BMWが投入した高性能SUV「XM」の存在意義とは? 世良耕太がリポートする。
M1以来のM専用モデル
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いろんなことが理解を超えるスケールなので、ただ圧倒されるばかりである。
“ハイパフォーマンス・プラグイン・ハイブリッド”のBMW XMは、M1以来となる“M”専用モデルだ。そう告げられてもピンとこないのは当然で、M1は1978年の登場。2024年を起点に勘定すれば46年前のクルマで、「あぁ、あれね」と、ピンとくるのは筆者のような50代半ばがギリギリかもしれない。何年か前、F1グランプリ開催中のシルバーストン・サーキットのパドックで本物のM1に邂逅し、F1そっちのけでいたく感激したのを覚えている。
BMW M社の“M”はMotorsport(モータースポーツ)の“M”だ。BMWのモータースポーツ部門が1972年に分離独立し、モータースポーツ活動をおこないつつ、その活動で培ったノウハウを生かしてハイパフォーマンスなコンプリートカーの開発をおこなっている。
M1はBMW M社初の市販モデルだ。3.5L直列6気筒自然吸気エンジンを車両ミッドに搭載するスポーツカーである。1979年から1980年にかけて、F1の前座としてM1のワンメイクレースがおこなわれ、ネルソン・ピケやニキ・ラウダなど当時の現役F1ドライバーがステアリングを握って競い、相応の盛り上がりを見せた。
XMはそのM1以来となる、M専用モデルなのだ。3シリーズをベースにした「M3」や、5シリーズをベースにした「M5」とは違い、 “専用”である。付けくわえておくと、プラグイン・ハイブリッドもMシリーズ初だ。
理解を超えているのは、ピケやラウダが現役だったとき以来の専用モデルだというのに、ミッドシップのスポーツカーではなく、圧倒されるほどに巨大なSUVとして出てきたことである。「なぜ?」と、思ったが、2020年代という時代のトレンドを考えれば、背の低いミッドシップのスーパーカーを作るより、そこに存在するだけで威圧感のあるハイパフォーマンスなSUVを作ることが正解なのだろう。
内外装はインパクト大!いずれにしても、存在感はたっぷりだ。紅葉が見ごろを迎えていた休日の軽井沢は、品川など、東京を中心とした近県ナンバーのクルマで賑わっていた。カラフルなフェラーリやマクラーレンが視界に入る頻度が高く、雲場池の紅葉だけでなく、そっちも目の保養になった。しかしダントツで目を引いたのは、渋滞する車列を比較的空いているレーンからスーッと追い抜いていったXMだった。
ギョッとするとはこのことで、何度も実車を見ているはずなのに、思わず車内でのけぞるほどのインパクトを感じた。知っていたことではあるが、後ろ姿からはどのブランドのクルマなのか瞬時に判別できない。なぜなら、おなじみのBMWバッジが付いていないからだ。XMは圧倒的なボリュームと個性的な造形で、ただ者ではない自分を無言で周囲に知らしめていた。いや、無言ではない。キドニーグリルを90度回転させたような左右各2本出しのマフラーからは、勇ましいサウンドが放出されていた。
豆知識的に記しておくと、丸いBMWのバッジはリヤウインドウの右上と左上にプリントされている。ダークティンテッドなガラスに溶け込むような鈍色のバッジなので、近寄ったうえで「ココ」と、指摘されないとわからないほど、主張が弱い。
リヤは正体不明であるがゆえの不気味さがあるいっぽうで、フロントはBMWファミリーの一員であるのがひと目でわかる仕掛けになっている。BMWの象徴であるキドニーグリルを極端に強調したフロントマスクとなっているからだ。これを見て、東京・世田谷の環八通り沿いに建つ隈研吾設計のM2(1991年竣工)を連想した。BMWのモデル名と奇しくもおなじ名称だが、マツダの企画拠点のひとつで、現在は祭場として使われている。
