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【ヒットの法則452】997型ポルシェ911カレラ/カレラSはPDKとDFIの採用で劇的な進化を遂げた

掲載 更新 7
【ヒットの法則452】997型ポルシェ911カレラ/カレラSはPDKとDFIの採用で劇的な進化を遂げた

2008年、モデルサイクル半ばの997型911カレラ/カレラSが大きな進化を遂げた。そのポイントはデュアルクラッチ機構を備えたトランスミッションPDKと直噴ガソリンエンジンDFIの採用。フェイスリフトとは思えない大きな変更は話題となった。なぜ、911カレラ/カレラSはここで大胆な変更を行ったのか。この時、911カレラ/カレラSの走りはどれほど変わったのか。ドイツ・ヴァイザッハで行われたワークショップと国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年8月号より)

避けては通れない燃費と環境性能の向上
今さら改まって言葉にするまでもなく、ポルシェはスポーツカーメーカーであり、911カレラは紛れもないスポーツカーである。スポーツカーの定義は人それぞれ違うとは思うが、個人的にひとつ挙げるとするなら「走ることが楽しい」と感じることだと考えている。

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今回、ポルシェのヴァイザッハ研究開発センターにて、第二世代に進化した新しい997型911カレラ/カレラS(クーペ&カブリオレ)のワークショップに参加し、シュツットガルト周辺にて試乗することができた。

結論から先に言ってしまうと、新しいカレラ/カレラSは、マイナーチェンジされたというひと言で表せないほど濃い内容となっており、期待していた以上に走ることが楽しいと感じる出来映えだった。

そのワークショップの冒頭、ヴァイザッハで研究開発を担当するデュラハイマー上級副社長は、「911シリーズは当社の魂でありスポーツカーの象徴である」と言い、さらに「1963年9月のフランクフルト国際モーターショーで発表された911は、その後も45年間、常にエンジン出力に対して最適な燃料消費量を追求し続け、それはポルシェの義務であるとも考えている」と語った。

ポルシェは、走行性能のみを追求しているのではなく環境性能の追求も怠ってはいない。いや、むしろ逆で、ポルシェは、これほど燃費や環境性能が叫ばれる前から、真摯にその問題に取り組んできているということを、改めてアピールした。

単純に考えてしまえば、燃費の向上と出力やトルクの向上という両立は、相容れないものだと思えるが、ポルシェは、いとも簡単に(見えたのだが)ポルシェドッペルクップルング(PDK)と直噴エンジン(DFI)のふたつを採用することで実現させた。次期モデルに採用されても不思議ではないこの技術を前倒しして投入した背景には、環境問題への対応に一刻の猶予も残されていないということがあるのだろう。

燃費と環境性能の向上はスポーツカーにとっても避けては通れないこと。もともと911シリーズの燃費が悪いわけではないのだが、その部分をさらに進化させたのは2009年9月から始まるユーロ5規制への対応でもある。それは、このカレラ/カレラSが、ユーロ5をいち早くクリアしていることからもわかる。

その驚くべき中身はフルモデルチェンジに匹敵
多くの人は、スポーツカーメーカーのポルシェを、燃費や環境問題からかけ離れた存在であると思ってはいないだろうか。しかし、それは大きな誤解で、ポルシェはいかに効率よくエンジンを回し、効率よくクルマに仕事させるかを常に考えている。その結果、出した答えがこの新しいカレラ/カレラSに搭載されたPDKとDFIと言っていい。

今回の目玉となるPDKは、デュアルクラッチ機構を備えたトランスミッションである。フォルクスワーゲンのDSGやアウディのSトロニックと基本的には同じコンセプトを持ち、2枚のクラッチが互いに次のギアチェンジの用意をしている。

実は、このデュアルクラッチという考え方を一番最初に開発したメーカーはポルシェで、この技術を1983年にはグループCに参戦するポルシェ956に世界初採用、1984年にはポルシェ962でニュルブルクリンクのレースに初優勝し、1986年にはモンツァの世界選手権で勝利も飾っている。つまり、デュアルクラッチで一番歴史があるのはポルシェというわけだ。20年以上にわたり研究を重ね、満を持して911に投入されたPDKは、ティプトロニックS比で約10kgのダイエットに成功し、さらCO2の排出量は最大で15.2%減少するという。

次に大きなトピックスは新世代のDFI(ダイレクト・フューエル・インジェクション)エンジン、いわゆる直噴エンジンの搭載だ。フリクションを減らすためにピストンリングにも特別なコーティングが施され、構成されるコンポーネンツも40%削減、組み立て時間も短縮されたというこのエンジンは、中心から上に20mm、下に10mmと合計30mmコンパクト化に成功した。そのため重心を低くすることも可能となった。

また、このユニットは、いままでの水平対向の3.6L&3.8Lエンジンのシリンダーやピストン、吸排気系などで従来と共用化しているパーツはほとんどないという力の入れよう。これだけ見ても、フルモデルチェンジを謳ってもいいと思うのだが。

DFI化のメリットは、6kgの削減に成功したエンジン重量にも現れ、PDKと合わせると、軽量化は実に16kgにも達することになる。

新しい911カレラ/カレラSの外観を見てみると、フロントやテール部分にLEDが多用されていることがわかる。とくにテールランプユニットには片側60個のLEDが使われている。その数にも驚かされたが、なにより視認性がいい。後ろから見るとひと目で新型だと判別できる。またドアミラーは大型化され、ダブルアーム式となり視野面積も広がったが、それがエアロダナミクスに及ぼすネガ要素はないという。

