現在、全世界の乗用車販売の約半数がSUVになっている。日本ではまだそこまで行っていないが、グローバルモデルの投入は、自然、SUVが中心になっているし、デザインに関しても、比較的新しいジャンルで発展の余地があるだけに、各社力が入っている。
そんなわけで、最近登場した新型SUVのデザインを、販売状況は度外視して、自動車デザインとしての志の高さや斬新さ、完成度などを評価基準に、独断でブッた斬ってみたい。
トヨタSUV戦略の妙!!! ヤリスクロスの魅力と“次の一手”を読む
文:清水草一/写真:DAIHATSU、MAZDA、TOYOTA、NISSAN、池之平昌信、奥隅圭之、平野学、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】どのクルマのデザインが好き? 清水草一氏が採点した5台の最新SUVの内外装を詳しくチェック!!
ダイハツタフト
東京モーターショー2019で『WakuWaku』という名前のコンセプトカーとして世界初公開され、ほぼそのままのデザインで登場したタフト
ハスラーの対抗馬と目されていたが、実物はハスラーとはかなり異なる。ソフトで都会的かつ現代的な5ドアのジムニーとでも言いましょうか? ハスラーのようなレトロ感はなく、ステルス戦闘車両的な、最新兵器を思わせるモダンなルックスだ。
ほとんどのラインが直線や円など幾何学形で構成されており、斜めのラインはフロントウィンドやリヤフェンダー前部、センターピラー後側など、互いに呼応しあって現代アートっぽい斬新な雰囲気を醸し出している。
インテリアも、いわゆるギア(道具)感を強く打ち出しており、オモチャの兵器みたいで、外観にしっかりマッチしている。
【採点】※★は最大5つ、100点満点
志の高さ/★★★★★
斬新度/★★★★
完成度/★★★★★
総合/93点
見た目はボクシーなタフトだが、非常に凝ったラインが目を引く。斜めのラインの使い方もうまい!!
インテリアはギア感があって、エクステリアにマッチしている。ちょっとしたオモチャの兵器みたいなデザインもいい
マツダCX-30
マツダ車は2019年デビューのマツダ3から第7商品群となっている。SUVの第7商品群の第1弾がCX-30で、マツダ3に通じるデザインの美しさを持っている
マツダデザインの渾身作・マツダ3をベースにSUV化しただけに、超デザインコンシャスなSUVに仕立てられている。
マツダ3がベースとは言っても、マツダ3(ファストバック)の車高を持ち上げただけではなく、デザインイメージを揃えているだけでボディ形状は別物。フォルムはシンプルで美しく、エッジのないパネル面は舐めるように仕上げられ、工芸品のような輝きを放っている。
唯一残念なのは、前後フェンダーの黒い樹脂部が厚すぎるように見えることだ。ボディ下部の樹脂部は、ボディを薄くスポーティに見せるための古典的手法だが、それに揃えたのか、あるいはマツダ3との差別化か、単にSUVらしく力強く見せるためなのか、厚ぼったいフェンダー樹脂部が流麗なSUVに似つかわしくなく、惜しい。
細部まで作りこまれたインテリアは、センスも質感もさすがのレベルだ。
シンプルで美しく、エッジのないパネル面は光の当たり具合によっていろいろな表情を見せる。ただ、前後フェンダーの黒い樹脂部分はちょっと大きすぎ!?