このビルは古代ギリシャの建築様式に用いられるイオニア式柱頭を強調し、シンボリックに配置したのが特徴。「合理的」「機能的」なスタイルへの反動が過剰な装飾となってあらわれたとも捉えられるが、XMの巨大なキドニーグリルもその類に思えてしまう。振り切っているのは確かで、よくもこんなデザインにゴーサインが出たものだと感心する。
インテリアも振り切れている。複数の前衛芸術家がパートごとに作品を持ち寄ったような状態で混沌としており、カオスだ。しかしそれがこのクルマの個性になっている。これくらい混沌としていないと、個性の強いエクステリアとバランスがとれない。しかし、ステアリングホイールだけでは極めて機能的な形状と握り心地をしており、走りに関しては遊びの要素を退け、真摯に向き合っていることを伝えてくる。
異次元の加速エンジンは4.4リッターV8ガソリンツインターボを搭載する。最高出力は360kW/6000rpm、最大トルクは650Nm/1600~5000rpmを発生する。これに、最高出力145kW、最大トルク280Nmのモーターがくわわり、システム最高出力は480kW(653ps)、システム最大トルクは800Nmに達する。最高出力の数値だけでいえば、富士スピードウェイのホームストレートを300km/hで走り抜けるSUPER GT GT500クラスのマシンと同等だ。
これだけで驚いてはいけなくて、プラグイン・ハイブリッドのXMは29.5kWhの総電力量を持つリチウムイオン電池を搭載している。初代日産「リーフ」のバッテリー容量が24kWh、その後期型が30kWhだったことを考えると、ひと昔前の電気自動車並みの総電力量があるわけだ。カタログ上は102.6kmのEV走行が可能である。
いつものようにリヤバンパーの後ろから車体後部床面を覗き込んだところ、ボディを補強するV字ブレースが確認できた。フロントのサスペンションタワーは当然、アルミダイキャストの一体成形。エンジンルームには蜘蛛の巣が張ったように補強プレートとバーが固定されている。ボディはガッチガチに補強されている。
サスペンションの設定がCOMFORTでも、乗り心地はガッチガチだ。「これのどこがコンフォート?」と、疑問を呈するのは早く、速度域を上げるほどに印象は変わってくる。おそらく、ドイツのアウトバーンでセンターライン側車線を巡航する速度域に合わせてセッティングしているのだろう。路面にピタッと吸い付くような乗り味で、そのときの乗り味ときたら、バットの芯にボールが当たったような、ラケットのスイートスポットでボールを捉えたような心地良さである。高い車速域ではSPORTやSPORT PLUSですら心地良く感じる。
XMはホーンパッドの左右に「M1」と「M2」の赤いレバーがあり、これらを操作することであらかじめ設定しておいた駆動システム、ハイブリッド、トランスミッション、回生ブレーキ、シャシー(サスペンション)、ステアリングの制御をワンタッチで切り換えることができる。試乗車はもっともスポーティなセッティングがM2に割り当てられていた。レバーを奥に倒した途端、獰猛なエグゾーストサウンドに切り替わる。
480kW(653ps)のシステム最高出力と800Nmのシステム最大トルクは、理解を超えるパフォーマンスを発揮する。XMは全長が5110mmあり、全幅が2m超えの2005mmで、全長が1755mmの巨体だ。車重は2710kgもある。XMにとって、寸法や車重は単なる数字でしかなく、「月まで飛ぶつもりか?」と、皮肉りたくなるような異次元の加速を披露する。
いやはや、BMW XMは“異形のモンスター”である。無言で闊歩していていも周囲を振り向かせずにはおかないが、ひとたび吠えて走りだそうものなら、迫力に気圧されること請け合いである。かわいらしい一面があるとすれば、主の言いつけに忠実なことで、決して自らの意思で暴走しようとしないことだ。
文・世良耕太 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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全長が1755mmの巨体とは ?