スーパーGTシリーズ2021年も大詰めを迎えた。残すところ2戦。このもてぎと最終戦の富士スピードウェイのみ。SUBARU BRZ GT300は第6戦を終了した時点でポイントランキング首位。ドライバーポイントは50点で2位の56号車に12点差を付けている。このもてぎではチャンピオンが決定する可能性もあるほど優位なポジションでのレースとなった。
スタートでホールショットを奪いトップで3コーナーを通過そして、残りの2戦に対しレギュレーションの変更がある。最終戦前のもてぎはサクセスウエイトを半減し、最終戦はサクセスウエイトをゼロにするルールが適用される。サクセスウエイトは獲得したドライバーポイントの3倍がウエイトになるが、もてぎではその半分の1.5倍で計算する。BRZ GT300は50点獲得しているので、1.5倍の75kgが搭載するサクセスウエイトとなるわけだ。
サクセスウエイトは75kgを搭載 金曜日
こうした状況で小澤正弘総監督は「ウエイトに関してはあまり心配要素ではないのですが、確実にブレーキや加速ではハンデになります。そのあたりの対策をして挑むことになります。シーズンを通してウエイトをどこに搭載すると影響がでるかといった知見は十分あります」と。
そしてドライバーの井口も「前回のオートポリスで100kg積んで走りましたけど、本当に搭載しているの?というくらいバランスが良かったので、75kgのウエイトはそこまで気にしていないです」と話す。さらに「エンジニアの皆さんが凄く頑張ってくれていて、後半になってからはセットアップの課題がどんどんクリアになっていきます。毎戦、凄くいい状態で乗れますから」
BRZ GT300はマシンの性格がピーキーでストライズゾーンが小さいとドライバーは感じていた。そこをドライバーからの要望で、第3戦鈴鹿(延期され8月開催)が終わった後、エンジニアと相談したという。そこからSUGOでの優勝、100kg搭載してオートポリスでの3位という結果に結びついている。課題解決に向けた対策が結果を出しているのだ。それをドライバーはドライブフィールの手応としても感じているというわけだ。
山内は「テストも含め今年やってきた中で、いい部分、悪い分があり、その悪い部分を消してこれているから、今こうしたポジションにいるんだと思います。前半は速さがあり、後半に入ってからは決勝に結びつけることができていると思います。ただ、前回のもてぎは良くなかったのですが、今ならその答え合わせができる!というのが楽しみになってます」
土曜
土曜の午前は公式練習が行なわれる。ここでタイヤとマシンとのセットアップを煮詰めるが、BRZ GT300は全体で8番手あたりのタイムどまり。
「バランスがあっていなくて、そこのアジャストがうまくできなかったというのがありました。でも予選は大丈夫です、ソフトとハードでタイム差がなかったので、クルマのセットアップをどっちにあわせるか、それだけで解決できると思います」と山内は話す。
午後から行なわれた予選では山内はコースレーコードを叩き出した。これには小澤総監督も「凄いね、予想よりも速かった。ターゲットタイムを想定していたんですが、それよりも速いので驚いています。でもコースレーコードを出してポールポジションが獲れないのは残念ですけど、重量の軽いGT3にはちょっと敵わないですね。決勝に向けては、天気はちょうどいい感じになると思うのでタイヤもおそらく大丈夫だと思います。これはやってみないと分からないこともあるのでなんとも言えませんけど、表彰台に向けて頑張ります」
GT300クラスには29台のエントリーがありポイントランキング順で、A組、B組に分け各組上位8位までがQ2に進出できる。A組は井口卓人が走り3番手でQ1を突破した。
「マシンのバランスがよくて自分の中でももうちょっと詰められる感覚がありました。だから2アタックしたんですけど、最後に失敗しちゃってタイムは伸ばせませんでした。だけど、伸びしろがある手応えの予選でした」と。さらに井口は余裕もあったと話す。
