ホンダスポーツのフラッグシップモデルであるNSXが、最後にタイプSを発売して生産を終了することが発表され、さらにS660も生産終了となる。そのためホンダのスポーツモデルは2022年に発売されるシビックタイプRのみと寂しい状況だ。
だが1990年代はホンダから多くの傑作スポーツモデルが発売された。そんなホンダスポーツの黄金時代を振り返る!
令和のホットハッチ ガチンコ対決! フィットモデューロX対ノートオーラNISMO どちらに軍配?
文/片岡英明、写真/Honda
【画像ギャラリー】Back to黄金の90年代!! 走りへのこだわりがタップリつまったホンダスポーツたち(19枚)
■90年代のホンダはNSXから始まった!
1990年登場の初代NSX。国産車とは思えないエキセントリックなデザインに度肝を抜かれた
20世紀の最後の10年、ホンダは創業から50年の節目が近づいたこともあり、元気いっぱいだった。いろいろなジャンルにホンダらしい個性的なクルマを送り出している。とくに珠玉の作品が多かったのがスポーツモデルのジャンルだ。
その筆頭に挙げられるのが、ミッドシップ・スポーツカーのNSXである。当時の最先端テクノロジーを駆使して開発され、ボディなどを成形が難しいアルミ合金で作り上げた。軽量なアルミ材をふんだんに使ったため200kgもの軽量化に成功したのだから驚課される。
NSXはスタイリングも強いインパクトを放っていた。衝撃的なデビューを飾ったのは1990年9月だ。
ミッドシップに搭載するのは2977ccのC30A型V型6気筒DOHC-VTECで、ターボに頼ることなく280psを達成している。レーシングエンジンのように精緻で、その気になれば8000回転まで軽やかに回った。
サスペンションは4輪ともダブルウイッシュボーンだ。鈴鹿サーキットやドイツのニュルブルクリンク・オールドコースに試作車を持ち込み、徹底的に走り込んでセッティングを決めている。
当時は運転に四苦八苦し、快適ではないスーパースポーツが多かった。スリリングなハンドリングのスポーツカーも少なくない。
1992年に期間限定で登場したNSXタイプR。ホンダスポーツを語る上で欠かせないタイプRの記念すべき第一弾だ
が、NSXは肝を冷やすことなく安全かつ快適に気持ちいい走りを楽しむことができる。ドライバーもパートナーも快適だ。だが、極限までダイエットして究極の走りを目指したスパルタンモデルも用意された。それが92年11月に期間限定で発売されたタイプRだ。
タイプRは快適装備を省き、スポイラーに高価なドライカーボンを採用するなどの努力によって120kgもの軽量化に成功している。サスペンションもサーキットを速く走れるように、ダンパーとスプリングを強化した。
だからハンドリングはレーシングカーのようにダイレクトかつ正確だ。レカロ社と共同開発した専用バケットシートも注目を集めている。
■ビートにインテグラ……そして真打タイプR登場
1991年に世界最小のミッドシップスポーツとして登場したビート。オープンだがモノコックボディに工夫を凝らし、クローズドボディ並の剛性を確保した
NSXを発売した翌年、91年5月には世界最小のミッドシップ・スポーツカーを発表した。それがハイメカを軽自動車の規格の中に押し込んだビートだ。
ドライバーの背後に積まれるのはトゥディ用の直列3気筒SOHC4バルブだったが、大幅に手を入れている。MTRECと名付けた3連スロットルを採用し、電子制御燃料噴射装置のPGM-FIも装着した。ターボと同等の64psを達成し、ストローク40mmの5速MTを駆使しての走りが楽しい。
サスペンションは4輪ストラットだ。前後を異径としたタイヤと相まって意のままの軽快な走りを実現している。オープンだが、モノコックボディに工夫を凝らし、サイドシルを二重構造としてクローズドボディ並みの強度と剛性を実現した。
ソフトトップの開閉も簡単に行うことができる。ブレーキも軽自動車としては初となる4輪ディスクだ。なりは小さいが、メカは一級で、操る楽しさも兄貴分のNSXと変わらなかった。
そして93年5月にはインテグラが第3世代に生まれ変わる。個性的な丸型独立4灯ヘッドライトを採用した3ドアクーペがベールを脱ぎ、夏にはホイールベースを延ばした4ドアハードトップを追加した。Siの心臓は1.8Lとしては初となるDOHC-VTECだ。
