マツダのフラッグシップモデルである「マツダ6」が、2024年4月中旬で国内向けの生産を終了することを正式発表し、激震が走った。今回は姿を消ことになるマツダ6を改めて再評価していく。
※本稿は2024年2月のものです
文/片岡英明、国沢光宏、渡辺陽一郎、写真/MAZDA
初出:『ベストカー』2024年3月10日号
新型への期待高まる!! マツダ6は開発陣の意地を感じるデキ! マツダを象徴する1台と呼ばれる理由は?
■数少ないセダンがまたひとつ……
マツダのフラッグシップモデル、MAZDA6。2024年4月中旬を目処に国内での販売を終了すると発表された
2024年1月19日、マツダは世界戦略車であり、フラッグシップとなっている「マツダ6」の国内販売を4月半ばに終了すると発表した。マツダ6の前身となるアテンザが誕生したのは2002年。22年あまりで日本の自動車史から名車が消えていくのは寂しい限りだ。
21世紀を前にマツダは倒産の危機に直面していた。大改革を求められ、2001年にマツダは「Zoom-Zoom」のブランドメッセージを発信する。
そして翌2002年に新世代マツダの商品群の第一弾としてミディアムセグメントに送り出したのがアテンザだ。海外ではマツダ6を名乗った。
2008年1月には第2世代にバトンを託している。これ以降「SKYACTIV」技術を前面に押し出し、環境性能とキレのいい走りを高いレベルで両立させた。
3代目の日本発売は2012年11月だ。コンセプトカーの雄(TAKERI)を具現化した躍動感あふれる「魂動デザイン」が売りだった。上質で、スポーティな味わいのインテリアも目を惹く。
デザイン優先の設計に思われるが、キャビンは思った以上に広く、居心地のいい空間を実現している。前席は大ぶりで座り心地がよく、サポート性も良好だ。ルーフ後方をクーペのように寝かせているが、後席の膝もとだけでなく頭上の空間も上手に確保した。
さすがにインパネ中央の8インチモニターは小ぶりだと感じるが、シートとステアリング、そしてペダルの位置関係は文句なしだ。最良の運転姿勢を取りやすい。ベンチレーションシートを設定するのもニクい。
メカニズムからもマツダらしいチャレンジ精神が感じ取れる。時代の先端を行くクリーンディーゼルを主役の座に据え、ガソリンエンジンはNAとターボの二本立てとした。
2.2Lのクリーンディーゼルは第2世代に移行し、パワフルさが際立つとともに滑らかさにも磨きがかかっている。
アテンザは毎年のように改良を行い、走りの質感や乗り心地を向上させていった。2018年には板厚を変えて剛性を高め、サスペンションの構造変更にまで踏み込んだ。
また、インテリアも二度にわたってブラッシュアップを図った。運転支援システムや先進安全装備も意欲的に進化させている。
■SUVの台頭には抗えずついに販売終了
2019年7月、車名をアテンザからマツダ6に変更し、それ以降もたゆまぬ改良を続けていった。2022年に特別仕様車として送り出したのが、写真の生誕20周年記念の「20thアニバーサリーエディション」である。
スタイリッシュで走りもいいマツダ6は海外でも好評を博しマツダの屋台骨を支え続けた。だが、世界の潮流はクロスオーバーSUVに移り、プレミアム志向のSUVも大幅に増えてくる。その急激な流れにマツダ6は抗えなかった。
ついには日本での販売終了を決断したが、新しい器に入れて、いつの日か復活させてほしいと切に願っている。
●片岡英明が再評価
・デザイン:4
・ハンドリング:4
・動力性能:5
・質感:4
・惜別度:4
■クロスオーバーやスポーツモデルのバリエーションがあれば
マツダ6の2023年の年間販売台数はセダンが1404台、ワゴンが1027台と低迷していた
マツダ6は顧客のことをまったく考えない開発陣の妙な意地(悪い意味でのこだわり、と言い換えてもよい)により、世界規模で売れ行きが伸び悩んでしまった。
すでにステーションワゴンのニーズはなく、スバルですらツーリングワゴンを引っ込めクロスオーバーのアウトバックに絞っている。
当時、私は開発のトップにマツダ6のクロスオーバーを作ったら売れると進言したし、社内からも作りたいという声がたくさん出ていたようだ。しかし、開発のトップは「マツダらしくない!」と頑なだった。
マツダ6をベースにアウトバックのようなクロスオーバーを作ったら、大成功したと思う。何より圧倒的にスタイリッシュ!
