欧州ではコマーシャルバンのイメージが強いミニバンだが、日本ではユーティリティカーとして、ファミリーカーのみならず、VIPカーとして使われる場面もあるマルチパーパスカーだ。水野さんは欧州車ミニバンをどのように評価するのか?
※本稿は2024年2月のものです
文/水野和敏、写真/ベストカー編集部、撮影/平野学
初出:『ベストカー』2024年3月26日号
フィアットドブロは完成度高いけど……突き上げが強い!? ベンツVクラスはシート硬すぎか!? 欧州ミニバン辛口比較!!
■フィアットドブロとベンツVクラスで対決
ドブロもVクラスもベースとなるのは商用バンなので、足回りや車体の強度に余裕がある
ベストカー読者の皆さんこんにちは、水野和敏です。
さて、今回はちょっと面白い2台です。フィアットドブロとベンツVクラス。3列シートの、日本車ではミニバンと呼ばれるカテゴリーです。
欧州ではこのカテゴリーは乗用車という感覚ではありません。コマーシャルバン、つまり商用車派生の乗用バージョンという認識です。
ここが日本のミニバン市場との大きな違いです。国産のミニバンは、商用4ナンバー仕様との兼用をやめて、乗用車専用の車種にすることで市場を発展させました。ノアやステップワゴンには商用バンはありません。アルファードにも商用バン仕様はありません。
多人数乗車モデルは、以前はハイエースやキャラバンのように、商用バンをベースに乗用車仕様としたモデルが一般的でした。ノアも初代は商用のタウンエースと車型を共用していましたが、2代目からは独立して、乗用車系のプラットフォームをベースに開発されました。
商用車を切り離したことで、乗用車としての乗り心地や操安性能、室内のラグジュアリー性を向上させた開発が可能となり、利便性が高くお買い得な、新たな自家用車のジャンルとして、日本のミニバン市場は発展したのです。
一方、一般道でも100km/h近くで走る欧州では、高額なガソリン代を背景に、燃費の悪さや、緊急時の回避性能や衝突安全性などから敬遠されがちです。
ワンボックスタイプの乗用モデルは自家用車としての普及は少なく、タクシーやレンタカーなど市場規模は限定的なため、販売台数が多い商用バンの派生モデルとして作られています。
■Vクラスは車重2.5トン!!
ドブロのテールゲートはウィンドウ部のみ開閉可能で、使い方によっては便利だ
ドブロの前後フェンダーオープニングを見てください。上下はガッポリと大きく空いています。特にリアは商用バンと兼用なので数百kgの荷物も積載できる前提でサスストロークも大きく確保しています。
さらに、荷物を積載するフラットで平坦なフロアやサスペンションは、瞬時の過積載にも耐えられるよう極めて頑丈な構造で作られています。
ブレーキの容量も大きく余裕があります。ドブロの車重は1660kg、ベンツVの車重は2510kgにもなります。ガッチリした車体を作るため重いのです。
ドブロはプジョーリフター、シトロエンベルランゴと共通のプラットフォームで作られた兄弟車ですが、内外装は最も商用車テイストを色濃く感じさせます。
Vクラスのインパネ造形などは、前型のベンツCクラスと一部共用していて今ではちょっと古さを感じます。それにしても、現在の日本仕様はずいぶんと乗用車的なシートや装備などが充実していますね。少し前に私は社用車としてVクラスを使っていましたが、当時のモデルにはカップホルダーもありませんでした。
ドブロのテールゲートはガラスハッチだけを開けることができ、荷物を大量に積んだ時、上に乗せた荷物の出し入れには便利ですが、開口部下端が高過ぎてリヤフロアに置かれた荷物は取れません。
Vクラスのテールゲートはミニバンではなく商用車の広い開口部です。フロアが低く、左右両サイドの開口も大きい。ハイエースのような、荷物の積み下ろしが楽な大きい開口です。
3列目シートは脱着式ですが、重たくて簡単には付け外しできません。金具もむき出しで、気を付けないと手を挟んでしまいそうです。そもそも、外したシートを置いておく場所が必要なので、現実的にはそう簡単に外すことはできません。
2列目シートはスライドがなく前後の位置は固定されています。前に引き倒せば座面がリンクで下がりながらフロアに収納されるのでフラットになりますが、スライドドアのフロアは高く、乗降性はけっしていいとは言えません。
特に3列目に乗り込むのは上体をかがめて入り込まなければなりません。テールゲートから乗り降りするほうがアクセス性はいいです。