スポーティな走りが自慢だったが、95年9月に真打ちが発売されている。それがレーシングカーの味わいと圧倒的なドライビングプレジャーの獲得を目指して開発し、送り出されたタイプRだ。
1995年登場のインテグラ タイプR。特に96年スペックモデルは刺激的な走りが楽しめた
NSXに続くタイプRの第2弾で、2つのボディタイプを揃えている。
タイプRはフロントにチンスポイラーを、リアにもスポイラーを装着した。軽量アルミホイールも専用品だ。
搭載するのは1797ccのB18C型直列4気筒DOHC・VTECエンジンで、ピストンを専用品にし、バルブも新たに設計して追従性を高めた。リッター当たり出力は111psまで高めている。
サスペンションはハードに締め上げ、フレームやリアサスペンションなども補強した。パフォーマンスロッドやトルク感応式ヘリカルLSDも追加している。
FF車として初めてのタイプRだったが、「96スペックR」と呼ばれたインテグラはレーシングカーのようにエキサイティングだった。エンジンは8000回転を超えても息切れしないし、身のこなしも軽やかだ。
98年1月には98スペックRに進化し、足元とブレーキを強化している。ECUの制御を変えたためエンジンは少しマイルドになったが、操る楽しさは格別だった。
■シビックにも待望のタイプRが
若いユーザーにも手の届くタイプRを、ということで200万円を切る価格で登場したシビック タイプR
インテグラにタイプRが加わった時期にシビックがモデルチェンジして6代目のEK系になっている。SiRとSiR-IIが積むのは1595ccのB16A型直列4気筒DOHC・VTECだ。
もう少し若いユーザーに向けたタイプRが欲しい、と考え、開発に着手したが、DOHC・VTECはエンジン型式がB16B型に変わるほど大幅に変更を加えた。高回転に対応できるバルブシステムを採用し、吸・排気抵抗の低減も図っている。もちろん、足まわりもハードにチューニングした。
タイプRは量産の自然吸気エンジンとしては世界トップレベルのリッター当たり出力116psを達成し、その気になれば8400回転まで実用になる。シビック生誕25周年の97年8月に発売されたが、販売価格は200万円を切るバーゲンプライスだった。
走りの質が高いことに加え、リーズナブルな価格設定だったから、操る楽しさにこだわる若いドライバーは飛びつき、インテグラのタイプRに次ぐ販売台数を記録している。
■ホンダらしいこだわりのスポーツモデルたち
ホンダ創立50周年を記念して1999年に登場したS2000。まるでレーシングカーのような『操る楽しみ』が味わえた
もう1台、ホンダ創立50周年を記念してピュアスポーツカーが企画された。これが99年春に発売されたフルオープンのホンダS2000だ。タイプRは設定されなかったが、ホンダらしさがほとばしるスポーツカーである。
駆動方式はホンダS800以来のFRレイアウトだ。パワートレインやボディ設計には当時の最新テクノロジーをふんだんに盛り込んでいる。オープンだが、フレーム構造はサーキット走行に耐えられるほど強靭だった。
搭載するのは排気量1997ccのF20C型直列4気筒DOHC・VTECで、これを縦置きに配置している。アルミ鍛造ピストンや鍛造コンロッドには浸炭処理を施し、アルミ製のブロックはラダーフレーム構造とした。
リッター当たり出力は125psを超え、最高出力は250ps/8300rpmを達成している。これにショートストローク、ダイレクトチェンジ方式の6速MTを組み合わせた。9000回転まで気持ちよく回り、エンジン音も感動的だ。
インホイールタイプの4輪ダブルウイッシュボーンサスペンションにトルセンLSDを採用し、前後重量配分は50:50だった。しかもFR方式だからシャープな身のこなしを見せる。オープンカーだが、レーシングカーのようにドライバーが操っている感覚が強い。
このS2000だけでなく90年代にホンダが生んだスポーツモデルは開発者のこだわりが濃密だ。ステアリングを握っていると、開発者の狙いがよく分かる。だから運転して楽しいし、今の時代にも輝いて見えるのだろう。
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