もくじ
ー 3つの山頂 24時間以内
ー 武器は2代目リーフ 充電計画も万全
ー 充電作業に楽しみ 熟成のリーフ
ー カギは充電出力 疲れもピークに
ー 素晴らしき新型リーフ 問題は人間
ー 番外編1:増える充電ステーション
ー 番外編2:山に登ってみる
日産リーフ、本当にエコ? 維持費や下取り額の実際 3台乗り継いだオーナーが証言
3つの山頂 24時間以内
この馬鹿げた試みは初めてではない。2年前のことだったが、恐れを知らぬ(というよりも、世間知らずといった方が適切だろうか?)AUTOCARスタッフは、スコットランドのベン・ネビス、イングランドのレイク・ディストリクトにあるスカフェル・パイク、さらにはウェールズ北西部に位置するスノードン山の3つの頂を、24時間以内に制覇する旅に挑戦した。
このスリー・ピークス・チャレンジについては既にご存知かも知れないが、3064m分の上りを含む37kmの徒歩という数字は恐怖以外の何者でもない。乳酸と約800kmの運転の組み合わせであり、この挑戦をより難しくするため、われわれに与えられたのはピュアEVの初代日産リーフだった。
航続距離の長いディーゼルモデルであれば、一度も給油することなく全行程を走り通せたかも知れないが、当時、リーフの航続距離は177km程度と、とてもではないが全く足りなかった。
スカフェル・パイクまで半分ほどのところで、時間、希望、そしてわれわれの膝関節が消えてなくなり、チームAUTOCARにはタオルが投げ入れられたのだ。
それでも、もう少し交通状況が良ければ、充電インフラがもう少し充実していれば、そして、より長い航続距離があれば、このEVによる挑戦にも、多少の勝ち目があったのではないかとの思いがあった。
2018年の再挑戦のために、オリジナルメンバーの2/3が再結集したことは、前回の悔しさの表れであり、幹部エディターのマット・バートと、カメラマンのルーク・レイシーが、ネビスへの挑戦前夜をギネスとカレーで祝うという誓いを実行するために選ばれたことには首を傾げざるを得ないが、間違いなく今回の方が準備は万全だ。
今回は、どの充電ステーションをいつ使うべきか、そして、最大限バッテリーを活用するためには、どれだけの時間、充電を行うべきかもわかっている。そして、必要になるだろう充電インフラについて調べるために、最近あのBPに1億3000万ポンド(190億円)で買収された英国最大の充電ネットワーク企業であるChargemasterと、英国中の高速道路に充電ステーションを展開しているEcotricityにもコンタクトをしている。もちろん、すべてオンラインでだ。
武器は2代目リーフ 充電計画も万全
控え目に表現すれば、編集命令によって土壇場でドライバーを務めることになった。山登りを担当するバートとレーシー同様、前回の挑戦から得るものはないが、それでも、クルマだけはわれわれの味方だ。今回われわれに与えられるのは、航続距離が延びたからという以上の理由で、本誌が本物のゲームチェンジャーだと評価している2代目リーフである。
30kWhのバッテリーを積む初代リーフでは、慎重に運転すれば177kmの航続距離を達成することができたが、バッテリー容量を40kWhとしたこの新型では、その航続距離はおよそ266kmまで延びており、これだけの航続距離があれば、ほとんどのドライバーが日常使用で不具合を感じることはないだろう。
そして、驚くべきことに、この世界で最も売れているEVは、初代よりも安価なプライスタグを掲げている。エントリーモデルであるアセンタの価格は、2万5000ポンド(366万円)を若干上回る程度であり、加えて4500ポンド(66万円)の政府補助金まで用意されている。
今回の挑戦でも、われわれの「単純かつバカバカしい」ルートは、ほぼ前回同様だが、2016年の挑戦では航続距離で苦労させられたことを思えば、前回の挑戦以降、新たに設置された充電インフラの存在が、大いなる安心感を与えてくれる。今回のルートは、前回登頂に成功したベン・ネビスの麓近くにあるフォート・ウィリアムをスタートし、A82をグラスゴーまで移動したあと、M74号線でカーライルまでほぼ真っ直ぐ南下する。そこからは、A595号線にのってランカシャー沿岸に拡がる工業地帯沿いを走り、1車線道路でスカフェル・パイクの麓まで達する。
ネビスを出発する時点では、バッテリーはフル充電の状態だろうから、この418kmに達する行程では2~3度、50kW電源からの「急速充電」を行えば問題ないはずだ。新型リーフのリチウムイオンバッテリーには、容量以上の電源供給を制限する機能が備わっているため、時間節約の観点からは、こうした充電ステーションに到達する時には、バッテリー残量を20%~80%の間にしておくことが重要になる。
この作戦のもと、F1のピットストップのようなストップ&ゴーを繰り返すことで、1時間あたり160kmは見込めるだろう。
スカフェル・パイクを後にすると、ほとんど名は知られていないが、それほど苦労することもなさそうなエリアへと入っていく。荒々しい姿を見せるスカフェル・パイクから遠ざかりつつ、バッテリーが満充電されていることを考えると、M6、M56から、最終的には北ウェールズ沿岸部を走るA55号線を通過する336kmの旅に必要となるのは、1度の充電で充分だろう。
