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まだ価格が高い電気自動車だけれど…… EVのバッテリーは安くなるのか?

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まだ価格が高い電気自動車だけれど…… EVのバッテリーは安くなるのか?

 2050年カーボンフリーの機運が高まっていることで、最近はより一層、EVや電動車への世間の関心が高まっている。しかし、EVは特に価格面でまだ身近な存在とはいえない状況だ。

 マツダのMX-30は、マイルドハイブリッド車が242万円からなのに対して、EVモデルは451万円からと、EVのほうが200万円程度高い。日産のEV、リーフの価格も332万円からと、エンジン車のハッチバックモデルと比べると、まだまだ高価だといえる。

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 そのEVの価格が高い理由として以前から注目されているのがバッテリー。リチウムイオン電池を使うデジタル製品やモバイルバッテリーのような商品が低価格を実現しているのに比べて、EVの価格はそれほど下がっていない印象だ。

 今後バッテリーはもっと安くなり、EVも安くなるのか? モータージャーナリストの御堀直嗣氏は次のように考察する。

文/御堀直嗣
写真/NISSAN、TOYOTA、TESLA、VOLVO、JAGUAR、ベストカー編集部

【画像ギャラリー】バッテリーの価格だけではない! 個性的なEVを写真でチェック!!

■リーフは電池の高性能化を図りながら価格を抑えている

 電気自動車(EV)の価格を左右するのは、リチウムイオンバッテリーの原価だといわれている。そこでまず、EVの新車価格の推移をリーフで調べてみる。

 2010年に初代リーフが発売された時の価格は、Xが376万4250万円、Gが406万0350円だった。現在はもっとも廉価なグレードのSがあるが、比較のため現行のXは381万9200万円、Gは418万9900万円だ。加えて、e+も加わり、このXが411万1000円、Gは499万8400円となっている。

2010年に発売された『初代リーフ』。価格はXが376万4250万円、Gが406万0350円、バッテリー容量24kWhで航続距離はJC08モードで228km

2017年にフルモデルチェンジされた『2代目リーフ』(現行型)。価格はXは381万9200万円、Gは418万9900万円、バッテリー容量40kWhで航続距離はWLTCモードで322km

2019年に大容量バッテリーモデルの『リーフe+』が追加された。こちらの価格は、Xが411万1000円、Gは499万8400円、バッテリー容量は62kWhで航続距離はWLTCモードで458km

 そして車載されるバッテリー容量は、初代が24kWh(キロ・ワット・アワー)であったのに対し、現行リーフは40kWhで、e+は62kWhである。

 以上から、要素を単純化して比較すると、初代に比べ現行の2代目リーフはバッテリー容量が1.66倍に増えたにもかかわらず、車両価格はリーフのXで6万円ほど、Gで約13万円しか上がっていない。

 プラットフォームを初代から引き継いでいるので、そうした面での減価償却や、装備の見直しにともなう原価低減などもあるはずだが、リチウムイオンバッテリー容量が標準車で1.6倍近くになったのに、新車価格は1.5%しか上がっていないのである。

 リチウムイオンバッテリーの原価がかなり圧縮された可能性は高い。しかし、リチウムイオンバッテリーの性能自体は、電極が従来のマンガン酸リチウムから、三元系と呼ばれるニッケル・マンガン・コバルトに替わっており、材料費で現行車は原価が上がっていると考えられる。

■電池コストダウンのカギを握るテスラの「ギガファクトリー」

 もうひとつ、EVの価格が下がる実態が浮かび上がった。それは、米国のテスラ・モデル3が国内販売価格の値下げを行い、3車種のうち廉価車種と中間車種の価格が、約80万~150万円も下がったのである。

