意外なる長寿エンジン「ザッパー系」が積み重ねた31年の歴史
2006年12月、ゼファー750ファイナルエディションの発売がアナウンスされ、1990年初頭から続いたゼファー750の16年におよぶ歴史が幕を閉じたが、またそれはもうひとつの終止符でもあった。搭載される738ccの空冷4発のエンジンがその前身の652ccユニットの流れを汲む系統であり、長らくミドル4気筒として親しまれた通称「ザッパー系エンジン」のファイナルでもあったからだ。
【画像15点】カワサキ・ザッパーの元祖Z650と最終型ゼファー750をじっくり比較
私事ながら、この系統の銀/紺のGPz750に約7年乗り、その数年後またも人気があまり高いとは言えなかったZR-7を愛車としたため、筆者のカワサキザッパー系との縁はかなり深い。そして、現行車としてのザッパー系モデルを試乗できるのはこれが最後になるかもしれないという感慨を胸に、ザッパー系始祖モデルのZ650と、系譜の最後を飾るゼファー750を同時試乗した。
自身初のナナハンGPz750と過ごした発見と快感の日々
1976年に発表、77年にその元祖Z650が発売され、後に“ザッパー系”と称されることになるエンジン系統のモデルは、筆者にとってとても親しい存在だった。それは今から10年以上前の1994年、16歳(83年のこと)のころの単なるあこがれが蘇ってきて、GPz750を衝動買いしたところから始まる。無論そのときは、「ザッパー系だから気に入った」などといううんちくはなく、単にGPzのフォルムが気に入っていたから購入したに過ぎない。
それからは、小さな発見(格闘?)と快感の日々だった。購入当時でも車齢が10年以上を超えており、どんな使われ方をしていたのか分からない中古のエンジンと車体である。少しずつ手を入れなければならなかったが、それでも自身初所有の大型バイクがもたらすパワーと刺激に、魅せられ続けた。だが、GPzとの「蜜月(!?)」のなかで一番印象的だったのは、オイル漏れかもしれない。手に入れておそらく2000kmも経たぬうちに各部に滲み、漏れが発生し、シリンダーヘッドとベース、ヘッドカバーガスケットを交換。前オーナー(もしくは前々オーナー?)の粗い使い方を経て、各合わせ面は多少歪んでいたのかもしれないが、結局油温管理を考えゼファー750用のオイルクーラーも後付けした。だが、その後オイル下がりで白煙を吹くようになり、バルブまわりを交換。
さらにしばらくすると、セルモーターのワンウェイクラッチが冷間時に空回りする症状が出てきて、ついには空転して交換。これ以外にも都合6万5000kmをともにした約7年間に、エンジン部に限って言えばカムチェーン、プライマリーチェーン交換、純正オーバーサイズピストンへの換装なども行った。おそらく我がバイクライフのなかで、相当手間と費用を注ぎ込んだバイクだった。
そういう実体験を通して見ると、このザッパー系パワーユニットが、当初から耐久性や信頼性面で長寿たり得る資質があったわけではないことが分かるが、そこには何がしかの魅力があった。
それゆえ、2年ほどのブランクを経て、またザッパー系の末裔ZR-7(1999年)を購入し、6万km近い距離を重ねることになるのだが、自分のそうしたバイク「遍(偏?)歴」を踏まえつつ、改めて元祖Z650と最終モデルのゼファー750に乗って感じるのは、Z1やニンジャ、ZZRシリーズといった花形機ほどの輝きはないものの、やはりシリーズで共通する個性が味わえ、30余年を経て地味で控えめな熟成があることである。
750版ザッパーに劣らぬ、元祖Z650の加速感
試乗車として用意されたZ650は、細部のパーツが少々変更されているものの、コンディションは上々の初期型、B1だった。イグニッションをオンにし、セルを回す。ガララン(空回り音)。GPz時代の一時期によく聞いた懐かしい音だ。セルモーターのワンウェイクラッチのストッパー機能がうまく働かないときに出る音で、特に冷えた状態だとなりやすいが、チョークを引き、2~3度目のセル始動でエンジンに火が入った。すると、こちらもかつての愛車で始動直後によく聞いたクランクまわりからのゴロゴロ音(一次減速用のハイボチェーンから発せられる)が耳に入る。しかし、暖まって回転が少々上がると、ゴロゴロ音が消えていく点もGPzと同じ。そうしてエンジンが暖まったところで発進。
Z650の652ccエンジンの乗り出しの印象をひと言で言えば、懐かしいザラつき感を秘めた意外な力強さである。後の750版738ccより、実用域でのピックアップのよさをねらったトップ5速の変速比と二次減速比(いわば若干ショート方向)の組み合わせは、街なかでは750とまったく遜色ない加速感をもたらすし、むしろ前述のざらつき感は粗々しさの演出ともなる。またこの粗々しさは、強制開閉型のキャブレター(ミクニVM24SS)のピックアップのダイレクト感とわずかな粗雑感によるものとも言える。
