購入契約を結んでから約1カ月後の3月某日、ボクのフェラーリが納車されることになった。町田にあるGSTの本社には、ダークブルーの360モデナが、納車スペースに鎮座していた。
「あぁ、本当に買ってしまったんだ……」と、自らの誕生日である“10-11”が刻印されたナンバーを見てしみじみ思う。とはいえ、ワクワクより不安のほうが大きい。今後の維持にどれほど時間や費用が必要かわからないうえ、ボク自身があまりにもスーパーカーに興味がない、無知であること、を痛感したからだ。
29歳、フェラーリを買う──Vol2. 自動車保険の嘘とホント
というのも納車の数日前、撮影で某スーパーカーを試乗したものの、驚くようなワクワク・ドキドキを感じなかったからだ。じつのところ「ぶつけないように……」と細心の注意を払って運転していたので、楽しむ余裕はまるでなかった。メーカーから借りた広報車だったからかもしれないが、それでも「フェラーリを所有するのに、こんなにドライでいいのか?!」と、心配になるのであった。
ただ、もう購入してしまったから今さら何を言っても遅い。車検証の名義もボクの名前になっている。こうなったらフェラーリライフを楽しもうではないか! と、ようやく前向きに考えはじめた。
あらためて見る360モデナは、想像以上に大人っぽい。紺のボディカラーに、タンのレザーを贅沢に使ったインテリアは、珍しい組み合わせであるという。しかも、シートのみならず天井もレザー張り(オプション)だから、前オーナーのこだわりを感じる。
そのこだわりゆえ、いくつかわからない装備もあった。ボディサイドの細いストライプと、フロントのリップスポイラーだ。また、フロントサスペンションが交換されているものの(純正も残っている)、現在どういったものが装着されているのかわからない。いずれも、純正オプションかどうかもわからないので、今後調べようと思う。
はじめて愛車をしっかり見たが、想像以上にかっこいい。丸目4灯のリアランプをはじめ、V8フェラーリの伝統を随所に盛り込むデザインには、惚れ惚れする。バックヤードではじめてみたときは、ほかのクルマに埋もれていたため、そのかっこよさがわからなかったが、単体で見て、はじめてフェラーリのデザインがいかに優れているのか気づくのであった。
愛車を眺めていると、GSTの佐々木公明会長がやって来た。佐々木会長は「ガレージ佐々木」を興してから1代で、今のGSTを築いた人だ。
「この360モデナの程度は相当いいですよ」と、教えてくれた。佐々木会長自ら乗ろうと思っていたほどの個体だから、相当いいのだろう。ちなみに、佐々木会長はアルピーヌ「A110」や、アルファ・ロメオ「4C」、「8C」などを所有する根っからのクルマ好きだ。そんな佐々木会長をも魅了する360モデナだから、やはり魅力的なクルマであるのは間違いない。「いい買い物をしたではないか!」と、ちょっと誇らしくなってきた。
「フェラーリ・ライフを楽しんでください。ボクもF40や512TRを所有しましたが、フェラーリはどれも素晴らしいスポーツカーですから」という会長の言葉がたのもしい。
必要な書類を受け取り、いよいよ出発だ。跳ね馬が描かれたシルバーのキーをさしこみ、まわす。が、エンジンはかからない。「キュルキュル……」と、セルモーターの音が車内に響く。もう1度まわすが、それでもエンジンが掛からない。
「いきなり故障か!?」と、焦る。が、担当者が寄ってきて「これは盗難防止システムが作動しているだけです」と、教えてくれた。付属のリモコンキーでシステムを解除し、再度キーをまわすと、エンジンは1発で始動した。1カ月前に聞いた、あの官能的なフェラーリ・サウンドである。
今日、この瞬間から、ボクはフェラーリを自らの手中におさめたのであった。
「+」のパドルシフトを1速に入れ、恐る恐るアクセルを踏む、思いのほかスムーズに発進出来たのに驚いた。クラッチもスムーズに繋がった。F1マチックについては「変速フィールが不自然」などのネガティブな噂ばかりウェブには掲載されていたので、「あぁやっぱりウェブはアテにならないな」と、自動車保険のときとおなじく、思うのであった。
マイ・フェラーリでの初ドライブはGST本社のある町田から御殿場までだ。不安だった変速タイミングのコツもすぐに掴めた。低速では若干ギクシャクするものの、中速域以上に入ればテンポよく変速出来る。とはいえ、個体差もあるようで、程度のよくないクルマはどんな速度域でもギクシャクしているというから、我が愛車の状態はまずまずのようだ。試乗しないで購入したがゆえ、不安だらけだったが、とりあえずハズレをひいたわけではなさそう。もっとも、GSTのポリシーとして程度の悪い中古車を販売しないから、状態は悪いはずないか。
町田インターから東名高速道路に乗るも、いきなり渋滞にハマってしまった。ノロノロ進むゆえ、フェラーリの官能的といわれるエンジン・サウンドはまったく楽しめない。が、F1マチックに慣れるための練習だと思い我慢した……。
渋滞を運転してわかったが、うっかりすると半クラッチ状態であるのを忘れてしまう。10~20km/hぐらいでノロノロと運転していると、クラッチをつないでいても、気づけば半クラッチ状態になっていた。「渋滞はF1マチックの大敵」と言われるように、低速走行が続くと半クラッチ状態が長く続き、クラッチをどんどん消耗してしまうから危険だ。いうまでもないが、クラッチを交換すると多額の費用を要する。
厚木インターを過ぎると、渋滞は解消した。「いまだ!」とばかりにアクセルを踏み込む。背中がシートバックにグッと押され、回転計の針がレッドゾーンに向かって一気に駆け上がるとともに、今まで聞いたことのないカッコいいエンジン・サウンドが車内に響いた。まるで、F1やSUPER GTのマシンが走るサーキットにいるかのようなスポーティな音だ。気分はレーシングドライバーである。すごい! すごすぎる!
あれほど「自分はスーパーカーに興味がない」と、思っていたのが嘘だったかのように、一瞬にしてフェラーリの虜になってしまった。おそるべし、フェラーリである。
ただ、初ドライブでちらほら気になる点も見つかった。ひとつはタイヤだ。素晴らしいエンジン音ゆえ、もっと速度を……と思っても、アクセルを踏み込む気にならないほど、タイヤが頼りない。タイヤに詳しくないボクでも、路面を掴んでいない頼りなさを明確に感じた。
無理もない、装着されていたタイヤは2007年製のブリヂストン「ポテンザRA0E」で、溝が残っていたとはいえ、すでに12年前のタイヤである。これは早急に交換の必要がありそうだ。
もうひとつは、オーディオだ。装着されていた純正のソニー製1DINデッキから、音がまったく出ない(わが愛車はほぼ現状販売車である)。新車当時のままであるゆえ、もしかすると故障ないしは断線しているのかもしれないからチェックが必要だ。もっとも、フェラーリのエンジン・サウンドがあれば、音楽など不要かもしれないが……なんて、カッコいいことをサラリと言ってみたいが、ボクは音楽も楽しみたいので、早急に直したい。調べると、今はBluetooth機器にも対応する1DINデッキもあるから、本体ごと交換するのもアリだ。
ほかに、マップランプが点灯しないのも気になる。初日のドライブで気になったのはこの3点だけ。3点が多いのか、少ないのかはわからない。いずれにせよ、ボクのフェラーリ・ライフは一筋縄ではいかなさそうだ。もっとも、読者の多くにはそれが望まれているのだろう、と思うが……。
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