだ。長さ4180mm、幅1798mm、高さ1252mmということは、キャビンには最小限の収納場所しかないということだ。一方でラゲージ・コンパートメントも小さい。
リアはグラス・ハッチではなくメタルのトランク・リッドしか開かないため奥行きがない。フロントのトランクは下に燃料タンクがあるため浅くなっている。
しかしですよ、スペアタイヤがないとオートバイに文句をいうひとがいないように、これは奇跡的な1080kgのクルマなのだ。荷物なんか載らなくて当然である。
良いところもある。
ステアフィール/乗り心地を検証
良いところといえば、一番背の高い同僚でも十分な空間がしっかりと確保されている点。ジャガーF-タイプより広いほどだ。ステアリング・ホイールの調整代も十分だ。
ドライビング・モードの切り替えボタンもついていて使いやすい。幸いなことに、それは走行特性を大きく変えるものではない、というのもポイント。
短く押すとスポーツ・モードになり、ステアリングは重く、スロットルと変速のレスポンスは鋭く、スタビリティ・コントロールは弱くなる。長押しすると今度はトラック・モードになり、さらにもう1段レベルが上がる。ダッシュ上にはESPオフのボタンもある。
しかしながら、これらはいずれもA110の走行特性を著しく変えるものではない。A110のダンパーはパッシブであり、動作はいつでも全く同じだからだ。ショックの吸収も優秀で同時にボディ・コントロールも抜群である。
このアルピーヌにはアダプティブ・ダンパーを装備する予定はまったくない。制御ユニットやら何やらで重たいからだ。アルピーヌのエンジニアがロールを厭わないためでもある。しかしA110のボディはとても軽いので、例えサーキットでもロールは大きくない。
一方、ソフトなスプリング、ダンパーと中空の柔らかいアンチロール・バーのおかげで、最悪のでこぼこ道でさえも軽々と滑るように走る。この走りには、きれいにステアしリニアにロールする現代のマクラーレンに通じるものがある。
ステアリングも同様。最初は718よりも感覚と正確さが劣っていると感じるかも知れない。路面感覚と正確性も持っているのだが、718やGT86よりも伝え方が上品なのだ。ロック・トゥ・ロックは2.2回転と十分に速く、サーキットでコーナリング・フォースがかかってくると、ステアリングは俄然生気を帯びる。
そしていつでも、A110はどのライバルたちよりも俊敏だ。公道での嬉々とした走りのバランスはとても自然で病みつきになる。
このクルマにLSDは必要だろうか?
惚れ惚れするようなバランス
このクルマにLSDは必要だろうか? LSDはついていないが、その代わり、より軽いオープン・デフとホイール・スピンを防ぐためのインナー・ホイール・ブレーキを持っている。
しかし、このシステムはあまり機能しないようで、ヘアピンで内側のホイールの荷重が抜けた時には、ベーシックなMX-5やケータハム160のようにホイールがスピンすることがある。
しかし、例えばサーキットで横荷重をもっとかけると、LSDは全く必要ないことがわかる。注意深く観察すれば、パワーをかけた状態でアクセルを踏んだり、ブレーキングでフロントに荷重をかけすぎたりすると、ほんの少しアンダーステアが顔を出すのがわかる。
しかし、荷重バランスのシフトを少し丁寧に行えば、A110をニュートラルからオーバーステアに転ずるのは訳もないことだ。テールを自在にスライドさせることができる十分なパワー、惚れ惚れするようなハンドリング・バランス、それに素晴らしいアジャスタビリティを兼ね備えている。
ドライビング・モードに関係なくA110のエンジンは十分に活発である。スポーツ・モードではエグゾーストはハードな音を奏でるが、6750rpmまでの吹け上がりは少しゆっくりだ。結構大きな唸りも発する。A110はスピード第1のクルマではなく、ドライビング・プレジャーにはラップタイムや直線でのスピードなんて関係ないとアルピーヌはいう。
その通りだし自動車メーカーから聞くと元気づけられるが、それでもこれは0-100km/hを4.5秒で駆け抜け、250km/hのリミッターが作動するクルマなのだ。
7速ギアボックスは現行型クリオの6速ギアを改良したもので、シフトは速くて明確だが、時々ニュートラルに入るような感じがしてもっと強いエンジン・ブレーキが欲しくなることがある。ポルシェのPDKには敵わないようだ。
しかし、ともかくわたしはこのクルマが大好きなので、もしギアボックスがバターでできていて、ステアリングにチーズの糸がついていても問題ないんじゃないかと思っていることに気づいた。
1100kgの2シーターということに目がくらんで、欠点が見えないだけなのだろうか? そうは思わない。アルファ4Cを思い出してほしい。わたしは4Cも良いクルマだと期待したのだが、鏡のような場所でしか走れないクルマだった。
A110はどこでも走れる。あとは、しっかり走り回るのみ。
「買い」か?
驚くほどに、特別 ★★★★★
今回アルピーヌは素晴らしい成果をあげた。A110は宝物である。有象無象のクルマが幅を利かせる中、宝石のようにきらりと光っている。
GT86、MX-5、4C、そしてロータス・エリーゼのセオリーを継承しつつ、それらの素晴らしいところを混ぜ合わせ、バランスが良く快適で俊敏でコントロール性が高く、魅力的で美しいクルマとなった。これは伝説となるクルマだと考えるのはわたしだけだろうか?
そして何といても、そう約5万ポンド(759万円)である。来年の初夏、右ハンドルのA110がやってくる時の為替レートにも依存するが。たしかに高価だが、1年間に数千台売れるとしたらもう少し安くなるかもしれない。
ポルシェ718ケイマンを手放してこいつを手に入れるか? これは難問だ。
ポルシェはもっと静かでギアボックスのレスポンスにも優れている。ケイマン、特にLSD付のものはミッドエンジン独特の自在なバランスを持っており、非常に魅力的なのはいうまでもない。
しかし ―このようなことを書くとは思っていなかったが― それでもA110にはアドバンテージがある。それは小さいイナーシャ、コンパクトなボディ、パッシブ・サスペンションによる自然な挙動、重心の低さと最適位置といったものであり、ゆえにA110はどんな価格であっても所有する価値のある、直観的な運転をすることのできる最高のクルマなのだ。
フェラーリ458スペチアーレ、マクラーレンP1、ポルシェ911GT3 RS4.0、アリエル・ノマドといったスポーツカーを運転すると、なにか画期的なクルマを運転しているのだと感じる。A110がもたらすのも同じ感覚だ。このクルマの開発をスタートしたルノーの勇気を念頭におかなくても。
おそらく、これはなにか大きなプロジェクトの始まりなのだろう。しかし、もしそうでないとしても、A110は本当に、驚くほどに、特別だ。5つ星を与える。
アルピーヌA110のスペック
■価格 約5万ポンド(759万円)
■全長×全幅×全高 4180×1798×1252mm
■最高速度 250km/h
■0-100km/h加速 4.5秒
■燃費 16.4km/ℓ
■CO2排出量 138g/km
■乾燥重量 1103kg
■パワートレイン 直列4気筒1.8ℓターボ
■使用燃料 ガソリン
■最高出力 253ps/6000rpm
■最大トルク 33.0kg-m/2000rpm
■ギアボックス 7速デュアルクラッチ
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