今も絶大な人気を誇る’70年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回はカワサキの「500SS マッハIII」について、このマシンに詳しいバイクショップ・トリプルフィールドの稲村隆寛氏に話を伺った。
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―― 【トリプルフィールド|稲村隆寛さん】16歳のときに中古で購入した250SSを皮切りにして、これまでにマッハシリーズ全モデルを所有して来た稲村さんは、’68年生まれの53歳。20~30代の頃は4輪ショップでメカニックとして働き、当時から周囲の友人知人のマッハシリーズの面倒を見ていたと言う。 [写真タップで拡大]
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●取材協力:トリプルフィールド
カワサキ 500SS マッハIII:「世間のマッハへの誤解を解きたい」
マッハシリーズに対して、スプリンターというイメージを持つ人は少なくないだろう。とはいえトリプルフィールドの稲村さんは、若い頃からこのシリーズを駆って、全国各地に出かけてツーリングを楽しんでいると言う。
「意外に思われそうですが、調子のいいマッハシリーズはオールラウンダーとして使えますからね。ただしウチに初来店したお客さんの車両を点検すると、この状況ではロングランは無理で、スプリンターにならざるを得ない…と感じることが少なくありません」
具体的に、同店に新規で入庫してくるマッハシリーズは、どんなところにトラブルを抱えているのだろうか。
「それはもう千差万別で、シリンダーとピストンが焼き付いている車両があれば、エンジンが暖まっても白煙が止まらない車両もありますし、ハンドリングが不自然な車両もあります。調子のいいノーマルを知らないと、好調不調の判断は難しいですが、普通に乗っていて不具合を感じるなら、好調ではないと判断していいと思いますよ」
同店で本来の調子を取り戻したマッハオーナーに対して、稲村さんが注意点として挙げているのは以下の5点。
「2ストの経験が少ないライダーには、2ストオイルの点検と補充、ナラシが終わっても高回転域で走り続けないことをお願いします。もちろん、瞬間的に高回転域を使うのは全然OKですが(逆に低中回転域ばかりを使っていると、燃焼室にカーボンが堆積しやすくなる)、今どきの4ストのように、ノーマルセッティングのままで、レッドゾーンのギリギリを使って走り続けるのはNGです。
それに加えて異常燃焼時にエンジンから聞こえる音、チリチリチリ…というノッキングに敏感になること、その音が聞こえたら絶対に無理はしないこと、安易にキャブレターのセッティングを変更しないことが、私が納車時に挙げている注意点です」
―― 【本来の資質を取り戻したフルレストア車】取材直前にトリプルフィールドでのレストアが完了した750SSは、新車と言われたら信じてしまいそうなほど美しい仕上がり。なお’71年から発売が始まった750SSは、ホンダCB750フォアの対抗馬にして、当時のプロダクションレースの主役だったF750レース規定を前提にして生まれたモデルだ。
カワサキ 500SS マッハIII:乗り続けるのは難しくない!
注意するべき要素はそれなりに豊富なマッハシリーズだが、好調の維持に関しては、あまり難しくないようだ。
「いったん本来の調子を取り戻せば、以後のマッハシリーズは現行車と大差ない感覚で付き合えますからね。ただし季節の変わり目になる春と秋には、キャブレターのエアスクリューを調整して、スロー系の吸入空気量の適正化を図ったほうがいいでしょう」
当記事ではほとんど触れていないけれど、マッハシリーズオーナーの中には、カスタム指向のライダーが数多く存在する。稲村さんはカスタムに関して、どう考えているのだろうか。
「アリだと思いますよ。ウチのお客さんでも、チャンバーや足まわりなどをいじっている人はいますから。ただし、僕自身はノーマルのバランスに好感を抱いているので、こちらから積極的にオススメすることはないですね」
当記事を読んで500SSを購入しようと言う人がいたら、稲村さんはどんなアドバイスをするのだろうか。
「世間の一部で言われているほど、乗りづらくはないし、トラブルも起こりません、でしょうか(笑)。そう言いたくなるほど、マッハシリーズは多くの人に誤解されているので、私としては日々の仕事を通して、その誤解を解いていきたいと思っているんです」
カワサキ 500SS マッハIII:H1B以降なら、旧車初心者でも気軽に乗れるはず
今回は500SSを取り上げたものの、昔ながらの“大きいことはいいことだ”的な考え方をする人が大勢いるのだろうか、近年のマッハシリーズの一番人気は750SSである。
「やっぱり750SSの速さ、74psのパワーは魅力的ですからね。ただし私個人としては、日本の道路事情に一番合っているマッハは500SSだと思います。逆に言うなら750SSは速すぎて、法定速度を守っていると、エンジンのオイシイ部分がなかなか使えないんですよ。
なお500SSに関しては、昔から前期型の人気が高いですが、扱いやすさを考えると後期型も大いにアリでしょう。前期型を乗るうえでは、旧車としてのアジャストが多少は必要になりますが、後期型は現行車に近い感覚で気軽に乗れますから」
―― 【’74 KAWASAKI 500SS MACH III H1E】トリプルフィールドのお客さんのH1D。なお軸間距離を1400→1410mmに延長し、前輪分布荷重を増やしたH1Dは、H1C以前と比べればウイリーの危険性が少なくなった。
―― 撮影車はフロントブレーキをダブルディスク化。H1B以降のフロントまわりは750SSやZ1/2との共通点が多いため、H1/H1Aと比較すると、アフターマーケットパーツを用いたカスタムが容易に行える。 [写真タップで拡大]
―― 【取材協力|トリプルフィールド】屋号からは3気筒専門店? と思えるものの、’13年から活動を開始したトリプルフィールドでは、年式や国籍を問わず、多種多様なバイクを取り扱っている。と言っても、最も入庫が多いのは’69年型500SSに端を発するカワサキ マッハシリーズで、それに次ぐのは同時代のW1/Z1系/スズキGTシリーズなど。■住所:静岡県沼津市小諏訪136-7-202 ■電話番号:080-1560-4831 [写真タップで拡大]
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