Lamborghini Aventador S
ランボルギーニ アヴェンタドールS
ランボルギーニ アヴェンタドールSを4人のジャーナリストが斬る!【Playback GENROQ 2017】
孤高のV12ミッドシップ
V12をミッドに搭載するというのは、今までトライが繰り返されてきた挑戦だ。だがその当たり外れは大きく、命の危険すら感じさせるクルマもあった。しかし近年のランボルギーニの技術力には目を見張らざるを得ない。アヴェンタドールSの驚くほどの完成度はどれほどか・・・ご覧いただこう。
清水和夫「号砲を鳴らしながら加速する様は、自ら戦うという意思表示!」
久しぶりにV12ランボルギーニに乗った。ムルシエラゴ時代を思い出すと、アヴェンタドールSのハードウェアは驚くほど進化していた。スロットルを踏み込むとアヴェンタドールSのV12エンジンはガソリンをたっぷりと飲んで号砲を放つ。この号砲はライバルを威嚇するだけでなく、自ら戦う意思表示なのだ。低めのギヤで加速すると、そのダイレクトな加速Gが身体を襲う。まるでエンジンそのものにまたがって加速しているような感覚だ。
気が弱いドライバーは近づかないほうがいいだろう。地面に張り付き、地響きを鳴らしながらワインディングを走り回る。ほのかに車内に血の匂いが立ちこめる。そこがかの武田信玄の時代の古戦場だったことを思い出した。クローズドされたエリアで、アヴェンタドールSに乗ってコーナーをキレキレで攻めまくる。ワインディングの上りのストレートでスロットルを目一杯踏み込むと、フロントサスペンションが限界までリフトした。ステアリングで感じるタイヤの接地感が薄くなる。「おいおい、ウイリーするのか?」と不安になるほどのパワーだ。いや、実際の加速はランボルギーニだけがずば抜けているわけでないが、エンジン音とタイヤが軋む音はとんでもなく速く感じてしまう。
昔の話だが、バックで加速性能テストを行ったことがある。バックでどのクルマが速いのか、というバカな企画につい乗ってしまった。そのテストで一番速かったのがランボルギーニ ムルシエラゴだった。だが、困ったことに後方視界が悪く、ドアを跳ね上げて身を乗り出して運転した。ランボルギーニが速かったのは6.2リッターV12とAWDの組み合わせのおかげ。バックでも速かった。とにかく振り落とされないように必死でバックした記憶が残っている。
「ダークサイドの帝王であることは間違いない」
他にもランボルギーニのV12は変な因縁があり、悪魔(ディアブロ)という名前が脳裏に焼き付いている。サーキットバトル映像で有名だった『ベストモータリング』で、ディアブロを走らせた。筑波サーキット走行2~3周目でブレーキがスポンジーになり始めていた。それでもストレートはとんでもなく速いので後続車を抑えていたが、突然悪魔が目を覚ました。第1へアピンにさしかかると、突如ブレーキがスッポ抜けたのだ。アクセルとブレーキを踏み間違えたような感覚に冷や汗が出た。
そのままフェンスにツッコミそうになったが、サイドブレーキを使ってスピンさせ、なんとか難を逃れた。その後、ランボルギーニはムルシエラゴの時代を経てアヴェンタドールにたどり着いた。環境と安全が厳しい時代に、よくぞ生き残ってくれたと嬉しく思う。
アヴェンタドールSで古戦場を攻めまくる。コーナーまではワープしたようにあっという間。必死で強いブレーキを踏んでコーナリングの準備をするが、気持ちはそのまま突進したい。無事に戦いが終わった。今回は悪魔に囁かれずに済んだ。洗練という言葉がもっとも似合わないのがアヴェンタドールSだが、ダークサイドの帝王であることは間違いない。その価値は凡人には理解できないだろう。
田中哲也「高回転域をキープして走れば、その強烈な速さに打ちのめされる」
最初にアヴェンタドールが日本に上陸した時、はじめてドライブしたのはサーキットではなく、箱根を中心としたワインディングだった。本来、700psを超えるスーパースポーツカーの場合、その性能をフルに発揮できるのは、言うまでもなくサーキットしかないのが実情だ。だが、一般的にランボルギーニのオーナーは、こうしたワインディングで楽しむ方が多いようだから、決して無駄なテストではないだろう。ここではそんな目線でレポートをしたいと思う。
とはいえ、今回テストするのはアヴェンタドールの正常進化版“S”である。そのパワーは740psにも達するゆえ、そう簡単には本当のところなどわかるわけがない。それを前提に走らせてみた第一印象は、さすがにV型12気筒自然吸気エンジンがこの上ないほど極めてパワフルであること。低回転域を犠牲にしてまで高回転域でのパワーを活かそうという狙いが伺える。しかも高回転域のパワーが暴力的で恐怖すら感じるほどだ。
ウインドウを開けてサウンドを聞きながらドライブしてみれば、そのサウンドも爆音そのもの。ボリュームが大きく実に刺激にあふれている。このサウンドもそうだが、エンジン特性も高回転域をキープし、できるだけパワーバンドに乗せて走れば、強烈なポテンシャルでドライバーを魅了するだろう。
