BMW M235i xDrive Gran Coupe vs Mercedes-Benz CLA 250 4MATIC
BMW M235i xDrive グランクーペ vs メルセデス・ベンツ CLA 250 4マティック
BMW 2シリーズ グランクーペとメルセデス・ベンツCLAを国内最速比較! 渡辺慎太郎が吟味する
大中小が出揃った“グランクーペ”
以前にどこかの資料で「国土交通省が公的に使用している値として、日本の平均乗車人数は1.3人」というのを見た記憶がある。国交省が本当にそういうデータを持っているのか、あるいはどうやってそういうデータを算出したのかまでは追跡できなかったけれど、肌感覚でそんなもんだろうなとも思う。
自分の場合はどうかと言えば、後席まで使うのは年に1回あるかないかだから、もうちょっと少なくて1.19人くらいかもしれない。だから自分のライフスタイルには全長5m以上、全幅1.8m以上のクルマは必要ないと常々思っているので、コンパクトカーのニューモデルには自動的に興味を持ってしまう。BMWの2シリーズのグランクーペもまたしかり、である。
BMWにとって“グランクーペ”という概念は、2012年に当時は“6シリーズ”と呼んでいたモデルへ派生車種として登場したのが初出である。その後、4シリーズにもグランクーペが追加され、それがついに2シリーズにまで降りてきた。
4ドア+クーペを巧みにコンパクト化
“6”のグランクーペが登場した際には、素直に「格好良いなあ」と思ったけれど、東京で使うにはちょっと持て余すサイズだったので、“4”のグランクーペが出ると聞いて「マジか??」とワクワクした。ところが、実車を見たらどこか想像していたのと違っていて「ん??」となった。
“6”のような優しく伸びやかでエレガントな雰囲気とは明らかに異なり、「ああいうスタイリングは、ある程度のサイズがないと成立しないんだな」と思った。それに比べると、“2”のグランクーペのほうが“4”よりもうまくまとまっているかもしれない。最近のキドニーグリルと顔つきに慣れるまでには、もう少し時間がかかりそうだけど。
FFプラットフォームを空間づくりに最大限活用
プラットフォームは1シリーズと共有しているので、エンジン横置きのFFが基本のパワートレインレイアウトとなる。“1”と“2”は2670mmのホイールベースと1800mmの全幅も同値だが、全長は“2”のグランクーペのほうが205mm長く全高は35mm低い。“クーペ”を名乗っているので、ドアはウインドウ部がフレームレスとなっている。そもそも「4ドアなのにクーペなの?」という疑問はずっと浮遊したままなのだけれど、ドアが4枚でもA/Cピラーを大きく寝かせて全高を下げ、フレームレスのドアが付いているボディをそう呼ぶことにいつの間にかなってしまったようだ。
これは1シリーズを試した時にも感じたことだけれど、BMWはこのFFのプラットフォームをパッケージに最大限有効活用している。一般的に、エンジンを横置きにすれば縦置きよりもキャビンを前方へ配置できるので、同じ全長でも横置きのほうがキャビンの前後方向にスペースを確保しやすい。
1シリーズと2シリーズグランクーペでは、それが後席のレッグスペースに顕著に現れている。特に従来の2シリーズクーペは縦置きのFRだったから、それと比べると差は明らかで、ニールーム(膝周りの前席との空間)は33mm増えている。キャビンが前方へ移動すればラゲッジスペースの拡大もできる。実際、クーペよりも40リットル増えて430リットルとなり、ハッチバックの1シリーズよりも50リットル分広い。
「2.0リッター直4ターボ+全輪駆動」同士の対決
日本における2シリーズグランクーペのパワートレインは218iとM235i xDriveの2タイプで、前者は1499ccの直列3気筒エンジン(140ps/220Nm)で前輪駆動、後者は1998ccの直列4気筒エンジン(306ps/450Nm)の4輪駆動となる。廉価版の218i グランクーペは369万円のプライスタグを掲げているが、今回の試乗車であるM235i xDrive グランクーペは665万円。その差が約300万円もある。
2シリーズのライバルとなるのはメルセデス・ベンツのCLAだろう。こちらもまたエンジン横置きの前輪駆動ベース/4ドアクーペである。日本で展開されているラインナップは1331ccの直列4気筒エンジン(136ps/200Nm)を積むCLA 180、1991ccの直列4気筒エンジン(224ps/350Nm)を積むCLA 250 4MATIC、そして1949ccの直列4気筒ディーゼルエンジン(150ps/320Nm)を積むCLA 200 dで、2シリーズにはないディーゼルも用意しているところがCLAの特徴でもある。今回はこの中から、M235iにもっとも近いスペックを持つCLA 250 4MATICを用意した。
