ホンダ(は有名すぎてきちんと紹介していないが)、スズキ、ヤマハと来たら当然カワサキを外すわけにはいかない。
鉄道や航空機は作っているものの、ヤマハ同様、カワサキもクルマの製造はしていない。「それなのにクルマと同じ名前のバイクなんて……」とお思いの人もいるかと思う。
が、過去に1例だけ存在していた。
クルマと名前が共用されていたのはトレールモデルTRシリーズが1台、「ビッグホーン」である。
カワサキ 350TR ビッグホーン
ハスラーだけじゃない! 最終的にクルマになっちゃったバイクたち【スズキ編】
カワサキのビッグホーンと言えばトレールモデルTRシリーズの最大排気量車である350TR。1960年代後半~1970年代初頭にかけ、当時主要市場と見られていたアメリカではオフロード走行が大流行。「このビッグウエーブに乗り遅れてなるものか!」と各社ともトレールモデルの開発を進めており、その流れの中で誕生したモデルである。
1969年にアメリカ向けに発売され、翌年には国内でも発売が開始された。250TRバイソン、125TRボブキャットなど同シリーズではペットネームに動物の名前を使うことが多く、ビッグホーンとはオオツノヒツジのことだ。
いすゞ ビッグホーン
「は~しれ、はしれ~♪」のCMソングが印象的ないすゞ自動車。トラックやバスの専門メーカーとしておなじみの、かつては乗用車も作っていた(117クーペ、ベレット、ジェミニなどもあるし、クルマ好きの皆さんからは「そんなの当たり前だろ!」と言われてしまいそうだが)。
そして、その内の1台が1981年から販売された「ロデオビッグホーン」を原点とする「ビッグホーン」シリーズ。オフロード走行からシティユースまで幅広く利用できるRV車(Recreational Vehicle)の先駆けとも言える。その後マイナーチェンジを重ねながら21世紀初頭の2002年まで製造が続いたロングセラーモデルだ。
カワサキ、いすゞの場合もポイントとなるのは「商標権の分割移転登録」。「トヨタ-ヤマハの同名モデル」の記事でも紹介したが、「A社が持っている商標だけども、使いたいのならB社さんも使える様に権利を分けてあげるわよ」というものである(まぁ、かなりざっくりとした説明で、実際はそんな簡単なものではない)。
350TRビッグホーンの製造販売に合わせて、1970年に「Big horn350」(※Bigとhornの間にはオオツノヒツジのイラストが入る)を商用登録したカワサキ。
当時は前述の英語表記のみだったが、1981年にカタカナ表記の「ビッグホーン」と大文字表記の「BIG HORN」を新たに出願している。これはあくまで推測だが、いすゞが使うために申請し直したのではないだろうか。
当時は「Big horn350」、「ビッグホーン」、「BIG HORN」の3つをカワサキといすゞが使用することができた。
が、現在はカワサキは「Big horn350」の商標権のみ残残っており、ほかのふたつは消滅。いすゞのほうは「ビッグホーン」、「BIG HORN」のふたつの商標は保持しているが、「Big horn350」の商標権を失う……というちょっとややこしい(?)形で落ち着いている。
いすゞとカワサキは共同出資してバスボディの製造販売「アイ・ケイ・コーチ株式会社」を設立しており、その縁もあって商標権の分割移転登録が可能となったという説もあるが、同社を立ち上げたのは1986年のこと。いすゞビッグホーンが登場したのが1981年からなので、時系列が合わない。
しかし、実はカワサキは過去に自前でクルマを生産していたことがある(当時は川崎車両という社名で、1969年に川崎航空機工業とともに川崎重工業に合併する)。1918年からトラックの生産を開始し、1932年からは「六甲号」の名称でバスやトラックを、1933年には「六甲号」乗用車も製造していた(乗用車は高級車として省庁や宮家にも納入された)。
一方のいすゞは、会社の設立は1937年ながら、前身である東京石川島造船所、東京瓦斯電気工業株式会社が1916年から自動車の製造を企画し、’22年に乗用車(英国ウズレー社のA9型のライセンス品だが)の製造を開始。その後紆余曲折を経て1933年から商工省標準型式自動車のいすゞ号(TX35トラック)の生産を開始した。
大正から昭和にかけてともに運送用車両を製造していた、という奇縁(?)から分割移転登録できるような仲に発展したのではなかろうか? ここもあくまで推測に過ぎないのだが。
ともあれ、クルマ、バイク問わず、新型車やバリエーションモデルが出た際に、スタイルや性能だけでなく、車名にも注目してみれば、企業間の意外なつながりが見えてくる……かもしれない。
まとめ●モーサイ編集部
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