地中海に浮かぶスペイン・マヨルカ島で行われたスピードツインの試乗会に行った。
スピードツインという名称は、トライアンフにとって特別なものだ。1938年にリリースしたそのマシンは、トライアンフにとって初の2気筒モデルであり、その後のブランドの方向性を示唆する1台であった。
トライアンフのボンネビルシリーズ最新作「スピードツイン」ローンチナイトがパリにて開催──名車の伝説が今、再び。
当時のモーターサイクルシーンにおいて、スポーツ性能が著しく向上したそのマシンは、発売と同時に一大センセーションを巻き起こし、順調なセールスを記録。経営不振に陥っていたトライアンフを救った記念すべきマシンでもあった。
そのモデル名を冠し、現代に蘇ったスピードツインは、2001年に登場したクラシックモダンシリーズがフルモデルチェンジを行って、エンジンが空冷から水冷になった中でもっともスポーティなスラクストンがベースとなる。しかし、多くのパーツが専用設計となり、そのデザインも乗り味も別物。トライアンフの歴史に新たな1ページを加えることとなった。
ストリートツインやT120に比べ、スピードツインはクラシカルなテイストは薄めである。しかし、伝統的なパラレルツインエンジンの造形やツインショックなどのホッとする佇まいだ。一方でややワイドな17インチのキャストホイールやブレンボ製キャリパーを装着する。つまり、新旧のミックス具合が新鮮でもある。それは市場からの声に応えたものだという。
造形にこだわったアルミ製パーツを多用し、シンプルながら質感の高い佇まいとなっている。コンパクトで気負いのないフィット感はクラシックモダンシリーズ共通のもの。スポーツネイキッドのように戦闘的ではなく、ちょうどそれらとクラシックなマシンとの中間といったライディングポジションとなる。
走り始めて感じるのがフロント周りのダイレクト感。そして接地感がとても高いことである。これはベースとなったスラクストンに対し、荷重配分をフロント寄りに、つまり前輪荷重が高い設定としているため。低速でのハンドリングでは自由度がやや低い印象があったが、速度域が上がってくると、帳尻の合ってくるレスポンスとなる。コーナーに対して身構える必要もなく、スイッとコーナーに切り込んでいける感覚だ。
ストリートツインやT120でも身構えるということはあまりなかったのでは? と思われるが、同じスピード域になった時に受け止めてくれるか? というと疑問が残る。要するに、コーナーリング性能の限界値が1ランク以上高まっているということである。
もちろん、ストリートツインやT120のもうちょっと穏やかでワンテンポ、クッションの入るようなハンドリングも捨てがたいし、個人的には大好きだが、スピードツインのスキのないダイレクト感はこのマシンの最大の特徴であり、クラシックとモダンの融合をよりモダン寄りとしたスタイリングにマッチしたものとなっている。
こういったフィーリングは、クラシック系のマシンでは通常あまり注目されることのない軽量化や、マスの集中に徹底したことも大きい。スラクストンと比べ、大幅に慣性力を抑えることができたためのリーン(バイクを傾けること)の軽快さが光る。クラシックマシンだからというエクスキューズを完全に排除しているのである。
スポーティな車体に組み合わされるエンジンは、アイドリング程度の回転域からしっかりマシンをコントロールできるトルキーなもの。ただ、1200ccのツインモデルからイメージされる怒涛のトルク感というものではない。もっと自然に湧き上がる扱いやすいトルクがこのエンジンの特徴である。そして、フラットに気持ち良く続く回転上昇。パワーは十分以上にありながら、この穏やかさがあることで、スピードツインを必要以上にスポーティで取っ付きにくいマシンにしないでいるのかもしれない。
3種類のライディングモード(スポーツ/ロード/レイン)を選択できることでマシンのキャラクターを欲張りに味わえるのも良い。
ウェット路面ではもちろんのこと、ドライ路面であっても穏やかでソフトなフィーリングのレインモードから、ダイレクト感が高く、メーカーの狙ったスピードツインらしさをもっとも感じさせてくれるスポーツまで、シチュエーションや気分によってボタン操作でイージーに選択することが可能となっている。
トライアンフのモダンクラシックシリーズは、確かな走りとともに雰囲気を楽しむ要素も多く取り入れてきた。それはスピードツインも然りではあるのだが、このマシンはよりライディングに対して夢中になれる要素が盛り込んである。エキサイティングだけれども、先走りすぎてはいない絶妙さ。
初代スピードツイン登場時の衝撃には及ばないかもしれないが、新生スピードツインの走りのインパクトも決して小さくない。それは多くのライダーが待ちわびていたキャラクターとなっていた。
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