Z650は、トップ5速のメーター読みで80km/h≒4000rpm(ゼファーは3300rpm)、100km/h≒5000rpm(ゼファーは4300rpm)と加速していく。エンジンは1500rpm付近からすでに実用的な加速が可能だし、4000rpmを超えてからはより滑らかでシャープな回転上昇とともに鋭い加速を披露する。ゼファーと比較すれば、若干ローギヤードな設定も手伝い(最大トルクは750版より数値上若干大きい!)、実に野性味ある元気な加速をする。
角張ったシートにより、身長173cmでも両足接地ではカカトが浮くものの、シートやタンクまわりのスリムな収まりによって不安感は皆無。そして特筆すべきは、手ごたえというほどの存在感ではないものの、ごく自然な旋回性と切り返しが可能な、前19、後18インチのもたらすハンドリングだった。
(Z650 B1車両説明)
■77年登録のZ650(B1)。オーナーは埼玉県在住の女性。外装はリペイントした際に、やや純正色と違う仕上がりになってしまったそうだ。フロントフォークはZ1-Rのものに換装し、ダブルディスク化して制動力を強化している。リヤサスはWP製。エンジンとキャブはノーマルのまま。ゼファー750を探しているときにたまたま目にして、スタイルが気に入り買ってしまったという。
ザッパー系モデル30余年の程よき熟成を感じるゼファー750
一方、カワサキの名機Z1/Z2系の空冷DOHCインライン4と比較すれば、ザッパー系エンジンの特徴は、軽快でシャープということに尽きる。軽快さはショートストロークとクランクマスの軽さ、加えてプライマリーチェーン駆動での回り方の軽さなどが効いていると思うが、シャープさは、特性変化がもたらす「錯覚的なシャープさ」も利いている。インライン4なりの実用的なトルクがあるとはいえ、その実ザッパー系の低速トルクは、750版の738ccとなっても、Z2よりもこれより前に出たホンダの名機CB750Four(1969)の736ccOHCよりも線が細く感じる。
扱いやすいフラットトルクを前提としたCB750Four系とも、Z1/Z2系とも異なる、この低速の細さと4000rpmを超えてからの滑らかな回転上昇と加速が、いわば「シャープな感じ」を強調する。そして、6000rpm付近を超えたところからは、さらに回転感を鋭くする。メカニカル音と排気音の相乗効果で、吠えるようなサウンドで加速し9000rpm超まで軽く回転上昇する。とはいえ、このザッパー系の加速は、もちろん次世代の600cc水冷4気筒スーパースポーツに及ばない。サウンドは吠え、感覚的に鋭くシャープだとはいえ、どこかに古風なものを引きずっているのだ。
(ゼファー750車両説明)
■06年型ゼファー750の黒/黄(型式はZR750C6FA)は、初期型Z1=900SUPER FOURの欧州仕様にあったイエローボールをモチーフとするカラーリング。人気の高い茶/赤のファイナルエディション(C6SA)のほかに深緑/金(C6S)も追加発売され、“最後のひと花”を咲かせることに成功した。
これは元祖の650でも1980年代に頂点をねらったGPz750でも、マイルドなスタンダードバイク的味付けを与えられたゼファー750でも共通する部分だ。前述のカムチェーン駆動により、1970年代的には軽快な半面、1990年代以降に開発されたカムギヤ駆動の直4エンジンのような高性能追求型の精度の高さは感じない。
加えて、ストレートポートによるダイレクト吸気と燃焼効率優先の4バルブでもない、キャブレターによる混合気供給に加え、ある意味では時代遅れな2バルブという組み合わせが、混合気を成り行き任せの自然な流速で燃焼室へ送り込むイメージがある。そうした高性能へ向かう過渡期のメカニズムを、中途半端だがいい味に思えるのは、長年連れ添ったゆえのひいき目かもしれない。だが、1990年代の始めころ、ゼファー400に端を発するスタンダードネイキッドの大ヒットは、その前の進み過ぎた性能(レーサーレプリカブーム)へのアンチテーゼから生まれたものであることを思い起こしてみると、そのよさもなんとなく理解できるのではなかろうか。