私の読者がマツダ6のクロスオーバーをCGで作ってくれたけれど、これほど美しいクロスオーバーはないというレベル。トルクフルで燃費いいディーゼルエンジンをラインナップすることも強い武器になっただろう。
セダンについて言えば中国を除き市場がシュリンクしており、厳しかった。マツダスピードのようなスポーツモデルを作っていたら面白かったかもしれない。
●国沢光宏が再評価
・デザイン:5
・ハンドリング:4
・動力性能:4
・質感:4
・惜別度:5
(TEXT/国沢光宏)
■マツダのクルマ造りを象徴する一台
セダンの構造的な特徴として、乗り心地、静粛性に優れていた
現行マツダ6は、2012年に3代目アテンザとして発売された。魂動デザインとSKYACTIV技術によるマツダ車の先駆けで、新世代商品の最上級車種だった。
ボディタイプは今と同じくセダンとワゴンで、両車のホイールベースは異なる。セダンは2830mmと長く、後席の足元空間を広く確保して走行安定性も優れている。
ワゴンは80mm短い2750mmで、後部のオーバーハングを長くすることにより、広い荷室面積を備える。ワゴンは最小回転半径も0.1m小さく、両ボディの個性を明確に分けていた。
そして2012年当時は、レガシィB4、マークX、ティアナなど、上質で買い得なセダンも豊富に用意されていた。セダンは低重心で、後席とトランクスペースの間に骨格や隔壁が入るから、ボディ剛性も高めやすい。
後輪が路上を転がる時に発するノイズも居住空間に侵入しにくく、セダンは走行安定性、乗り心地、快適性を高める上で有利だ。
これらのセダンが持つ特徴は、今のマツダが目指すクルマ造りの方向性とも一致する。つまりマツダ6は、マツダのクルマ造りを象徴する商品でもあったのだ。
●渡辺陽一郎が再評価
・デザイン:3
・ハンドリング:4
・動力性能:4
・質感:3
・惜別度:5
■アテンザに対するあの期待は忘れない
ルーフ後方をクーペのように寝かせたスタイリッシュなデザインを採用
マツダ6というより、アテンザセダン/ワゴンと呼びたいんだけど、あのクルマはいろんな意味で、もの凄く注目していたよ!
まずデザイン。ベースになったのは、2011年の東京モーターショーに出品された「雄(TAKERI)」だ。その「雄」を見て、モーレツに期待が高まっていた!
マツダの人は「ほぼこのまんま出ます」って言ってたからね。うおおおお、ならメチャメチャカッコいいじゃん! って。
翌年登場したアテンザは、そこまではカッコよくなかったんだよね……。なにしろ期待値が高すぎたからさ。でも、SKYACTIV-Dとの組み合わせは、当時の国産セダン/ワゴンの革命だったと思うんだ。
クリーンディーゼルを積んだスタイリッシュなセダン/ワゴンなんて国産唯一で、まるで欧州車みたいだった。
その後、名前がマツダ6に変わっても、「まあまあカッコいい、ヨーロピアンなセダン/ワゴン」という大筋はなにも変わらなかった。そして年月とともに陳腐化した。
でも、アテンザに対するあの期待を忘れることはないよ!
●清水草一が再評価
・デザイン:3
・ハンドリング:3
・動力性能:4
・質感:4
・惜別度:3
■マツダ6なきあと、マツダのモデル戦略はどうなる!?
マツダでセダンを設定する唯一のモデルとなるマツダ3だが、こちらも販売は苦戦している
セダンは低重心でボディ剛性を高めやすいから、走行性能や乗り心地を重視する車種に最適だ。そして今のマツダは、上質な運転感覚を目指している。
そうなるとセダンとワゴンのマツダ6は大切な商品で、CX-60と共通の後輪駆動プラットフォームを使って新型が登場すると見られていた。
販売店からは「後輪駆動のプラットフォームを使ったマツダ車として、新型マツダ6がCX-60よりも先に発売されるかも知れない」という話も聞かれた。
ところが最近は、新型マツダ6の話題が途絶えた。新型車の大半がSUVのCXシリーズだ。そしてマツダ6は発売から11年以上を経過して、2023年の1カ月平均登録台数は約200台と、CX-5の約10%だ。
マツダ6が終わると、マツダのセダンはマツダ3のみだ。現行マツダ3の発売は2019年で比較的新しいが、日本の1カ月平均登録台数は約1200台と少ない。しかもその内の70%以上をファストバックが占めるからセダンは少数だ。
そもそも現時点で、OEMを除いたマツダ車の半数以上がSUVだ。上級車種は後輪駆動のSUVで、ミドル&コンパクトサイズは前輪駆動のSUVとする。5ドアハッチバックは低価格帯のマツダ2程度で、これ以外のセダン/ワゴン/ハッチバックは車種を問わず廃止する可能性もある。
特に今後はマツダも電気自動車を増やす。売れ行きを増やしにくいマツダ6は、廃止したほうが合理的という判断も成り立つ。
マツダでは車内の広さにこだわったミニバンや背の高いコンパクトカーは扱わない方針だから、広さとカッコよさを両立できるSUVの販売比率をさらに高める。
それでもマツダにとって、低重心で走りの楽しいクルマは絶対必要だ。少なくともマツダ6は、ロードスターと同様の基幹車種に位置付けられる。
(TEXT/渡辺陽一郎)
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みんなのコメント
激震は走っていませんが?
あちこちが古臭くなっててとてもフラグシップを背負えるものではなかった