「レースウイークとして初めてウエットのブリヂストンを履いて、正直苦労しました。グリップをどういうふうにさせていくかというところで、タイヤの使い方が未知数だったのもあって……」
スーパーGT第6戦鈴鹿ラウンドの延期により、実質今季5回目のレースとなったS第6戦SUGOの週末。GT500タイトル候補の一角としてランキング3位で乗り込んできた3号車Niterra MOTUL Zの初日は、事前に「公式練習のタイムを決勝グリッド順の決定に使用する可能性がある」と通達されていた条件下で、まさかの"最後尾発進"という苦しいスタートになった。レース後、3号車の高星明誠、そして島田次郎監督に聞いた。
【動画】2024スーパーGT第6戦SUGO 予選日&決勝日ダイジェスト
「公式練習のタイムがグリッドにつながるとは思っていましたけど、それでもGT500の占有までは大丈夫だと僕たちは思っていました。そこで(ウエットの)ソフトを投入して、タイムを出そうと思っていたのですけど、GT300のディレイから僕らの走行枠自体がなくなってしまった」と、冒頭の言葉とともに振り返った3号車Niterraの高星明誠。
結局、土曜日午後の予選は悪天候によりキャンセルとなり、決勝は15番手からの巻き返しを図る必要に迫られたが、ランキング2位の100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GTは11番手、同4位の37号車Deloitte TOM'S GR Supraも14番手に留まるなど、ランキング上位陣は似たようなシナリオで決勝に向かう状況となった。ただし肝心の選手権首位を行く36号車au TOM'S GR Supraは4番手と、昨年チャンピオンは貫禄の位置につける。
明けた日曜決勝も約1時間のディレイを経てセーフティカー(SC)先導スタートになり、4周目に本格的な勝負が幕を開けると「想像よりもウォームアップが良かった」(高星)と、ポジション優先のタイヤ選択も功を奏してみるみる前走車をオーバーテイク。7周目には他車との接触により車体後方にダメージを受けてしまうものの、10周目には早くも14号車ENEOS X PRIME GR Supraの背後、6番手にまでジャンプアップしていく。
それでもこの時点のレースペースに関し「相対的に、ウォームアップが良い=その後はタレる可能性があるというのを考慮して、ちょっと抑えて走っていました」と高星。その後、20周目までは優勝した37号車Deloitte、そして5位フィニッシュした100号車STANLEYの前を走行していたが、26周目にはGT300クラスのアクシデントによりSCが発動。これが運命の分かれ道となっていく。
「あのSCが入らなかったら、あの順位でギャップを築けていけてたかもしれない。でもSCが入ったことによって、僕らのタイヤがキツかった点で2、3台行かれたという展開がちょっともったいなかったかな」(高星)
32周突入のリスタート時点で3号車は7番手。同じく10番手につけていた同じニスモ陣営の23号車MOTUL AUTECH Zはここでルーティンのピットストップ作業に飛び込み、ウエットからウエットにつなぐ作戦を採ったが、トラック上でスリックタイヤへの"クロスオーバー"まで粘り続けた3号車の高星は、35周目には8番手へ。
そして43周目のアクシデントに反応してFCY(フルコースイエロー)発動前に上位勢ともども一斉にピットレーンへ傾れ込んだ時点で、トップ10圏外まで陥落。周囲も似た状況とはいえ、やはりウォームアップが早かった分のドロップは厳しかった。
「スリックにしなきゃいけないんだろうけどスリックで100パーセント、イケるという状況ではなかった。あのときでも結構、曖昧でした」と高星。そこからチームメイトの三宅淳詞にドライバー交代するためピットインした3号車は、ここでライバル同様にドライへの換装を決断。ただ、ここで大きなロスが発生してしまった。3号車Niterraの島田次郎監督もこのときの状況を説明する。
「スタートスティントでは持っている(ウエットタイヤのセットの)なかでも『たぶん、後半はキツくはなるだろうな』というのはある程度、覚悟の上で前の方(のポジション)を取ったというか。そこは良かったのですが、(他車との接触で)リヤゲートをガンっとやられまして。(作業時に)テープで結構、時間としては十何秒、オフィシャルが良いというまで補修作業をしているのですけど、ただそれで実際に並び直したときに、何台かは前に行かれている。ここは少し調べないといけません」と島田監督。
「ウエット、ウエットでつないでも、絶対最後はスリックに負けると思っていた。スリックに行けないんだったら、ステイ。だからあれが一般的な作戦なんじゃないですか(笑)。あれだけ大勢が一気に来たので、もうちょっと『入り損なう人』がいてくれるとうれしかったんですけど、そこはさすがにみんなしっかりしていますね」(島田監督)
本来なら「周囲のクルマも、もう少しウエットで引っ張りたいタイミングだったのでは?」とも話す島田監督だが、ここで予測どおりFCYの発動からSCへと切り換わり、作業を済ませていた3号車はステイアウトで勝負権を失うことなく後半スティントへと突入していく。
再開後の50周目こそ13番手からの勝負となったが「単独、クリアでは割と良いタイムが出ていた。ペタペタ(補修作業)がなくて、いい場所でコースに返してあげていれば、後半だけのアベレージラップはそこまで悪くない」と監督が評した三宅は、5周後にはトップ10圏内を回復。ここからジリジリとポジションを上げ、上位勢のペナルティなどにも助けられ、最終的に36号車、100号車に次ぐ6位まで挽回してチェッカーを受けた。
「今日の我々も最低限の仕事は何とか……ぐらいで(苦笑)。最初(前日)がヒドかったのでみんなに感謝しますけど、昨日の(14番手だった37号車は)ドライバーで一緒にやっていたので(ミハエル・クルム37号車監督)。煮え切らないタイプの決断遅め、じっくり見てから(笑)、それでいい場面はありますけど、今日はクルムが当てましたよね。最初の対応もバッチリでした」と、かつて苦楽をともにした今はライバルである37号車クルム監督の勝利を称える。
同じく高星も、この厳しい週末に6位までカムバックしたことを喜ぶというより「ランキングを考えれば、やはり悔しい部分ではある」と振り返る。
「スタート順位を考えたら良かったですけど、ただ相対的に僕らよりランキング上位の人たちが前にいての6位なので、そこはちょっと悔しい部分。でも悪いことばかりを見ているより、やっぱりいいところもちゃんと見つめて、そのいいところを伸ばしていくというのも大事だと思います」と高星。
これでランキングは決勝2位フィニッシュの38号車KeePer CERUMO GR Supraに次ぐ5位に後退した3号車だが、自身「3度目の正直」でもある3年連続のタイトル挑戦に関して水を向けると、自身を戒めるような言葉で今週末を結んだ。
「正直、そこまで(3年連続タイトル挑戦)にいないと思っています。やはり周りがどんどん来ているし、ランキング1位、2位なら、まだ『3度目の挑戦だ』と言えるのですが、今の位置(5位)でタイトル挑戦だなんて、ちょっとおこがましいなと思っています。まずはランキング3位以内にいてから。そこに行って初めて『最終戦でチャンピオン争いだ』となると思ってます」
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