ザッパー系最終モデルとなるゼファー750は、水冷4バルブエンジンが国内各社のスポーツバイクの主流となった1990年の夏に登場した。先端の性能を目指すことから任を解かれた空冷2バルブユニットには、まるで思いがけず与えられた余生のようなものだったのかもしれない。そんな肩ひじ張らないゼファー750の性能は、Z650やGPz750と比べてもまろやかだ。回転感にゴリゴリもザラザラ感もなく、スムーズに伸びる。しかし、4000rpm付近を境に増す回転上昇の滑らかさと6000rpmからのもう一段上の鋭さは、消音されていても実感できる。
さらに、長期間の使用で滑ったセルスターター用ワンウェイクラッチの構造は一新され、始動後間もなくにあったプライマリーチェーン付近から発せられるゴロゴロ感は、チェーンガイドの新設によって皆無となった。そしてエンジンの各合わせ面のガスケットは材質が改善され、オイル漏れとはほぼ無縁。急加速をして高回転まで引っ張りシフトアップしたときの、どこか頼りなさげな入り方のミッションも節度ある方式へ見直されている。歴代モデルと乗り比べてみないと分からないような地味な熟成部分だが、ザッパー系は、無為に時を重ねたわけではなかったのだ。
軽快でシャープと形容されたザッパーの愛称の語源は、「風を切り裂く擬音」=ZAPに由来することはよく知られているが、ゼファー(ZEPHYR)とは、「やわらかな西風」、または「そよ風」を意味するようだ。30年も過ぎれば、確かに時代は相当変わる。小気味よい性能で、1970年代スポーツバイクのメインストリームを切り裂いたザッパー系は、後にメインストリームに追いつかれ、追い越されて「そよ風」になった。言い得て妙だし、紛れもなく空冷直4のDOHC2バルブはレトロ風味だ。だが、バイクのメカニズムは格段に進化しても、乗り手側の性能が格段に進化するものではないからこそ、ザッパー系はあらゆるレベルのライダーに寄り添い、程よい刺激を提供し続けたのである。
【カワサキ Z650(B1)主要諸元】
■エンジン 空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ ボア・ストローク62×54mm 総排気量652cc 圧縮比9.5 キャブレター:ミクニVM24SS 点火方式バッテリー・コイル 始動方式セルキック
■性能 最高出力64ps/8500rpm 最大トルク5.8kgm/7000rpm
■変速機 5段リターン 変速比1速2.333 2速1.631 3速1.272 4速1.040 5速0.888 一次減速比2.550 二次減速比2.625
■寸法・重量 全長2170 全幅850 全高1145 軸距1420 シート高──(各mm) キャスター27° トレール108mm タイヤF3.25H-19 R4.00H-18 乾燥重量211kg
■容量 燃料タンク16.8L オイル3.5L
■車体色 キャンディスーパーレッド、 キャンディエメラルドグリーン
■価格 43万5000円(1977年当時)
【カワサキ ゼファー750主要諸元】
■エンジン 空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ ボア・ストローク66×54mm 総排気量738cc 圧縮比9.5 キャブレター:ケーヒンCVK32 点火方式トランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力50kW(68ps)/9000rpm 最大トルク54Nm(5.5kgm)/7500rpm
■変速機 5段リターン 変速比1速2.333 2速1.631 3速1.272 4速1.040 5速0.875 一次減速比2.550 二次減速比2.250
■寸法・重量 全長2105 全幅770 全高1095 軸距1460 シート高780(各mm) キャスター28° トレール107mm タイヤF120/70-17 R150/70-17 乾燥重量206kg
■容量 燃料タンク16L オイル3.6L
■車体色 エボニー×パールソーラーイエロー、メタリックオーシャンブルー、キャンディダイヤモンドブラウン×キャンディダイヤモンドオレンジ
■価格 73万円(2006年ファイナルエディション税込価格)
report●阪本一史 photo●澤田和久
※この記事は別冊モーターサイクリスト2007年3月号の特集「1976~2006 KAWASAKI ZAPPER 31年目のラストラン」を編集・再構成したものです。
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みんなのコメント
CB750Fが一人乗りでもフレームが弱くって
ゼファーは二人乗りをしてもフレームがしなることもなく
(だからといって跳ねるほど硬いわけではないし)
集合管をつけるとオイルエレメントを交換できなくなるから
スリップオンしか入れれなかったけど