大幅値下げでいっきに身近になった『テスラ モデル3』。後輪駆動でスポーツドライブできる高性能がこの価格で買えるのは悩ましい

 具体的には、後輪駆動(RWD)のスタンダードレンジプラスが511万円から429万円へ、4輪駆動(AWD)のロングレンジAWDが655万2000から499万円へ価格が下がった。ちなみに、最上級車種のパフォーマンスの717万3000円は据え置きである。

 この驚くべき大幅な値下げについて、テスラでは世界的にリチウムイオンバッテリーを大量生産するギガファクトリーの建設を進めており、このうち、中国の上海にあるモデル3専用のバッテリー工場が稼働し、近距離の市場である日本での値下げにつながったとのことだ。

 また、品質については、新しい工場であるとともに、モデル3専用のバッテリー工場のため、単一製品の製造という点でも品質が高まっているという。

 日本とは逆に、中国から遠い米国市場でモデル3は値上がったとのことだ。つまり、輸送経費の差も、リチウムイオンバッテリー原価を大きく左右することがうかがえる。

 以上の数字から、リチウムイオンバッテリーの原価は下げの方向に向かいはじめているといえるだろう。さらに、そこへドイツのフォルクスワーゲンによる戦略的なバッテリー計画が明らかになった。

 テスラがすでに展開をはじめているギガファクトリーと呼ばれるリチウムイオンバッテリーの大量生産工場を、欧州に6カ所建設するというのである。

■バッテリーの価格を下げるさまざまな可能性

 また、EVの性能水準に応じて、電極材料をリン酸鉄系、マンガン酸系、ニッケル・マンガン・コバルト系と使い分けることにより、高性能車のバッテリー原価はそれなりの水準になるはずだが、低価格EV用のリチウムイオンバッテリーは、電極材料での原価低減効果が得られると期待する。

 リン酸鉄系は、中国製のEVで使われている。マンガン酸系は初代リーフやi‐MiEVで安全性を優先し採用された電極だ。そして今日、2代目リーフを含め世界のEVが一充電走行距離を競って高性能化しているのが、3元系ともいわれるニッケル・マンガン・コバルト系になる。

日産のリチウムイオンバッテリーは、三元系正極材料とラミネート構造セルを採用したことにより、高いエネルギー密度と信頼性を実現している。写真はリーフe+のバッテリー

 テスラの中国上海のギガファクトリーのように、単一のバッテリーを大量生産するほうがより原価を下げ、かつ品質を保つことに役立ちそうだが、低価格のEVで庶民の足を確保するには大量生産だけでなく、材料費の原価低減も必要になることがVWの計画から明らかになった。

 佐川急便が中国製の軽商用EVを7200台導入するとの報道があったが、配送など用途の定まった使い方であれば、仕事に支障の出ない走行距離を得られればよいのであって、いつ、誰が、どれくらい遠出をするかわからない乗用EVとは違ったリチウムイオンバッテリーの在り方があってよい。

 そのうえで既存の軽商用バンと大差ない車両価格で導入できれば、その電気代はガソリン代に比べ半額以下となるはずで、差額を事業の儲けとするか、配達ドライバーの待遇改善に使うか、あるいは荷物の送料を割り引くか、いろいろ用途は考えられる。

 もし、配送料金が下がれば、ヤマトの宅急便やゆうパックに大きく差をつけられることにもなり、市場占有率が変わる可能性が出てくる。

■佐川急便が導入する中国製EVの波及効果

 また、現行リーフの40kWhと62kWhという選択肢があるように、軽乗用EVでも、必要とする走行距離と、購入予算の関係から、バッテリー性能の選択肢があれば、日常の足として利用されることの多い軽乗用EVをより安く買える機会が生まれる。

 そして自宅で充電すれば、電気代はガソリン代の半額以下で済むだろう。そうなると、市場の30~40%を占める軽自動車が一気にEV化する可能性も出てくる。

 日本では、一昨年の東京モーターショーで日産自動車が参考出展したIMkが、いよいよ来年あたり市販される可能性がある。同時にまた、提携関係にある三菱自からも軽乗用EVが売り出されるだろう。その時、価格がいくら下がるかが見ものだ。

