CVTというと、燃費をよくしたり、誰が乗っても運転がスムーズになるようなセッティングがされている。
移動だけ考えれば、安く楽に移動できる。しかし、走りを楽しみたい人からすれば、走りのフィーリングはあまりおもしろいものではない。
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昔からスポーツ走行にはCVTは向かないと言われ続けてきたが、本当にそうなのだろうか?
では走りのよさを謳う、スポーツ車の多いスバルがなぜ頑なにCVTを使い続けるのだろうか?
それ以外の自動車メーカーはどうなのだろうか? そして、本当にCVTはスポーツ走行に向かないのだろうか? 自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸
写真/ベストカーWEB編集部
【画像ギャラリー】いいCVT、悪いCVTの指標とは?
なぜスバルはCVTを使い続けるのか?
2020年1月の東京オートサロンで公開されたレヴォーグSTIスポーツコンセプト。開発者に聞いたがCVTが搭載される予定(スポーツリニアトロニック)
2020年1月の東京オートサロンで発表された新型レヴォーグSTIスポーツコンセプトを見て、スバルは今後もCVTを使い続ける方針であることが明らかになった。ガッカリした読者諸兄もおられることだろう。
とはいえ、専用ATを変速機メーカーに依頼してすべてのATをCVTからステップAT(従来の遊星ギア切り替え式AT)に切り替えるのは、スバルの生産台数ではコストが合わないことから、難しいだろう。
それに現行のCVTは、水平対向エンジンに最適化された変速機は自社で開発して技術を手の内化(内製)したい考えから自社開発したものだ。そして選ばれたのがチェーン式CVTという訳なのである。
スバルがチェーン式CVTを採用し完成させたのは、縦置きの自動変速機(AT)でレシオカバレッジ(変速比幅)が大きく、既存のレイアウトに収まるという条件に合致するものだったことが大きな理由だ。
それに他社にはほとんどないチェーン式CVTを開発することで、パワートレーン全体をスバルのアイデンティティとして確固たるものとする狙いもあった。
スバルの2ペダル車でスポーティな走りを楽しみたい人には、CVTしか選択肢がないことを残念に思う人もいるだろうが、それほど毛嫌いすることもないのではないだろうか。
新型レヴォーグでは、これまでのSIドライブのパワーユニットの制御だけでなく、さらにスイッチ1つでステアリングやダンパー、AWDシステムまで制御するドライブモードセレクトを初採用し、さらに進化している。
CVTが嫌われる理由は?
2対のプーリーとそれらをつなぐベルトで構成されており、プーリーの直径を変化させることで連続的に変速することができる。CVTは無段階に変速できるため、変速ショックのないスムーズな走りが可能。また常に最適な変速比を保つことができるため、無駄なエネルギーを使用することなく燃費の良い走りを可能にする
CVTが嫌われる理由は「伝達効率が低い」ということと「加速時のフィーリングが悪い」という2点に尽きる。
確かにCVTは変速機としては伝達効率が低いものだ。それはMTも通常のステップATも歯車が噛み合って動力を伝達するのに対し、CVTはプーリーが金属のベルトを挟み込んで動力を伝えるという摩擦伝達という仕組みが影響している。
決まった位置で噛み合う構造ではないため、自在に減速比を変えられる反面、ツルツルに研磨されたプーリーが金属ベルトを挟み込んで動力を伝えるには、相当ガッチリと挟み込まなければならないため高い油圧が要求される。
この油圧を作り出すためにエンジンの動力が使われるのと、ベルトを挟む時と放す時には滑りが生じるので、どうしても伝達効率をロスしてしまうのだ。
しかしCVTは変速時のトルク切れが起こらないため変速がスムーズであることや、変速比幅が大きい割に構造がシンプルなので小型軽量に仕上げられるという利点もある。
そこで多段化が難しいFF用の横置き変速機では、コストの点からも日本メーカーの多くはCVTを採用しているのだ。
金属コマのエレメントを重ねて鋼板ベルトで束ねたエレメント式CVTは、大排気量大トルク車には向かないと言われてきたが、ジヤトコはチェーン式CVTと同じトルク容量(380Nm)をエレメント式CVTでも実現している。
チェーン式CVTの方がトルク容量が大きいと思われてきたが、スバルのWRX S4でもスポーツリニアトロニックを組み合せたエンジンの最大トルクが400Nmとなっているから、現時点ではほとんど差がない。
チェーン式はプーリーがチェーンを挟み込む時に打音が発生するので横置き変速機では静粛性を確保するのが難しいので、あまり使われていないが、ジヤトコは技術的には獲得しており、ラインナップとして用意している。
