12台中の8番目に作られたモデル
2024年1月31日、RMサザビーズがフランス・パリで開催したオークションにおいてマセラティ「MC12 ベルジオーネ コルサ」が出品されました。同車について振り返りながらお伝えします。
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ロードゴーイングモデルはわずか50台
マセラティの歴史を振り返る中で、エレガントで高性能なロードカーの生産とともに触れなければならないのは、やはり1960年代半ばまで続けられたレース活動だろう。1965年に製作されたティーポ65に至るまで続いたその活動は、マセラティというブランドを世界に広める大きな原動力となったといっても、それは間違いではない。
そのマセラティがFIA GT選手権に帰ってくる。このニュースが届くまでには、それから30年以上の年月が必要だった。もちろんこのシリーズに参戦するためにはそれなりのマシンが必要になるわけだが、ここでマセラティが選択したのは、エンツォ フェラーリのシャシーをベースに設計、製造すること。社内コードで「Tipo M144」、そして後に「MC12」と呼ばれることになるマシンの開発プロジェクトは、このような経緯からスタートしている。
だがマセラティにはもうひとつ厳しい条件が課されていた。それはFIA GT選手権に参戦するためのレギュレーションのひとつに、少なくとも25台のロードカーを販売しなければならないという項目があったこと。
したがってジョルジョ・アスカネッリの指揮のもと開発がスタートした時、「MCC(マセラティ・コルセ・コンペティツィオーネ)」と呼ばれたレースバージョンと、「MCS(マセラティ・コルセ・ストラダーレ)」とネーミングされたロードバージョンのプロジェクトは同時に立ち上がることになる。
2004年のジュネーブ・ショーで、正式にMC12として発表されたマセラティ史上最強のモデル、そのDNAは前で触れたとおりエンツォ フェラーリにあるが、ボディデザインを始め、MC12にはマセラティ独自の進化策が施されていた。
リアミッドに搭載されたエンジンはエンツォ同様5998ccのV型12気筒DOHC48バルブ・ドライサンプで、最高出力は630ps。最高速はじつに330km/hに達した。シンプルに美しさというよりも、機能美を感じるカーボンファイバー製のボディは、マセラティのチェントロ・スティーレ(デザイン・センター)によるもの。
レギュレーションに定められた50台のロードゴーイングMC12は、2004年から2005年にかけてその全数が製作された。
レースモデルは12台と希少な1台
一方でマセラティのレパルト・コルセ(レース部門)は、ジョルジョ・アスカネッリの指揮のもと、MC12のコンペティション・バージョンを開発、熟成し、スパ24時間レースの連覇を含む数々の国際的勝利を飾った。
1960年代から途絶えたレース界でのトライデントの栄光は、ここに完全な復活を遂げたのである。そして世界の裕福なカスタマーからは究極のアドレナリン体験を求めるために、コンペティションモデルのそれに近いMC12のハイスペックモデルを望む声が続々とマセラティのもとに届くようになる。
結果マセラティは厳選された12人のカスタマーのためだけに、レースでのレギュレーションに制約されない、すなわちレース仕様よりもハイパフォーマンスなサーキット走行専用モデル、「ベルジオーネ・コルセ」を2006年のボローニャ・ショーで正式に発表したのである。
その心臓たるV型12気筒エンジンは、基本的なスペックこそ不変であるものの、吸気制限によってレース仕様が600psにまで最高出力を抑え込まれていたのに対して、このベルジオーネ・コルセでは745psを発揮。軽量化もさらに徹底され1150kgという車重は、先に50台が販売されたロードモデルのMC12よりも200kg近く軽い数字となる。0‐200km/hは6.4秒を記録。そのパフォーマンスはまさに衝撃的なものであったといってもよいだろう。
今回RMサザビーズのパリ・オークションに出品された、MC12・ベルジオーネ・コルセは、ドイツのオーナーにデリバリーされた8号車。マセラティを始め、フェラーリのコレクターでもある彼はすでにフェラーリFXXを所有していたというから、新たにサーキット走行用としてこのMC12ベルジオーネ・コルセを加えたことになる。
所有中にこのオーナーは、モデナの元マセラティ・コルセのメカニックが経営するガレージで、エンジンのリビルト等の作業を行い、通常のメンテナンスはデンマークのマセラティ・スペシャリスト、フォーミュラ・オートモービルがそれを担当していたという。マセラティによるとエンジンはマッチングナンバーのまま、オレンジのカラーリングやブラックのスパルコ製バケットシートを備えるインテリアも新車時の仕様から変化はない。
280万~350万ユーロ(邦貨換算約4億4800万円~5億6000万円)という予想落札価格は、オークション前から大きな話題だったが、やはりそのサーキット走行車としてのパフォーマンスと、わずかに12台という希少性は入札者には魅力的なものに思われたようだ。最終的な落札価格は304万2500ユーロ(同4億8680万円)と、こちらも驚きの結果となった。
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