ドイツ御三家のひとつBMWは日本でも大人気。どこが日本人の琴線を刺激するのだろうか? ハンドリングに定評はあるが、他のメーカーとはどう違うのか?
BMW M3でもレース経験を持ち、BMWのハンドリングを高く評価している松田秀士氏がBMWのクルマ作り、ポリシーなどを通してその魅力を考察する。
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文:松田秀士/写真:BMW、MERCEDES-BENZ、平野学
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ほかのメーカーの真似をしない
BMWはクーペSUVのパイオニアとしてX6を市場投入。その後メルセデスをはじめ、いろいろなメーカーが追従して大盛況。真似されても真似しないのがBMW
BMWと似ているメーカーとしてはホンダがある。両社に共通しているのは二輪車を作っていて四輪車を作っているという点が挙げられるが、それだけではない。
BMWとホンダの最大の相似点は、他メーカーの真似をしない、常に先頭を走ろうとする企業ポリシーにあると思っている。ホンダは現在もクルマ作りという点においては、頑なに独立路線を貫いている。
BMWは常に自分たちの立ち位置を変えない、頑ななまでにそれを死守する。たとえ提携したとしても『吸収はしても迎合はしない』という潔いまでのスタンスは不変だ。
同じドイツの雄であるメルセデスベンツはそうはいかない。1998年にダイムラーは当時のアメリカのビッグ3のひとつ、クライスラーを買収したが、それを契機にクルマ作りに変化が現れた。
特に顕著だったのはデザインで、1980年代後半から1990年代の初期にかけて190EやW124系といった名車を生み出したとは思えないような凡庸なデザインになってしまった。経営などのイニシアチブを握りながらもクライスラーの影響を逆に受けてしまった。
丸4灯ヘッドライトはクライスラーを買収する前から採用していたが、メルセデスベンツの新型車のデザインは迷走している感が強かった
その後メルセデスは、トヨタを意識し影響を受けトヨタ的になったのからもわかるとおり、メルセデスのクルマ作りは他メーカーを意識したり、影響を受けたりの繰り返しだ。
これはメルセデスに限らず、自動車メーカーのごく普通の姿なのだがBMWは違う。
BMWはローバーと提携していたが、MINIブランドを除き売却。そのMINIが世界的に大成功している。燃費がいいわけでもなく、突出した性能を持っていないのに売れているのは不思議だが、MINIというブランドを大事にBMWが手掛けたことが大きい。
FRについては長い経験を持つBMWだが、FFの技術はそのMINIの開発を通して取得するなど、吸収はしても迎合しないという典型と言えると思う。
2001年にBMWの手によりMINIブランドが復活。BMWが手掛けるモデルとしては初めてのFFだった。これでノウハウを蓄積し現在の1シリーズ、2シリーズに生かしている
ハンドリングへのこだわり
コンパクトハッチバックとして唯一のFRとして人気を博した1シリーズも、新型はFFに変更された。BMWだから市販できた1台と言える
BMWのクルマ作りにおいて、ハンドリングへのこだわりはもの凄いものがあり、実際にBMWを所有する歓びにもなっているBMWの魅力である。
コンパクトカーの1シリーズは最新モデルでFFに変更されてしまったのは残念ではあるが、FRレイアウトへのこだわり、前後重量配分を限りなく50:50に近づけることへのこだわりは一貫している。
最近では50:50の重量配分を実現するために新素材を惜しげもなく採用している。
前後重量配分を限りなく50:50に近づけるためにM4ではプロペラシャフトにカーボンが採用され軽量化にも大きく貢献している
i3ではアルミスペースフレーム+カーボンボディという組み合わせにチャレンジし、M3、M4のプロペラシャフトは中継するユニバーサルジョイントを省略でき、スチール製に比べて大幅に軽量化ができるという理由でカーボンが奢られるなど徹底している。
すべての技術はハンドリングのため、というと極端に聞こえるだろうが、これまでのクルマ作りを見てもBMWはそれを実践している。
やり始めたらやり遂げる
こだわりと言えば、直6エンジンもそう。
現在ではBMWも主力は直4となってきているが、メルセデス、ホンダ、日産が直6からV6や直4ターボに一気に切り替えたのとは対照的に直6エンジンに大切に育ててきた。
FRの場合長い直6エンジンを縦置きにするためクラッシャブルゾーンの確保が難しいということで消滅の危機にあった直6にBMWはこだわり続けている
BMWが直6エンジンにこだわるのは、そのバランスのよさによる滑らかな回転フィールにあり、BMWのFR車には必要不可欠と判断しているからだ。
