マツダと言えばSKYACTIVテクノロジー。これはシャーシやエンジン、トランスミッションなど、主要コンポーネントに注がれたマツダの新しい技術の総称と言っていいものだ。
2007年に初めて発表され、その後エンジンやトランスミッションが導入され始め、2012年にCX-5によって初めてすべてのSKYACTIVテクノロジーが投入されたクルマが完成した。その後の展開は周知の通りだ。2017年にはラージプラットフォームをFRとして、高級化を進めることを明らかにしている。
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コロナ禍によってクルマの売れ行きが不安定になった2020年、マツダの高級化戦略を不安視する報道もあった。今はどのメーカーも販売が復調しているけれど、世界経済が乱高下する昨今、そうした高級化志向をリスクと見る考えも少なくない。
しかし先頃マツダは「中期技術・商品方針 2021」を発表した。結果から言えば、マツダのクルマを開発する取り組み、今後の商品計画はまったくと言っていいほどブレていなかった。しかも情勢に合わせて進化も果たしていたのだ。
文/高根英幸、写真/MAZDA
【画像ギャラリー】SKYACTIV、2030年の電動化、水素ロータリー……「中期技術・商品方針 2021」に見るマツダの未来
■他メーカーよりマツダが掲げるEV比率が低いのはなぜ?
2017年の発表と比べ、EVの比率が5%から25%に増やされた電動化戦略(『マツダ中期技術・商品方針説明会 プレゼンテーション資料』より)
ブレていない、と表現したのは電動化戦略に関する部分と高級化戦略という2つの方向性についてであり、FRのラージプラットフォームは健在で、今年度末には市場に投入する見込みだという。
公表された画像は、あえて解像度が落とされており、詳細な内容を知ることは難しいが、前後のサスペンションやトランスミッションケースなどを見ると、これまで通りのこだわった設計ぶりが伝わってくる。
そう、ブレていないながらも個々の要素を見ていくと、マツダならではの「こだわり」や進化を感じさせる部分がいくつもあったのだ。
例えば電動化戦略については、「2030年に100%電動化、その時点でのEVの販売比率は25%」というもの。2017年の発表と比べて、EVの比率が5%から25%に増やされているところが違いだ。
これを他メーカーと比べれば少ないと見る人もいれば、5倍に増えている、と思う人もいるだろう。昨今の気候変動や排ガス規制の強化に対応するために電動化を推進する自動車メーカーにあって、この数字を疑問視する人は少なくない。だが、ここに注目するのは、実はあまり意味がないことだ。
そもそも販売台数の予測が難しいことから、販売比率を想定するのは難しいことで、それを目標として自動車メーカーが想定しているのは、あくまで希望的観測というか、目標値でしかない。それでも、それを指し示すことで、そのメーカーの姿勢を理解してもらうことにつながる。
そんな実態にそぐわない数字に注目するより(それでもホンダの2040年に100%EV化は気になるが)、どんなクルマや技術で、これからの世界市場を戦っていくのか、我々にどれだけ魅力的なクルマを提案してくれるのか、が大事だろう。
そもそも電動化についても、現在マツダが導入しているマイルドハイブリッドは日本ではSKYACTIV-Xを搭載したマツダ3とCX-30、それとMX-30のガソリンエンジン車だけだ。EVもMX-30のEVモデルだけという設定。
これを2025年までにフルハイブリッドとプラグインハイブリッド、EVの3種類で合計13モデル(ただし1車種で複数のパワートレインを用意するだろうから、13車種ではないだろう)を新たに投入するというのだから、かなり思い切った計画だ。
フルハイブリッドとプラグインハイブリッド、EVの3種類で合計13モデを新たに投入するという思い切った計画だ(『マツダ中期技術・商品方針説明会 プレゼンテーション資料』より)
単純に言って1年で3モデル以上、つまり毎年ニューモデルが登場すると予測できるのだから、クルマ好きにとっては楽しみでしかない。
しかも廣瀬一郎専務執行役員は、トヨタのハイブリッド技術であるTHSも利用したハイブリッド車を投入することも明言している。
