フランスのルノートラックスがバッテリー電気(BEV)トラックの展開を本格化している。大手物流企業と共同で配送用トラックを開発すると発表したほか、従来のBEVトラックのモデルレンジ「Z.E」を、顧客サポートを含めた「Eテック」に刷新。
併せて、大型トラック~トラクタ系のBEVモデルも発表した。配送用BEVトラックは2022年中に製造し、2023年始めからトライアルを開始する。BEV大型トラック/トラクタは2023年第1四半期からの製造・販売を予定している。
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ルノートラックスは2030年までに販売する車両の50%を、2040年までに100%をカーボンニュートラルとする目標を掲げる。車両総重量で3トンクラスから44トンクラスまで電動車両を設定したことで、目標達成に向けて大きく前進した。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Renault Trucks
市内配送用の電気トラックを物流企業と共同開発
フランスの商用車メーカーでボルボグループに属するルノートラックスは、同国最大手の物流企業・ジオディスと共同で都市内配送用のBEVトラックを開発する。両社の持つ輸送や車両開発などの専門知識を合わせて、都市中心部での輸送需要に応える。
排出ガス規制、大型ディーゼル車の乗り入れ禁止、多様化するモビリティ(カーゴバイク、自転車、スクーターなど)との公共スペースのシェアリングなどを背景に、都市部の輸送ニーズは変化している。
荷物は小口化・軽量化する傾向にあるが、貨物の「マシフィケーション」(同じ重さの荷物を運ぶなら、例えば小型車3台より大型車1台のほうが輸送効率が高いということを示す)により、今後とも積載量3.5トン以上の車両が主役にとどまる可能性が高い。
今回の提携を通じて両社のノウハウを組み合わせ、16トンクラスの都市用新型BEVトラックを開発する。新型トラックではディーゼル車に対してコスト(TCO)面でも対抗可能な実用的な車両の開発を目指す。
仕事の道具であるトラックにとって、新しいパワーユニットが広く受け入れられるためには、実用的であることは不可欠な要素と言える。
ジオディスは2030年までにCO2を30%削減するという目標を掲げており、2023年までに37の都市でカーボンフリー輸送を提供するとしている。いっぽうルノートラックスは10年以上の歳月をかけて小型~中型を中心としたBEVトラックを展開してきた。
両社のコメントは次の通り。
「地球環境の危機とEコマースの隆盛、そしてフランス国内の都市における低排出ゾーンの設定など、輸送の脱炭素化を直ちに進める必要があります。私たちは今すぐにサステイナブルな都市輸送の答えを出さなければなりません。これが提携の目的です」
(ジオディスのCEO・Marie-Christine Lombard氏)
「トラックのイメージが変化しており、欠かすことのできない道具と認識されつつあります。このプロジェクトの目的は、様々な道路利用者や歩行者専用ゾーンも含めた都市環境にシームレスに溶け込むトラックを開発することです。ドライバーが働く上での快適性・安全性と共に、都市住民にとっても安全な車両を開発します」
(ルノートラックス社長・Bruno Blin氏)
都市に溶け込むトラック
プロジェクト名は「オキシジェン」(=酸素)と名付けられ、設計段階から共同で作業することで都市中心部の配送で必要とされる要件を全て満たすことを目指している。不快な騒音や有害物質は排出せず、同時にすべての道路利用者(歩行者やほかの交通機関)と共存するように優れた安全技術を導入する。
開発の初期段階で焦点を当てるエリアとしては、次のような点を挙げている。
1.ドライバーにとっても、それ以外にとっても安全性を向上すること。電動化によりキャブ搭載位置を下げるとともに、大型のウインドシールドを採用しドライバーの直接視界を大きく改善する。視認性の向上は道路利用者の保護につながる。また、リアビューミラーに代えて複数のカメラを搭載することで360度の視界を確保する。助手席側ドアはスライドドアとしてドアの開閉に必要なスペースを抑制する。
2.ドライバーの快適性向上。左右どちらからもトラックに乗り降りできることで通常の配送用トラックよりアクセスが簡単になる。
3.エルゴノミクスの最適化と荷物スペースへのアクセス向上。都市環境では荷役性の改善も重要で、そのためにトラックのボディを製造する架装メーカーを含めた3社協力を検討する。
4.コネクテッドによりドライバーが業務やルートの最適化を行なえること。
5.この車両が都市と完全に調和し、ドライバーの快適性と自尊心を満たすこと。この目的のためルノートラックスのデザイナーはエクステリアとインテリアの両方を完全に新設計する。
製造はルノートラックスのブランヴィル=シュル=オルヌ工場となる予定。同所は2020年からBEVトラックの製造を行なっている。
「オキシジェン」のプロトタイプは2022年の年末に納入し、2023年の初めからパリ市における配送業務でトライアルを行なう。トライアルに続いてドライバーからのフィードバックを反映して、使いやすさ、実用性、充電関係などの改善を行なう予定だ。
