現在、中国は自動車販売においてアメリカ合衆国を抜いて世界一である。2017年には2887万台を販売したとされるが、10年前には879万台であったことを考えると、これはトンデモナイ成長だと言えるだろう。
中国ではどのようなクルマが好まれるのか?
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そして中国の自動車に関する嗜好はちょっと変わっている。それは「セダンとSUVが好まれる」というもので、ミニバンやワゴンは大変な不人気車種だ。よって、街中を見渡すと、そのほとんどはセダンとSUV、という状況になる。
もうひとつ日本と異なるのは「クーペ」もほとんど見ない、ということだ。最近は日本でもクーペ人気は下火だが、中国では下火どころの話ではない。
「まったく」といってもいいほど見ないのだ(ただしポルシェ等の高級スポーツカーやスーパーカーを除いて、だが)。
これにはひとつ、明確な理由がある。単にクーペはセダンやSUVに比べ販売価格が「高い」のだ。
中国ではクルマの輸入に関税がかかる
そして、これは「関税」に由来する。関税とは、主に自国産業を守るため、何らかの物品を輸入しようとする国が、その物品に税金をかけ、自国内に入ってくる輸入品の価格を「上げる」ために使われる。自動車に関して言えば、中国は自国の自動車産業を守るため、輸入するクルマに完全をかけ、その価格を上げることで、中国の自動車メーカーがつくる自動車の競争力を高めているわけだ。
2018年6月の時点で、中国の自動車に対する関税は25%だが、輸入するだけで100万円のクルマのコストが125万円になるということだ。そして輸入するには輸送費用や通関費用、現地の法規に適合させるための手間がかかる。こうやって輸入車は高くなってゆく。
だから、中国でクルマを売りたい外国の自動車メーカーは中国で生産を行う。そうすれば関税はもちろん、海上輸送などの費用をカットできるからだ。
ただし現地で生産を行うにも様々なハードルがあり、「ラインナップすべてを」中国生産とするのは難しい。まずは「よく売れるモデルから」現地生産化するのが通常の考え方だ。
よってメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、BMWもまずは量販モデルとなるスモール/ミドルクラスのセダン、SUVから現地生産を行う。そして、もともと数があまり出ないであろうクーペは「後回し」だ。
この結果どうなるか?現地生産を行っているセダンやSUVは比較的安く販売されるが、輸入扱いのクーペは関税ほかのコストが乗せられて高価になる。
たとえば日本を例に考えてみよう。アウディの場合、すべてが「輸入」だ。日本で生産しているアウディのクルマは存在しない。
日本国内におけるアウディA4のベース価格は447万円で、そしてアウディTTのベース価格は471万円となっており、そう大きな差がないことがわかる。※参考までに、日本ではクルマの関税はゼロである。
だが、中国では現地生産されるA4(しかもロングホイールベースのA4L)の価格が290,000人民元、対して輸入扱いであるアウディTTの価格は496,800人民元。そこには206,800人民元、現在の為替だと邦貨換算にして約358万円の差があるということになるが、日本だと24万円しかないA4とTTとの価格差が、中国では358万円にも拡大している、ということがわかる。
これはメルセデス・ベンツやBMWのスポーツモデルにも該当する話で、この状況下では「モノも人も乗らないクルマ(クーペ)に、そんなにお金は払えない」となるのは当然かもしれない。
これが中国においてクーペが少ない理由の一つだとボクは考えている。
中国ではナンバープレートの取得が難しい
ほかに考えられる要素としては、「ナンバープレートの取得が難しい」ということだ。日本だと都道府県によって差はあるものの、1,440円から1,880円の「交付料」を支払えばナンバープレートを取得できる。
だが中国は違う。上で述べたとおり、ここ10年で自動車の登録台数が3倍以上となっている。急激に増加する自動車が引き起こす問題は「渋滞」と「環境汚染」だが、これは深刻だ。だから中国は地域にもよるが、ナンバープレートの取得を「入札制」としている場合があり、現在ではナンバープレートを取得するのに170万円ほどを要する例も珍しくない、と聞いている。
しかも中国の都市部における地価は高く、保管場所や駐車場代を考えると、一家庭あたり「複数台」の自動車を所有するのは難しいのだろう(ナンバープレートも2台分取得すれば340万円だ)。
1台しか所有できないとなると、当然利便性に劣る「クーペ」は購入対象としては外れることになると思われるが、逆に「クーペに乗っている」人はかなり余裕のある人だと言っていい。
エコカーはナンバープレートの取得が容易だ
そして中国が打ち出している政策のひとつが「ローエミッション・ビークルの優遇」だ。輸入車であっても「環境負荷が低い」と中国が認めれば関税はゼロになる(テスラの各モデル、BMW i3は関税ゼロだと聞いている)。そして、その基準を満たせなくとも、輸入車/中国生産者問わずEVやPHEVといったクルマはナンバープレートの取得が容易だ。これらのオーナーはナンバープレート取得に際して、「抽選」「入札」を経なくても良いということになり、「170万円」といった高額なナンバープレート取得費用も払わなくて済む(ガソリン車に対してはナンバープレートを簡単に発給しないが、エコカーには積極的に発給しているわけだ)。
そうなると当然の帰結として人々はEVやPHEVを購入することになり、これが現在中国を「EV大国」へと押し上げているひとつのカラクリだ。
ホンダ、トヨタも現地の合弁相手とともにEVやPHEVを生産し、中国国内にて販売するとアナウンスしているが、各メーカーが対中戦略の中核として、日本では発売予定すらないような「EV」を掲げる理由もここにある。
[ライター・撮影/JUN MASUDA]
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