内部事情や実態がつかみにくい……。それはどこの世界にもあるものだが、普段私たちが接する新車の販売店(ディーラー)も、どうにもつかみづらいところだと思う。
しかしそこは実は「意外」「ナルホド」の宝庫。モータージャーナリスト・小林敦志氏が長年の取材から得た「意外」と「ナルホド」の話を大公開!クルマ購入に役立ちそうな情報も!
大幅マイチェン発表で値下がり!! 現行型オデッセイ 中古の値下がり事情
※本稿は2020年8月のものです
文:小林敦志(モータージャーナリスト)/写真:Adobestock、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2020年9月26日号
■「なかなかいい。これは売れる」とトヨタ系セールスマンをうならせているダイハツ車たち
自販連(日本自動車販売協会連合会)による、2020年上半期(1~6月)の新車販売ランキング30位までに入っているトヨタのコンパクトカー(ライズ、ヤリス、ルーミー/タンク、アクア、パッソ)の合計販売台数は22万2993台。
そのなかでダイハツからのOEMの総販売台数は14万283台となり、全体の約62%。ダイハツOEMがかなり売れている。
トヨタとダイハツの共同開発だったパッソが現行型よりダイハツからのOEMとなり、それ以降ルーミー/タンク、ライズ……とダイハツからのOEMラインナップが増えている。
トヨタの販売店。「コンパクトならダイハツOEMだね」と声が聞こえてきそう!!?
特にSUVのライズは、2020年上半期登録車販売台数のNo.1になるほど、バカ売れ状態だ。
現行パッソがデビューした当時は、「カタログではトヨタセーフティセンスではなくスマートアシストと記されていたりして、ダイハツからのOEMであることを、あえて説明する必要があり、売りにくい」といったトヨタのセールスマンの声もあった。
が、今では“そんなのお構いなし”とばかりの消費者の反応もあり、ダイハツOEMはヒット中だ。
●ヤリスよりルーミー!?
一方でヤリスは統計上、月販平均台数こそ約8021台で好調に売れているように見える。が、現場のセールスマンからは「我々がそこまで売っている印象はまったくない。レンタカーへのフリート販売がメインとなっているようだ」との声も聞く。
後席やラゲッジの狭さに加え、内装の質感の低さもあり“売りにくい”とされているようだ。
ルーミー
今年上半期で一番売れたのがトヨタライズ(下)で5万8492台。が、ルーミーとタンク2モデルの合算ならこちらが6万6080台とトップ!
「背が高く、スライドドアのルーミーとタンクのほうが、軽自動車のノウハウが生かされていることもあり、実用性が高く、しかも買い得感も高い。ダイハツのコンパクトカーのほうが出来はよく売りやすい」との声も聞く。
ただ販売戦略の違い(軽自動車最優先)というのもあり、ダイハツ店ではダイハツブランドのロッキーやトールなどの販売は苦戦が続いている。
実力だけでなく、トヨタブランド車として圧倒的な販売ネットワークを駆使することで「こんないいクルマがあったんだ」と、消費者に広く認知される“トヨタとダイハツのチームワークの勝利”といっても過言ではないだろう。
■販売店のセールスマンは「無地の白ワイシャツ」しか着ない。そのワケは!?
かつて新車販売をしていたA氏によると、「入社時に上司から『カラーシャツや柄シャツはくれぐれも着ないように』と言われた」と語ってくれた。
新車販売だけではなく、営業職に就く人の多くは無地の白ワイシャツを着ている。さまざまな価値観を持った、不特定多数の人と接する仕事ということから、相手に不快(カラーシャツや柄シャツの着用による)な思いをさせない、という配慮とされている。
筆者は仕事で頻繁に販売店へ隠密取材を敢行するが、“個を重んじる”教育を受けた若いセールスマンでも、カラーシャツや柄シャツを着ているのを見たことがない。
セールスマンが個を重んじる、というのも新鮮。逆かなと思ってました。人の第一印象は3秒で決まるとも言いますし、やっぱり外見は大事ですな(写真はイメージ)
●意外な勤務実態も
そんなセールスマンだが、1980年代前半ぐらいまでは、セールスマージン(以下マージン)、つまり「歩合給比率」の高い給与体系で新車もよく売れたので裕福であったが、今やマージンは雀の涙程度で基本給メインとなり懐具合は大変厳しい。
羽振りのよかったバブル期に比べれば、今は悪さもほぼできないような状態となり、単なる“売り子”のようになってしまっている。