車両バランスは想像しているより接地感がしっかりしていて乗りやすいのも特筆すべき点だろう。ミッドシップゆえの低重心なバランスは、結果、ロールを抑えられるだけに、あらゆる速度域でも常に安定感が伴う。それに加えエアロダイナミクスの優位性も、それに拍車をかける。アヴェンタドールSに採用された2段階式(もちろんオート)のリヤウイングは効果絶大で、強力なダウンフォースを生み出す。
「ギヤボックスにもう少し磨きをかけて欲しかった」
これほどのパフォーマンスをもつスーパースポーツの場合、通常のメカニカルグリップでは到底、追いつかないため、ダウンフォースを味方にしなければならないのだが、このアヴェンタドールSは、ほぼ完璧と評したくなるほど、その効果は確実だった。おそらくエアロダイナミクスに関しては相当、綿密に研究を続けていたのだろう。それほど、初期モデルとは高速域での印象が異なる。
イメージ的にはどうしても“ちょい悪”感はあるものの、これだけ生真面目に仕上げられていると、最新のランボルギーニは違うと思い知らされる。プッシュロッド式の前後サスペンションもストローク量が豊富で、乗り心地もこの手のモデルとしては予想を超えた快適性を維持しているし、カーボンモノコックをもつとはいえ、コクピットに大きな振動を伝えないのも見事だと思う。
だからこそ、ギヤボックスにもう少し磨きをかけて欲しかったというのが本音だ。モード毎、明確にシフトスピードが変化するものの、コルサモードはショックが大きすぎるのは否めない。原因はシングルクラッチ式というだけではないだろう。この点だけは改善を望みたいが、全体的には、エンジンとシャシーが優れたバランスをもった“V12マシン”だと思う。
島下泰久「狂っているのはクルマではない。狂気を呼び覚まされた自分のほうだ」
走り終わって、口をついて出たのは「サイコー!」という言葉だけだった。何という充実感。本気でコイツに惚れてしまった。
言うまでもなく見た目のインパクトは半端ないし、エンジンを始動させた瞬間の炸裂感も尋常ではないアヴェンタドールSだが、いざ走り出すと、意外やどこを取っても真っ当過ぎるほどに真っ当だ。小径のステアリングホイールはダイレクト感に満ちた手応えで、路面からのキックバックも大きめなのだが、不快にならないギリギリのところにフィルターがかけられていて、気持ち良く路面と、タイヤと対話できる。引き締まったレスポンスが、クルマを実際よりふた回りほどもコンパクトに感じさせるのが痛快だ。
何しろV型12気筒のミッドシップである。最初は持て余しそうだからと踏み入れないつもりだったタイトなワインディングロードにも、それならと足を伸ばしてみる気になった。案の定、このクルマなら1速、2速で事足りるタイトコーナーの連続も、期待通りアヴェンタドールSは大いに楽しませてくれた。
まさにミッドシップらしく、操舵に対してフロントは素直にインを向き、グイグイとその鼻先をエイペックスへと向けていく。アクセルを踏み込めばリヤが力強く蹴り出し、受け止めきれなくなれば駆動力を前輪に回して、更にフロントから引っ張っていく。この4WDのメリットをフル活用したライントレース性の確かさは素晴らしいのひと言だ。
しかもアヴェンタドールSの後輪操舵は痒い所に手が届く心憎いセットアップで、まさにちょうど良いところで、ちょうどいい具合にクルマを狙ったラインに乗せることをサポートしてくれる。リヤが操舵しているのは感じるけれど、違和感のある動きとは思わせない。この辺りの案配はさすがだ。気づけばライトウェイトスポーツでも操るかのようにコーナーに飛び込んで行っていた。
「叶うなら手許に置いてとことん走りと向き合う日々を過ごしたい」
贅沢なV型12気筒自然吸気エンジンは、低速域から十分なトルクを発生する一方で、トップエンドまで一気に回りきる。いや、回るどころか6000rpm以上の豪快なパワーを伴いながらの猛々しい吹け上がりと凄まじい勢いの速度上昇は、まさに突き抜けるようで、これはもう狂っている! と思わせる。しかしながら次の瞬間には、夢中になってアクセルを踏み込んでいる自分に気づく。クルマが狂っているのではなく、自らの狂気を呼び覚ますクルマなのである。
ブレーキの効き、タッチも申し分ない。常に一定のフィードバックを返し、またラインを乱すようなこともないから、安心してペダルを蹴飛ばせる。よって安心してアクセルを踏み込むこともできるのだ。
本当に素晴らしいドライビングギアになった。アヴェンタドールSの印象は、それに尽きる。ヴァレンシアの国際試乗会でもそう感じたが、改めて、これは本物だと深く感じ入った次第だ。叶うなら手許に置いて、夜の街ではなく早朝のワインディングロード辺りで、とことん走りと向き合う日々を過ごしてみたい。思わず、そんな夢を思い描いてしまった、本気で気に入った1台である。