個々の詳しい内容については、また改めて説明や試乗の場を設けてくれる、とのことで詳細は不明だが、用意された資料を見るだけでも色々なことが分かり、想像力を膨らませてくれる。
マツダが公開した『ラージ群_ガソリンエンジン48Vマイルドハイブリッド」のシャシー画像
マイルドハイブリッドについても、現在Mハイブリッドで採用しているP0タイプ(エンジンとベルトで連結されたスターター兼発電機でアシストする構造)ではなく、おそらくP3タイプ(トランスミッションの後部にモーターを搭載する)だと思われる。
その根拠は、マツダが用意した資料の中で48Vマイルドハイブリッドの画像がトランスミッションだったことと、画像が不鮮明なせいもあるが、エアコンコンプレッサーの上にあるべきオルタネータが見当たらないからだ。
直列6気筒をベルト駆動でアシストするのは、あまり効率が良くないから、変速機に組み込むほうが良いのだろう。
プラグインハイブリッドは、以前もパワートレインの横顔だけ公表されているが、こちらはP2タイプ(変速機の前にモーターを組み込む)のようだ。
■注目のマツダHVはどんなシステムに? 新車への期待と今後の課題
マツダ3の先代モデルであるアクセラにTHSを搭載した実績もある。マツダの良い点とTHSを融合したHVになると期待できる
さらにハイブリッド車にはトヨタのTHSも投入するというのは、これまでなかった情報だけに興味深い。
もっともマツダは、マツダ3の先代モデルであるアクセラにTHSを搭載した実績がある。ただし、これは先代プリウス用のTHSをアクセラに載せただけで、SKYACTIV-Gの良さを活かし切れていなかった。同じ轍は踏まないだろうから、今回はマツダの良い点とTHSを融合した、ハイブリッド車になると期待できる。
選択肢としては3つほどある。1つはスバルが北米仕様のフォレスターに搭載しているような、完全な専用設計のTHSを組み込んだハイブリッド変速機を開発することだ。これをやるならラージ群の縦置き変速機で実現するのではないだろうか。
2つめはクラウンやレスサスLS、LCなどが採用している縦置きTHSをほぼそのまま搭載すること。
3つめはスモール群の横置きエンジンに現行型プリウスのTHS IIを搭載することだ。横置きTHSに関しては、現在のTHS IIの出来が素晴らしいので、無理に自社開発にこだわる必要はないだろう。
これからのマツダの業績は、やはり高級化路線の成功に掛かっているだろう。これが販売面でコケてしまったら、その後の新型車投入も難しくなるからだ。
そういう意味では2022年初めに投入されるラージプラットフォームの第1弾(CX-50?)が非常に重要な役割を果たすことになる。マイルドハイブリッドが組み合わされる変速機は最低でも8速ATにはなるはずで、直列6気筒の滑らかな回転フィールと省燃費を実現できれば、エンジンの魅力を訴求できる。
モーターは滑らかで力強い加速という魅力が浸透しつつあるなかで、直列6気筒が今の自動車市場でどれだけ支持されるかで、マツダの勢いが持続できるかが左右されることになるだろう。
■水素ロータリーもふたたび表舞台へ
プレゼン資料でもバイオ燃料などと並び「HYDROGEN=水素」の文字が記載されている(『マツダ中期技術・商品方針説明会 プレゼンテーション資料』より)
マツダファンのなかには、ロータリーエンジンの復活を喜んでいる向きも多いことだろう。今回の発表では、水素ロータリーをふたたび表舞台に引き出すことも明らかになっている。
完全に低コストな水素インフラが確立するまでは、走行用として水素ロータリーを使うのは難しいが、発電用なら早期に実現可能だ。シリーズハイブリッドとしての水素ロータリーは、FCVと双璧の水素利用車になる可能性がある。
魂動デザインをどう進化させていくか、というのも大きな課題だ。2017年の東京モーターショーで発表したVISION COUPEをそのまま量産化したような魅力的な4ドアクーペをリリースできれば、それは大ヒットにつながると思うのだが、どこまで大胆なデザインに仕上げるか。
ともあれ、やはり今後もマツダから目が離せそうにない、と思ってしまうのは筆者だけではないだろう。
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