勤務形態も、バブル期には「休日返上で新車を売り続ける」のが当たり前だったが、今では週に2日は必ず休めるようになっている。
就業時間も今では働き方改革、そしてコロナ禍を経て時短営業も進み、夏ならば日が暮れるまでに帰宅が可能となっている。
「外営業」と称し、クルマで出かけてそれぞれお気に入りのスポットで昼寝をしたり、パチンコをするなどもかつて当たり前だったが、今では外出は許可制の販売店もあり、厳しく管理されている(ご多分に漏れず働き手不足が大きく影響している)。
このような傾向は国産系販売店がより顕著とされ、できる(稼げる)セールスマンは輸入車販売店へ転職する、という話も聞く。ただ、個人情報保護法があり、顧客名簿を転職先に持ち出せないこともあり、転職も難しくなっている、という現状がある。
■「販売店員はつらいよ」。軽自動車ユーザーは軽自動車だけに乗り続ける。アフターメンテナンスでの収益も期待薄
自販連の統計によると、2019年(1~12月)の登録車販売台数は328万4870台。一方で軽自動車は191万264台となり、新車販売全体に占める軽自動車の割合は約36%という状況。
月別、年間など、あらゆる統計でホンダN-BOXが販売トップとなり、日本一売れているクルマとなっている。
ホンダの2019年の年間国内4輪車販売台数は72万2003台で、そのうち軽自動車は36万4832台となり、軽の占める割合は約50.5%。さらに、全ホンダ軽自動車販売台数に占めるN-BOXの比率は約69%と、物凄く高い比率だ。
すべての日本車のなかでず~っと販売1位のN-BOX。でも、ホンダの販売員さんは素直に喜べない事実が……
●点検を安くおさえる
しかし、そのN-BOXなど、軽の人気は販売店としてはツライという現状がある。
軽自動車ユーザーは登録車とは異なる動きが目立つ。まずは、軽自動車から軽自動車への乗り継ぎがほとんどということ。
以前ほどではないが、登録車の場合、例えば「ヴォクシーからアルファード」という、ステップアップして新車に乗り換える動きも期待できるが、軽ユーザーではほぼ期待できない。
しかも、保有年数も長めのケースが目立ち、10年スパンぐらいで新車へ乗り換えるケースも多く、薄利多売が使命の軽自動車販売中心では、販売店の疲弊が加速するのである。
それだけではなく、軽ユーザーは生活防衛意識が高いので、割高な販売店での定期点検や車検を嫌い、ガソリンスタンドや格安車検業者などを利用するケースも目立つ。
新車販売より、アフターメンテナンスでの収益を重視する販売店にとって、軽は価格が手頃で売りやすいが、なかなか利益には結びつかない。ただ売りやすいので、セールスマンは軽ばかり売る傾向もある。
トヨタ系ではマージンを減らすなど、軽自動車に販売が偏らないような工夫をする販売店もある。
■トップセールスマンは寡黙なメカニック経験者が多いという事実
新車をたくさん売る、“トップセールスマン”と聞くと、“口から先に生まれたような”という表現がよく似合う、饒舌なセールスマンを連想しがちである。が、実際は寡黙なタイプが多いのである。
もちろん、“絵に描いたような”セールスマンを好むお客もおり、実際そのようなタイプは“マダムキラー”などとも呼ばれガンガン新車を売るケースも目立つ。が、長続きしないことが多い……。
販売店には整備学校で自動車整備を学んだ人がメカニックとして入社してくることもあり、ある一定年数勤務すると同期のなかから営業職、つまりセールスマンへメカニックの一部が転用されるのである。
“メカ上がり”と呼ぶ販売店もあるようだが、このメカ上がりが新車販売においては貴重な戦力となるのである。
商談において口数は少ないものの、自動車の構造に長けているのでお客にとって説得力のあるトークとなり、お客からの信頼を得やすい。
クルマのこと、ライバル車の構造まで知っている、メカ上がりの寡黙なセールスマンはたしかに好感が持てる
さらに趣味レベルでもクルマ好きが多く(純粋なセールスマンはそれほどクルマ好きが多くない)、ライバル車も含めて商品知識も豊富なので、ライバルとの比較などの話が商談でもメインとなり、それほど値引きを拡大せず受注するので、1台当たりの利益も高い。
セールスマンの評価は販売台数がメインとなるものの、粗利もしっかり評価される。薄利多売はそれほど評価は高くなく、逆にそこそこの台数で値引きを絞って売る、メカ上がりのセールスマンのほうが評価は高いことも!