【採点】※★は最大5つ、100点満点
志の高さ/★★★★★
斬新度/★★★★
完成度/★★★★
総合/90点
トヨタハリアー
2020年6月に正式デビューして爆発的ヒットモデルになっているハリアー。その最大の要因が、質感が大幅にアップしたエクステリアにある
流麗なクーペフォルムは、先代からの正常進化ながら、はっきりと質感がアップし、見るからにカッコよく美しくなった。
先代より全高を下げ全幅を拡大しているので、条件的には圧倒的に有利だが、そのメリットをしっかり生かし、それ以上の結果を出している。
特にリヤピラーからリヤフェンダーにかけての面は、中央部ののびやかさと対照的に精緻に波打たせて、見る者に空気の流れを感じさせる。
ハリアーの流麗なクーペフォルムはとにかく美しい。アンダー500万円のSUVとしては出色の出来と言える
ディテールに関しても、すべての質感が上がっている。
たとえばフロントマスク。先代は、ヘッドライトとグリルのライン下部が単純な弧を描いていたが、新型はガルウイング的なラインになり、高級感を出している。
グリルそのものの質感も大幅アップ、全体にぐっとエレガンスが増している。
特に進化が著しいのがインテリアで、インパネやサンターコンソール、シートなど、デザインと質感の両面ではっきりアップ。この価格でこの質感は、「参りました!」と言うしかない。
ただ、本質よりも表面でカッコよく見せている的な雰囲気は濃厚で、まさにスペシャルティSUV。
【採点】※★は最大5つ、100点満点
志の高さ/★★★
斬新度/★★★
完成度/★★★★★
総合/83点
歴代ハリアーはインテリアにもこだわってきたが、旧型よりも質感大幅アップで、ユーザーの満足度も高い
トヨタヤリスクロス
ヤリス(写真左)をベースにSUV化したのがヤリスクロス(写真右)だが、フロントマスクはヤリスほどエグい造形は使っていない
クロスオーバーSUVとしてごく真っ当なフォルムだが、フェンダーのふくらみや樹脂の使い方などでうまくボリューム感を出し、サイズの割に存在感は大きい。
リヤピラーと、その下部に回り込んで食い込んだテールランプの造形は、サイドウィンドウ後部とシンクロし、しっかりデザインされているな~と感じさせる。
フロントマスクは、兄弟車のヤリスと違ってあまりエグい造形は使わず、各部をバランスよく配置しているが、ヘッドライトはウルトラマンの目のようなのっぺりしたイメージで、それが軽い毒のあるアイコンになり、存在感を高めている。
誰にも嫌われずに、それなりの個性を主張するデザインだ。
インテリアは基本的にヤリスとの共用で安っぽいが、主張もないので特に気にはならない。
【採点】※★は最大5つ、100点満点
志の高さ/★★★★
斬新度/★★★
完成度/★★★★
総合/82点
リヤピラーとその下に回り込んだリヤコンビランプがヤリスクロスのリアデザインの頑張っているポイントだ
インテリアは基本的にヤリスとの共用となるためお世辞にも質感が高いわけではないが、ヤリスとは色遣いなどで差別化
日産キックス
2020年6月から販売を開始した日産キックスのデザインの基本はウェッジシェイプ。躍動感はあるが、少々オモチャっぽい
ウェッジシェイプを基本に、それを生かすべく、ウェッジ(くさび)っぽい造形を多用して特徴を出しているが、そのくさびの構成が単純で、オモチャっぽいイメージを抱かせる。
わかりやすいのがボディ後部だ。前傾したウエストラインと後傾したルーフラインの組み合わせはいいんだけど、サイドウィンドウ後端の形状が単純な三角形で、それにつながるブラックアウト部の形も単純。そこにブーメラン型のおもちゃっぽいテールランプが載る。
キックスのルーフラインはフロントからリヤにかけて直線的に下がっているのに対し、ウェストラインはその逆となっている
真後ろから見ても、リヤウィンドウの左右下側の跳ね上げ形状が単純すぎて深みがなく、安っぽく見せてしまっている。フロントフェイスも、Vモーショングリルが単純でおもちゃっぽい。
それらがあいまって、実物よりも車格が低く見え、パッと見「ヤリスクロスより小さいかな?」とすら感じる。
プロポーションそのものはマトモで、特に悪いわけではないが、ライバルと比べると総合力の差が浮き彫りになる。インテリアはクリーンで可もなく不可もなし。
【採点】※★は最大5つ、100点満点
志の高さ/★★
斬新感/★★★
完成度/★★
総合/63点
キックスのインテリアはクリーンなイメージでまとめられているのが特徴となっている
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センスのかけらもなあい。