大きく耳へ届くV12エンジンのシンフォニー
アメリカの規制へ合わせるため、フェラーリ・デイトナ・スパイダーのヘッドライトはリトラクタブル式。ただし、モーターショーに展示された車両には、プレキシガラス・ノーズが与えられていた。1971年以降は、デイトナ・ベルリネッタも変更されている。
【画像】FRの通称デイトナ フェラーリ365 GTB/4 先代の275 GTB 現行の812シリーズも 全109枚
ロッソ・キアーロの塗装が美しいスパイダーは、ここ12年間に1600kmほどしか走っていない。ギルバート・スミス家が乗って楽しんでいるベルリネッタとは対照的に、主要な操作系にはまだ新鮮味が残っている。
後期モデルとなり、メーターまわりなどに小さな変更を受けている。ステアリングホイールはレザー巻きで、直径も小さい。インテリアの雰囲気は、1970年代に合致している。
ソフトトップを開いて、テストコースのアルペンルートを駆ける。速度を上げると風切り音が増すが、聴き応えのあるV型12気筒エンジンのシンフォニーも、明らかに大きく耳へ届く。
ベルリネッタと比較すると、高速コーナーの入り口で反応が若干遅れることへ気付く。補強に伴う、車重増が原因といえる。それでも、シャシーはしなやかに路面を掴み続け、ボディが不自然に震える様子もない。
合計15台が製造されたコンペティツィオーネ
オープンエアが爽快なスパイダーから、シリアスな容姿の365GTB/4 コンペティツィオーネへ乗り換える。だが、耐えるような体験へ身構える必要はない。
フェラーリは1971年から1973年までの3年間に、5台ずつ3種類のレース用デイトナを製造している。これには2台のプロトタイプと、マラネロでコンバージョンを受けた8台を含む。
手始めとして、グループ4カテゴリー向けに開発されたデイトナが、コンペティツィオーネ・シリーズ1(C S1)。参戦規定に沿った500台の量産車の生産が間に合わず、当初はグループ5で戦ったものの劣勢を強いられた。
メカニズム的には量産車とほぼ変わらず、アルミ製ボディはグラスファイバー製へ置き換え軽量化。更なるダイエット目的で、樹脂製のウインドウを備えた例もあった。
1972年に、コンペティツィオーネ・シリーズ2(C S2)へ進化。エンジンには専用カムとヘッドが与えられ、圧縮比は9.3:1から10.1:1へ上昇し、最高出力は407ps/8300rpmへ強化されている。
ホイールの幅は、フロントが9J、リアが11Jへワイド化。高速安定性と冷却性能を高めるべく、ボディにも大幅に手が加えられていた。
1973年に投入されたのが、最終のシリーズ3(C S3)。サスペンションへ更なる改良が施され、V型12気筒エンジンは4390ccのままながら、最高出力は456psに達している。
ボディサイドに顔を出す2本のエグゾースト
これらのコンペティツィオーネは、フェラーリのワークスチームが競わせることはなかった。しかし、1971年の総合5位や、1972年から1974年のクラス優勝など、ル・マン24時間レースでは確実な結果を残している。
今回、デイトナ・コンペティツィオーネをお持ちいただいたのは、フェラーリのレストアなどを得意とするDKエンジニアリング社。当時に正規で作られた車両ではなく、クラシックカー・レース参戦のため、1983年にフェラーリでコンバージョンされた1台だ。
イタリア・モデナへ持ち込まれ、オリジナルと同様にブランドーリ社によってボディはシリーズ3仕様へ変更されている。レッドのボディに、ブルーのストライプが鮮やか。エンジンは、名門のサウロ社が手掛けた。
大きく張り出したリアフェンダーの直前、ボディサイドに顔を出す2本のエグゾーストが、コンペティツィオーネの証。ドアを開くと、ブルー・ファブリックのバケットシートと、サベルト・ハーネスが出迎えてくれる。
左ハンドル車で、メーター類などは通常の量産仕様と大きな違いはない。イグニッションキーを回すと、クランキング後に勇ましいアイドリングが始まる。グッドウッド・フェスティバルのピットレーンのように、エンジンの脈動するノイズが周囲を満たす。
記録によれば、シーズン2とシーズン3のコンペティツィオーネは、通常のベルリネッタより約180kgも軽量だったという。実際、このクルマも乗り比べてみると軽快に感じられる。
エンツォ自ら開発を指揮した最後の量産車
最初のコーナーから明らかに意欲的に回頭し、頂点めがけて流れていく。ロールケージが組まれているおかげで、ボディ剛性も明らかに勝る。高速域では、まったく次元の異なる身のこなしを披露する。
V12エンジンはピーキーで痛快。最高出力は8300rpmと高く、レッドラインへ迫るほど、サイドエグゾーストから放たれる咆哮が高音域へ変化していく。魅了されずにいられない。
デイトナは、フェラーリの創業者、エンツォ・フェラーリ氏が自ら開発の指揮をとった、最後の量産車だといわれている。その最終進化形として、コンペティツィオーネは非の打ち所がない仕上がりにある。
歴代のクラシック・フェラーリと、直接的なつながりを持つというだけではない。エンツォとの直接的な結びつきを持つフェラーリでもあり、今もなお羨望を集めて当然といえるだろう。
協力:UTACミルブルック社、DKエンジニアリング社、ギルバート・スミス家、コッティンガム・ブルーチップ・ロンドン社
フェラーリ365 GTB/4のスペック
英国価格:9998ポンド(1971年時)/60万ポンド(約1億500万円)以下(現在)
販売台数:1284台(GTB/4)/122台(GTS/4)
全長:4420mm
全幅:1760mm
全高:1244mm
最高速度:280km/h
0-97km/h加速:5.4秒
燃費:4.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1601kg(GTB/4)/1420kg(C S3)
パワートレイン:V型12気筒4390cc自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:357ps/7500rpm(GTB/4)/456ps/8300rpm(C S3)
最大トルク:43.8kg-m/5500rpm
ギアボックス:5速マニュアル
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