■ドイツ車とは異なるシート
ドブロの2列目シートはスライド機構がなく、3列目への乗り込みは前倒させてよっこらしょと乗り込む
ドブロは2列目も3列目もシート自体はとてもいい。1席ずつ独立したバケットタイプで、お尻の収まりがいいです。座面の長さや背もたれの高さはやや短いのですが、形状がいいためしっかりと身体を預けられます。
3列目は座ってしまえば足元のスペースにも余裕があります。頭上もスペースに余裕があって居住性はいいと思います。ただテールゲートが近く、追突されたら怖いです。
2列目シートは横に3座並んでいて、ちょっと横幅は狭いのですが、座面のクッションはしっかりと厚みがあり、座り心地がいい。3列目同様、座面長はちょっと短いし背もたれも低いですが、しっかりしたシートです。
さて運転席です。2列目、3列目のシートと比べて座面も大きく背もたれも高さがたっぷりあります。クッションの厚みがあってお尻をしっかり包み込んでくれるので姿勢が安定します。
座面のサイドの張り出しがソフトなので、仕事で一日に何度も乗り降りしても腿裏がすれることはありません。とてもいいシートです。疲れないシートです。
ドイツ車は硬いシートが多いのですが、反対にイタリア車やフランス車はクッション性がよいシートになっています。これにはお尻の形状が関係しています。
ドイツ人は大きなお尻で肉付きがよく、硬めのシートを好みますが、ラテン系のイタリアやフランス人のお尻は小さく肉付きも少ないのでクッションが効いたシートを好みます。家具のソファやベッドも同じ傾向です。民族の体形がシート形状を決めているのです。
ペダルは若干内側にオフセットしています。アクセルペダルがタイヤハウスの張り出し分、左に寄っています。左ハンドルの商用車がベースなので、このオフセットはやむを得ないのでしょう。
ダイヤル式シフトは最初戸惑うかもしれませんが、すぐに慣れますし、使いやすい。何よりもDとRを入れ間違えるような誤操作の危険性がまずありません。
それにしてもセンターコンソールは巨大で存在感があります。そのわりにカップホルダーがあるわけでもなく、利便性はありません。
■商用車だからこそしっかりと作られる
ベンツVクラスのリア開口部は天地、左右ともに広く、まさに「荷台」の使い勝手だ
エンジンルームを見ましょう。ドブロのブレーキマスターシリンダーは左ハンドル用の位置にあって、シャフトで連結しています。
エンジンマウントのブラケットは樹脂製です。振動を吸収できるので、プジョーやシトロエンも含め、ステランティスは樹脂製のブラケットを多くの車種で採用しています。
エンジンルーム内のレイアウトは極めて合理的です。エンジン、トランスミッション、ターボや触媒といった補器類をコンパクトにまとめて搭載。バッテリーのすぐ横にECUを置くことでハーネスを短くできます。
この基本レイアウトを308などのコンパクトカーシリーズにまで採用して、部品や生産設備の共用化による大幅なコスト削減を図っています。
車体構造はしっかりしています。ストラットアッパーはダッシュパネル直付けで、さらにダッシュパネルに沿って補強パネルも貼られています。加えてエンジンルームの騒音や熱を室内に入れないよう厚い吸音材も貼られていますし、開口部には全面ゴムシーリングが施されています。
■シートはベンツらしさ満点
ドブロの1.5Lディーゼルターボはトルクレスポンスに優れ、軽快な走りを見せてくれる
ベンツVのエンジンルームを見ると、二重隔壁構造になった見慣れたベンツFRプラットフォームのエンジンルームです。先代型CクラスやEクラスと同様の構造です。
エンジンは直4、2Lディーゼルターボですが、これも一世代前のユニットです。最新のディーゼルターボと比べるとトルクの出方など、やや力の弱さを感じますし、音振もちょっと大きめです。
Vクラスのインパネは丸形メーターを配した前型のCクラス風。イグニッションスイッチもプッシュ式ではなくキーを捻るタイプで、商用車感があります。
シートはいかにもベンツらしい形状で、しっかりとした着座感と身体のホールド性です。ただ、セダンのCクラスであればいいのですが、フロアが高いVクラスだと、座面サイドのサポート部の盛り上がりが大きくて硬く、乗降時に腿が当たり少し痛いです。
