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イノベーションの袋小路【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

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イノベーションの袋小路【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

車のニュース [2024.06.21 UP]


イノベーションの袋小路【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●テスラ、トヨタ

テスラ・モデル3をローダウン!ストリート走行に適した車高調整式サス発売 ビルシュタイン

 2019年7月8日に他媒体に筆者が書いた記事をたまたま読み返して、今の自動車業界を考えると色々と思うことがあり、今回のテーマにしたい。

 さて、まずは記事の勘所を抜粋しよう。

 “ブランド価値を軸にして見ると、新車価格と中古車価格は相互に関係しつつループ構造になっている。「新車を正価販売する」ためには「高い商品力」を持つ魅力的商品でなくてはならないし、販売店の「高い販売力」も求められる。

 商品とサービスに魅力があれば、新車を正価、つまり値引きせずに売れるから中古車の相場が上がり、その結果下取り価格が高いので、買い替え時により高いクルマが売れる。これが理想的サイクルだが、ひとつ歯車が狂うとサイクルが逆回転してしまう。

 「商品・サービスに魅力がない」→「新車が正価で売れない」→「在庫がダブつくか生産設備の稼働率が落ちる」→「苦しくなって値引き販売」→「新車の値引き影響で中古車価格が崩壊」→「下取りが悪化」→「ユーザーの買い替え原資の不足で新車販売が悪化」→最初にもどる

 だから自動車メーカー各社はブランド価値の向上に必死に取り組んでいる。”

 この原稿の冒頭には「多くのものがそうだが、本当に原理原則まで遡ると、複雑な物事はとても単純な言葉で表せる」と書いている。我ながら上手いことを言うものだ。

 別にテスラをディスるわけではないが、非常にわかりやすい例なのでちょっと例に挙げたい。テスラの実質的スタートは2012年にモデルSが登場した時で、当時OTA(Over The Air)つまり、車載通信機を経由して、車両のソフトウエアをアップデートすることでスマホの様にどんどん機能がアップデートされ、永遠に新鮮さを失わない革命だとされていた。


2014年に日本に導入されたモデルS。車両ソフトウェアを車載通信機を通じアップデートする機能をいち早く搭載
 裏を返せば、ハードウエアのモデルチェンジにうき身をやつす既存の自動車メーカーは、オールドエコノミーであり、そんなやり方ではテスラが切り開く新しい時代に追従できない。そう言われたのである。

 さて、冒頭に示した「ブランド価値販売」の側面から今もう一度OTAを評価するとどうなるだろうか? ポイントは割と簡単。「新車価格は維持できているか、販売台数は増えているか」この2つである。

 テスラを巡るニュースをチェックしている人であればすでにご存知の通り、昨年一年を通してテスラは複数回にわたる値下げを実施しており、加えて2024年第1四半期は前年同期との比較で、生産台数、販売台数共に下げている。台数の下げ幅は決して壊滅的なものではないし、通年ではなくあくまでも1Qのものだが、それ以前とは様相が違う。テスラは2013年以降、ほぼ2年おきに販売台数を2倍から3倍に増やしてきた。

 複数回の値下げオペレーションがあったことと合わせれば、やはり販売の勢いに異変が起きていると受け止めるべきだろう。何もないのに値下げをすることは常識的にあり得ないからだ。

 OTAが本当に「永遠に新鮮さを失わない革命」であれば、値下げしても売れないということは起きないはず。つまり、この事例は、今後の進展次第では「OTAはブランド価値の維持に決定的な役目は持たない」ということになるかもしれないという話である。

 翻って、わが国の自動車メーカーは、その多くがOTAを取り入れつつも、旧態然としたハードウエアの年次改良もしつこく進めている。テスラが値引きを連発した2023年度、日本の自動車メーカー各社はどうだったのかはこの連載でも書いた通り、ほとんど全ての社が値上げを実施して、売上も利益も増やし、大躍進の決算を発表している。


トヨタでも2021年にレクサスLSやMIRAIにOTA機能を搭載。制御ソフトウェアなどの随時アップデートを可能とした
 さてこの結果をどう見るかだ。実はテスラがモデルSで国内にOTAを持ち込んだ時、自動車メーカー各社は動揺した。今まさに旬の話題とも言える認証試験では、試験を受けた後で「機能が変わることなどあってはならない」。つまり少なくとも黒船テスラが上陸するまでのルールでは、OTAでの機能アップデートは、「不正→謝罪」の流れに入るものだった。

 それが不思議なことに、テスラには国交省の立入検査が入らなかったのだ。テスラからすれば「そんな下らない法律なんか守らない」という意思表示であり、それは同時にルールの破壊であった。問題はテスラに許されるOTAは国内メーカーには許されないのかという点だ。結果的にはこれを機にOTAは違法とされなくなったが、明確なルール改定が整然と行われたわけではなく、非公式かつ、泥縄式にダブルスタンダードをズルズルと埋めた形になった。

 さて、テスラは何故、従来の勢いを失ったのだろうか。いや、従来の勢いを取り戻す可能性はゼロではないが、少なくとも流れはそうなっていない。テスラもハードウエアの年次改良を行っていないわけではない。けれども13年前にデビューしたモデルSも、7年前にデビューしたモデル3も、フルモデルチェンジがされていない。従来の価値観とテスラは違うのだということであれば、年次改良とOTAによって商品の鮮度は十分に保たれて、販売好調を続けていないと理屈が合わない。


モデル3は2023年にエクステリア刷新をともなうマイナーチェンジを実施した
 やはり、古い考え方に見えようとも、定期的なモデルチェンジと、それによるハードウエアの刷新。そして性能の向上を続けていかなければ、商品の魅力は保てないのではないか。そして商品の魅力が下がれば、冒頭で述べた通りの負のサイクルに入る。テスラの周りで起きていることは、明らかにその条件に合致する。

 テスラが新しい風を吹かせたことは全く否定しない。それはそれで素晴らしいことだ。ただ、必要に応じて従来のやり方を取り入れる柔軟性も必要なのではないか。「過去のやり方は全て間違っている」というスタンスは革命的で威勢がいいが、それはそれで叡智の集積を利用しないデメリットでもあると思う。

 イノベーションとは本来変化し続けることであり、それは本来「イデアな理想の完成系」とは相入れない。イデアに至ったら、そこにはもうイノベーションの余地はないからだ。理想の答えや到達点があるという考え方そのものが、イノベーションの対極にある。過去のものでも、新しいものでも、分け隔てなく柔軟に取り入れてイノベーションを進めていくことが大事なのではないかと思うのだ。

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