■豪華な花束贈呈や記念撮影は減少傾向
販売店から注文したお客へ新車を引き渡す納車は、昔はお客の自宅で行うのが一般的だった。が、今では店頭で行うのが主流。
販売店によっては、“納車室”のようなものがあったり、花束贈呈や記念写真などセレモニー化が顕著となっているが、本来、そのような華やかなものではない。
華やかな気分になる納車だが、ボディのキズチェックを怠ると面倒なことになる
納車は、注文したとおりの新車か、キズはついていないかをしっかり確認する“事務作業”なのである。
“新車はキズがあって当たり前と思え”とは、新人セールスマンが教わることのひとつ。配車された納車予定車の事前確認を怠ったり、納車時にお客がいい加減な確認をしている時にかぎりキズがついていたりするのだ。
納車時、変にセールスマンが一定の場所から動かない時には、そこにキズがある可能性が高い。
稀に他車のナンバープレートがついていたりすることもあるので、しっかり確認すること。注文時に中途半端な確認で済ました結果、装着を頼んでいたオプションが付いていなかったということも稀にある。驚くべき話ではあるが……!
●納車後にキズ発見。でも……
最近は、“注文内容どおりのクルマでした”というような確認書の類が多く、それに署名していくので、納車にかかる時間は長時間化の傾向。
納車後にキズを発見しても、“納車後にキズがついたかもしれない”ということになり、話が面倒になるので、買う側は納車時に厳重に確認することが大切。
なお納車時に不具合があれば、受け取りは拒否すること。これ、大事なことです。
■このままリモート社会が進むと…販売店そのものが要らないの!?
数年前から幹線道路沿いに、「メガディーラー」と呼ばれる、敷地の広い大型販売店舗が目立つ。
建築関係の法令上、市街地に建つ古いディーラーはそのまま建て替えができないことが多く、建て替えのタイミングで別の場所に移転するといったことが多いようだ。その際、誕生するのがメガディーラー化された販売店。
現状進むリモート社会に拍車がかかれば、メガディーラーは要る…のか!?(写真はイメージ)
今どきの新車販売は電話やメールなどを使い、お客をショールームに呼び込んで商談を進めることがメインの流れ。そうなると、ショールーム内の商談スペースも数が必要となる。
点検・整備も店頭持ち込みが当たり前なので、点検・整備を待つお客のスペースも確保しなければならない。このようなこともあり、メガディーラー化となるのである。
●大型化したがお客は来ず
ただし、店舗が大型化すればセールスマンやメカニックなどのスタッフの数も多くなり人件費がかかる。また、店舗の大型化に伴い冷暖房の光熱費などもかかるので、売り上げもそれなりに多くなければならない。
そんななかビフォア・コロナの時代から新車販売の不振傾向は続いており、メガディーラー化しても集客力はなかなかアップせず、思うように収益を上げられない販売店舗も目立っていた。店によっては冷房なら28度、暖房なら20度以下に設定し光熱費を節約しているため、夏は暑く、冬は各テーブルにひざ掛けが置かれたりもする。
そして、ウィズ・コロナの時代となり、日本でもリモート商談が注目されている。ビフォア・コロナの頃から商談のリモート化が進む北米では、すでに現場に出るセールスマンの数は少なめで(多くはリモート商談専属要員となっている)、整備工場は愛車を持ち込むお客で賑わう状態。
週末でも商談客は激減しているので、「ショールームは必要なのか?」ということまで議論されそうな状況で、日本も同じような流れとなる可能性もある。
■コロナ禍、北米ではインターネットで新車を買おうとする人が増加中。日本も同じ流れ?
販売の現場で話を聞くと、「仕事の都合などで店舗まで足を運ぶことができなかった方など、新しい客層の開拓には効果がありそうで、すでにオンラインでの問い合わせもけっこうあるようです」と、インターネットを通じた新車販売は動きつつある。
ただセールスマン個々で温度差があり、現場の隅々まで周知徹底されていないのが現状のようである。
あるベテランセールスマンは、「いきなり会ったこともない人と、リモートで商談するのはさまざまな理由からリスクが高く警戒せざるを得ない」と話す。つまり、値引き条件の拡大には慎重にならざるを得ないというのだ。
「会ったこともない人とネット上(リモート)で交渉」。日本では馴染めない…か
また、前項で紹介したリモート商談先進国ともいえる北米では、驚くことに“販売原価”がウェブサイト上で公開されている。そして値引き交渉ではなく、“原価にいくらまでディーラー利益の上乗せを許すか”という交渉になる。
利便性は高いリモートだが、相手の腹の内は探りにくい。客観的事実をベースに商談を進めるなど、販売店側とお客の平等な立場で交渉できる環境整備を組み立てないと、この先日本でのリモート商談は浸透しないだろう。北米へならえ、とは簡単にはいかない。
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