「移動式オービスで取り締まり、埼玉で24時間態勢 事故多発地点や速度が上がりやすい地点をランダムに選ぶ」と2021年12月30日、埼玉新聞が報じた。以下、一部引用する。
▽▽▽引用開始▽▽▽
月間中の県内の交通事故死者が10人以上となり、交通死亡事故多発警報が発令されたことから、秩父署は27日、移動式オービスを活用した速度取り締まりを午前6時から翌同6時までの24時間態勢で行った。
取り締まりは、同署交通課員4人態勢で実施。管内の事故多発地点や速度が上がりやすい地点をランダムに選び、移動式オービスを設置。通過する車の速度違反に目を光らせた。この日は、秩父市の国道140号雁坂トンネル、日野鷺橋の主要地方道、長瀞町井戸の主要地方道の計3カ所で展開。速度違反の疑いのある計25台の車両を撮影した。
△△△引用終了△△△
オービスに捕まり、赤切符で罰金10万円…でも払えない。どうなる?
ほほ~、マニア的には非常に興味深い報道だ。3つの点について私のほうで独自に解説しよう。独自も独自、こんな解説をするのは私だけじゃないかと(笑)。
1、「移動式」はオービスマップ用語
記事中の画像にある装置は東京航空計器(TKK)のLSM-310。契約書や仕様書等では「可搬式」だ。警察も可搬式として記者発表しているという。ならば「移動式」とは何か。可搬式は、半可搬式、固定式とともに「新たな速度違反自動取締装置」として登場した。オービスマップの業者さんが新たな3種をマップに加えるに当たり、記号を「i=移動式」とした。そこが始まりなのだ。
ネット展開が巧みだったようで、瞬く間に移動式の3文字が広まり定着した。泣く子とネットには勝てぬ、新聞・テレビは警察発表に逆らって移動式と報じることがよくある。なんと警察のWebサイトに移動式の3文字を見ることさえある。オービスマップの業者さんはガッツポーズだろう。うまいことやりましたね。
2、「通学路の安全を守る」はうそだった?
「従来の速度取り締まり方法は、通学路や生活道路に向かない。通学路等の速度を抑止して安全を守るため、持ち運びできて神出鬼没な新しい装置が必要だ」そんな大義名分で可搬式は登場した。しかし今回、「国道」や「主要地方道」で取り締まったという。
「なんでだよっ、話が違うじゃないか!」となった方が少なくないんじゃないか。
だけど、考えてもみてほしい。通学路等の速度抑止には、ハンプ(かまぼこ型の盛り上がり)やボラード(頑丈な杭でわざと狭さく部をつくる)などがある。それら物理的デバイスは24時間、365日、速度を抑止し続ける。ところが警察庁は、物理的デバイスのことは言わず、可搬式こそが通学路等の安全を守る切り札であるかに報じさせ続けた。おかしいでしょ。
通学路等はだいたい「ゾーン30」とされ、制限速度は30キロだ。従来のオービスは赤切符の違反(一般道路では超過速度が30キロ以上)だけを取り締まる。ならば通学路等で、子どもたちのそばを59キロでかっ飛ばす暴走車を見逃す? んなわきゃない。当然に青切符(超過30キロ未満)も取り締まることになる。通学路等の安全を大義名分として掲げることによりオービスを「赤切符の制約」「赤切符縛り」からスムーズに解き放てる。そのための大義名分だったとの推認は、裁判の判決風にいえば、論理則・経験則等に照らして合理的というべきである。よって、国道や主要地方道でも可搬式を使うのは当たり前なのだ。
3、24時間体制の取り締まりで25台を「撮影」
「交通死亡事故多発警報」を発令して「午前6時から翌同6時までの24時間態勢」で取り締まりを行ったという。2021年3月末時点で埼玉県警は5台の可搬式を保有している。5台を総動員したのか。いや、「秩父署は…」「交通課員4人態勢で…」とあるところからして1台のみだろう。
24時間体制で25台を撮影したという。私は「えっ?」と感じる。昔、ネズミ捕りの警察官がつくる記録を私はいくつも見た。「きちんと記録をつくっている。否認したのは本件被告人だけだ」と主張するため検察官が法廷へ出したものを、被告人や弁護人を通じて見せてもらったのだ。その取り締まり件数は、1回2~3時間でだいたい20件前後だった。
当時と違って近年は速度違反が減っている。昔ほどは取り締まれないだろう。だが、それにしても、24時間で25台、1時間あたり約1台って、いっくらなんでも少なすぎる。しかも行ったのは「撮影」でしかない。何件に呼び出し状を送付し、うち何件が違反切符の作成にまで至るのか。
4、まとめ
これまでの警察庁の動きや各地の入札状況、さまざまなデータ等々を見ると、TKKの可搬式は、なんというか速度取り締まりには向かないようだ。ゆえに今回も、24時間で25台という恥ずかしいことになったのだろう。
でも、そんな恥ずかしい数字を秩父署はなぜ発表したのか。埼玉県警本部はなぜ発表させたのか。隠せばいいのに。私が思うに、現場警察官たちはTKKの可搬式のダメぶりにほとほと嫌気がさしており、しかし警察庁が天下り利権の関係でTKKをゴリ押しするもんだから逆らえず、恥ずかしい数字を出すことでSOSを発した、そういうことじゃないのかなあ。全国の警察官たちが「だよねえ、うんうん」とうなづいている、なーんて深読みはどうでしょね。
だけども、速度違反常習者たちの多くは私のような深読みはせず、「移動式は国道でも取り締まるぞ。マジで神出鬼没だ。ヤバイ!」とだけ受け止めるのだろう。どう受け止めてもいいが、速度を出し過ぎると危険の発見が遅れ、回避が遅れ、事故ったときの被害が甚大となる。失われずにすんだはずの命が失われる。命は助かっても、重い後遺障害が残ったりする。本当にヤバイのはそこですぞ。ご注意を!
文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。
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