大谷達也「火花がはじけ飛ぶかの加速。ドライバーはやる気にならざるを得ない」
極端に低い着座位置、多角形を多用したカラフルなインテリア、そして肉食獣が低くうなっている様子を思わせるエンジン・サウンド・・・。そのすべてが、ドライバーを鋭く刺激する。いや、ドライバーを刺激するために生まれてきたスーパースポーツ、それこそアヴェンタドールSといっても過言ではない。
走り始めてからも、アヴェンタドールSはドライバーを刺激することを止めない。やや硬めの足まわりは路面のザラツキを含めてタイヤのグリップ状態を細大漏らさずに伝えてくれるし、6.5リッターV12自然吸気エンジンはフェラーリとは対照的にシリンダーひとつひとつの爆発音さえ聞き分けられるのではないかと思えるほど粒立ちのいいサウンドを奏でる。そしてスロットルペダルを踏み込めば、まるで火花がはじけ飛んだかのような勢いで猛然と加速していく。これだけでドライバーは完全にやる気にさせられるだろう。
コーナーを攻めるとステアリングにキックバックがひっきりなしに返ってくる。それを両手でぐっと押さえ込みながら右へ、左へと操舵していくと、それだけでひとつのスポーツといってもいいくらい体力を消耗する。そしてドライバーを片時も休ませず、絶えず集中力を要求する。まさに刺激のカタマリだ。
ただし、そうした“刺激”はアヴェンタドールSの完成度が低いことを示すものではない。カーボンモノコックの剛性感は際立って高く、硬めの足まわりも路面への追従性は優れていて、コーナリング中にギャップに乗り上げても横っ飛びする気配は見られない。クルマとしての機能を高く守ったまま、ドライバーにできる限り多くのインフォメーションを伝え、それによってスポーツドライビングの醍醐味を満喫してもらいたい。アヴェンタドールSに乗っていて感じられるのは、ランボルギーニからのそんなメッセージである。
「これほどドライビングフィールが生々しいスーパースポーツはない」
この結果、ドライバーとアヴェンタドールSは分かちがたいほど深く結ばれることになる。たとえばコーナーの進入でやや強めのブレーキングを試みたところ、リヤのグリップレベルが低下して穏やかにテールがアウトに流れ始めたのだが、そんな時でも接地感は強く、軽い修正舵をあてるだけでなんなくエイペックスにアプローチできた。しかも、このとき私が味わった感覚は恐怖ではなく、ひとつの達成感だった。これこそアヴェンタドールSとドライバーの密接な関係を物語るものだろう。
思い起こしてみれば、2011年デビューのオリジナル・アヴェンタドールはクルマからのフィードバックが希薄だった。それが、2015年に登場したアヴェンタドールSVではビビッドな感覚をより強く伝えるようになり、これと同じ手法が最新作のアヴェンタドールSにも受け継がれたように思う。つまり、インフォメーションの増大は洗練度の喪失ではなく、スポーツカーとしての進化だったのである。
振り返ってみれば、これほどドライビングフィールを生々しく伝えるスーパースポーツカーはいまやアヴェンタドールSをおいて他にない。試乗を終えたとき、私は心地いい疲労感を味わっていた。
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
ランボルギーニ・アヴェンタドールS
ボディサイズ:全長4797 全幅2030 全高1136mm
ホイールベース:2700mm
トレッド:前1720 後1680mm
乾燥重量:1575kg
前後重量配分:43:57
エンジン:V型12気筒DOHC48バルブ
ボア×ストローク:95×76.4mm
総排気量:6498cc
最高出力:544kW(740ps)/8400rpm
最大トルク:690Nm(70.4kgm)/5500rpm
トランスミッション:7速SCT
駆動方式:AWD
ステアリング形式:パワーアシスト付きラック&ピニオン
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン(プッシュロッド式)
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ローター径:前400×38 後380×38mm
タイヤサイズ(リム幅):前255/30ZR20(9J) 後355/25ZR21(13J)
最高速度:350km/h
0-100km/h加速:2.9秒
車両本体価格:4490万4433円
※GENROQ 2017年 7月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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みんなのコメント
製品に対するメーカーの真摯な姿勢の表れ。
5000万出して宝の持ち腐れ状態はもったいない。
どうせなら低速でも刺激ビンビンの旧式ランボの方が楽しいのではないか。