ともあれ2LターボやNA3.5Lエンジンとも組み合わされるCVTを開発できたのは、日本の変速機ならではの技術力と努力の賜物だろう。
なぜスバルはチェーン式CVTにこだわるのか この先を予想する
現行WRX S4は300psの2L水平対向4気筒ターボを搭載し、CVTを組み合わせている
チェーン式を採用するスバルのリニアトロニック。一部車種にはアクセルを踏み込まない「低開度」時は、滑らかな無段階変速。ドライバーがぐっと踏み込みアクセルが「高開度」になると、自動的にステップ変速に切り替わり、エンジン回転がぐっと伸びてリニアな加速が味わえるオートステップ変速切り替えモードを用意。また300ps/40.8kgmのWRX S4やレヴォーグの2Lターボにも耐えうる設計
おそらくチェーン式CVT開発時には、スバルの技術者や経営陣は多段ATがこれほど高効率化され普及するとは想定していなかったのだろう。それほど6速以上の多段ATは登場から急速に普及してきた。
スバルが変速機メーカーに多段ATを外注することは不可能ではないが、そうなると問題となるのはAWDだ。
スバルの場合、エンジンの全長が短いため、変速機内にセンターデフとフロントデフを組み込んで直接、フロントタイヤへ駆動力を伝えられる。
一般的な縦置き4WDはエンジンの横にフロントデフを配置するため普通のATの後部にセンターデフを配置すればいいので、ATは普通の構造で実現できる。
その代わり、リアのドライブシャフトは左右等長でもフロントは不等長になり、加減速時にトルクステアなど左右不均等な力が発生する場合がある(もっとも低ミュー路では強い加速など実現できないので、それによりスピンするようなことはまずない)。
それに対してスバルのシンメトリーAWDは前後とも等長のドライブシャフトにより、低ミュー路での駆動力の変化にも車体を不安定にさせる力が発生しにくく、電子デバイスやドライバーに車体を安定させる制御や操作を必要とすることなく、安心して走らせることができる。
それにはもちろん低重心な水平対向エンジンとの組み合せが、大きく貢献している。このレイアウトとともにAWDの制御やデフ回りの設計はノウハウの塊だ。そう簡単に外部の変速機や駆動系メーカーに外注することはできないだろう。
もっともシンメトリーAWDでなければ、ノウハウを知ったところでおいそれと真似できない。
先日、スバルは報道陣向けに技術説明会を開催したが、そこではプラットフォームや次世代アイサイト、電動化に向けたロードマップも披露された。
EVは別としてストロングハイブリッドは現在北米市場に投入しているトヨタのTHSを応用した電気式CVTのハイブリッド変速機とする考えが示された。
となればガソリンエンジン用に別に多段ATを専用開発するとは考えにくいから、エンジン車にはチェーン式CVTが使われ続ける可能性が高い。
スバルは2020年1月20日、報道関係者を対象に開催した「SUBARU 技術ミーティング」において、2020年代前半にSUVモデルのEV(電気自動車)を投入することや、ガソリン車について2020年に熱効率を高めた新設計の水平対向 1.8Lリーンターボエンジンを投入することを明らかにした
CVTの加速フィールは制御の工夫で改善されつつある
CVTはフィーリングが悪い、というのは制御に問題があることが大きい。全負荷(スロットル全開時)や中負荷程度の加速時にエンジン回転だけが上昇し、徐々に減速比が下がって(高速側へシフト)いく制御が採用されているが、この時減速比の制御を滑らかに行なおうとするほど、人間の感じる加速感との乖離が起こる。
エンジンは勢い良く回っているのに前に加速している加速感は希薄で、けれどもスピードメーターの針は確実に上昇している。
車速が高まればドライバーはアクセルを緩めるから、そこでエンジン回転が下がって巡航に向かうが、MTならまるでクラッチが摩耗して滑り始めているような加速感は、通常のステップAT車に乗るドライバーでも違和感を感じるもの。
ゴムが伸びるようなのでラバーバンドフィールともいわれるこの加速感は、CVT独特のものだ。
筆者としては、スバルのリニアトロニックはそうしたラバーバンド感の少ない、優れたCVTだと思うが、それでもMTやステップATとは感触の違う部分はあるのは否めない。
MTモードでシフトしても、どうしてもベルトが移動する時間やシフトが完了した瞬間のダイレクト感がやや鈍い。これは構造が影響している部分だから如何ともしがたい。
それらは人間が感じるフィーリングの部分なので、慣れるか諦めるか、違うクルマを選ぶしか解決策はないだろう。
しかしCVT自体は効率が低く、フィールに違和感を感じる部分があるといっても、決して変速機として魅力がない訳ではない。それにスポーツATとしての能力はそれほど悪くない。
全日本ラリーで実績を積んだCVTが市販型GRヤリスCVTにフィードバック!
