キャデラックの新型「エスカレード・プラチナム」に小川フミオが試乗した。
日本における対抗馬はナシ?
実用的な美しき5ドア・クーペ──新型BMW M440i xDriveグランクーペ試乗記
独自の味わいという点では、SUVのなかでも最右翼に位置するのが、キャデラック「エスカレード」だ。かなり余裕あるサイズのボディと、オフロードでも走破性が高そうなストローク感のあるサスペンションと、あらゆる速度域で強力な加速を味わわせてくれるぶっといトルク……日本では、対抗馬がなかなかみつからない。
日本での発表は2020年11月だったものの、2021年夏からようやくというかんじで、ファンにとっては待ちに待った納車が始まった。新型は、306kW(416ps)の最高出力をもつ6156ccV型8気筒OHVエンジンに10段オートマチック変速機を搭載。今回から、後輪側もマルチリンク式の独立懸架方式になった。
ボディサイズは、全長5400mmに全高1930mm。全長は従来型より187mmも長くなった。近くに寄ると、小山がそびえたつようだ。ホイールベースも121mm伸びて3060mmもある。軽自動車の全長が3395mmだから、それに近い。つまり、かなり長い。
グレードは2車種。ラグジュアリー志向の「プラチナム」と、精悍な雰囲気の「スポーツ」で、今回乗ったのは前者だ。もっともパワーユニットも、サスペンションも、22インチの大径タイヤも、3列シートも、38インチの湾曲型有機LEディスプレイも共通で、違いは内外装のパーツ程度だ。
プラチナムはグリルなどモールディングがクロームだ。基本的なパーツはほぼおなじなのに、それだけでも以前乗ったスポーツとはだいぶ雰囲気が違う。(試乗車のように)内装に明るい雰囲気の「ギデオン/ウィスパーベージュ」というカラーコンビネーションを体験すると、私としては、ブラック一色のスポーツより、おおぜいで乗るには気分がより晴れやかになって楽しいかなという気になる。
個性的な乗り味
走らせると、ものすごく、というほど太いエンジントルクで、ほとんどアクセルペダルを踏まなくてもぐいぐい加速していくかんじが、じつに印象的。最大トルクは624Nmもあり、4000rpmで最大値に達する設定なので、アクセルペダルを踏み込んでいくと、クルマがそれに応えて、ぐいぐいと加速していく。
先代は、トランスミッションのコントローラーがコラムから生えていたが、今回からは電子式の一般的なシフターがセンターコンソールに設けられた。よりSUV的というか、違和感がなくなったのも印象的だった。
エアサスペンションシステムのおかげで、前後左右に車体が揺れる感覚はないものの、それでも一般的なSUVより、ボディの上下動は大きい。ちょっとおおげさにいうと、ユサユサと揺れながら、ガーッと加速していく。すごいものを走らせているなんだなぁと、大型特殊車両に憧れた3歳のときの自分の記憶が、一瞬、頭をよぎったほどだ。
揺れるとはいえ、ドライバーは不必要に揺さぶられないし、ステアリング・システムが影響を受けることは少ない。長距離を疲れないで移動したいひとのために、という開発目標を掲げてきた新型「ランドクルーザー」ほど乗用車的にフラットな走行感覚ではないものの、エスカレードの乗り味は“個性”であって、魅力である。私は好きだ。
同乗したGQ編集部の担当Iくんが、「米国の“グランドホテル”みたいですね」と感想をもらしていた。インテリアは、米国的なアップホルスタリーの感覚が活かされており、これも、私は嫌いじゃない。
どうせ買うなら、個性あるものが欲しい、というユーザーには、エスカレードの内装はぴったりだ。たっぷりしたサイズと、ソフトな手ざわりのシートや、グロッシーなウッドパネル。頭上も空間がたっぷりあり、車内のウォークスルー機構とともに、まるで走るリビングルームのようだ。
ダッシュボードは、しかし、大時代的な雰囲気とはまったく無縁。巨大な有機LEDのパネルがすえつけられ、車両まわりのカメラ映像や、インフォテインメントシステムのさまざまな機能がつかえる。
加えて、36個ものスピーカーで3Dサラウンドサウンドを実現したAKGのオーディオで、高品質の音楽再生が可能。私は大好きな音だ。
満足感のある買い物
機能の多様性も、エスカレードの特徴だ。車内のドライブモードスイッチによって、前輪駆動と4輪駆動を切り替えられるうえに、サスペンション・システムのダンピングも、コンフォートとスポーツで切り替えられる。
車高の調整を行う「アダプティブエアライドサスペンション」と、あらゆる状況下を想定し、可能なかぎり駆動力を確保する「電子制御式リミテッドスリップディファレンシャル(eLSD)」との組み合わせも、エスカレードのセリングポイントだ。「きわめて優れたボディコントロールと卓越した俊敏性を提供します」とは、キャデラックを扱うGMジャパンの言である。
全車速対応のアダプティブ・クルーズ・コントロールをはじめ、自動ブレーキ、リアオートマチックブレーキ、レーン・キープ・アシスト、レーンチェンジアラートなどの安全装備も標準で装着する。日本のエスカレードは、快適・安全装備が満載なのだ。
フロントシートには空調機能とマッサージ機能が備わるが、実用性の高さに驚いた。オンにすると瞬時に温まるし、マッサージの“圧”もなかなかに本格的で強い。さきほど走るリビングルームと書いたが、まさにその通りだなぁと、あらためて思った。
前席以外もシートのつくりは丁寧だ。とくに3列目はおとなでも十分にすわれるサイズだ。
家族や友人とドライブを楽しむ機会が多いひとには、最適ともいえる1台。1490万円の価格はなかなか”タフ”だけれど、満足感のある買い物になりそうだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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