2019年1月、デトロイトショーでついにトヨタのスポーツカー、「スープラ」が正式発表された! 近年、スポーツカーは“冬の時代”と言われ、新しいスポーツカーはなかなか発売されないのが現状。スープラ自身もそうした時代の波にのまれ、2002年に生産中止して以来、実に17年ぶりの復活となった。
トヨタはなぜスープラを復活させたのか。そして、それがなぜ生産中止から17年経った今なのか。スープラを使ってレースの世界で数々の実績をあげ、自身もまた先代型スープラを所有するプロの視点から、スープラ復活の意味を紐解く。
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取材/文:ベストカーWeb編集部
写真:編集部、TOYOTA
「意のままに操れる」プロが見たA80スープラの特別さ
時計の針を巻き戻して今から遡ること9年前。2010年にトヨタの開発の仕事で、A80型スープラをドイツ・ニュルブルクリンクで走らせた経験もあるのが、レーシングドライバーの脇阪寿一氏だ。
脇阪氏といえば、日本最高峰のレース「スーパーGT」で、計3度年間チャンピオンを獲得したトップドライバー。その最初のチャンピオンをともにしたのが、他でもなく「スープラ」だった。
レース車両のスープラと縁が深かった脇阪氏が、量産車のスープラに強い印象を抱いたのは、先述の2010年、自動車開発の聖地としても知られる“ニュル”での出来事だったという。
「僕らがやっていたのは運転訓練やからタイムは関係なくて、クルマの動きが正確に感じられ、それによってコースを深く理解できるかどうかが重要でした」
「当時で生産中止から8年経っていたけれど、スープラはタイヤの表面で起こっていることやクルマの動きが“ほぼ時差なく”我々ドライバーに伝わってくる。タイム=速さなら最新車が上だろうけれど、誰もが乗って楽しめる、それが当時スープラを良い車だと思った理由ですね」
当時、トヨタ車の開発に欠かせない“運転訓練”のため、脇阪氏と同じく数名のレーシングドライバーが同地を訪れていたという。実は、この時「別の最新モデル」も用意されていたのだが、それぞれの車でコースを一周走った後、そこにいたドライバーはこぞって、スープラに乗りたがったという。
「ひと言でいうと“素直”。だから、他の量産車を運転していて感じた怖さがスープラにはなかった。スープラの魅力はそこなんやろうと思います」
実は脇阪氏に限らず、レーシングドライバーには、このA80型スープラの“ファン”が多い。プロにも好かれる車、それがスープラの評価を端的に表しているのかもしれない。
なぜスープラは復活までに17年もかかったのか?
奇しくもこのエピソードと符合する話をデトロイトショーの檀上で語ったのが、他でもない豊田章男社長だった。
ニュルブルクリンクでドイツ車メーカーが発売前の車を使用し、どんどんテストドライブを重ねるなか、当時のトヨタにはニュルで運転訓練を行えるレベルにある車が、生産中止になった80スープラしかなかった。
当時、まだ社長ではなかった豊田氏は、その時感じた悔しさを胸にトヨタのトップテストドライバー、成瀬弘氏とともに運転訓練を続ける。
成瀬氏は、トヨタの新車開発を担うテストドライバーのトップを務め、数々のスポーツカー開発にも携わった人物。社長就任以前に豊田章男・現社長がドライビングの師として指導を仰いだ人物でもある。
その後、成瀬氏がテスト中の事故で逝去するという悲劇がありながらも、1年後の2011年に豊田社長はスープラ復活の決断を下したのだった。
こうしてスープラは復活に向けて動き出したわけだが、気になるのはなぜ、結果的に17年もの月日を要したのかという点だ。
そもそも、2002年に消滅したスポーツカーは、トヨタのスープラだけではなかった。日産の「シルビア」や「スカイラインGT-R」、マツダの「RX-7」など国産スポーツカーは、当時の「平成12年排出ガス規制」に対応できず、軒並み生産終了に追い込まれた。
この頃から環境性能に対する要求と市場のニーズは高まってゆき、さらにリーマンショックが追い打ちをかけ、国産スポーツカーは減少の一途をたどる。
一方で、スポーツカーを求める自動車ファンの声も少なからず存在。その人気を裏付けるように、今では先にあげたスポーツカーたちの中古車は高値で取引されるようになった。
スープラも、時代とともに“再評価された車”という側面が強い。現役当時からトヨタを代表するスポーツカーではあったものの、トヨタ自身や他のメーカーからスポーツカーが消え、魅力的な車が減少するなかで、ユーザーにも「やっぱり良いクルマだったよね」と再評価されてきた。
そして、それに呼応する形でトヨタ自身もスープラの車としての魅力や価値に改めて気づいたことが、長い時間をかけて復活へとつながった理由ではないだろうか。
BMWとの協業でスポーツカーの新しいカタチ
さて、新型スープラは、BMWとの協業という形で復活を遂げた。2012年にスバルとの共同開発で発売に漕ぎつけた「86/BRZ」のように、トヨタは他メーカーとコラボレートしてスポーツカーを開発するという道を選んだわけだ。
これに関しては賛否両論あるだろう。スポーツカーは自動車メーカーの“顔”であり、ブランドイメージを代表する存在。それにも関わらず、他メーカーと基本部分が同じでいいのか。独自に開発すべきではないのか。そうした意見もあるだろう。
だが、今や1社単独開発・専用設計のスポーツカーで採算を合わすのはそう簡単ではない。
「じゃあスポーツカーはなくなってもいいのか?」
そんな問いに対する一つの答えが、新型スープラであり、86という存在なのだろう。依然としてスポーツカーに厳しい市場環境を見れば、メーカーを横断したスポーツカー作りは、今後の新しいカタチになるのではないだろうか。ユーザーにとっても1社単独で実現しないモデルが、協業によって世に出るならばメリットは大きい。
大事なのは「どこと一緒に作ったか」ではなく、「良い車かどうか」だろう。スポーツカーは「出したら終わり」という車ではない。そこから如何に熟成を重ね、“作り続けられるか”によって、後の評価やメーカーにもたらす意義は大きく変わってくる。
脇阪氏は最後にこう付け加えた。
「スープラの復活はA80があり、そして豊田社長と成瀬さんのストーリーがあってこそ。僕自身スープラにお世話になったからこそ、この復活が本当に嬉しいし、感謝しています」
「それと同時に、スープラ=直列6気筒エンジンのFRスポーツカーというのは今までの話で、将来的なことを考えると、僕はそうやなくても良いと思っているんです」
新型はスープラとして通算5代目のモデルとなる。その歴史の中で、「セリカXX」という車名だった初代から2代目、2代目から3代目へとブランドを育ててきた。一旦は途切れた歴史が新型スープラとして蘇ったのも、先代A80の存在があったからこそだ。
しかし、これからの自動車を取り巻く環境を考えれば、「直6・FR」の車を作れない時代がやってくるかもしれない。だからこそ、今度のスープラは真価が問われる。
新型スープラが新たな“トヨタを象徴するスポーツカー像”を提示できれば、それは必ずや次のスープラにも繋がってゆく。
新型スープラの勝負は、ここからが本番だ。
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