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【電動ラリークロス・マシン】スタード・フォード・フィエスタERXへ試乗 未来の興奮 前編

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【電動ラリークロス・マシン】スタード・フォード・フィエスタERXへ試乗 未来の興奮 前編

既存マシンと混戦できる純EVレーサー

text:James Disdale(ジェームス・ディスデイル)

【画像】スタード・フィエスタERX VWゴルフとEQCのEVコンセプトも 全85枚

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)


モータースポーツでも、電動化は重要なテーマとして避けることができない。市街地サーキットで競うフォーミュラEに続いて、過酷なオフロードを走るエクストリームEもスタートしたが、いずれもマシンは純EVに限定されている。

今のところ、先端技術の開発や遠隔地での開催などの理由でコストは高く、参戦できるチームは充分なバックアップを受けられる世界トップクラスのみ。化石燃料を大量に燃やしたF1という過去を、相殺するかのようでもある。

しかし、スタード・フォード・フィエスタERXのアプローチは少し異なる。長年WRCで活躍してきたオーストリアを拠点とするレーシングチーム、スタード社が開発した新しいマシンだ。

電気モーターと駆動用バッテリーで走るラリークロス・マシンで、プライベーターでも購入できるように設計されている。必要なら、コ・ドライバーを助手席に乗せてラリーに出場することも可能だという。

ここで注目すべき点が、内燃エンジンを搭載した従来のマシンと直接対決が許されているということ。ラリークロスから純粋なガソリンエンジンが消えるであろう将来、どれだけの興奮を与えてくれるのか、ファンは事前に体験できることにもなる。

スタード社が開発したフォード・フィエスタERXの最大の特徴は、モジュール構造を採用した電動技術。この例ではフォード・パフォーマンスが協力してくれたそうだが、シトロエンなどほかのクルマでも、同様のシステムを容易に搭載できるという。

トリプルモーターで611psと101.9kg-m

小型の電気モーターとバッテリーは、ラリークロスやラリーへ参戦するような、すべてのマシンに搭載可能らしい。今のところスタード社はコストを抑えるため、WRCカテゴリーで1つ下に属するR5クラスのマシンを軸としている。

その仕上がりには、驚かされるばかり。試乗を許されたフィエスタERXは、完全なラリークロス用のスーパーカーだ。スイスのブルサ社と協働開発したという強力な駆動用モーターを3基搭載し、最高出力611ps、最大トルク101.9kg-mを獲得している。

フロントに1基、リアに2基のレイアウトで、前後それぞれに小さな2速トランスミッションが組まれる。さらにリミテッドスリップ・デフを介して、4本のタイヤを強力に回転させる。

モジュラー構造のレウアウトで、フロント側にはもう1基の駆動用モーターのスペースが残されている。フロントにも2基のモーターを組めば最大1000psまで実現可能で、最高速度は299km/hに届くという。

ドライバー横のフロアに積まれる駆動用バッテリーは、35kWhのリチウムイオンで容量は小さめ。FIAが認証するカーボンファイバー製のシェルで保護され、50Gの衝撃にも耐えられるそうだ。

スタードは航続距離を明らかにしていない。少なくとも、途中の充電なしで準決勝や決勝を戦える距離は走れる。バッテリーはDC急速充電器を用いれば、15分で80%の電気を蓄えられるとしている。

テイン社製のサスにAP社製のブレーキ

駆動用モーターは、スタード社が開発した専用のインバーターで制御。ステアリングホイール上のダイヤルで、トルクやアクセルレスポンスの調整ができる。必要なら、トルクベクタリング効果を得ることも可能だ。

シャシーやボディは、R5クラスのフィエスタと同等。スタード社が開発したカーボンファイバー製のフロントバンパーや巨大なリアウィング、張り出したフェンダーなどは、いかにもラリークロス・マシンらしい。

サスペンションは、テイン社製の4ウェイ調整式ダンパーとスプリングを備え、ブレーキはAP社製。ラリークロスは短距離レースのため回生ブレーキは機能させないというが、ラリー仕様では有効だとスタードの担当者は話していた。

車重は1450kg。内燃エンジンを搭載したライバルより200kgほど重いが、強力なトルクが相殺してくれる。実際に競い合うと、ほとんど差はないらしい。これも、従来のマシンと一緒に参戦できる理由の1つだ。

実際、フィエスタERXとラリークロス・マシンのプジョー208 T16とでドラッグレースを披露してもらったが、目立った加速性能の差はないように見えた。

ラリークロスを映像ででも見たことがあるのなら、フィエスタERXの静けさには衝撃を受けるだろう。英国リッデン・ヒル・サーキットのスタートラインに並んでも、興奮は沸き立ってこない。

0-100km/h加速は驚愕の1.8秒

筆者の隣、助手席に座っているのはスタード社を率いるラリードライバーのマンフレッド・ストール。車内も静かだから、ローンチコントロール・プログラムの説明も問題なく聞き取れる。

運転席に座れば、否が応でも興奮が高まる。頭が震えるほどの激しい振動とノイズを発する4気筒ターボエンジンがないから、実際にスタートするまでは平穏で少し不思議な感覚だ。

気を引き締め直す。ステアリングホイール上の赤いボタンを押すと、パワーセーブがかかるパドック・モードが解除され、フルパワーを解き放てるようになる。

直立したハンドブレーキ・レバーを手前に引き、先端についている黄色いボタンを押して、ローンチコントロール状態にする。左足でブレーキペダルを踏み、右足でアクセルペダルをフロアまで踏み込む。こんなことをしても、まだ車内は静かだ。

ストールの合図に合わせて、ハンドブレーキのレバーを前に倒すと同時にブレーキペダルから力を抜く。ウォーっと声を上げてしまう。呼吸すら難しい。暴力的に、身構える間もなく、フィエスタERXがダッシュし始める。

レスポンスは瞬間的で、トラクションは強大。611psのすべてが、加速度へ変換されていく。0-100km/h加速は驚愕の1.8秒だというが、実際はさらに鋭く感じる。

タイヤは舗装に浮いた小石をボディに叩きつけ、静かだった車内はマシンガンで襲撃されているかのよう。ギアボックスからはメカノイズが、電気モーターからは高音域の唸り音が、さらに筆者のうめき声が重なる。

この続きは後編にて。

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