好戦的なイメージを与えたヴィニャーレ
1970年代初頭、フロリダ州の貸倉庫でフェラーリ166/195S インター・コンバーチブルは発見される。部分的にバラされた状態で、保管料も含めてオークションにかけられると、元FBI捜査官で弁護士だったオットー・ボーデン氏が落札した。
【画像】ミケロッティ・コンバーチブル フェラーリ166/195S インター 同時期のモデルと250 GTEも 全139枚
ボーデンはフェラーリ・コレクターとして知られた人物で、走行可能な状態へレストア。37年間所有し、しっかり走らせて楽しんだようだ。
2007年には欧州へ移り、フェラーリを得意とする職人、アントニオ・コンスタンティーニ氏の工房へ。エンジンや電気系統がリフレッシュされ、フランスにディーラーを構えるジャン・ギカス氏が購入。2014年以降、166/195Sはスイスで過ごした。
オリジナルの166 インターが作られた頃へ話を戻すと、イタリア・トリノのヴィニャーレ社は、1950年から1954年に約40台ぶんのフェラーリ用ボディを製作している。軽量なレーシングカーと公道用のグランドツアラーを、同程度生み出した。
特にヴィニャーレ・ボディのレーシングカーは軽く、ミッレミリア・レースでは3年連続で優勝している。初期のフェラーリはシャシーのみを提供することが珍しくなく、カロッツエリア独自のボディが架装されることも一般的といえた。
1946年に創業したヴィニャーレ社は、フェラーリにワイルドで好戦的なイメージを与えることが得意で、多くの顧客の支持を集めた。俳優のロバート・テイラー氏やウィリアム・ホールデン氏といったスターも、オーナーに名を連ねた。
既存部品は用いないディティールへの拘り
ヴィニャーレ社は40名程度と小規模ながら、スピーディーなボディ生産を可能としていた。人件費も高くはなく、他のカロッツエリアが数か月必要とする作業を、数週間の単位でこなしたという。
ジョヴァンニ・ミケロッティ氏が描いたデザインスケッチをもとに、職人が木槌や土のうで叩いてボディパネルが成形された。ただし工作精度は高くなく、ボディは左右対称に仕上がらなかった。ドアの長さが、右と左で50mm違う例もあったようだ。
叩き出されたボディパネルのうねりはパテで均され、研磨され、滑らかに整えられた。リベットやボルトで、チューブラーシャシーに固定された。
このダークブルーに塗られた166/195Sのアルミ製ボディには、余計な装飾が殆どない。そのかわり、明るいブラウンのインテリアが良く引き立つ。これまでの時間に、フロントバンパーやフォグランプは失われている。
それでも、小さなテールライトや格納式ドアハンドルなどはオリジナルのまま。ヴィニャーレはディティールへ拘った。可能な限り、既存部品は用いようとしなかった。
ソフトトップは、シートの後ろ側へ折りたたまれる。頭上空間は狭いが、閉めても美しさは変わらない。トランクリッドは、左右のハンドルを水平に倒すと開く。なかには、60Lの燃料タンクが隠れている。
ボンネットとトランクリッドに、ホワイトのレーシングストライプが施されていた時代もあったようだが、最近のレストアで消されている。ない方がずっといい。
コロンボ設計の初期のフェラーリ・ユニット
フロントヒンジのボンネットを開くと、巨匠、ジョアッキーノ・コロンボ氏が設計した初期のフェラーリ・ユニットが姿を表す。ウェットライナーとカウンターバランス・クランクが組まれた、バンク角60度のV型12気筒だ。
トリプル・ウェーバーキャブレターや、ツイン・ディストリビューターが整然と並んでいる。アルミ合金のシルミン材を用いたショートストロークの傑作といえ、広々としたエンジンルームの低い位置に収まっている。
機械として美しく、気高さすら感じられる。ベーシックな技術で構成されたシャシーとは、対象的なほど。
初期のフェラーリと同様に、この166/195S インター・コンバーチブルも右ハンドル。その理由は、時計回りで周回することが多い欧州のサーキットに適していたため。アルプス山脈の狭い峠道では、視界の確保に有利でもあった。
ステアリングホイールは、リベットが打たれたウッドリム。ドライバーの正面には、油圧と燃料、水温が組み込まれた巨大なメーターが置かれ、その隣に1万rpmまで振られたタコメーターと、240km/hまで振られたスピードメーターがレイアウトされる。
ダッシュボードのスイッチには、ライトやワイパーなど、機能のラベルが後年になって貼られている。運転席は居心地が良く、背もたれの後方には手荷物を置くのにちょうどいい、カーペット敷きの空間がある。
3枚のペダルはフロアヒンジ。フロアの造形は複雑で、丁寧な加工がうかがえる。
多くのクルマ好きを惹き付けてきた音響体験
おもちゃのように大きいカギをダッシュボードへ差し込み、スターターボタンを押す。トリプルチェーンやタペットが放つ金属的なノイズとともに、V型12気筒2341ccエンジンが目覚める。12本の小さなシリンダーが、滑らかな自然吸気の燃焼音を放つ。
これまで70年以上、多くのクルマ好きを惹き付けてきた音響体験だ。裕福なオーナーの銀行残高へ、多少の影響を与えてきた美声でもある。
1500rpmから滑らかに吹け上がる。力強いものの、爽快な加速を得るには充分に回転数を高める必要がある。
フロアから長いシフトレバーが突き出ているが、「王」型の磨かれたゲートはない。4速がダイレクトドライブで、5速はオーバードライブ。変速しやすくするシンクロメッシュは、一部にしか備わらない。
慎重にタイミングを図る必要はあるが、理解すればテンポよくギアを変えられる。メカニカルな感触が心地良い。
低いギアでは、アクセルペダルを僅かに傾けるだけでV12エンジンの回転数が大きく変化する。このレスポンスこそ、ショートストローク型ユニットの開発に至った大きな理由だ。気持ちいいサウンドに包まれながら、3速、4速と速度を高めていく。
ステアリングホイールは、アンダーステアに転じた場面を除いて、適度な重さで滑らか。ロードホールディング性も高く、正確に反応し、挙動は予想しやすい。
サーキットと公道を股にかける赤いDNA
ドライビングポジションは快適。ステアリングとペダルは漸進的で、重さがバランスしている。適度な筋力を投じてクルマを操るという、筆者にとってベストな融合にある。
積極的なコーナリングを試みる。唯一発見した問題は、上質ながら平滑なシート。サイドサポートはほぼなく、背もたれは起き気味。プライベート・レーサーではなく、リッチな実業家向けのデザインといえる。
ヴィニャーレ社が1台のみ生み出した、166/195S インター・コンバーチブルの操縦性や乗り心地が、高度に洗練されているとはいえないだろう。だがシャシーの仕様を踏まえれば、期待以上の水準にある。
当時のレーシング・フェラーリとの、密接な結び付きも想起させる。ハスキーなV12エンジンのサウンドには、サーキットと公道を股にかける、赤いDNAが宿っていることは明らかだった。
協力:グレガー・フィスケン社
フェラーリ166/195 インター・コンバーチブル(1951年/欧州仕様)のスペック
英国価格:−ポンド(新車時)/125万ポンド(約2億2500万円/現在)
販売台数:1台
全長:4070mm
全幅:1620mm
全高:1340mm
最高速度:193km/h
0-97km/h加速:8.0秒
燃費:6.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1060kg
パワートレイン:V型12気筒2341cc自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:170ps/7000rpm
最大トルク:20.9g-m/5250rpm
ギアボックス:5速マニュアル/後輪駆動
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