2022年6月22日、ダイハツが特許庁に「e-ATRAI(e-アトレー)」、「e-HIJET CARGO(e-ハイゼットカーゴ)」、「e-SMART ELECTRIC(e-スマートエレクトリック)」を商標登録していたことがわかった。この文字が意味するものは何か?
ズバリ、「e-ATRAI」、「e-HIJET CARGO」は、ダイハツの商用バン、アトレーとハイゼットカーゴのBEV、「e-SMART ELECTRIC」はロッキー(トヨタ版はライズ)のBEVである可能性が高い。
【緊急入電】商標登録された商用軽EV ダイハツe-アトレー&e-ハイゼットカーゴ発見 早ければ2023年中に発表か? 急ピッチで進む各メーカーの軽商用EVの発売時期は?
さっそく、どんなモデルになるのか、いつ発売するのか? さらに他メーカーの軽商用EVの登場時期についても解説していきたい。
文/ベストカーweb編集部
写真/特許庁、ベストカーweb編集部
■6月22日に特許庁が公開したダイハツの商標登録に注目
特許庁に登録され、公開されたダイハツの商標登録
2022年6月22日、ダイハツが特許庁に「e-ATRAI」、「e-HIJET CARGO」、「e-SMART ELECTRIC」を商標登録していたことがわかった。
前述した通り、これはダイハツの商用バン、アトレーとハイゼットカーゴのBEVの車名が商用登録されたものと推測できる。「e-SMART ELECTRONIC」については、ロッキー&ライズのシリーズハイブリッド「e-SMART HYBRID」に続く、BEVの名称に間違いないだろう。
さて、このダイハツの軽商用EV、e-アトレー、e-ハイゼットカーゴについて、商標だけで中身は明らかにされていないが、どんなモデルになるのか深堀りしていこう。
2021年12月に登場したダイハツの軽商用バン、アトレー
2021年12月20日、新型アトレー、ハイゼットカーゴの報道発表会にて、ダイハツ工業の取締役社長奥平総一郎氏は、軽EVについても言及している。
「軽自動車の電動化については2030年に国内で販売する新車についてすべて電動化を進める。2021年11月に発表したロッキーのe-スマートハイブリッドを発表したが、これを核として軽自動車に展開していく。さらにシリーズハイブリッドの利点を生かしたBEVを開発し、2025年までに投入していきたい。バッテリーやモーターはトヨタグループと協力して足並みを揃えて開発、共同調達をすることになると思うが、モーターに関しては軽自動車のEVはかなり低い容量のモーターで済むため、内製も視野に入れている。軽自動車の商用EVの価格に関しては補助金の含め100万台に抑えておかないと買っていただけないのではないか」。
さて、このダイハツe-アトレー、e-ハイゼットはどのようなモデルになるのだろうか? さらに特許庁に申請していた特許を調べていくと、2021年8月10日に公開されている図を見つけた。シート下に電気モーター、前方および後方にバッテリーを配置していると思われる。
ガソリン車のアトレー、ハイゼットはフロントシート下にエンジンが搭載されているがその部分にモーターを配置し、35の部分にバッテリーを搭載しているのだろうか(出典:特許庁)
BEVのシステムについてはトヨタから技術供与を受け、モーターは軽専用の小型の内製モーターを新規開発し、リチウムイオン電池はトヨタグループと同様に供給を受けるだろう。
すでに発表された日産サクラ&三菱ekクロスEVを見ると、47kW(64ps)/195Nm(19.9kgm)を発生するモーターを備え、リチウムイオン電池の総電力量は20kWh、一充電あたりの航続距離は180km。
ちなみにリーフのリチウムイオン電池容量は40kWh/60kWh、一充電あたりの航続距離は322km/450km(いずれもWLTCモード)。リーフと比べるとサクラ&ekクロスEVの電池容量や1充電あたりの航続距離は、極端に少なく感じるが、三菱自動車の調査では軽自動車およびコンパクトカーのユーザーの約8割は、1日の走行距離は50km以下としており、その大半のユーザーは2日以上充電せずに走行できることを想定しているという。
また同社の軽キャブバンの全国ドライバーアンケート調査でも、「1日の総走行距離は77%が65km以下」という結果が出ているので、180kmという総走行距離は充分といえるかもしれない。
実際、物流会社における軽商用バンの配達は「ラストワンマイル(最後の1マイルという距離的な意味ではなく顧客にモノ・サービスが到達する物流の最後の配送区間)と言われており、1日の走行距離の目安が付けやすい。例えば100kmで足りるなら、それに必要なだけのバッテリー容量を計算すればいい。夜間に8時間充電すれば問題ないといわれている。
それらを踏まえると、ダイハツの軽商用EV、e-アトレー、e-ハイゼットカーゴは、軽規格いっぱいの47kW(64ps)/195~197Nm(19.5~20.0kgm)の出力、18~20kWhの総電力量、1充電あたりの航続距離も160~200kmという線が見えてくる。
注目の価格は奥平社長の言葉通り、補助金含め、実質100万円台になるだろう。軽商用EVの採算分岐点は、1kmで1万円ともいわれ、100kmの1充電あたりの航続距離が必要なら100万円となる。
ちなみに日産サクラの価格は233万3100~294万300円。CEV補助金込みだと実質178万円から。いまや軽EVは補助金込みで200万円以下というのが必須キーワードになっているため、これから出る軽EVのスタート価格もこの線は外さないだろう。
気になる発売時期だが、特許庁に商標登録されてから発売されるまで1年以内という事例が多いため、早ければ2023年中になんらかの形で発表される可能性が高い。
気になるのは、EVのパワートレインがスズキにも供給される可能性が高いということ。というのも2021年3月にトヨタといすゞ、日野自動車が設立した共同出資会社、コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジー社にスズキとダイハツが資本参加しているためだ。実現すれば長年のライバル会社である、ダイハツとスズキが共同でEVを開発する……という異例のこともありえる。
