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フランスから米国車が発売? 美しきV8スポーツクーペ「コメット」 50年代の名車

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フランスから米国車が発売? 美しきV8スポーツクーペ「コメット」 50年代の名車

美しくも無名なクーペ

フォードという自動車メーカーは、実にユニークかつ魅力的に「分裂」してきた。

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北米、オーストラリア、欧州、ブラジルの各部門がそれぞれ独立性を保ちながら、まったく異なるモデルを生産しているのだ。過去には英国とドイツの部門もあった(英国人は一時期、3社のフォードから新車を買うことができた)。

国や地域に応じて独立部門を置き、現地のニーズに沿った商品を作るというのは企業としてよくあることだ。ただ、フォードほど多面的かつ明確に展開するメーカーも珍しいのではないだろうか。

今となっては奇妙に思われるかもしれないが、かつてはフランス・フォードなる部門も存在し、富裕層向けに美しいV8スポーツクーペを生産していた。

1952年6月27日には、本誌AUTOCARもそのクーペに試乗している。しかし、このモデルのことをきちんと語るには、まず1934年まで時計の針を戻さなければならない。

フランスに進出する米国メーカー

当時は英ダゲナムに欧州最大規模の自動車工場が完成したばかりで、アイルランドとドイツにも同様に近代的な工場があった。それでもフォードは飽き足らず、さらなる事業拡大を計画していた。

パリの工場が小さかったことと、新たに導入された保護主義的な輸入税から、このところフランスでは苦戦を強いられていた。そこで、ストラスブールに大規模な工場を持っていながら経営危機に陥っていたフランスのメーカー、マティスに目をつける。

1934年10月に両社の合弁事業としてマットフォードが設立された。責任者にはモーリス・ドルフュスという人物が選ばれた。

フォードはストラスブール工場の近代化に巨費を投じ、1935年に故郷の名を冠したセダン、アルザス(Alsace)を発表した。シャシーと3.6L V8は米国製で、ボディ(米国向けのモデル48から派生)は著名な部品サプライヤーであるショーソンから調達した。インテリアは独自のものであった。

当時としては強力な89psというエンジン出力のために高い税金が課され、幸先の悪いスタートを切ったが、翌年に59psの2.2L V8を搭載したショートホイールベース・モデルを追加することで、すぐに状況を打開した。

アルザスの販売が軌道に乗り、フォードはポワシー近郊にエンジン生産のための鋳造工場を建設し始めた。1939年9月3日、ポーランド侵攻を受けてフランスがドイツに宣戦布告するまでは、未来は明るいと思われた。

いろいろな意味で「珍しい」クルマ

戦後間もない1946年、新生フランス・フォードが始動し、1948年までアルザスの改良を続けた。そのころ米国では、エドセル・フォード氏とボブ・グレゴリー氏がモデルT(T型)を現代風にアレンジしたセダンを開発したものの、新社長のヘンリー・フォード2世が本国では商業的にリスクが高すぎると反対。そこでドルフュス氏の要請もあり、フランスに譲渡することになった。

こうして生まれたヴェデット(Vedette)だが、ポワシー工場の戦災とサプライチェーンの混乱により製造品質が低かったため、出だしでつまづいてしまう。悲しいことにドルフュス氏は引退することになった。

3年後、フランスが戦争の荒廃から立ち直り始めた頃、彼の後任であるルノー出身のフランソワ・ルヒデュー氏が、ある新型車の投入を決意する。イタリアの有名なデザイン会社ファリーナ(後のピニンファリーナ)が線を引き、ファセルがボディを製作したクーペ、コメット(Comete)である。

コメットは1951年のパリ・モーターショーで発表されると、会場を大いに沸かせた。翌年の夏に本誌が試乗したところ、その走りは驚異的なものであった。

以下、本誌のレビュー。

「V8は、その全域で際立ってスムーズで静かだ。ステアリングは非常に軽く、路面からの反動はまったくなく、わずかにアンダーステアである。渋滞の中では、ハンドルを握っているのがむしろ忙しく感じられる」

「しかし、スプリングと相まって優れたコントロール性を発揮する。舗装路での乗り心地はよく、乗員は本当に酷い段差しか意識しないが、路面追従性と安定性が損なわれるほど柔らかいわけではない」

「高速でコーナーリングしても、ホイールホップやグリップの低下を感じることはない。ローリングはほとんど目立たない。ブレーキもクルマの性能に見合ったものだ。ドライビングポジションは、快適な座り心地と良好な操作性を兼ね備えている」

「コメットは、非常にモダンで優美な外観と、快活な性能を持ち、あらゆる面で装備が充実している、いろいろな意味で珍しいクルマである」

それが本誌の結論であった。

しかし、極めて好印象だったにもかかわらず、フランス・フォードの赤字は膨らみ続け、1954年にライバルであるフランスのシムカに売却されてしまった。買収と合併を経て、その名残は現在ステランティスの一部となり、ポワシーはDS、オペル、プジョー向けのクルマを生産している。

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みんなのコメント

3件
  • furima-jirosan
    お、こんな記事があったのか…

    このクルマをデザインしたファリーナというのは、ピニンファリーナ創立者の
    バティスタの兄上であるカルロが戦前に興した「スタビリメンティ・ファリーナ」
    というカロッツェリアで、かつては弟バティスタもここで働き、また後にBMWの
    デザインにも関わったデザイナー、ピエトロ・フルアも在籍しておりました。

    ファセルは戦前からフランスの自動車メーカーのボディ製作を担当していた
    コーチビルダーで、このコメットを製造した後に完全自社設計による
    「ファセル・ヴェガ」や「ファセリア」を製造することになります。

    しかしこのフランスフォード(フォードSAF社)、結局はこれもフィアットのフランス
    製造会社が発端のシムカに売却され、しかも後に米ビッグ3の敵方であった
    クライスラーに売却されてタルボになり、PSAにまた売られて現在はプジョーの
    一大生産拠点になろうとは…

    まさに流転のフランス自動車産業の歴史ですな…
  • zab********
    今、現在このままのデザインでハイブリッドカーを出したらメチャクチャ売れそうですね♪ 流石!デザインの国フランス!
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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