最も鋭角的なテールフィンを持つ年式
国産車を採り上げることの多い当連載だが、ここで久しぶりに外国車のカタログをご紹介することとしよう。1961年型インペリアルのカタログである。
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インペリアルは、クライスラーの上級モデルであるクライスラー・インペリアル(1926年に初登場)が独立してできた高級車ブランドであった。第一世代の1955、1956年型は細部を変更したクライスラーでしかなかったが、1957年型からの第二世代では完全に別物へと進化。1957年型のクライスラー系各車は、デザイン担当副社長バージル・エクスナーの主導による”フォワード・ルック”で大成功を収めたことで知られるが、インペリアルはクライスラーとは完全に異なるボディパネルを使用し、しかも同社の5ブランド中で唯一、サイドウィンドウに曲面ガラスを採用していたのである。
もちろんインペリアルも他ブランド同様セールスに恵まれ、製造も専用工場に移行。そして1960年型でクライスラー系各車はフルチェンジを行い、いずれもユニボディ(前後サブフレームをボディに結合した、簡単に言えばモノコック方式)へ進化を遂げたのだが、インペリアルだけはフレームシャシー構造を堅持し、大幅にスキンチェンジを行うのみに留まった。これはやはり高級車らしい重厚な仕上げを目的とした措置であろう。テールフィンは一層大きく、高いものへと変化している。
しかし、この巨大なテールフィンはすでに時流から外れており、販売は落ち込みつつあった。1957、1958年型の評価は高かった反面、錆や部品の欠落など低品質が問題となったため、その印象を払拭すべく1960年型以降は”America’s most carefully built car”と謳っていたのも特徴だ。1961年型では戦前の自動車のような独立型ヘッドライトという特異なディテールが採用されたが、フロントグリルは往年のコード(FFとヒドゥンライトで知られる)を意識したものでもあるという。
インペリアルの外観上のアイデンティティと言えば、独立を果たした1955年型以来継承された、ガンサイト(照準)・テールライトと呼ばれる独特のテールランプもそのひとつであったが、それまでテールフィンの上あるいは上部に位置していたランプが、リアエンドに設けられたくびれに収まっているのも、目新しいデザイン処理だった。このテールフィンはそれまでの前傾した形とは違い後方に尖っているので、1959年型キャデラックを意識したスタイルのようにも思われる。
1961年型のラインナップは下からカスタム(2ドア/4ドア・ハードトップ)、クラウン(2ドア/4ドア・ハードトップ、2ドア・コンバーチブル)、ル・バロン(4ドア・ハードトップ)の3種でいずれもホイールベース129インチ(3277mm)、またリムジン仕様(クラウン・インペリアル・リムジン)には149.5インチ(3797mm)のシャシーが用意されていた。ハードトップは2/4ドアいずれの場合も「サザンプトン」と呼ばれたほか、この年からはセダンが廃止されている。エンジンは413-cid(6.8L、350hp)一種のみであった。
最高級車に相応しく、美しいイラストで
さて、ここでお目にかけているのはすでに述べた通り、1961年型インペリアルのカタログである。サイズは201×283mm(縦×横)、ページ数は全16ページ。作りとしては簡素なものだが、本革(風)の装丁による豪華なカタログも用意されていたとのことなので、これは簡易版カタログとでも言うべきものなのだろう。ただし、使われている絵などは同じもののようである。
1961年(デビューはその前年だが)ともなれば、アメリカ車のカタログにも写真がかなり使われるようになってきていたはずだが、これは大部分がイラストで構成されている。このイラストがなかなか美しいもので、見ていて飽きない。この頃の広告イラストといえばかなり克明に描かれているものというイメージがあるのだが、これは印象派風とでも言えばいいのだろうか、画材は水彩のようであるが、クルマそのものは形と大きさを誇張したありがちな絵であるものの、背景の無造作なタッチや光の捉え方、曖昧な輪郭ながらも確かな印象を浮かび上がらせる手法など、見事なものだ。
……というようなことを、あまり美術方面に詳しくもないのに語っても馬脚を現すだけなので、このくらいにしておこう。できれば担当したアーティストが誰であるのか調べたいところだが、それも叶わなかったので、そうしたことに詳しい人には怒られてしまいそうである。また、同年の他車のカタログではどうなのかなと思い調べてみると、意外とどのブランドも似たようなタッチのイラストが多く、インペリアルだけが特別でもなかったようだ。しかし、やはり他よりも美しい絵のようには感じるところである。
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