BMW3シリーズというクルマは世界のベンチマークとして存在を続けるのだが、新型が出るたびに「新型はまちがいなくいい」なんていうインプレッションが溢れる。
そもそもが600万円を超えるクルマであり、その完成度が高いのは間違いないはず。でも消費者が本当に知りたいのは「イマイチなところ」ではないだろうか?
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そんな新型3シリーズについてベストカー本誌にて「唯一のライバルは旧型3シリーズ」と結論付けた鈴木直也氏に聞いてみた。
新型3シリーズの「イマイチなところ」はなんですか?
文:鈴木直也/写真:池之平昌信
■期待が大きすぎてガッカリも大きいのが3シリーズ?
3シリーズはBMWの大黒柱だから、モデルチェンジで「外す」ことはまず絶対にない。
デビューしたばかりの新型G20系ももちろん期待を裏切らない出来で、その「駆け抜ける喜び」は乗る者を魅了する。
プレミアムスポーツセダンとしては定番中の定番。誰にでもお勧めできる優秀なクルマだ。ただ、ぼくだけかもしれないけれど、今度の3シリーズには、なぜか「ときめき」がない。
ニューモデルっていうのはいつもなにか新鮮な「WOW!」があって、乗ったらそれを人に話したくなるもの。
しかし今度の新型は「3シリーズどうだった?」と聞かれても「うん、よかったよ」以上の感想が出てこないのだ。
なんでそうなんだろうと考えるに、まず思い当たるのはデザインがキープコンセプトであまり変化がないことだ。
ぼくはたまたま昨年10月のパリサロンでワールドプレミアの現場に居合わせたが、「このセグメントのゲームチェンジャーの登場です!」という華々しいアナウンスとともにアンベールされたとき、ちょっとズコッとなったのを覚えている。
だって、あんまり変わったという印象がなかったんだもの。もちろん、ちゃんと見ればデザインは全面的に変わってる。
L字型のデイライトランニングライトが眼力をキリッと引き締めたフロントマスクや、折れ曲がってボンネットまで拡大されたキドニーグリルは新世代BMWのお約束で、いわゆるデザインランゲージは新しい。
また、ドアハンドルをつなぐキャラクターラインはうっすらと残るくらいに弱められ、サイドはややのっぺりした印象。
そのかわり、ドア下部にシュッとリアに向けて跳ね上がる強いキャラクターラインが入る。ここも、旧型とはぜんぜん違う。
そういうディテールは確かに変わってはいるのだが、全体のシルエットはじつによく似ているんだよねぇ。
少し遠目に見ると、ホント新旧区別がつかない。なんとなくだけど、2009年にクリス・バングルからエイドリアン・ホーイドングにデザインチーフが代わって以降(編集部註:MINIなどを含むBMWグループ全体のデザインチーフ)、BMWのデザインはバランス重視に舵を切ったような気がする。
そういえば、たしか2年ほど前にBMW部門のチーフデザイナーも代わったよね。カリム・ハビムからヨセフ・カバーンだっけ? チーフの交代期という影響が出てるのか、守りに入ってる感が強い。
BMWの日本人デザイナー永嶋譲二さんによると、ホーイドンクはデザインとビジネスをマネジメントするのが巧みらしい。
要するに売れるデザインってことなんだろうけど、今度の3シリーズは誰からも文句の出ない順当な世代交代なんだと思われる。
■旧型から大幅サイズアップでキビキビさは減った
そんな中、むしろ変化したことに気づくのはサイズ感だ。寸法諸元を見ると、ホイールベースの41mm延長によって全長は4.7mを突破。
また、1.8mを超えないよう日本仕様だけ気を使っていたドアハンドルも、今回は廃止され、カタログスペック上も1825mmとなる。
数字だけではなく、見た目のボリューム感もたっぷりだ。
前述のボンネット側に折れ曲がった立体的なグリルや、キャラクターラインを減らして「面で見せる」サイド、空力効果を狙った高いトランクリッドなどは、どれも大きく見せるデザイン処理。
それが多用されているってことは、たぶんデザイナー自身が「大きく見せよう」という意志を持っているからだと思う。
そんな上級シフトを意識したのか、インテリアの質感は大いに向上している。3シリーズの内装は機能的ではあるが素っ気ないのが伝統だった。
新型ではセンターディスプレイが湾曲しつつメータークラスターにつながって行くところや、クロームとグロスブラックの対比が綺麗な加飾など、新型は見違えるほどにスマート。
メルセデスがキラキラ系に走って大成功しているのを意識したのかもしれないが、最新スマホにも似たクール系の新しさが表現されている。
もちろん、価格的にも新型は上級シフトしていて、先日試乗した330i Mスポーツは632万円。
ADAS系の大幅進化や日本仕様はほとんどの装備が標準となるてんこ盛り仕様ということもあるが、なかなかサラリーマンにはきつい価格になったという気がする。
それでも、走りのキャラクターについてはさすが3シリーズ、乗ればやっぱり現代最良のFRスポーツの一つであることは間違いない。
2L直4ターボ(258ps/400Nm)は、もはやダウンサイズターボというよりそれ自体が魅力的な2Lターボスポーツエンジン。
最大トルク400Nmのパンチはかなり強力だし、過給しているとは思えない自然なトルク特性でスムーズに吹き上がるのも心地よい。
ドライブモードで“スポーツ”を選ぶと、エキゾーストの抜けが良くなってエンジンの吹き上がりはさらにシャープさを増し、サスペンションは従来型の“スポーツ”よりずっとハードに変化する。
このスポーツモードでは、いかにも3シリーズらしいスポーティ志向が明確になるのだが、足回りの変化はかなり固め。
箱根のようなワインディングでは、操舵レスポンスにガシッとした手応えが加わるのが頼もしいが、街中ではBMWファンにとってすら乗り心地面でちょっとツライかもしれない。
ドライブモードには新たに状況に応じて変化する「アダプティブ」が追加されたから、積極的なドライビングを楽しみたい時にはそこを選んでおくのが無難だろう。
シャシー性能について敢えて注文をつけるとしたら、タイヤ性能の向上によってこれまで以上にオンザレール感覚が強まっていることだ。
現状330iはMスポーツのみの設定だが、4ポットブレーキ、10mmローダウンの可変ショック、電制LSDなど、足回りのスペックはまさに完全武装。
完璧なスタビリティと引き換えに、アクセルで回頭させるFRっぽい感覚は希薄で、FRらしくアクセルを踏んで積極的に回頭させる感覚を味わうには、直6ツインターボ(374ps/500Nm)の340iが必要だ。
このあたりも、ぼくが新型3シリーズにときめかなかったひとつの要因。スタビリティはややルーズでも、ワインディングを軽快に駆け抜ける感覚は従来型F30系の方が刺激的。
ひと回り小さく感じるサイズ感も、日本のワンディングを楽しむにはお手頃なのだ。
ま、改良を重ねて、いずれは「F30ももう古いよね」と言われる時が来るのだろうが、今のところぼくは従来型F30系3シリーズの方が「ときめき」があると思うなぁ。
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