全長4m以下の小さなボディでエモーショナルなフォルムを実現
今、日本市場で盛り上がっているカージャンルといえば、コンパクトSUVです。本記事でフォーカスする新型「フロンクス」は、そんな人気マーケットへ放たれたスズキの刺客といってもいいでしょう。
【画像】「えっ!…」意外にも高速移動がラク! これがスズキの意欲作「フロンクス」です(30枚以上)
まず注目したいのは、なんといっても流麗なスタイル。
これまでのスズキは「ジムニーシエラ」や「SX4 Sクロス」といったコンパクトSUVを市場に投入してきましたが、新型「フロンクス」のようなクーペフォルムのモデルはそれらと一線を画すもの。
かなり都会的な印象で、これまでスズキ車とは縁がなかった新たなユーザーを獲得するのではないかと思わせます。ネットでは“手ごろな(トヨタ)「ハリアー」”なんて表現も見受けられますが、確かにいい得て妙かもしれません。
新型「フロンクス」の顔つきは、写真からも分かるとおりアグレッシブです。バンパー上部に備わるのはデイライト&ウインカーで、ヘッドライトはバンパーの左右に組み込まれています。そんなフロントマスクも「これ以上やりすぎると好き嫌いが大きく分かれるだろう」と思える、絶妙なラインに抑えているといえるでしょう。
そして驚く事実は、ボディサイズが小さいこと。全長は4m以下に抑えられています。今、日本で買えるSUVで全長4mを切るのは、同じスズキの「ジムニー」や「ジムニーシエラ」以外には、トヨタ「ライズ」とダイハツ「ロッキー」くらい。
新型「フロンクス」はそれらの中で、最もエモーショナルなフォルムであるのは誰の目にも明らかでしょう。
ポイントは、ボディサイドから眺めた際、フロントとリアのウインドウ寝ていること。これがスポーツカーのような躍動感を生んでいます。また、サイドウインドウの天地を短くし、キャビンを薄く見せています。これらが伸びやかな印象を生み、全長の短さを感じさせないのです。
かつて日本にも、トヨタ「C-HR」や日産「ジューク」といった、思いっきりクーペのようなデザインに振った個性派コンパクトSUVが存在していました。しかし今では、2モデルとも日本での販売を終了。そんな中、クーペフォルムの軽快なデザインでカッコよさを追求した新型「フロンクス」の登場は、大きな意味があるでしょう。
ちなみに「フロンクス」は、グローバルカーとして欧州や日本の市場でも販売されますが、メインマーケットはあくまでインド。そのため、現地のマーケットに合わせた設計がおこなわれています。
何を隠そう、インドでは全長が4mを超えると税金が跳ね上がる税体系をとっています。新型「フロンクス」の全長が4mを下回るのは、そんな背景によるものですが、一方でグローバルモデルなので、全幅は1765mmと日本のコンパクトカーとしてはワイドな設定。とはいえ、最小回転半径は4.8mとクラスナンバーワンの小ささなので、駐車場などでの取り回しは良好でした。
駐車場といえば、全高を1550mmに抑えた新型「フロンクス」は、一般的な機械式立体駐車場に入庫できるのも大きなアドバンテージといえるでしょう。これは都市部で暮らす人々にとって大きな意味を持ちます。
全長が短くてルーフが低いとなると「キャビンが狭いのではないか?」と不安を抱く人がいるのではないでしょうか? しかし、そんなことを感じさせないのが新型「フロンクス」のスゴいところです。
フロントシートはもちろん、リアシートにも十分なスペースが確保されていて、リアシート乗員のヒザ回りのゆとりは、ホンダ「WR-V」や日産「キックス」といった全長4.3m以上で“パッケージ自慢”のモデルに匹敵するほど。
ちなみにインドでは、このクラスのモデルでも運転手つきで、オーナーはリアシートに座ってリムジンのように使われることが少なくないため、リアシートの居住性はとても重要なのだとか。着座姿勢も適正で、とにかくくつろげる空間に仕上がっています。
加えて、リアのドアアームレストまでソフトパッド仕立てとなっているのは、このクラスとしては異例の上質さ。リアのドアトリムはハードプラスチックのまま、というのが、このクラスでは常識なのです。しかも、クーペスタイルを採っているとはいえ、後席乗員のヘッドクリアランスも問題はありません。
それに対し、ラゲッジスペースはあまり広くありません。荷室容量は「ジムニーシエラ」よりも広いけれど、「ライズ」とか「ロッキー」、さらにはトヨタ「ヤリスクロス」などと比べると控えめな290リッター(ラゲッジボードを外した状態)となっています。
とはいえ、荷室フロアを上下2段式にして積載効率を高める可動式のラゲッジボード板を外せば、旅客機の機内に持ち込めるスーツケースでは最大サイズとなる、38リットルのケースを4個積載可能。つまり、日常シーンでは十分以上の広さが確保されているのです。
ドライバーの思いどおりに走ってくれる
そんな新型「フロンクス」ですが、気になる走りの実力はどうでしょう?