その後はTCO(総保有コスト)の低減を図り、コスト面でもディーゼル車に対抗可能な車両を目指す。
BEVトラックのモデルレンジを刷新
「オキシジェン」プロジェクトを発表した翌日(2022年3月8日)、ルノートラックスは新しいBEVトラックのモデルレンジとなる「Eテック」を発表し、電動モビリティ分野に懸ける決意を表明した。
ルノートラックスでは従来、電動車両を「Z.E」と称していたが(例えば中型トラックの「D」レンジに対して「D Z.E」が同クラスのBEVトラックとなる)、Eテックはこれを置き換えるもの。中型BEVトラック「D Z.E」は「D Eテック」にリネームされる。
中型BEVトラック「D Z.E」は「D Eテック」にリネーム
もちろんただのリネームではなく、本格的な電動車両の普及に向けて、「Eテック」モデルレンジでは車両本体に顧客サポートを包含した。
トラックと乗用車で異なるのは「顧客」で、トラックを購入するのは大部分が運送会社だ(特に欧州や日本では)。輸送セクターのカーボンニュートラル実現のためには、トラックの購入前と購入時、さらに運行段階での全面的なサポートが必要になるというのが、ルノートラックスの考え方となる。
ハイパフォーマンスの電動車両と全面的な顧客サポートの両面で運送会社を支えるのが「Eテック」というわけだ。具体的なサポートは次の4つのフェーズで構成する。
最初のフェーズはルノートラックスが顧客の脱炭素計画を手伝うために、ニーズを分析・決定する。市販されているソリューションに関する専門知識を提供するとともに、ビジネス上の制約についても顧客に説明する。
次のフェーズは診断で、保有車両や運行ルート、充電設備など顧客の活動を詳細に把握し、シミュレーションツールを活用して、年間のスケジュールやCO2排出量の削減予測、運行距離など詳細な助言をすることで、顧客の意思決定を助ける。
次のフェーズで脱炭素計画を設計し、顧客と共に電動モビリティのエコシステムを構築する。ここには融資、政府・自治体の補助金、ボディ架装と艤装レベルの決定、充電、メインテナンス契約などが含まれる。顧客が実際にトラックを購入するのはこのフェーズとなる。
最終フェーズは運行管理に関するもので、充電設備の導入、ドライバー教育、フリート管理などが含まれる。また、車両のコネクティビティを通じて運行ルートやメインテナンスの最適化、改善提案などを行なう。
この数年、ルノートラックスは電動トラックの商品レンジを順調に拡大しており、売り上げもこれを反映している。2021年は249台を納入し、613台のオーダーを受けた。
BEVトラックを開発する新興メーカーは多いが、顧客とつながりをもっているのは伝統メーカーの強みだ。Eテックの導入でルノートラックスはカーボンニュートラル達成に向けた戦略をさらに推し進める。
大型トラック・トラクタを電動化
Eテックの発表に合わせて「T」及び「C」にBEVモデルが追加された。Tはルノートラックスの大型トラック・トラクタ、Cは建設・特装用トラックだ。新モデルの「T Eテック」はリージョナル(近・中距離輸送)用、「C Eテック」は建設産業用のBEVトラックとなる。
これらの大型BEVトラックの(連結)総重量は最大44トン。EU全域で一般的な総重量の制限値は44トンであり(インターモーダル輸送用の3軸トラクタ+2/3軸セミトレーラの場合。国によってはこれを大幅に超える車両も認められている)、ルノートラックスは小型から大型までフルレンジで電動車両を用意した形だ。
BEVトラックの市場展開を開始したのは2020年なので、わずか2年で全モデルレンジの電動化を果たしたことになり、いかに急激な市場の変化が起きているか窺える。両モデルの製造・販売開始は2023年の初め(第1四半期)から。
大型トラックレンジに属するこれらのモデルは、2ないし3モーターを備え最大490kW(666馬力相当)を発揮する。ギアボックスにはルノートラックスのAMT「オプティドライバー」の搭載が発表されているが、ディーゼル車に搭載するものとは異なる可能性がある。
バッテリーはリチウムイオン電池のバッテリーパックを2~6機搭載し、総容量は180から540kWhとなる。満充電までの時間は43kW-AC(普通充電)で9.5時間、最大250kWのDC(急速充電)で2.5時間。一度の充電で300kmを走行する。運行の途中で1時間の急速充電を行なった場合の航続距離は500kmとする。
また、特に特装車ではボディへの動力供給が重要になるが、エンジンPTO(パワー・テイク・オフ)が使えなくなる替わりに、電動PTO、電気メカニカルPTO、ギアボックスPTOの3種類のPTOを用意する。
アクスル構成は、トラクタ系が4x2と6x2、リジッド(単車)系は4x2, 6x2および8x4だ。8x4リジッドの4軸車は後3軸のトライデムで、日本で一般的な4軸低床車ではない。
製造はルノートラックスのブール=カン=ブレス工場となる。当然ながら、「Eテック」レンジで追加された全面的な顧客サポートは、新型車でも利用可能。
これまで26トンクラスまでの展開だったルノートラックスの電動車両が44トンクラスまで拡大したことで、2040年までに販売する車両の全てをカーボンニュートラルにするという同社の目標は大きく前進したと言えそうだ。
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