この行程を終えれば、21時間の旅のあと、われらがリーフはようやく最後の山であるスノードンの麓へと到着することになる。スケジュールどおりであれば、週の真ん中に行うこの無謀なチャレンジも、何とかやり遂げることができそうだ。
充電作業に楽しみ 熟成のリーフ
充電可能なスポットの探索には、Zap-Mapのようなアプリはまさに神の恵みと言えるだろう。このアプリによって、スポットの利用可否、出力、さらには料金情報まで確認することができる。
登山チームはネビス登頂を正午頃に予定しているので、リーフの最初の充電ポイントは、フォート・ウィリアム近郊にある国営のChargePlaceスコットランドだ。「急速」ではなく「ファスト」充電を選ぶと、われらがリーフのバッテリーを60%からフル充電にするための所要時間は2.5時間であり、充電後の航続可能距離は285kmと十分な数値を示してくれる。
今回は6kWの出力で、正確に18.692kWhの充電を行った。自分でも驚いたのは、普通のハッチバックに18.692ℓのガソリンを給油しても全く楽しくはないが、この充電作業には夢中にさせられたことだ。充電作業自体も非常にシンプルで、ChargePlaceスコットランドのカードを読み込ませてから、プラグを接続するだけである。
バートとレーシーが山頂から余裕をもって下山してくるには十分な、スタートから4時間半ほど経ったころ、運転手とリーフは地元ホッケー協会の駐車場へと戻ってきた。士気は高かったが、暑い日で、ふたりとも見事に日焼けしていた。息は荒く、携帯用食料のビスケットは食べつくされている。日産のテスト以外で、これほど厳しい試験を受けるのは初めてに違いない新型リーフだが、いよいよその真価を発揮する時がきた。
A82号線の山岳路では、アーチ橋をまるでホーンビィ社の鉄道模型に登場するミニチュアに思わせ、広大な森林は一片の芝生のようにしか感じられなかった。新型リーフによって、日産はこれまで考えられなかったようなドライビング体験を、当たり前のものにすることができるかも知れない。バッテリーパックの上に置かれたシート位置ははっきりと高いままで、テレスコ調整が無くなったステアリングのせいで、適切なポジションを見つけるのが難しいが、それでも、新型リーフにはこれまでなかった熟成を感じることができる。
路面不整に出会ってもダンピングはしなやかで、バイワイヤ式ステアリングの重みも適切だが、最も素晴らしいのは、ドライバーがバッテリーを最大限効率的に使えば、新型リーフはトラクターの後ろで我慢している必要などないということだ。
驚くほどシャープなアクセルレスポンスと、見やすいエネルギーメーターを備えた新たなデジタル表示は、ドライバーが髪の毛一本の微妙さで右足を操作することを可能にし、最小限の電力消費量で、新型リーフを望んだスピードで走らせることができる。
カギは充電出力 疲れもピークに
求められるのは忍耐よりも集中であり、まるでこの辺りのパブがスコットランド名物のハギスを他の料理に紛れ込ませるかのように、新型リーフは易々と他のクルマに混じって流れに乗るのだ。さらに、いくつかの設定を持つ回生ブレーキシステムが、走行条件に応じたエネルギー回収を可能にしている。
最初の2回の充電は、グラスゴー周辺のコース上にあるシェルの充電ステーションで行った。午後6時過ぎに、誰も使用していない充電ステーションに辿り着くことができたのだが、そのInstavoltの充電スポットは真新しく、売店の女性も、このステーションを実際に使用しているのを見るのはわれわれが初めてだと話していた。まさしく真っ新だったのだろう。
171kmを走破したあと、リーフが示す航続可能距離は109kmだった。予想した7.2km/kWhよりも良好なエネルギー効率のお陰で、バッテリー残量も36%と、われわれのストップ&ゴー作戦には十分な量を残している。プラグを接続して、非接触式のクレジットカードを読み込ませると充電が始まる。
続いて起こるのは現実とは思えない。バートとわたしが水とツナサンドを夢想していたことではなく、充電プラグを抜くと、リーフが示す航続可能距離は159kmに増えていたのだ。まさにこれが50kW充電の威力であり、技術の進展が350kW超急速充電器を実現するのもそう遠くはないだろう。
とはいえ、高速道路上の次の充電ポイントを探さなければならないという現実問題がある。リーフに乗って113km/hで巡航するのは驚くほど快適だが、バッテリー残量は恐ろしい速さで減っていくことになる。スコットランドからイングランドまでの距離や、ゆっくりと走る連結式ローリーのスリップに入っていたせいかも知れないが、本日ふたつ目の頂上を目指す前に、3回目の充電が必要になった。
省エネ走行を続けたあと、丁度20%のバッテリー残量でM6号線にあるトッドヒルズのサービスエリアに辿り着くことができたのは、個人的には今回の旅のハイライトと言ってもいい瞬間だった。
