■アクセル操作でも「曲がる」を実現するのが 運転が上手くなるクルマ
クルマの運転とは、「走る」「曲がる」「止まる」をドライバーの意思どおりに制御することだ。
「走る」はアクセルペダル操作、「曲がる」はハンドル操作、「止まる」はブレーキペダル操作。この3つは教習所で教わっているはずなので、誰でもわかるだろう。
さて今回のテーマである「運転がうまくなるクルマ」選ぶにあたって、「曲がる」のパートをハンドルだけでなく、アクセル操作でもできることを条件にした。
アクセルで曲がる、なんて意味がわからない人も多いと思うが、クルマは同じハンドル角をキープしながらカーブを曲がっていても、アクセルペダルの踏み込み量によってその曲がり方が変わる。スピードが異なれば曲がり方も違うだろう、ということではなく、同じスピードでもアクセルを踏み加速しながら曲がっていくか、戻して減速しながら曲がっていくかによっても変わるものなのだ。
これは物理の法則だが、加速しているときは後輪の荷重が増える。反対に減速しているときは前輪荷重が増える。タイヤのグリップ力(摩擦力)は、上からかかってくる荷重によって変化する。通常の領域だと、荷重が増えればグリップ力も増える。
カーブで加速していくと後輪のグリップ力が増し、前輪のグリップ力が減るからアンダーステア(外にふくらむ)になる。反対にアクセルペダルを戻して減速しながらだと前輪のグリップ力が増えてハンドルが効いて良く曲がるようになる。
今回選んだ「運転がうまくなるクルマ」5台は、すべて後輪駆動だ。そのバリエーションの中には4輪駆動も用意するモデルがあるが、その基本は後輪駆動のクルマである。
前輪駆動のクルマでも、アクセルの踏み方とコーナリングの関係は後輪駆動車と同じように起きる。ときには後輪駆動より強く起こるケースもある。それは単に前後の荷重移動だけでなく、タイヤの摩擦円が絡んだ話になる。
ちょっと難しい話をさせてもらう。タイヤのグリップ力には限界があり、それを前後方向(アクセルとブレーキ)と横方向(ハンドル)のふたつの方向で分けて使っている。その両方をいっぺんに使おうとすると、限界に達しやすくなりタイヤが滑ってしまう。
カーブを曲がりながら(横方向のグリップ)、アクセルペダルを踏み込む(前方向のグリップ)を使うと、タイヤの摩擦円の原理によって前輪の曲がるためのグリップ力が弱くなり、アンダーステアが強く出てしまうのだ。
それなら前輪駆動と後輪駆動は同じじゃないかと思うかもしれないが、もうちょっと高等なテクニックを使おうとしたときに、後輪駆動のメリットが現われる。
それはカーブの入り口で減速のためのブレーキをかけ、ある程度クルマのスピードが落ちたところでブレーキペダルを戻しながらハンドルを切っていき、アクセルオフのままターンインの状態になってからのこと。
クルマ自身が曲がろうという姿勢になったあとにアクセルペダルを踏み込んでいくと、アンダーステアは強くならずに加速していく。ここが後輪駆動の美味しいところだ。加速することによって後輪の荷重が増えグリップ力も増すが、その分をアクセルペダルを踏んで加速する力に使うことができるのだ。前輪のグリップ力が減ったとしても横のグリップ力にしか使わないから、余力があるのだ。
■アクセル操作にもハンドル操作にも素直な「運転のうまくなるクルマ」5選
では、筆者が選んだ「運転のうまくなるクルマ」5台を紹介していこう。
●ポルシェ「911シリーズ」
ポルシェは911だけでなく、「718ボクスター」や「718ケイマン」も後輪駆動であるが、こちらはミッドシップ。911はリアのオーバーハングにエンジンが搭載されているので、イニシャル状態では前40%:後60%という重量バランスになっている。
コーナーを曲がるときには、ちゃんと前荷重にしてハンドルが効く状態にしてからターンインし、クルマが曲がる気になってアクセルペダルを踏んでいくと、気持ちよく曲がりながら加速することができる。
空冷のころまでの911はしっかりとこの原則を守らないと上手く運転できなかったが、最新のものは随分と寛容になった。それでもこのドラテクを使うことによって、より自在にクルマを操ることができる。
●BMW「3シリーズ」
1990年代のモデルになってから、前後重量配分がほぼ50:50になっている。通常の状態から減速気味、加速気味でハンドルの効きが微妙に変わるから、それをうまく使うと楽しくドライビングができる。
これはガソリンエンジンでも、ディーゼルエンジンでも基本は同じである。6気筒エンジンだとフロントが少し重くなるが、それでも同じドライバーズテクニックが通用する。
●マツダ「ロードスター」
現行型マツダ・ロードスターは搭載エンジンが1.5リッターの自然吸気とハイパワーではないが、車重が約1トンしかないから、かなり軽快に走ることができる。スポーツカーらしくアクセルペダル操作によるコーナリング時の挙動はセオリーどおりで、このクルマで運転をマスターすれば他でも通用する。
●アルピーヌ「A110」
ミッドシップエンジンの後輪駆動レイアウトはポルシェ「718ケイマン/ボクスター」と同様。旧モデルの先代アルピーヌA110はかなり扱いが難しかったが、現行モデルは穏やかな挙動変化で、操りやすくなっている。これも基本に忠実だから、一般道でもサーキットでもこれで腕を磨けば上手くなる。
●ホンダ「HONDA e」
HONDA eは後輪駆動のBEV(ピュアEV)である。
BMW i3も後輪駆動のEV(そのほとんどがレンジエクステンダー付き)であるが、アクセルオフのときの回生ブレーキが強すぎて、運転がうまくなるのが難しい。その点でHONDA eは素直なEVである。EVのメリットはアクセルペダルの反応に遅れなく駆動力コントロールができることで、その点でもお勧めだ。
* * *
まだ他にも運転が上手くなるクルマはあるが、基本のポイントを抑えれば誰でも選ぶことができる。
ここで付け加えたいのは、ただ後輪駆動なら良いというわけではない。アクセルペダルのゲインが高くないことがひとつの条件になる。
ゲインとは、反応の強さという意味だ。アクセルペダルをちょっと踏んだだけでも鋭い加速をしてしまうのは「ゲインが高い」という。これでは車庫入れも難しくなる。アクセルペダルを踏んだイメージが20%のときには20%の反応で、50%踏んだときには50%の反応があるのが扱いやすいのだ。
またハンドルの応答性も同じで、ちょっと切ったらギュインと強く曲がってしまうのは、扱いやすいクルマとはいえない。少し穏やかなほうが正確に操ることができる。だから運転がうまくなるクルマは、絶対性能が高くても、操作に対するゲインが高くないクルマが良いのだ。
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