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過激な“じゃじゃ馬”になった「スーパーアイドル」 日産 マーチターボ 試乗 【徳大寺有恒のリバイバル試乗記】

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過激な“じゃじゃ馬”になった「スーパーアイドル」 日産 マーチターボ 試乗 【徳大寺有恒のリバイバル試乗記】

 徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回は日産マーチターボを取り上げます。
「マッチのマーチ(イメージキャラクターに近藤真彦さんが起用されました)」「スーパーアイドル」のキャッチコピーとともに1982年10月、華々しく登場したのが初代マーチ。
 1985年2月、そのマーチにターボを載せて投入された“じゃじゃ馬モデル”がマーチターボです。
 のちにスーパーチャージャーを搭載しラリーで大活躍するマーチRや、そのストリートバージョンたるマーチスーパーターボは、このマーチターボの成功がなければ存在しませんでした。
 現在でもその走りを懐かしむ声が多いマーチターボの試乗記を、『ベストカーガイド』1985年8月号からリバイバル。

※本稿は1985年7月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2017年7月26日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です

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■加速を重視し実現した過激な走り

 私は1Lカーのスポーツモデルは過激なほうがいいと思っている。今のところツゥインカムはなくターボが主流だが、巨大なトルクが得られるということでターボがいいと思う。過激な走りを演出しやすいのだ。

 マーチターボのエンジンパワーも間違いなく過激なもので、このクルマの動力性能を充分引き出すことができれば、1.6L級のクルマとバトルが可能だ。1.3L級ではちょっと対抗するのはムリだろう。

リッターカー最高の85psを発生した。ちなみに当時の同じ1Lターボのライバルはカルタスターボやシャレードターボで、両車の最高出力80psを5ps上回った。なお過激なスターレットターボの登場は翌1986年のことだ

 それほどのパワーがある。ラグはそれなりに大きいのだが、ひとたびタービンが働けば、ラグのロスなど簡単に取り戻すくらいの加速を示すからこれはこれでいいと思う。

 ギアレシオは現代のクルマ、それも経済性重視のリッターカーのものとしては全体的に低く、加速重視といっていいと思う。

ゼロヨン加速は16.45秒と強烈。低いギア比のおかげで鋭い立ち上がり加速を見せる

 エンジンは4気筒、SOHCの987ccのスクウェアエンジンで、集中電子制御のECCSを与え、ターボをかけている。パワーアウトプットは85馬力/6000回転、12.0kgm/4400回転とすごい。

 このエンジンの特徴はスムーズなことだ。小排気量4気筒エンジンは日産の得意とする分野だが、7000回転以上までブンブン回る。

 そして巨大なトルク。テスト車のウェイトは710kgと軽いので、その加速はまさにベイビーギャング、都内でも少し空いていれば、“ドケ、ドケ、ドケッ”とばかり前車に追いすがり、パスしてしまう。

 外観は年をとった私には少し気恥ずかしさを感じさせるくらいで、この派手さは子供っぽさに溢れている。シティターボの派手さは年寄りも受け付けるが、こいつは若者専用車という気がする。

専用バンパーに埋め込まれたフォグランプが精悍で、ツートーンカラーも新鮮だった

 スパッと持ち上がったリアのスポイラーに加えて前車のバックミラーに己の姿を写し、その迫力でたじろがせるために、イエローのフォグランプも欲しかったのであろう。しかし、ビルトインされているのを見ると妙にオモチャっぽい。

 室内は分不相応なバケットシートだが、これはいい。しかも、ペダルとの関係がいい。ほんの少し、ペダルのほうにシートをシフトしたら完全だ。メーターはアナログのタコメーターとデジタルのスピードという変則的なレイアウト。視覚的にはバランスが悪いけれど、実用的かもしれない。

バケットタイプの専用シートを採用し、ホールド性を向上させていた

 燃料計と水温計はメーターナセルの両翼に突き出ており、やや見にくい。特に燃料計はタンクのキャパシティが40Lと小さいので、飛ばしても13km/L近い数字と実際は悪くないにもかかわらず、燃料計の針がどんどん下がっていき、少し気になるところだ。

 グリップの太いステアリングホイールとその中央にはエンジン性能曲線が描かれる。これはもちろん遊びだが、その遊びはけっしてうまいものではない。シートも機能的だが趣味性はよくない。こういったクルマにケバさは必要ない。速さこそ何よりの自己主張なのだから。

センターにエンジン性能曲線がプリントされた3本スポークのステアリングホイールを採用

■ボディ剛性不足はいかんともしがたい

 ホイールスピンはターボを効かせれば必ず発生する。だからコーナリングは特に注意が必要である。コーナーのアペックスでアクセルを開ける。適切なギアであっても、前輪は激しくスリップし、アクセルを戻さぬかぎり、クルマはどこにいくかわからない。はっきりいってこのクルマのトラクションは、大パワーを吸収するのには足りない。

 さらに直進安定性の悪さは決定的なウイークポイントで、100km/hオーバーでは絶えずステアリングの修正が必要になる。165/70HR12というファットなタイヤはこの大パワーを吸収するのに必要なものだが、それが直進安定性を損なっている。

スポーティなスポイラーとデュアルカッターのマフラーを装着し、エキゾーストノートもちょっと勇ましかった。タイヤサイズは165/70HR12と小さく太い

 もとよりこの種のクルマには静かだとか、乗り心地がいいだとかを求めては可哀想だ。それはないものネダリに近い。だから、私は走行中の勇ましい音も、路面の継ぎ目を渡る時の過大なショックも致し方ないと思っている。

 しかし、これほどのパワーを与えたらボディに必要なだけの補強はすべきだと思う。そんなわけでこのマーチターボには、私はあまりいい点をやれないのである。たしかに速いがそれだけでいいというものではない。メーカーはこのクルマをウェットのハンドリング路でテストしたのだろうか? と、疑いたくなる。

 このマーチターボに乗って、私はかつて日産が作った初期のハイパワーFF車、チェリーX-1Rを思い出した。路面がよいところなら、それはそれで楽しい。古典的FFマニアはこの味をもってFF車とするかもしれない。しかし、マーチターボはボディ剛性が充分でなく、しかも大パワーFFという条件なのでとても難しいのだ。

 私は名著『ミニ・ストーリー』のなかで、ミニの設計者、アレックス・イシゴニスが「FFは前輪に多くの荷重をかけていいハンドリングが得られる」という一節を思い出した。

マーチターボのハンドルを握った徳さん

◎マーチターボ 主要諸元
全長:3730mm
全幅:1570mm
全高:1385mm
ホイールベース:2300mm
エンジン:直4SOHCターボ
排気量:987cc
最高出力:85ps/6000rpm
最大トルク:12.0kgm/4400rpm
トランスミッション:5MT
サスペンション:ストラット/4リンク
車重:710kg
10モード燃費:18.8km/L
価格:114万5000円
※グロス表記

0~400m加速:16.45秒
筑波サーキットラップタイム:1分17秒03

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