動力性能の点でもフラッグシップの資質は十分といえるものだった
写真に写してある「三菱の自動車」と表紙にある横開き・文庫判の冊子は、おそらく1965年頃のもの。少し前に偶然手に入ったのだが、実は小学校の低学年だった筆者は当時、同じものを持っていた。モーターショーではなく近所のディーラーから貰ってきたもので、気に入って、ランドセルに忍ばせて学校に持っていっては友達に見せたり、授業中にこっそりと見ているようなことをしていた憶えがある。
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三菱の乗用車の中でフラッグシップモデルだった
コンパクトだが中身は“総合カタログ”で、軽自動車のミニカから、バス、トラック、ふそうの4W220R型トラックトラクタ300t積み牽引などの特装車系まで載っている。子ども心にも、この1冊で当時の三菱のクルマのすべてが手に入った……そんな満足げな思いで大事に眺めていたのだろう。
ところでこのカタログのページをめくると、“1917年、わが国初の本格的乗用車「三菱A型」を発表”などと三菱の自動車に関する歴史の紹介がまずある。そして次のページから早速、市販車の紹介が始まり、そのトップバッターとして紹介されているのが、同社の乗用車のフラッグシップだった初代デボネアだ。見ると紹介文は150字ほどながら、“デボネアは国際水準をゆく本格的高級乗用車です。”などといかにも誇らしげな文面が記されている。
マイカーブームが始まろうとしていた頃に登場したデボネア
初代デボネア(A30型)の登場は1964年(昭和39年)。この年といえば最初の東京オリンピックが開催されたほか、それに合わせて東海道新幹線が開業、12両編成だった最初の0系新幹線が東京~新大阪間を最高速度210km/h、3時間10分で営業運転を始めるようになった年でもあった。
そんな年に誕生したのがデボネアだった。ちなみに手元の「三菱の自動車」によれば、当時の同社の乗用車というと、4ドアセダンのコルト1500/1100、ファストバックのコルト1000F(3ドア、2ドア)/800と、360cc軽乗用車のミニカがあったくらい。マイカーブームが始まろうとしていた頃で、コルトにしろミニカにしろ、もしも家にあれば鼻高々……そんな時代だ。そこに登場したのが初代のデボネアだった。
スタイルはアメリカナイズされていた
写真で紹介しているデボネアの本カタログは実は1978(昭和53)のもの(一部1979年のカタログ写真も)。登場からすでにに14年目の年式となるが、どうだろう、「三菱の自動車」の写真と見比べても、前席ドアの三角窓の有無のほか、フェンダーミラー、ドアハンドル、ホイールキャップの形状の違い、テールランプ、ウインカー、サイドマーカー、オーナメントの位置、形状など細部ディテールに違いがあるものの、全体のスタイリングは基本的に変わっていないのがお分かりいただけると思う。
もともとGM出身のデザイナーによるデザインだけに、メッキのフロントグリル、バンパー、それと直線的なスタイルは実に堂々とアメリカナイズされたもの。けれどそれが全幅1690mmの5ナンバーサイズだったとは、今、写真で見ただけではにわかには信じがたい。
デボネアが登場した1964年当時というと、トヨタ クラウンエイト、プリンス グロリア、日産セドリックなどの高級車があり、三菱でもこの分野への参入と三菱の乗用車のフルラインナップ化が必然。そこに投入されたデボネアは、だから威風堂々としたクルマに仕上げられたのだった。
22年間販売されたデボネア
写真のカタログのモデルでは、搭載エンジンはG54B型、2555ccの4気筒モデル。これはASTRON 80と呼ばれていたMCA-JETという名の第3のジェットバルブの採用により、排気ガス規制に対応し省燃費も図っている。さらに、静粛性に寄与するサイレントシャフトを採用した、当時の最新ユニットだった。初期にあっては2Lの6気筒OHVエンジンを搭載、オーバートップ付き3速MTで最高速度155km/hと余裕を持たせており、もともと動力性能の点でもフラッグシップの資質は十分といえるものだった。
ちなみに“走るシーラカンス”と言われたのは有名な話だが、22年を全うし2代目にバトンタッチしたのは1986年のこと。この年の三菱車というと、スタリオンがすでに登場していたほか、ランサーEXターボ、2代目ミラージュ、FF化された3代目ギャラン/エテルナ シグマなどがあった。それらと並んでデボネアが“現行モデル”としてカタログに載っていたのだから、いかに古式ゆかしいクルマに見えたかは、当時をリアルタイムで過ごしていなくても想像がつくはずだ。
初代デボネアはその後、AMG仕様やアクアスキュータム仕様などを登場させた2代目に引き継がれ、さらに1992年には3代目が登場。そこから先はプラウディア(とディグニティ)となり、2012年からは日産フーガのOEM車として2016年まで続いた。とはいえクルマ好きにとって“デボネア”と聞いて思い浮かべるのは、やはり初代のあの威風堂々とした姿ではないだろうか。
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みんなのコメント
>クルマ好きにとって“デボネア”と聞いて思い浮かべるのは、やはり初代のあの威風堂々とした姿ではないだろうか
まさにその通りで、割りと好みだった。
クルマとしてというよりその造形がではあるのだが、それでもやはりコイツは(も)道路上にて存在感を醸し出す。
たとえそれが走る骨董品と揶揄されようとも、だ。