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名車、500 Eの伝説を辿る。メルセデス・ベンツとポルシェが生んだ「羊の皮を被った狼」の真実

掲載 更新 16
名車、500 Eの伝説を辿る。メルセデス・ベンツとポルシェが生んだ「羊の皮を被った狼」の真実

Mercedes-Benz 500 E

メルセデス・ベンツ 500 E

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メルセデスがポルシェと作った異色のスーパーセダン

1990年10月、メルセデス・ベンツはパリ・モーターショーで、のちに伝説と呼ばれることになる1台のセダンを発表する。その名を500 Eと言った。

“過剰品質”と称されたW124シリーズが市場に登場してから6年。最高峰に君臨すべく生み出されたスポーツセダンは、シルバーのボディをまとってターンテーブルの上でスポットライトを浴びた。開発パートナーとして名を連ねていたのは、スポーツカーメーカーの雄、ポルシェである。

控えめな見た目に隠した獰猛な牙

ボンネット下に326hpの5.0リッターV型8気筒を詰め込んだ500 Eは、最高速度を250km/hでリミッター制御。その年のパリ・モーターショーでアンベールされた真新しいスポーツカーに勝るとも劣らぬ性能を与えられたサルーンは、しかしその獰猛な性格を決して前面に押し出すことはなかった。素晴らしいパフォーマンスを質素な4ドアセダンに押し隠した500 Eには、まさしく「羊の皮を被った狼」という形容が相応しかった。

225/55R16サイズのタイヤを装着するため、前後のフェンダーをわずかに張り出させ、車高は23mmローダウン。フロントスポイラーにはフォグランプが埋め込まれている。あくまで控えめなモディファイに、来場者は最初さしたる関心を示そうとはしなかった。

しかし、そのスペックを確認するや、人々は目を見開いた。4速のオートマティック トランスミッションを搭載し、0-100km/h加速は5.9秒ジャスト。電子制御リミッターにより250km/hへ制限されていたものの、実際の最高速度はそれを上回るものであったに違いないが、真実は伏せられたままである。

500 SLのエンジンとブレーキを流用

搭載するV8ユニットは、R129シリーズの500 SLからキャリーオーバーされた。1気筒あたり4バルブを備えた排気量4973ccのM119型エンジンは、燃料噴射機構にメルセデス・ベンツとしては初となる熱線式エアフローメーターを備えたボッシュ製の電気式LHジェトロニックを採用している。

ブロックの高さはわずかに低め、4.2リッター仕様と同じ全高とした。高速走行を念頭に置き、ブレーキにもR129のシステムを流用。ホイールスピンを防ぐため、ASRトラクションコントロールシステムも標準搭載した。さらに、前後重量配分を最適化するべく、バッテリー位置は荷室へと移動している。

初期スケッチに描かれたV8の「可能性」

弟分的なクルマに上位機種のパワフルなエンジンを搭載するという手法は、すでにメルセデスは経験済みであった。最上級サルーンの600(W100)向けに設計された6.3リッターのM100型V8ユニットが好例だろう。同ユニットはエンジニアのエリッヒ・ワクセンベルガーにより、のちに600より700kg以上も軽い300 SEL 6.3(W109)へと移植されている。

ちなみに、1980年前後に描かれたW124の初期スケッチ段階で、すでに8気筒エンジンの搭載が想定されていたのだという。

バイザッハの門戸を叩いた理由

1980年代後半にそのコンセプトが現実化すると、フロントエンドのアッセンブリー部の再設計、そして空気の冷却経路を余儀なくされた。しかしながら、当時同社の開発部門は129シリーズのSL、そして3代目Sクラス(W140)の準備にてんやわんやだった。とても他の仕事に割ける余力はありそうにない。

そこで1987年12月、メルセデスが叩いたのがポルシェの門戸であった。124のセダンにM119型8気筒エンジンを積んだニューモデルの設計、及び試作をつくる契約がバイザッハと交わされた。ちなみにこの5.0リッターのM119型ユニットは、2基のスーパーチャージャーを装着してザウバー-メルセデスのC9にも搭載され、1989年の世界スポーツカー選手権とル・マン24時間レースを制している。

ジンデルフィンゲンとツッフェンハウゼンの往来

ポルシェは500 Eのアッセンブリーも担当した。ボディパーツはジンデルフィンゲンから納入され、ポルシェの工場で組み上げられたのちにジンデルフィンゲンへ戻って塗装工程に。そののちツッフェンハウゼンに移送され、メルセデス・ベンツから供給されるドライブトレーン組み込みを含めた最終アッセンブリーが行われた。しかし、顧客、もしくは販売パートナーへの引き渡しはジンデルフィンゲンのメルセデス・ベンツ工場で実施されたのである。

500 Eの当初の価格は13万4510ドイツマルク。じつに180hpの300 Eの2倍以上ものプライスタグを掲げていた。1994年3月のジュネーブ・ショーでは500台限定の特別な「E 500 リミテッド」を発表。専用のトリムに、サファイアブラックもしくはブリリアントシルバーという外板色を設定した。

罪深いほど速い家族向けの4ドアセダン

1995年にW124の生産終了にともない、E 500も姿を消した。累計200万台超が生産された124シリーズの中で500 Eが占めた台数は、E 500及びE 60 AMGを含めて1万479台だった。メルセデス製スポーツサルーンの系譜はその後、AMGモデルへと引き継がれていくことになる。

最後に、当時主要自動車メディアが500 Eに捧げた熱狂の一部をご紹介したい。

「まるでおとぎ話に登場する伯父さんみたいに温厚でありながら、スポーツカーのように機敏で、挙げ句の果てに快適だって? まさしく、これこそがこのシャシーの最も驚くべき特徴なのである。パフォーマンス向けにチューニングされていながら、スプリングとショックアブソーバーは路面の凹凸を何事もなかったかのようにやり過ごしてしまう。どんなに甘やかされた顧客だって、愚痴のひとつもこぼしようがない」(『アウト モトール ウント シュポルト』1990年15号)

「500 Eは感動的なまでに素晴らしい高性能サルーンだ。見た目に正しく(車体は低く迫力があるけれど、AMGハンマーや600 SELほどに目立つことはない)、優れたサウンドをもつ(ビッグV8の轟音に勝てるものはあるだろうか)、罪深いほどに速い家族向けの4ドア(155mphで電子制御されるとはいうものの)。このクルマは、貴方がメルセデスに期待するすべてを備えている」(『ロード&トラック』1992年5号)

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みんなのコメント

16件
  • 今新車で買えるなら買いたい車。
  • 1992年製500Eポルシェラインを2012年に80万円で購入、その後プラス車検費用消耗品含め購入価格込みで300万円(300万/8年=37.5万/年)で所有し続け現在では、新車のような車に仕上がり大変満足です。同年代のW124の320EやW126560SELなどのステアリングに対する挙動は私のポルシェラインと全く異なります。乗り心地も国産車のようにふわふわ感など無くシッカリした足回り、なのに乗り心地はベンツです。高速安定性は雨天時にもASR機能により安全に走行可能。運転時の視界の良さも完璧で運転の疲労度も軽減されます。等々キリがありませんが、このような車は今後販売されることはないのでしょうか。新車で買えるならば買いたい人もおられるかもしれません。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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