そこまでして協業しなければ生きていけないのかを問われれば、イエスと答えざるをいえない状況だ。中国では50万円以下の宏光MINIEVの2021年累計販売台数は42万6484台を記録し、EVの販売台数のランキングではテスラモデル3を抑えて2位の座に輝いている。
日本でも物流大手の佐川急便が7200台の車両に中国製EVを採用した。中国製EVという黒船が、日本の軽商用EV市場にも迫ってきており、国産メーカーの軽商用EVの発売が急務という状況だ。
では、ダイハツ以外の軽商用EVはどうなっているのか、各社の戦略を見ていきたい。
■三菱の軽商用EVといえばミニキャブミーブ
2022年秋に販売が再開される三菱ミニキャブミーブ。価格は2シーターが243万1000円~、4シーターが245万3000円
三菱は2021年3月末に一時生産を停止していた軽商用バン、ミニキャブミーブを2022年10月にも生産を再開することを発表している。すでに2021年11月から日本郵便および東京電力ホールディングスと共同でカーボンニュートラルの推進に向けた実証実験を開始しており、順次配備されている予定だ。
このミニキャブミーブは総電力量が16kWh、一充電あたりの航続距離は150km、モーターの出力は41ps/196Nm(20.0kgm)となっている。価格は2シーターが243万1000円~、4シーターが245万3000円。CEV補助金は41万円。
■佐川急便は7200台の中国製EVを2022年9月から配備
日本のEVベンチャーASFが車両を企画し、中国で生産される佐川急便専用の軽EVバン。従来の常識にとらわれた車両企画ではコストが高く、中国勢にその隙を狙われる状況になりつつある
佐川急便は2021年4月、自社の配送車両約7200台を2022年9月から順次、中国製EVに置き換える。この軽商用EVバンは、佐川急便と日本のベンチャー企業のASFが2020年6月から共同開発。中国・広西汽車が2021年9月から量産を開始し、2022年9月から佐川急便各営業所へ順次納車するという。
1充電あたりの航続距離は200km。同社はカーボンニュートラル実現のため、2030年までにすべての軽自動車の配送車両をEV化する方針だ。
日本の物流会社が中国製EVを採用することに驚いた方も多いだろう。国産メーカーの生産・供給体制が合わず、現状ではコストが折り合わないということだ。
軽ではないが、物流大手のSBSホールディングスも日本で中国製EVを導入する。価格は約380万円、1充電あたりの航続距離が200kmという、京都のEVベンチャー企業フォロフライ社と中国の東風汽車が共同開発した1トンクラスの商用バンで、今後5年で自社の車両2000台を置き換え、最終的には約1万台を保有するという計画。まさに商用EVバンにおいても中国製に押され、待ったなしという状況だ。
■ホンダは軽商用EVを2024年前半に投入
「四輪ビジネスの取り組みに関する会見」で明らかにされたホンダの軽商用EV計画。2024年前半に軽乗用EVよりも先に軽商用EVを補助金込みで100万円台で提供するという
ホンダは2022年4月12日に行った「四輪ビジネスの取り組みに関する会見」のなかで、軽商用EVを2024年前半に日本で発売することを明らかにしている。
価格は100万円台に抑え、搭載するリチウムイオン電池は、日産リーフの電池を供給している中国系エンビジョンAESCグループから調達する方針だ。
ホンダ三部敏宏社長は「ガソリンエンジンの当社の軽自動車Nシリーズをベースに開発することで製造コストを下げ、100万円台の価格を実現したい」としている。
■スズキはエブリイバンベースのBEVを開発中
前述した通り、スズキは2021年7月、トヨタ、いすゞ、日野自動車、ダイハツが資本参加しているコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ社に加わっているが、同年11月、鈴木俊宏社長は2025年までに軽EVの販売を目指し、JFEスチールと共同で車体開発を進めていることを明らかにしており、価格についても「補助金含め実質100万円台に下げることが必要」と言及。
2022年2月、鈴木社長はエブリイをベースにしたBEVを今後数年以内に発売することを明らかにした。
2022年3月には、スズキが力を入れるインド市場で、電気自動車と車載用電池の現地生産に約1500億円を投資すると発表。
EVについては、トヨタから技術供与やユニットの供給を受け、EVを増やす方針を打ち出した今後のインドにおける商品投入では、低い価格帯はスズキ、電動車関連はトヨタが受け持つことになる。
■HWエレクトロのエレモK
軽自動車のエレモKは全長3390×全幅1440×全高1910mm。モーター出力は24kW/120Nm。総電力量は13kWh、1充電あたり航続距離120km、バッテリー充電時間は6~8時間。写真はエレモKピックアップ、267万3000円。もちろんバンもある
エレモは米国と中国に拠点を構えるセントロ社の小型EVトラックをベースに、HWエレクトロが日本向けにカスタマイズを行なったBEVだ。
ラインナップは総電力量13kWhのバッテリーを搭載したエレモ120(1充電あたりの航続距離120km)、26kWhのエレモ200(1充電あたりの航続距離200km)に加え、軽EVのエレモK(1充電あたりの航続距離120km)。
価格は2022年5月から新価格となり、バッテリー容量25.92kWhのエレモ200が323万4000円~。13kWhのエレモKが267万3000円~。
今年度から受給が認められたCEV補助金額は給電機能が標準装備のエレモ200が55万円、軽EVのエレモKが給電機能付き(オプション)が41万~44万3000円、給電機能なしのモデルで32万~34万4000円。
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