参考までに、アウディはフォルクスワーゲンの新型ゴルフとプラットフォームを共有する新型A3セダンを発表したばかり。ドイツのビッグ3はいずれもFFベースのコンパクトな4ドア/3ボックスを揃えるが、BMWは4ドアクーペだけ、アウディは4ドアセダンだけ、メルセデスは4ドアセダンとクーペの両方を揃えることになる。
BMWがシックス ライト キャビンを採用する意味
実車を見比べるとほとんど同じサイズに見えるが、1430mmの全高は奇しくも同値ながらも、CLA 250のほうが155mm長く30mm幅広い。ホイールベースも60mm長いが、全長に対するホイールベースが占める割合を計算してみるとCLA 250は58.1%、M235iは58.8%で、M235iのほうが実質的にはわずかにロングホイールベースであることがわかる。車両重量は車検証の数値だとどちらも1610kg。前後重量配分はCLA 250が60:40、M235iが58:42で、CLA 250のほうがややフロントが重い。
いずれもフレームレスのドアで、A/Cピラーを寝かせて全高を抑えたシルエットは似たようなもの。一方で、決定的に異なるのはM235iがいわゆる“シックス ライト ウインドウ(キャビン)”を採用している点。このほうが、Cピラーを細く見せることができ、真横から見た時のルーフラインの伸びやかさが強調されると言われる。
もうひとつの利点は、ドアの開口部にCピラーが大きくかからないこと。ルーフがリヤに向けて大きくスラントする手前のところでドアが開くため、乗降性に弊害が生じにくい。実際、CLA 250のほうが後席へ乗り降りするときにCピラーが邪魔になり、身体を大きくかがめる必要がある。
「長距離向き」なのはCLA
乗り心地はCLA 250のほうが全般的にいい。M235iには“Mスポーツサスペンション”が組み込まれており、ノーマルよりも10mm低い車高となっていることから、専用のばねとダンパーが装着されていることがわかる。ばね上の動きを積極的に抑えるセッティングになっているため、路面から入力があるとばねの有効ストローク量が少なくダンパーの減衰も速いのでストンストンと身体が上下に動く。そうは言っても突き上げ感は強くないし、スポーツカーのように路面の入力を敏感に拾うほどではないので、運転席以外の乗員が不快に感じるレベルではない。CLA 250と直接的に比べると「硬い」程度である。
CLA 250のほうが減衰が比較的ゆっくりでばねの有効ストローク量もM235iより多く、いわゆる“スポーティ”な印象は薄い。速度域を問わず同じような乗り心地を提供するので、ロングドライブでの疲労は最小限に抑えられるかもしれない。タイヤサイズはどちらも18インチだが、M235iはランフラットだったので、例によってサイドウォールの硬さは少し感じた。
いずれ菖蒲か杜若
静粛性はどちらもほとんど変わらない。常用域で普通に運転する限り、エンジン音はそんなに気にならないだろう。スロットルペダルを深く踏み込めば、その瞬間はどちらもそこそこ威勢のいい音を発するが大同小異である。
フロントシート周りのスペースも同じようなもの。リヤは、M235iのほうが閉塞感がやや少ない。ニールームや天地左右方向の空間には大きな差が見られなかった。トランクの容量はリヤのオーバーハングが長いCLA 250が460リットル、M235iが430リットル。両者ともに後席は分割可倒式である。
動力性能にはスペック通りの違いが生じるものの、日本の交通環境下では+82ps/+100NmのM235iのほうがおののくほど圧倒的にパワフルで速い!というほどでもない。どっちに乗っても余裕ある加速感や力強さを感じることができる。
互いの「個性」が最も現れる瞬間
似たようなサイズとスタイリングと快適性と動力性能のこの2台。もっとも違いが分かるのはステアリングを切る時である。
BMWの118iの操舵応答性は個人的に馴染めなかった。コーナリングフォースの急激な立ち上がりと、ピッチ/ヨーが同時に発生しながらロールに持ち込むような所作に違和感を感じたからである。これは、“BMWパフォーマンスコントロール”と呼ばれる、ブレーキを使ったヨーコントロール制御によるもので、おそらく操縦性が「FFっぽい」と言われることを嫌ったセッティングと思われる。
簡単に言うと「反応速度がすこぶる速いトラクションコントロール」であるARB(アクチュエーター連続ホイールスリップ制限)はi3で採用されているデバイスだが、これは主にパワーアンダーステアを抑え込む時に作動する。トラクションコントロールだからスロットルペダルを踏んでいる最中に働くので、クリッピングポイントを過ぎてからの再加速時などで有効だ。ターンインから旋回姿勢が整うまではBMWパフォーマンスコントロールの支配下に置かれる。