2列目は左右独立のラグジュアリーシートで、左右に大型アームレストがあり、座面長は長く、背もたれもしっかりと高さがあっていいのですが、クッションが硬い。日本人のお尻の大きさや体重では沈み込まず姿勢が落ち着きません。
大きく傾くリクライニングは電動で、オットマンも備わりますが、前後スライドは手動です。
独立型で3座並んだ3列目も座面は硬いです。2列目よりもさらに硬い。座面長はやや短めですが、背もたれは高さがあって肩口までしっかりとホールドできるのはいいです。各座席は独立してリクライニングできます。膝スペースは、2列目足元を程よく余裕のある位置にしても、充分に余裕があります。
荷室を見ると、やはり商用バンです。フロアが低く開口部はスクエアで広い。3列目シートを外せば広くフラットな荷室になります。
両車ともにテールゲートはガッチリとした嵌合構造になっていて、閉めると車体とドアが嵌合するので剛体として機能する構造です。
■フィアット ドブロの走り
2975mmのロングホイールベース仕様のマキシは全長4770mmで3列シートを備える
足の動きが滑らかです。動き出してすぐにわかります。ただ、歩くほどの速度で大きく左右にステア操作すると、左は反応遅れがないのですが、右操舵時に若干反応遅れがあります。左前輪の空気圧が少し低いように感じます。
ショックアブの動きは滑らかです。微速入力域でもしっかりと動いてまったく突き上げを感じさせません。サスペンションのストロークがたっぷりあって、しなやかに動きます。乗り心地がよく、長距離を走っても疲労は少ないです。
それなりに速度を上げたコーナリングでも、操舵に対する前後の動きのバランスがいい。フロントの切れ込みにリアが素直に追従します。わざと急激な意地悪操舵をしても姿勢を乱すことはありません。
車体がガッチリしています。ロングホイールベースで後部荷室の開口も大きく、車体剛性面では不利な形状なのですが、Bピラー部にルーフまで回り込む補強部材が入っているなど、車体をガッチリと作っています。この構造により、パネルの共振が抑えられているため、ロードノイズもよく抑えられています。
1.5Lディーゼルターボはトルクレスポンスに優れ、加速が心地いいし、回転を上げても嫌な騒音はありません。8速ATがトルクバンドをしっかりとキープするので、どこから踏んでもスッと加速していきストレスがありません。ステランティスはこの8速ATを全車に採用することでコストダウンも図っています。
ブレーキはよく利きます。ノーズダイブが抑えられていて、後輪の接地が活かされています。
■ベンツ V220dの走り
3200mmのホイールベースに5155mmの全長でさすがに大きさを感じさせるVクラス。車重は2510kgと重量級
いつものようにゆっくりと動きながらステアリングを大きく左右に切ります。操舵に対する左右の反応差はありません。車体剛性が高いことがわかります。
車速を上げていくと、操舵に対しリアがどっしりと粘って相対的にフロントが軽快に動きます。リアタイヤを支点にしてフロントが動くイメージです。ちょっとフロントが負けています。やはり荷室に重量物を積載する前提の商用バンがベースなので、リアサス周りの強度と剛性が活きています。
わざと急激なステア操作をしても、リアはしっかりと路面を掴んで安定を失うことはありません。また、下り坂の厳しい旋回でも、フロント外輪だけにロール荷重が集中することもなく、前のめり姿勢にもなりません。
ルームミラーがカメラ式ですが、これは後続車との距離感がつかみ難く私には向きません。
40km/h前後で連続する路面のペイント段差部を走ると、コツコツとした入力を感じますが、突き上げる硬さの嫌味はなく、足はしっかり動いています。
ディーゼルエンジンの音は、エンジンルームを開けて聞こえた音からは想像できないほど遮音され、不快な「騒音」はありません。振動もよく抑えられています。ロードノイズもよく抑えられています。
ブレーキは、安定した姿勢で後輪もしっかりと制動してよく止まります。
エンジンはターボが大きいため、アクセルを踏み込んだ瞬間のトルクレスポンスに若干の遅れがあります。3500rpm以上での回転の伸びとトルクの盛り上がりはいいのですが、ベンツの最新ディーゼルターボと比べると、低回転域のトルクの立ち上がりは少し遅れます。
フィアットドブロ、ベンツV220dともに、商業用の重荷重に耐えるプラットフォームが、安定性がいいスムーズな走行性能の基盤になっていることを再確認できました。
■フィアット ドブロの評価は?
