大手メーカーとの契約を望んだヒーレー
ワイドなフェンダーと、ホワイトレターのタイヤ。1970年代のカスタムカーっぽい雰囲気を漂わせるが、れっきとしたメーカー仕様にある。フォードがフィエスタ XR2に先駆けて試作した、フォルクスワーゲン・ゴルフ GTIの隠れた対抗馬だ。
【画像】ゴルフGTIの隠れた対抗馬 ヒーレー・フォード・フィエスタ 100にジェンセン 現行フォーカスも 全151枚
遡ること1977年。ヒーレー・オートモービル・コンサルタント社を取り仕切るドナルド・ミッチェル・ヒーレー氏は、新たな仕事を探していた。トラブルの少なくなかったジェンセン・ヒーレーは、既に生産が終了していた。
1950年代のオースチン・ヒーレー 100やスプライトを手掛けた時のように、彼は大手の自動車メーカーとの新契約を望んでいた。そんな折り、フォードは横置きエンジンの小さなハッチバック、フィエスタを発売。新たな潮流を牽引し始めていた。
スタイリングは、当時ギア社に在籍していたトム・ジャーダ氏。スッキリまとまった容姿だったが、エンジンはパワーが足りず、優れた動力性能を獲得できていなかった。
アメリカ・デトロイトを拠点にしたマーケティングの専門家、ゲイリー・コーズ氏は、フィエスタの販売数を伸ばすうえで速い仕様の必要性を唱えた。そこで彼が提案したパートナーが、英国のヒーレー。フォードも、彼の考えへ賛同した。
ドナルドは、フォード・エスコートRS 2000を所有していた。小さなハッチバックにも、小さくない可能性を見出したに違いない。
1.6Lのケント・エンジンは81psへ強化
ドイツ・ケルン工場で生産されていたアメリカ向けのフィエスタには、1598ccのクロスフロー・エンジン、ケント・ユニットが載っていた。コンロッドは5枚のベアリングで支えられ、堅牢性は高かった。957ccと1117ccのユニットは、ベアリングが3枚だった。
そこでコーズは、ケント・ユニットを手配。ベース車両をディーラーに準備させ、グレートブリテン島中部、ワーウィックに構えたヒーレーの工場へ届けた。
ヒーレーのスタッフは、インチアップしたミニライト・アルミホイールを組めるかどうか、真っ先に確認。4気筒エンジンは、レーシングカーの開発を得意としたブロードスピード・エンジニアリング社へ転送され、相応のチューニングが依頼された。
キャブレターは、フェデラル社製からウェーバー社製へ置換。吸排気ポートが加工され、ピストンを交換し、圧縮比は10.1:1へ高められた。カムもスポーティなアイテムへ交換された。
最高出力は、フライホイール直下で106ps/6250rpm以上。フロントタイヤへ伝わるネット値は、81ps/5500rpmが想定された。オリジナルのフェデラル・キャブレター仕様では、67psに留まっていた。
ワイドフェンダーにチンスポイラーで差別化
このパワーアップを受けても、ギア比が高いとヒーレー側は考えた。ドナルドの息子、ジェフ・ヒーレー氏は次のように印象を残している。「大きなタイヤを履いていることもあり、ギア比はかなり高い。時速100マイル(161km/h)で4590rpmになります」
現代の水準では、低いギア比だと判断するような回転数だが、半世紀前は違ったようだ。フィエスタ 950用のクラウンホイールとピニオンが選ばれ、1000rpm当たり29.3km/hの比率へ落とされている。
サスペンションにも手が加えられたが、レイアウトはそのまま。前はマクファーソンストラット式で、アンチロールバーとコントロールアームを改良し、エスコートに似た仕様にアップグレードされた。
リアは、トレーリングアームとパナールロッドという簡素な構成。アンチロールバーが追加され、安定性が高められた。フロントにはコニ社製の調整式ストラット、リアにも同社のダンパーが組まれ、スプリングは専用品で、恐らく車高は落とされていた。
通常のフィエスタとの差別化も意識され、ホイールアーチは外へ叩き出された。アルミホイールは、12インチから13インチの6Jへ変更。上昇した馬力を受け止めるべく、205/60という当時としては太いタイヤが組まれた。
ボディにも、フロントにはスチール製のチンスポイラーを追加。ヘッドライトは丸目から角目へ交換され、フロントグリルにはヘラ社製のスポットライトが埋め込まれ、スポーティな容姿を獲得している。
斜めに伸びたステアリングコラム
キャビンでは、リアシートが撤去され、ロールケージをボディへマウント。広々としたリア側には、大きなハンドルの付いたスピナーでスペアタイヤが固定された。モーターショーでの注目度を意識した仕立てといえた。
2脚のフロントシートはウルフレーシング社製で、ステアリングホイールはモトリタ社製。エスコート用のペダルが流用され、ダッシュボード中央には補機メーターが追加され、メーターパネル上の警告灯はダークアウトされた。
かくして、1979年に1台のみが作られた、ヒーレー・フォード・フィエスタ。ステアリングコラムは斜めに伸びており、位置もオフセットしている。違和感を感じて、まっすぐ腕を伸ばすと、片側のリムが近いことがわかる。
運転席の雰囲気は、紛れもなく1970年代のフォード車。エンジンを始動させると、ケータハムでも聞いたような、ケント・ユニットらしいサウンドが響き出す。タペット音が中心で、ドライな吸気音が重なり、低回転域から気持ちをくすぐる。
初代フィエスタは、独立懸架サスペンションがリアに与えられた、1981年のエスコート Mk3より優れた操縦性を実現していた。ヒーレーの技術が投じられ、その能力は一層高められたようだ。最も効果的に働いているのは、ワイドなタイヤかもしれないが。
この続きは、ヒーレー・フォード・フィエスタ(2)にて。
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みんなのコメント
ってか最近グリーン流行ってるのか?
そこらこちらでニューモデルが様々なグリーンをまとってるけど
個人的には英国のレーシンググリーン的なのがかっこいいがな