PDKに乗ると今までの常識が見事に覆される
試乗の前日に行われたワークショップでは、ヴァイザッハのテストコースを同乗走行するという体験もできた。実は、このテストコースでの同乗走行は2回目。現行911ターボのワークショップに参加したときも経験したが、その衝撃は911ターボの時に勝るとも劣らないものだった。

200km/h近くからのフルブレーキング、そして目の前に迫るコーナーをいとも簡単にクリアするその姿勢、さらにクリッピングポイントを超えてからのフル加速。どれをとっても不安定な要素をつゆほども見せず、終始安定した姿勢で走るのだ。その間、ドライバーはステアリングホイールから手を離すことなく備えられたボタンで、鼻歌が聞こえてきそうなほど楽々とギアチェンジのアップダウンを行っていた。

試乗は、カレラSカブリオレとカレラクーペ、トランスミッションは7速PDKである。カレラSはフロント235/35ZR19、リア295/30ZR19、カレラはフロント235/40ZR18、リア265/40ZR18インチタイヤを装着していたが、どちらもその走りはとても扱いやすいというのが第一印象だった。それも誤解を招かないようにしてほしいが「どんな状況でも」という注釈付きで、だ。

スポーツカー=扱いにくいといった図式は、911にはすでに存在することはなく、日本の公道で試乗してもそれは感じたことだが、平均スピードの低い日本の道では、持てるパフォーマンスの半分も発揮できないので、その実力を判断しにくい。しかし、ドイツのアウトバーンのようなハイスピードレンジではその扱いやすさと安心感をもたらす走りは特筆ものだった。

手に汗を握って運転するようなことはまったくなく、自然な流れに乗っているだけで200km/h近い速度で巡航しているのだ。自分では冷静に運転することを心がけて走っているつもりが、知らず知らずのうちに気持ちが高ぶっていたようだ。

では30km/hや50km/hという速度が要求される街中ではどうか。そんなシチュエーションでもカレラ/カレラSは、とても快適なのだ。スポーツカー=低速では不快という図式もすでに通用しない。今や、スポーツカーの常識は低速から高速まで快適で安心感あるものに進化している。カレラSは、19インチタイヤを履くにもかかわらず、乗り心地は高級サルーンの趣さえ見せていた。

新しく採用されたPDKは、微妙なアクセルワークを必要とする低速域でもギアチェンジはとても滑らか。さらにアクセルペダルを乱暴に踏みつけても、PDKは常に最適なギアポジションを選択している。その間、ギアチェンジのショックはほとんど感じることはなかった。

DFIエンジンも下から上まで滑らかに、そしてレスポンスよく回り、パワフルである。この組み合わせの粗探しをしてみたが、新しいカレラ/カレラSに不満な点を見つけることは、最後までできなかった。

ステアリングホイールからは、路面状況までが手に取るように伝わり、まさしく一級品。それは低速域から高速域まで変わることなく確実に伝わってくるこの感覚がポルシェのドライビングダイナミクスの真髄なのだと改めて感心させられた。

正直に言ってしまえば、今までは3.8Lエンジンを積んだカレラSのほうがパワフルでいい、と思っていたが、新しいカレラに限ってはその差は縮まっていると言える。つまりカレラでも十分にパワフルであるということ。いや十分以上といっていい。パワーアップと軽量化による恩恵は、カレラにより強く感じ、それは思った以上に大きいのだろう。

今まで、911の味を存分に堪能するにはマニュアルトランスミッションに限ると思っていた。自分で911を操っているという醍醐味やマニュアルシフトのダイレクト感は、MTでなければ、と感じていたのだ。

しかしこのPDK搭載モデルに乗って、その考えは180度変わってしまった。これではMTを選ぶ必然性がない。とくに日本の道ではその印象はさらに強くなるだろう。

ポルシェは、この911カレラ/カレラSのエンジンを生産するため、ツッフェンハウゼン工場に生産ラインを新設した。現状に満足しないポルシェは、次なるステップへの準備を着々と進めているようだ。(文:千葉知充/Motor Magazine 2008年8月号より)



ポルシェ 911カレラ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4435×1808×1310mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1415kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3614cc
●最高出力:345ps/6500rpm
●最大トルク:390Nm/4400rpm
●駆動方式:RR
●トランスミッション:7速DCT(PDK)
●最高速:287km/h
●0→100km/h加速:4.7秒
※欧州仕様

ポルシェ 911カレラ カブリオレ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4435×1808×1310mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1500kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3614cc
●最高出力:345ps/6500rpm
●最大トルク:390Nm/4400rpm
●駆動方式:RR
●トランスミッション:7速DCT(PDK)
●最高速:287km/h
●0→100km/h加速:4.9秒
※欧州仕様

ポルシェ 911カレラS 主要諸元
●全長×全幅×全高:4435×1808×1300mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1425kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3800cc
●最高出力:385ps/6500rpm
●最大トルク:420Nm/4400rpm
●駆動方式:RR
●トランスミッション:7速DCT(PDK)
●最高速:300km/h
●0→100km/h加速:4.5秒
※欧州仕様

ポルシェ 911カレラS カブリオレ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4435×1808×1300mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1510kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3800cc
●最高出力:385ps/6500rpm
●最大トルク:420Nm/4400rpm
●駆動方式:RR
●トランスミッション:7速DCT(PDK)
●最高速:300km/h
●0→100km/h加速:4.7秒
※欧州仕様

[ アルバム : 997型ポルシェ 911カレラ MC はオリジナルサイトでご覧ください ]

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みんなのコメント

7件
  • ポルシェ買おうかなぁ
    ずーっと気になっているけど、なかなか買えない。
    買うなら997かな?
  • 3台乗りましたが良いですよ。値段も頑張れば買える価格になってきてますから、ポルシェに憧れを持つ方にはオススメできます。私もいつかまた乗りたい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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