水野さんのフィアット ドブロへの評価は90点
●水野和敏 取材メモ
・ドブロはシトロエンベルランゴ、プジョーリフターと兄弟車ながら、最も商用バンの雰囲気を強く感じさせる内外装だ。
・2列目シート、3列目シートはスライド機構はなく固定式だが、各シートはバケットタイプで長距離ドライブでも疲労は少ない。
・本来後部は荷室として使われる前提なので、リアサスがやや硬く、突き上げを感じる。
欧州では完全に商用バンとして使われるクルマなので、日本的な3列シートミニバンと言う評価軸で見ていくと2列目シートが前後スライドしないことや、3列目シートへのアクセス性の悪さなどが気になるかも。
しかし、2列目と3列目のシートは、座り心地やフィット性、姿勢のホールド性がよく長距離も苦にならない。
また、クルマとしての基本的な作りがよく、ストロークをたっぷりとったサスペンションはガッチリした車体と相まってしなやかに動き、乗り心地と操安性のよさを両立させている。1.5Lディーゼルターボのトルクやレスポンスもいい。
●フィアット ドブロMAXI
・全長:4770mm
・全幅:1850mm
・全高:1870mm
・ホイールベース:2975mm
・最低地上高:―
・最小回転半径:5.8m
・車両重量:1660kg
・エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
・総排気量:1498cc
・最高出力:130ps/3750rpm
・最大トルク:30.6kgm/1750rpm
・トランスミッション:8AT
・WLTCモード燃費:18.1km/L
・Fサスペンション:ストラット
・Rサスペンション:トーションビーム
・タイヤサイズ:205/60R16
・車両価格:429万円
■メルセデスベンツ V220dの評価は?
水野さんのメルセデスベンツ V220dへの評価は88点
●水野和敏 取材メモ
・ベンツVクラスは欧州では商用バンとして使用されるケースがほとんど。多人数乗車ミニバンとして使うには、やや質実剛健。
・ゆったりした独立型2列目シートはリクライニング角度も大きく快適だが、本革シートも含めたオプションは118万4000円だ。
・2Lディーゼルターボはトルクがたっぷりあり、動力性能は余裕だ。
欧州では商用バンとして使われることが多いVクラスだが、さすがはベンツ、安定感のある操安性を作り上げている。
クルマとしては前型のCクラスがベースとなっていて、インパネの造形や車体構造などにやや古さを感じさせる。また、2Lディーゼルターボエンジンも最新の仕様と比べるとトルクレスポンスにややタイムラグを感じるのがマイナス評価。
シートは2列目が左右独立でオットマン装備、さらに本革張りのラグジュアリー仕様となっていたが、100万円以上のオプション装備。車体本体と合わせて1000万円を超えるのはちょっと高価すぎる。
●メルセデスベンツ V220d AVANTGARDE long(AMGラインパッケージ)
・全長:5155mm
・全幅:1930mm
・全高:1930mm
・ホイールベース:3200mm
・最低地上高:105mm
・最小回転半径:5.6m
・車両重量:2510kg
・エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
・総排気量:1949cc
・最高出力:163ps/3800-4400rpm
・最大トルク:38.8kgm/1600-2400rpm
・トランスミッション:9AT
・WLTCモード燃費:12.9km/L
・Fサスペンション:ストラット
・Rサスペンション:セミトレーリング
・タイヤサイズ:245/45R19(AMGラインパッケージ)
・車両価格:954万円
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みんなのコメント
いつものようにアルヴェルがせかいいち〜
とかキャンキャン吠えてればいいんだよ カス