自動車の衝突安全基準は、年を追うごとに厳しくなっています。交通事故による被害者を一人でも減らすため、各国政府や関連団体が交通事故を分析し、衝突基準を数年おきに更新しているためです。
この年々厳しくなる衝突安全基準に適合させるため、最近のクルマは昔のクルマに比べ、エンジンフード高が上がったり、車幅が広くなったり、サッシュレスドアを採用するクルマが少なくなったりしていますが、果たしてどのくらい頑丈になっているのでしょうか。
【ヴィッツ改めヤリス】日本メーカーが日本と海外で別車名を使う理由
元メーカー開発者の吉川賢一氏に、その変遷と進歩を聞きました。
●【画像ギャラリー】1998年製カローラと2015年製カローラ。衝突実験の様子をギャラリーでチェック!!!
文:吉川賢一/写真:ANCAP、ベストカー編集部
■20年前の衝突基準はどうなっていた?
いまから約20年前のクルマには自動車の保安基準として、国土交通省によって「前面衝突」試験が課せられていました。
時速50kmでコンクリート製のバリア(壁)に正面衝突をさせ、一定の基準をクリアすることが求められる、「フルラップ前面衝突試験」という検査項目でした。
この「フルラップ前面衝突試験」は、1993年1月に改定された「道路運送車両の保安基準」により、1994年4月以降の新型車について義務付けされました。
レクサスNXを使用したフルラップ衝突試験の様子(JANAP・自動車アセスメントのYoutubeより)
加えて、衝突速度40km/hの特例措置となっていた軽自動車も、1999年4月から、50 km/hの衝突試験が適用されています。
「フルラップ前面衝突試験」では、実験によって衝突を受けたダミーの、頭部、頸部、胸部、下肢部に受けた衝撃度合いや、室内の変形具合をもとにして、乗員保護性能の度合いを評価しています。
なお、リアルワールドでの前面衝突事故のほとんどは、この衝突試験の速度以下で起こっており、当時としては十分な安全率を考慮していました。
しかし、バリアに向けて衝突させる「フルラップ前面衝突」は、現実的にはそれほど起きるものではなく、もっと実際に発生している事故に近しい条件下で基準を制定するべき、という声が、ユーザーや調査機関からあがるようになりました。
そこで、交通事故の様々な種類を分析した結果、「オフセット前面衝突試験(2009年導入)」、「側面衝突試験」、「後面衝突頚部保護性能試験」などが、新たに導入されることになったのです。
2019年5月の衝突安全性能評価で大賞受賞のスバルフォレスター。シートベルト着用警報装置評価はダントツだった
ちなみに、サイドカーテンエアバッグが世に登場したのは、側面衝突試験による評価方法が、衝突評価法に導入されたことが一つの要因です。
昔の判定方法だと、前面衝突によるエアバッグを適切に作動させられれば、判定基準はクリアできたためです。
同じく衝突安全性能評価で大賞受賞のクラウン。こちらは歩行者保護性能で全車中トップだった
新たな法規が追加、変更される都度、自動車メーカーは法規適合をするために、ボディの強度対策を織り込み、安全基準を満たす努力を行ってきました。
冒頭に書いた通り、最近のクルマが、エンジンフード高が上がったり、車幅が広くなったりして、ボディサイズが大きくなったのは、居住性の確保もありますが、現在の衝突安全基準に対応するため、という方が大きな理由なのです。
JANAPによる予防安全性能評価(2019年5月)。21車中15台が最高評価「ASV+++」を獲得。
■20年前のクルマと現在のクルマが衝突したらどうなる?
オーストラリアやNZで行われているANCAP(Australasian New Car Assessment Program)による、ある検証実験の様子が、2017年にYouTubeに公開されました。
動画では、1998年製と2015年製のトヨタカローラを衝突させる様子が収められており、2台を時速64kmでオフセット衝突をさせる、という内容です。
2台のカローラが向かい合って走り出し、互いの運転席サイドがぶつかるように衝突をさせる実験をしています。あまりの衝撃のため、両車のフロント周りは大破し、部品も散り散りになってしまっています。
https://www.youtube.com/watch?v=zxDHuthGIS4
■2台のカローラの状況は?
2015年製カローラは、衝突した直後にエアバッグが展開し、前方に飛び出したダミーの衝撃を吸収する様子が収められており、フロント部分が大破しているものの、運転席のスペースは維持されています。
Aピラーには多少のダメージがありますが、運転席側のドアは少し歪(ゆが)んでいる程度。またサイドのエアバッグも展開されており、ドライバーはしっかりと保護されています。
対する1998年製カローラは、運転席側のボンネットが大きく後退し、さらにはAピラーも垂直になる程に曲がり、挙句の果てにフロントタイヤも運転席の足元までめり込んでしまいました。
キャビン内に突入してくるステアリングホイールにはエアバッグが装備されておらず、ダミーは、ハンドルをもろに受ける形になっていました。また、ダッシュボードと運転席シートの間にダミー人形の足が挟まれてしまっています。
このように、比べるまでもなく、2015年製のカローラの方が優秀な結果であり、17年間の安全性能の向上を確認することができます。
■まとめ
クルマの衝突安全性能の進化は、車両を作っているメーカーの努力はもちろんのこと、ルールを作る側の政府機関や、自動車メーカー関連団体、自動車保険団体などの努力によって、成し遂げられています。
比較的コンパクトで、全高が低く、そしてシャープなデザインが魅力的に感じることがある古いクルマですが、衝突時のリスクも含んでいることは気に留めておきたいですね。
こちらは2019年5月に発表された、衝突安全性能評価ランキング(JANAP)。11車中8台が最高評価の「ファイブスター賞」を獲得した
●【画像ギャラリー】1998年製カローラと2015年製カローラ。衝突実験の様子をギャラリーでチェック!!!
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