1シリーズの“違和感”が消えた理由
とにかく118iの印象があまりに衝撃的だったので、「似たような感じかもしれない」と覚悟してM235iに試乗したのだけれど、結論から言えばこちらのほうがずっと自然で親しみやすい操縦性だった。考えられる理由はふたつある。
ひとつはM235iのフロントには機械式LSDが組み込まれていること、もうひとつは4輪駆動であることだ。BMWパフォーマンスコントロールは旋回中にイン側の前後輪にブレーキをかけるが、LSDは前輪左右の駆動力を状況に応じて配分する。つまり118iは(特にターンイン時に)「片側前後(=2輪)」だけだった制御が、M235iではこれに「前輪左右」の駆動力可変制御とxDriveによる「前後(=4輪)」駆動力可変が加わったことになる。
そもそもBMWのLSDは機械式でも電子式でもその制御のタイミングや左右駆動力配分が絶妙で、それこそニュートラルステアに近い姿勢をいとも簡単に作ることができる。M235iは機械式LSDの塩梅が非常によく、118iほどBMWパフォーマンスコントロールが出しゃばらなかったから好感が持てたのだろうと推測している。
躍動的なBMW、従順なメルセデス
まるで「曲がることに命をかけている」ようなM235iに対して、CLA 250の操縦性はどこまでも安定的で盤石だ。「思ったより頭が入る」とか「想像よりもよく曲がる」ということはなく、ステアリング操作に極めて従順にクルマ側が反応する。ステアリングを速く切れば速やかにノーズが動くし、ゆっくり切ればゆったりとした挙動になる。操舵応答遅れはまったくないので、予期せぬアンダーステアに見舞われることもない。すべてがドライバーの想定内に収まっているので、とにかく安心してドライブすることができる。
M235iと比べると、これを「つまらない」と感じる人がいても仕方ないとも思う。ただ、いくら“M”のバッジがついているとはいえ、CLA 250より131万円も上乗せされた車両本体価格は、自分なんかにとっていっさいの躊躇なく支払える金額ではない。だからといってCLA 250の534万円がリーズナブルとも言い難い。このクラスは必要最低限の装備(特に安全装備)と性能を備え、乗り出しでせめて400万円くらいに収まってくれるとありがたい。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
BMW M235i xDrive グランクーペ
ボディサイズ:全長4540 全幅1800 全高1430mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1610kg(車検証値)
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1998cc
ボア×ストローク:82.0×94.6mm
最高出力:225kW(306ps)/5000rpm
最大トルク:450Nm/1750-4500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
サスペンション:前シングルジョイントスプリングストラット 後マルチリンク
タイヤサイズ:前後225/40R18
最高速度:250km/h
0-100km/h加速:4.9秒
車両本体価格:665万円(テスト車:749万9000円)
メルセデス・ベンツ CLA 250 4マティック
ボディサイズ:全長4695 全幅1830 全高1430mm
ホイールベース:2730mm
車両重量:1610kg(車検証値)
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1991cc
ボア×ストローク:83.0×92.0mm
最高出力:165kW(224ps)/5500rpm
最大トルク:350Nm/1800–4000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:4WD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
タイヤサイズ:前後225/45R18
最高速度:250km/h
0-100km/h加速:6.3秒
車両本体価格:534万円(テスト車:661万9000円)
【問い合わせ】
BMW カスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
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