日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第34回は、航空機用星型エンジンの最終形ともいえるプラット & ホイットニー社のR-4360を紹介しよう。(今回の記事は、2018年3月当時の内容です)
星型エンジンの急激な進化と、複雑化した最終形態
第一次世界大戦の軍用機に採用され、その後35年近く航空機エンジンの主流だった星型エンジン。ところが第二次世界大戦後、まるで恐竜のように完全に消滅してしまう。その最後は、いったいどのようなものだったのだろうか。
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まず、星型エンジンの特徴を再確認しておこう。
■放射状にシリンダーを配列しているため、ほぼ1気筒分の奥行(厚さ)しかなく、クランクシャフトを短くできる。クランクシャフトは長いと重くなり、また強度や精度の確保、製造が難しかった。
■シンプルな空冷が最適で容易。全シリンダーが同一面で直接風にさらされ、均等に冷却できる。V型や直列など液冷/水冷に必要な水路や冷却用補器が不要。
■構造がシンプルなので、多気筒化=高出力化しやすい。4サイクルの行程+点火を入れ、5気筒を基本に7気筒、または9気筒で活用されたのが第一次世界大戦時代。
■放射状ピストン配置なので振動を打ち消し合うので、回転特性は滑らか。そのためクランクシャフトへの負担も小さく、トラブル防止に繋がった。
■全シリンダーが機体前面にあるため、V型や直列などと比較して整備性が良い。
以上のように、当時の工業水準や戦場に見合った多くの長所を持っていた。複葉機機時代は7気筒か9気筒の1列配置だったが、約20年後の第二次世界大戦前には金属機体の単葉機となり、2列配置の14気筒か18気筒が主流になる。
第二次世界大戦の後期には、シリンダーを大型化し排気ターボを装備した2000馬力級エンジンを搭載したアメリカ軍機が制空権を握り、他方ドイツが開発したジェットエンジン戦闘機が、数少ないながら高い威力を見せ始めた。とくに、戦略上の要となる大型爆撃機に大型化と高速化が求められた。これに応えるように開発されたのが、星型エンジンの最終形態・最高峰といえる7気筒×4列のプラット&ホイットニー(P&W)製のR-4360 ワスプメジャーだ。
P&Wは「ライト」と並ぶアメリカの2大航空機エンジンメーカーで、日本製で有名な栄/ハ35エンジンは、同社のR-1830 ツインワスプを手本としている。また、R-4360のベースは9気筒2列配置のR-2800で、F6Fヘルキャット、F4Uコルセア、P-47サンダーボルトのエンジンと言えば誰もが知るところだろう。この高性能エンジンを、7気筒×4列という驚きの直結構造とし、しかも後列の空冷効率を考慮して、4列を捻じって配置するという超複雑メカで、なんと3000馬力を実現した!
R-4360 ワスプメジャーは驚愕の超複雑メカが仇となり・・・
第二次世界大戦中、日本が恐れたB-29には「ライト R-3350」エンジンが採用されていた。しかし、大戦後はパワーも信頼性もイマイチと言われていたこともあり、P&W製のR-4360 ワスプメジャーに代替され、機名も新たにB-50としてデビューした。同時により大型で航続力・速力のある新型戦略爆撃機が計画され、現代版ステルス爆撃機のような、XB/YB-35実験機の15機が同エンジンを搭載して飛行している。
結局B-29/B-50の後継は、その3倍もある巨大爆撃機コンベア社のB-36ピースメーカーとなる。しかし、すでに戦闘機はジェット機の時代に突入しており、より高々度を高速で飛ぶ必要が求めらた。つまり、4300馬力のR-4360-51を6基載せても足りず、さらにジェットエンジンを4基も追加する状況だった。
他にも、同エンジンは史上最大のプロペラ機だったヒューズ H-4ハーキュリーズに8基も搭載されたり、多くの輸送機や旅客機に採用されるが、あまりに複雑な構造が災いし、あっという間にジェットやターボプロップ エンジンに交代されてしまうのだった。(文 &Photo CG:MazKen)
※航空機のデータは試験飛行条件や資料により大きく異なる。
■プラット & ホイットニー R-4360-51 エンジン主要諸元
●型式:空冷星型4重・28気筒
●排気量:75.1L
●過給機:1段可変速遠心式スーパーチャージャー+GE製ターボチャージャー×2
●離昇出力:4300hp/2700rpm
●直径:1397mm
●燃料:108/135オクタン 航空ガソリン
[ アルバム : モンスターマシン 035 超弩級星型エンジン はオリジナルサイトでご覧ください ]
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