それでも、スカフェル・パイクへの到着が、午前1時6分と予定よりも遅れたのは、われわれの接近を完全に無視して路上を占拠していた羊の群れを避ける必要があったからだ。新型リーフの革シートに座って過ごした9時間と、厳密な充電作業によって、疲れ切っていたこともあるが、まったくのわがままのせいで、事態は悪い方向に進んでいた。
素晴らしき新型リーフ 問題は人間
われわれの挑戦を成功させるには、少なくともAUTOCARスタッフの1名が登頂する必要があるが、メンバーそれぞれが持病(バート:膝、レーシー:臀部、レーン:性格)をもつ中で、最悪の状況を引き起こしたのはわたしだった。
それでも、イングランド最高峰を午前3時に征服したあと、妙にハイになった状態で、次の行程に移る前に、英国国民が大好きなジャファケーキという名のチョコ掛けビスケットをすべて平らげるだけの余裕はあった。
山を下りても問題は続いた。充電するつもりだったホテルのゲートが閉まっていたのだ。前回の挑戦以降、主要幹線周辺の充電インフラ拡充は進んでいるが、やはり交通量の多い道から外れるのは非常に危険なのだ。
真夜中にもかかわらず、幸いにも他のホテルが充電ステーションを使わせてくれた(それでも、3ピン式ソケットでの充電はイライラするほど時間の掛かるものだった)ことは、パイオニアとしてEVを選んだオーナーたちが、時折体験することのできるひとびとの素晴らしさだろう。
この騒動のお陰で、スカフェル・パイクとスノードンの間で、再度の充電が必要となったが、既にその前には不吉な予感があった。そして、スノードンにはまだ56kmほどを残したコンウィの城壁を通り過ぎた辺りで、ついにクラクションが鳴らされたのだ。
つまり、チームAUTOCARは再び失敗したわけだが、今回は新型リーフを責めることなどできない。
今回の挑戦メンバーとは違い、このクルマは素晴らしかった。新型リーフには依然として情熱が足りないかも知れないが、784kmと24時間をこのクルマで過ごしてみて、われわれはこのクルマを、大きな欠点のない、様々なオーナーのニーズに対応することのできる、素晴らしく多機能なモデルだと評価している。
事実、次の挑戦に向けて、何かを変える必要があるとすれば、それは、われわれの肉体であり、決してリーフではない。
番外編1:増える充電ステーション
EVの購入価格が下がる一方で、充電ステーションの不足が販売の足かせとなっている。一般的にはそう思われているかも知れないが、今回の挑戦は違った面を見せてくれた。
高速道路上の50kW急速充電ステーションは充実していて、事前に計画さえしておけば、フォート・ウィリアムのような閑静な郊外でさえ、容易に充電場所を見つけることができた。
充電ポイントがあるからといって、それがすなわち利用可能であるとは限らないが、われわれの場合、あまり一般的とは言えないスケジュールのお陰で、充電待ちの列に並ぶようなことはなかった。
しかし、ランカシャーのように、それほど交通量の多くない地方で、40kWhのバッテリーを満たすとなると話は別だ。スカフェル・パイクから容易に辿り着ける場所には、利用可能な公共の急速充電器は存在しなかった。
しかし、この状況に対しては改善が計画されている。政府は最近充電ステーションを設置する企業に対して4億ポンド(585億5000万円)の基金を設定することを公表しており、例えば街路灯などに充電器を設置することで、低コストかつ、アクセスが容易な設置方法を推奨している。
オイルメジャーのシェルとBPも英国内のガソリンスタンドに急速充電器の設置を進めているのだ。
番外編2:山に登ってみる
前回2016年にこの挑戦を行った時、スコットランドの充電インフラとともに、われわれの進行を妨げたのは、われわれ自身の肉体だった。そして、今回の挑戦でも、スタミナ不足が明らかな障害となった。
われわれは、ベン・ネビスの頂上をそれなりの時間で往復する必要があったが、1345mの頂上からのガレた下山ルートが、わたしの足を使いものにならなくした。
「エクササイズなどしたことがない」と言っていたわりに、ルーク・レイシーは、自身のカメラ機材を肩に担いで、軽々とベン・ネビスとスノードンのふたつの山を制覇した。
ドライバーとしてこのチャレンジに同行したリッキー・レーンは、真夜中にもかかわらず、スカフェル・パイクの登頂に情熱を燃やし、4時間を切るタイムでこれに成功している。一方のわたしだが、喜んでリッキーの代わりにリーフのステアリングを握っていた。
24時間の制限時間を守ることはできなかったが、スノーデンの登頂にも成功し、われわれのチームは3つの山を30時間28分で制覇した。2016年と比べれば、素晴らしい進歩である。
普段から運動している人物であればどのくらいでこの挑戦を成功させることができるのか、わざわざ調べる必要はなかった。日産欧州でEV部門のトップを務めるギャレス・ダンスモアは、新型リーフに乗って23時間40分というタイムでゴールしてみせ、その意思の強さと、伸び続けるEV性能の双方で、われわれ全員を驚かせた。
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