東京モーターショー2019で発表された日産『IMk』。新開発のEV専用プラットフォームを採用して、軽自動車EVとして登場予定だが詳細は不明

 トヨタが超小型EVとしてシーポッドを法人や自治体向けのリース販売を開始し、来年には一般消費者へも販売を開始する予定だが、その価格動向も見逃せない。シーポッドは現在Xグレードで165万円するが、軽EVがそれに近い価格で販売されたら、値下げが必要になるだろう。

トヨタの2人乗り超小型EV『シーポッド』。満充電で約100km走れるシティコミューター、現時点ではEV普及に積極的な法人ユーザーや自治体などを対象にした限定販売となる

 佐川急便で業務用に限定しながらも、中国製EVが国内を走るようになれば、その価格が国内の軽EVや超小型EVの価格に影響を及ぼすのは間違いない。

 中国製品に対しては、性能や品質を低く観がちな傾向もあるが、いざ現車を見てみなければわからない。少なくとも、YouTubeで基になるのではないかと思われるEVの動画を見ると、価格に見合った性能や品質を備えていそうに思える。

■EV戦略に乗り遅れた日本車メーカーはどうなる?

 一方で、日本の自動車メーカーは、EVの言い方ではなく電動車の表現を好み、そこにはEVに加えプラグインハイブリッド車(PHEV)のみならず、既存のハイブリッド車(HV)やマイルドハイブリッド車も含み、総量としての販売比率を計画している。だがそれではリチウムイオンバッテリーの原価は下がりにくい。

 欧米や中国のメーカーは、EV戦略を明確にしたうえで、ギガファクトリーの建設や、そこからのバッテリー供給を将来計画に入れはじめている。理由は、バッテリー工場は100%操業することではじめて合理的な原価が実現できるからだ。

 リチウムイオンバッテリーといっても、電極材料で種類が異なる。さらに、EV用とHV用では充放電特性が異なるので、別種類になる。

 求める性能が異なるバッテリーを同じラインで生産することはできず、種類の異なるリチウムイオンバッテリーを使おうとすれば工場の生産能力を100%使い切る稼働へ持ち込みにくくなる。そうなればバッテリーの販売価格は高くなるはずだ。

 このところ、英国のジャガーや、スウェーデンのボルボ、また米国のゼネラル・モーターズ(GM)などがEVメーカーになると宣言しているのも、販売台数をより明確にし、リチウムイオンバッテリーの生産能力に合わせた100%操業を実現することで、確実な部品の入荷と原価の低減を狙ってのことだろう。

ジャガー初のEVモデル『Iペイス』(I-PACE)。90kWhのバッテリーを搭載し航続距離470kmを実現する、そして400ps、4WD、重量配分50:50と高性能を持ち合わせている

2021年秋の発売が予定されているボルボのEV第一弾となる『C40』。ボルボは「2030年までにすべてのボルボ車をEVにする」と宣言している

 EV化は、海外の企業戦略に巻き込まれるとか、消費者が希望しているのかなどといって、20~30年後を念頭に、全個体電池など新技術の実用化に期待を寄せる発言を耳にするが、それでは世界の負け組となることは間違いないだろう。

 EVの性能はすでに満たされている。これからは、車種の広がりと、価格低下が市場を支配する。いまあるリチウムイオンバッテリーをいかに安全に、有効に使いきるかの勝負に入っているのだ。

 そこを見誤れば、日本の自動車メーカーはのきなみ退場させられる可能性が現実味を帯びることになる。

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みんなのコメント

5件
  • 台湾が半導体の値段を吹っかけてくる。バッテリーどころじゃなく、ガソリン車ですら生産を止められてる。
  • 安くならないと思う。
    バッテリー単価は多少下がろうとも本体側で原材料高騰云々でどっこいどっこい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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