マクラーレン570Sと720S。似て非なる2台をわずかな時間だが比較試乗する機会を得た。
現在、マクラーレンのラインナップは、日常的な使い勝手を重視しもっとも廉価な「スポーツシリーズ」、より性能を高めた中核モデルとなる「スーパーシリーズ」、そしてサーキットでの究極の速さを求めた「アルティメイトシリーズ」の大きく3つに分類される。
まずは、スポーツシリーズの「570S」に乗る。廉価版といってもお値段は約2500万円、最高出力は車名が示すとおり570psだ。ただモノであるはずがない。
マクラーレンのロードカーすべてに共通するのがF1マシンなども採用するカーボンファイバー製モノコックを採用すること。スポーツシリーズといえどもその例にもれずバスタブ型をした「モノセルII」というモノコックを採用している。モノコック単体の重量は約75kgで軽量かつ高剛性であることが売りだが、それに加えて570Sがすごいのは、スポーツカーとは思えない乗り心地の良さだ。不整路も見事にいなして行く。これだけ車高の低いクルマでありながら、しっかりとサスペンションが仕事をしているのが伝わってくる。
最高出力570ps、最大トルク600Nmを発揮する3.8リッターV8ツインターボエンジンを、キャビンの後方に配置するミドシップ方式でトランスミッションは7速DCTだ。ターボエンジンだと言われなければ気づかないかもしれない。ターボラグなど一切なくレスポンスよく、トルクもきれいに立ち上がっていく。0-100km/h加速は3.2秒というから、公道ではおいそれとは踏めないが、その安定感、安心感は絶大でまったく不安はない。ステアリングを切ると、まさに意のままに曲がっていく。
インテリアなどは、MP4/12Cなどの時代に比べて、室内長も拡大しており、またかつてはなかったグローブボックスやドアポケット、ドリンクホルダーといった日常性も備えた。エントリーといえども、日常使いできるスーパースポーツとしては最上位にあるともいえるだろう。
もう一方、スーパーシリーズの「720S」に乗り換える。走りだしてすぐに息をのむような濃密な時間が訪れた。圧倒的なボディ剛性感、ステアリングの操作に対して寸分の遅れもなく、そして針の穴をさすように狙ったラインをトレースしていく。車名のとおり720psを発揮する4リッターV8ツインターボエンジンは、右足の動きにミリ単位で呼応し、まるでジェット機のような音を奏でる。
こちらのカーボンモノコックは、「570S」のものよりもさらに凝った「モノケージII」と呼ばれるもの。アルティメイトシリーズのマクラーレンP1に採用された技術を投入している。正確には「モノセル」はRTM(レジントランスファーモールディング)、「モノケージ」はプリプレグ・オートクレーブと、たがいに異なる成形方法を用いており、後者のほうがより、F1や宇宙スペックに近いものだ。残念ながらその違いを感じ取れるほどの、知識もセンサーも持ち合わせていないが、しかし、570Sと720Sが似て非なるものであることはわかった。
また、「720S」には、「プロアクティブ・シャシー・コントロールII」というボディをフラットに保つ最新のサスペンションが備わっているのだが、これほどまでにソリッドな動きとフラットな乗り心地の良さを両立しているのには驚いた。
また公道ではとても試せないが、ESP(横滑り防止装置)をコントロールして、テールスライドを許容するVDC(バリアブル・ドリフト・コントロール)なる機能も備わっているという。せっかくこのクルマを手に入れたなら、ぜひサーキットで試してほしい。
圧倒的なコーナリングパフォーマンスを実現するため、ローリングやピッチングといったボディの動きは最小限にとどめられているものの、衝撃を受け止めるとともにボディーをフラットに保つのはやはり“魔法のサスペンション”と呼ぶにふさわしい。その上質な乗り心地を味わいながら、早朝のワインディングロードを飛ばす爽快感はこれまでに味わったことのないものだった。優れた機械を操っているという圧倒的な満足感がある。
「720S」のお値段は約3500万円。今どきのスーパーカー相場を鑑みれば、決して高くはないと思う。「570S」と「720S」にはフェラーリともランボルギーニとも違う、マクラーレン独自のスーパースポーツの世界観が描きだされている。
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