2019年の全日本ラリー、JN-6クラスのシリーズチャンピオン、大倉聡/豊田耕司組のヴィッツCVT(写真/JRCA)
サーキットでエンジン排気量などを統一されたツーリングカーレースのようなエンジンパワーの全てを路面に伝えて戦うような競技ではパワーロスが大きく厳しいだろうが、ジムカーナのように低速域からシフト操作を頻繁に行なう競技やラリーのようにエンジンパワーを全て路面に伝え切れないような競技では、CVTでも十分に戦える。事実、ジムカーナではコペンのCVT車、ラリーではヴィッツのCVTが活躍している。
全日本ラリーにCVTのヴィッツが参戦しており、2017年と2018年シーズンのJN3クラスで、2年連続でシリーズ2位。2019年は新設されたJN6クラスで3チームに供給し、大倉聡/豊田耕司組のヴィッツCVTが開幕4連勝し、年間クラスチャンピオンを獲得している。
全日本ラリーに参戦しているヴィッツのCVTは、トヨタがアイシンと共同開発中のスポーツCVTを搭載したもので、競技中はスポーツモードを選択すると加速時も減速時もエンジン回転数を最高出力が発生する6100rpmをキープするように減速比が制御される。
つまりアクセルオンで常にエンジンは最高出力を発揮し続け、車速は減速比が変わっていくことでコントロールされるのである。こんな芸当ができるのはCVTだけだ。
東富士研究所でTGRヴィッツCVTの開発にかかわるトヨタ自動車パワートレインカンパニーの高原秀明氏は、
「一般的にCVTは燃費が良いというイメージがある反面、スポーツ走行には向かないと認識されています。
しかし、2017年の挑戦で、CVTは専用のLSDを採用することで、スポーツ走行を可能にし、さらに制御プログラムの改良によりMT車両にも劣らないパフォーマンスが発揮できる場合があることを証明できたと実感しております。
CVTは制御次第で、ステップATのようにもDCTのようにもできる。そして、走りに振れば速さの追求もできます。
CVTにより、シフトチェンジをすることなくハンドル操作に集中できるという利点を生かし、一人でも多くの方がモータースポーツを始めるきっかけになっていただけたら幸いです」とコメント。
このヴィッツCVTは、装備としてはLSDとオイルクーラーを追加した程度で、CVTは純正のまま。セッティングを変えたECUによって、最高出力を維持しながら、無段変速のプーリーとVベルトを最適な位置にして走れる。
ヴィッツのエンジンに合わせて6100rpmを徹底的にキープするよう常に変速比をコントロールしているMT車のようにシフトアップしていく時のロスがなく、両手でステアリングを握り、パドルシフトも必要もなく、右足はアクセル、左足はレーシンドライバーのようにブレーキに専念できれば、理想の走りが実現するという。
この制御自体は量産モデルへのフィードバックを前提に開発されているが街乗りを無視するわけにはいかない。
そのためトラクションコントロールをオフにして、センターコンソールのスイッチを押してスポーツモードにした時のみ、モータースポーツ用の制御になるようになっている。
全日本ラリーに参戦しているヴィッツCVTに装備されているセンターコンソールに配置されたSPORTモードスイッチ
ラリー走行のシフトポジションはDレンジ固定が基本であり、パドルシフトのようなギミックもない。また、左足ブレーキを積極的に使えるような制御にもなっているという。
ちなみにこのスポーツCVTの技術は、すでに市販車に活かされている。2017年9月に発売されたトヨタ ヴィッツ GR SPORT“GR”の制御に採用されているのだという。
新時代のCVTスポーツ! ヤリスGR CVTが間もなく登場!
2020年1月の東京オートサロンでひっそりと公開されたGRヤリスCVTコンセプト。カーボンルーフ、アルミのエンジンフードや左右ドア、バックドアを使い軽量化し、大きく膨らんだフェンダーを持つ3ドアのボディは、GRヤリスと共通と思われる。実車を後方から覗いてみると後輪に駆動力を伝えるプロペラシャフトと後輪のドライブシャフトはないため、駆動方式はFFであることもわかる。 タイヤは225/40R18サイズのダンロップSP SPORT MAXX050を装着していた
2020年1月の東京オートサロンで発表されたGRのヤリスが2台あった。すでに受注が開始された272psの1.6Lターボを搭載したヤリスGR-4のほかに、GRヤリスCVTコンセプトという1.5Lの直3NA(120ps/14.8kgm)で、FF、ダイレクトシフトCVTを搭載したモデルも公開されていた。
おそらく全日本ラリーの実践で培ったCVTの制御技術がこのGRヤリスにフィードバックされているのは間違いない。今後このGRヤリスCVTが市販され、全日本ラリーなどモータースポーツの分野で活躍することになるだろう。
きっと、CVTはスポーツ走行に向いていたんだと、これまでのCVTに対するネガティブなイメージを払拭することになるのではないか、と期待を込めて発売まで待っていよう。
ちなみに、ヤリス1.5L、FF+CVT(Xグレード)の価格は159万8000円。GRヤリスCVTコンセプトの市販モデルがスズキスイフトスポーツ(ベースグレードのATモデル)の194万1500円と同じような価格だから200万円前後で登場すれば、このカテゴリーが活性化するのは間違いない。
そのほか、ホンダのS660や日産のジュークNISMO RSなど、CVTでドライビングが楽しめるクルマは意外とある。
足はアクセルとブレーキ、腕はステアリング(ジムカーナではサイドブレーキも使う)に専念できることで、MTに匹敵する速さを見せるドライバーもいるのだから、スバルのチェーン式CVTも競技に対応したモードやグレードを用意してもいいのではないだろうか。
それによりモータースポーツに参加する敷居は確実に下がり、ビギナーを呼び込むだけでなくハンディキャップのあるドライバーも健常者と一緒にタイムを競うような環境へと整えられていけば、もっとモータースポーツも盛り上がるハズだ。
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