まず好印象なのは、パワートレインの質感と気持ちよさ。昨今、日本のコンパクトカーは、3気筒エンジン+CVTというのが一般的ですが、新型「フロンクス」は4気筒エンジン+6速ATという、いまや極めて少数派となったパワートレインを採用しています。
4気筒としたことで、エンジンに起因する振動などの雑味やチープなエンジン音が抑えられている分、質感が高く、広範囲でロックアップする構造のトルクコンバーター式6速ATはアクセル操作に対する反応がダイレクト。それらが相まって、運転していて心地いいのです。
この美点はあからさまに分かるものではなく、しばらく運転した後に「なんか爽快だな」とジワジワと全身を包み込み、そして一度気づけばあとはしっかり感じられるという、さり気ないけれど明確なもの。ディーラーでのチョイ乗りよりも、長時間ドライブしたり長くつき合ったりするほど、そのよさを実感できるでしょう。
特に6速ATは、ドライバーの思いどおりに加速してくれる感覚があり、クルマ好きにとっては大きなメリットを感じられることでしょう。
ハンドリングは、「スイフト」のようにシャープではないものの、落ち着きがあってよく曲がってくれる印象です。ステアリング操作に対する反応は正確で、安定感も高いのでワインディングでも安心して走れます。
それでいて、ハイスピード領域での安定感もすこぶる良好。コンパクトSUVとは思えないほどまっすぐ走っていく安定性があり、高速道路を長時間走り続けても疲れにくいクルマだろうなと感じました。ボディサイズを意識させない、高速ツアラーといった印象です。
そうした印象をより強くさせるのが、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープ機能といった高速道路における運転支援機能の高い性能です。
クルーズコントロールの速度調整はとてもなめらかで、例えば前方にクルマが割り込んできても急な減速などは極力おこなわず、まるで上手なドライバーがコントロールしているかのようにスムーズに反応してくれます。
加えて、レーンキープ機能もステアリングに軽く手を添えているだけで高速道路のカーブをしっかりとトレースし、その際の軌道修正もほとんどない正確性が好印象。これら運転支援機能の性能は、クラスの標準を確実に超えています。
乗り心地に関しては、よくも悪くも“少し前のヨーロッパ車”的。ロールスピードを抑えて安定感を生み出すことで、高速道路もワインディングもしっかり感のあるハンドリングフィールを生み出しています。
ただしその反動として、路面の細かい段差を拾い、コツコツとした突き上げ感を乗員に伝えてくるシーンがありました。とはいえ、絶対的に乗り心地が悪いわけではなく「強いていえば」くらいのレベルですが、気になる人は試乗時にチェックした方がいいかもしれません。
* * *
ブランニューモデルである新型「フロンクス」を試乗してみて、完成度が高いスズキの意欲作であることを実感しました。見た目が気に入ったら、実車をチェックしたり試乗したりすることを強くお勧めします。
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