直6エンジンはエンジンの全長が長くなるため衝突安全面で不利というのが最大の理由だったが、BMWはエンジンを車両のセンターにできるだけ搭載するなどしてクラッシャブルゾーンも確保して克服してきた。
メルセデスが20年ぶりに直6を復活させ、マツダも新規の直6を開発し次期マツダ6に搭載するという有力情報もあるように、直6エンジンが再び脚光を浴びようとしているが、これもBMWにしてみれば、我が道を行くのみでどこ吹く風といった感じだろう。
やり始めたらやり遂げる、これこそBMWのポリシーで、いろいろな自動車メーカーがトライするもモノにできていないランフラットタイヤを使い続けて一定の成果を出しているのもその典型でBMWらしい。
ランフラットが商品化されて長く経過するが、多くのメーカーが苦戦したり断念したりするなか、BMWはランフラットにこだわり続けているのは凄いこと
ハンドリングに正解はない
BMWはハンドリングにこだわり、その評価は世界的にも高い。
ボク自身も323i(E21型)を中古で購入して以来BMWのハンドリングに魅了されたクチで、グループA時代にはM3(E30)で並みいるライバルドライバーとのレース、バトルを楽しんだ。
M3のレーシングマシンは基本的にオーバーステア傾向だが、ドライバーの動かし方でハンドリングが変わることに魅了された。
現行3シリーズの乗り味は先代モデルと比較しても確かに硬い。しかし、そのことを知ったうえで対処しているのでドライバーに違和感や不快感はない
彼らはハンドリングに正解がないことを知っている。だから試行錯誤を繰り返し、失敗と呼ばれることもある。
BMWは元来アシを動かすセッティングを施していて、ホイールの上下動をうまく生かして、乗り心地を両立。しかし動く足は高速で不安定になるというデメリットを持っている。
それに対し現行の3シリーズの乗り味はかなり硬い。高速で不安定になるのを嫌った結果だが、硬いアシの場合ハーシュが出るのは当たり前。そのハーシュを消そうとするのではなく、BMWは始まりをちょっと柔らかくしてやれば、ドライバーに不快感を与えないと考え、タイヤとブッシュでいなしている。
これにより最初にドンとくる角が柔らかくなり、サスが硬いからバウンシングしないからすぐに収まる、という形に仕上げているのは見事といえる。
松田氏は、「日本メーカーではホンダがサスペンションに関してはナンバーワン」とコメント。最新のN-WGNに乗ればそれは一目瞭然。ステップワゴンも出来がいいという
量産車としては妥協点が高い
BMWは唯我独尊のクルマ作りと称したが、開発において目標は設定するが、特定のクルマなどをベンチマークとすることがない。
国産車の場合、多くのクルマは特定のライバル車を設定してベンチマークを作るのが一般的だ。
これは開発目標を設定しやすい、というメリットはあるが、ベンチマークを作ってしまうとそれを超えることができない。日産GT-Rが世界を驚かせる性能で登場したのは、ベンチマークを作らなかったからだと思う。
BMWはほかのメーカーのクルマのベンチマークになっても、具体的なライバル車をベンチマークとすることはない。この自信は凄い
いくらこだわりを持っているBMWも量産車であるがゆえに、少々生産車のようなコスト度外視の自由なクルマ作りはできない。当然設計サイドとクルマを作る側のいろいろなせめぎ合いによってお互い妥協する。
BMWはその妥協点がほかのメーカー、特に国産メーカーに比べて設計サイドに寄っているように思う。日本メーカーではマツダがこの傾向にあり、マツダ3を見れば設計サイドがかなり無理を通したんだな、というのがわかる。
BMWのこのこだわりを押し付けと感じる人もいるため万人受けするわけではないが、好きな人にとってはこの上ない歓びを与えてくれるのだろう。
BMWが日本でブランドイメージを確立し、堅調な販売をマークしているのも、日本でBMWの頑なまでのこだわりが認知されているからだと思う。
最近のマツダのクルマ作りを見ていると設計サイドの主張が強いように感じる。マツダ3はエクステリアは量産車としてかなり頑張っている
【日本で新車で買えるBMW車(2019年11月現在)】
■1シリーズ
■2シリーズクーペ/カブリオレ/アクティブツアラー/グランツアラー/グランクーペ
■3シリーズセダン/ツーリング/グランツーリスモ
■4シリーズクーペ/カブリオレ/グランクーペ
■5シリーズセダン/ツーリング
■6シリーズグランツーリスモ
■7シリーズ
■8シリーズ/グランクーペ
■M2
■M4クーペ/カブリオレ
■M5
■M8/カブリオレ
■Z4
■X1
■X2
■X3
■X4
■X5
■X6
■X7
■i3
■i8
【BMWの日本での販売台数、シェアの推移】
※2019年度は4~9月のデータ、シェアは輸入車全体のもの
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