2024年3月5日、ホンダはHondaウェルカムプラザ青山にてEV新商品群「0(ゼロ)シリーズ」のコンセプトカーを公開した。「CES 2024」で発表されたフラッグシップモデルの「SALOON(サルーン)」とミニバン「SPACE-HUB(スペースハブ)」の2台で、3月10日までの期間限定で展示される。
ホンダ技術者の夢が詰め込まれた「0(ゼロ)シリーズ」コンセプト
EVは基本的に航続距離をある程度確保するために、どうしてもそれなりの容量のバッテリーを搭載してまかなおうということになる。大は小を兼ねるという考え方だ。ただし、容量の大きいバッテリーを積むと、そのぶん人間が乗るスペースを圧迫することになり、さらに重量も増加してしまうため走行性能にも悪影響を及ぼしてしまいがちだ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
そこで、ホンダは四輪開発陣に受け継がれてきた設計思想「人のためのスペースは最大に、メカニズムのためのスペースは最小に」を意味する「M・M思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)」の原点に立ち返り、「Thin, Light, and Wise(薄い、軽い、賢い)」というEV開発のスローガンを打ち出した。
Thin:フロア高を抑えた薄いEVプラットフォームで、車高の低い独特のデザインを実現し、空力性能にも貢献する。
Light:「M・M思想」の原点に立ち返って容量を抑えたバッテリーを搭載することで、これまでのEVのトレンドとは逆の軽さを実現する。
Wise:これまでに培った知見と知能化技術の進化により、「(1)共鳴を呼ぶ芸術的なデザイン」、「(2)安全・安心のAD/ADAS」、「(3)IoT・コネクテッドによる新たな空間価値」、「(4)人車一体の操る喜び」、「(5)高い電費性能」という5つのバリューを提供する賢いクルマにする。
そして、これらを具現化したものが今回公開された「0(ゼロ)シリーズ」となり、「サルーン」も「スペースハブ」も極めてユニークなデザインから生み出される空力性能と、広い室内空間を実現している。
フラッグシップでスポーティな「サルーン」
サルーンのデザインは非常に個性的で、Magic Mouseのような無駄を徹底的に削ぎ落とした質感の高いデザインをしている。車高が低くスポーティなデザインをしつつも、「M・M思想」に基づいた薄いバッテリーを搭載することで、車内空間は広大で足元も広々しているのが特徴的だ。
ステアリングホイールとインストゥルメントパネル(インパネ)は引っ込んでおり、乗り込むと手前にせり出すシステムが採用されているため、乗り降りの際にはぶつけたり引っ掛けたりしなくて済む。
ちなみに、インパネの両端にはタイヤの向きを示す表示がなされ、インパネの奥に速度が映し出されるディスプレイを配置することで、ドライバーファーストの表示を実現しているそうだ。
また、運転席の足元にはアクセル、ブレーキが存在せずにステアリングホイールでコントロールする仕組みであり、これにより運転席の前後調整が不要となるため、後席の足元空間を広くとることにもつながっている。
前席のヘッドレスト部には湾曲ディスプレイが埋め込まれていて、後席の乗員も楽しめる設計になっているのもグッドポイントと言えるだろう。
ガルウィングドアを採用しているのもユニークポイントだが、これはコンセプトカーということで技術者の夢を詰め込んだから、だそうだ。市販化の際には普通のヒンジドアとなる可能性が高く、市販モデルでこのデザインをどこまで引き継げるかも注目である。
お出かけが楽しくなるミニバンコンセプト「スペースハブ」
サルーンが低くスポーティなデザインを採用しているのに対し、スペースハブの方は大きく移動空間に配慮した設計がなされているのが印象的だ。
運転席はサルーンと共通の、ステアリングホイールとインパネが乗り込むと手前にせり出すシステムが採用されている。
スペースハブの一番の特徴としては、リアガラスが存在せず、車内から見るとスクリーンになっていることが挙げられ、これは後席の乗員が移動中に映像を楽しむといった使い方を想定しているのであろう。
後方視界はカメラで確認するという割り切りができれば、これはこれで魅力的な車内空間の演出として人気が出るかもしれない。
続いてコンソール部分に目を向けると、収納のプラチック部分に木の葉や枝のようなものが埋め込まれている。聞くところによると、これは出かけた先で思い出を標本にして持ち帰る際の収納部分、というコンセプトで設定されていることを表したものであるそうだ。
運転席・助手席のサイド部分に収納されている「Honda Mobile Power Pack」(小型電動モビリティや給電器用の小型バッテリー)と合わせて、出かけた先でアクティブに活動する拠点として考えると、この「スペースハブ」は理想的な電気ミニバンと言えるのではないだろうか。
2年後の発売を目指して、どこまでコンセプトを実現できるか
ホンダが今回発表した「サルーン」と「スペースハブ」はいずれもコンセプトモデルで、技術者の夢を全部載せてみました、という印象を強く受けるものであった。
アクセル・ブレーキをコントロール可能なステアリングホイールやリアガラスのないデザインなど実現にはハードルが高い機能もあるため、2年後の市販モデルではこのコンセプトカーで提唱したデザインや機能性がどこまで反映されているのかはわからない。
しかし、「Honda e」がコンセプトモデル「Honda Urban EV Concept」から発展して、基本コンセプトほぼそのままで登場したという前例もあるので、今後の展開に期待して市販仕様の登場を待ちたいところだ。
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