そしてQ2予選が始まる13分前、山内はレーシングスーツに着替え準備を始める。そして「速くなる」サプリを飲み込み準備を整える。鋭い視線の先には何が描かれているのだろう。
5分前。レーシングシューズの底をクリーナーで丁寧に拭く。アクセルペダル、ブレーキペダルを滑って踏み外さないためだ。そしてマシンのルーフに両手を広げてつき、目を閉じる。うつむきながら集中を高めていく。数秒後、マシンへと体を滑り込ませる。メカニックが6点式シートベルトを締め準備完了だ。
山内は早めのタイムアタックと決めていたようだ。積極的にクリアラップを作る。前後にマシンがいなくなる状況をつくり2周目にアタックを開始した。周りはまだウォームアップ中だ。
場内アナウンスも「おや? BRZはすでにタイムアタックに入ったようですね、セクター1、セクター2で全体ベストを出しています。あ、セクター3でも全体ベストです。山内はフルアタックしています。さぁ、どこまでタイムを出してくるのか注目です」と興奮気味のアナウンスが場内に響いた。
「あ~凄い!山内はコースレコードです、コースレコードタイムを記録しました。1分45秒667です。サクセスウエイト75kg搭載しているとはとても思えない速さを魅せてます」その凄さを伝える実況のピエール北川も大興奮だ。
山内は結局このアタックだけでピットに戻ってきた。なぜ1ラップだけでアタックを止めたのか?「あの後はタイヤが落ちるのはわかってますし、前にマシンが出てきたので、タイヤ温存を選択しました」と一発のアタックでかなりいい線にいった手応えを持ったのだろう。
結果的には予選終了間際にサクセスウエイト5kg搭載のUPGARAGE NSX-GT3にポールを奪われたが、フロントロー2位のポジションは上出来だ。こうして前戦のオートポリスと同じようにコースレコードを塗り替えながらポールポジションを逃すというモヤモヤする偶然は重なったが、こうなれば表彰台のてっぺんを狙うしかない。
日曜ファイナル
決勝日の天気もよく晴れ、小春日和で過ごしやすい。スタート直前のウォームアップでは気温18度、路面温度25度とチームが想定した温度の範囲内だ。スタートタイヤはQ1で使用したタイヤが指定され、井口はソフトを選択していた。
スタートドライバーはいつものように山内英輝。セカンドローからのスタートだが、1コーナーをトップで抜ける狙いは応援する誰にでも伝わってくる。2周のローリングからスタートが切られ、期待通りに山内はホールショットを奪った。ポジション1だ。
1周目、ポールポジションだった18号車UPGARAGE NSX-GT3を山内は1秒近い0.867秒リードしてトップで戻ってきた。7周目には4秒167まで差を広げ逃げ切り体制ができたかに見えた。が、3番手の55号車ARTA NSX-GT3、やはりホンダのホームサーキットだけにNSX-GT3が速い。山内を追い上げてくる。
この後55号車に交わされ、88号車のランボルギーニから猛烈なプッシュを受ける 14周目、5コーナーで55号車にポジションを譲った。おそらくタイヤが苦しい状況なのだろう。徐々に離され3番手の88号車から猛烈なプッシュを受けるが2位をキープ。27周目に88号車はピットインし、30周目に55号車がピットイン。BRZ GT300は再び首位に立ち31周目にピットインし、井口卓人へと交代した。
タイヤを4本交換し燃料を搭載してピットアウトする。井口もスタートタイヤと同じソフトタイプを履きコースに戻っていった。このときポジションは4位だ。ピットの間に21号車Hitotsuyama Audi R8 LMSとARTAの55号車、そしてチャンピオンシップを争う56号車リアライズ日産自動車大学校 GT-Rのジョアオ・パオロ・デ・オリベイラに抜かれていた。
56号車はヨコハマタイヤを履きタイヤ無交換作戦をとり、ピットストップ時間を短縮していたのだ。ラップチャートには井口より20秒も速くピットアウトしたデータが表示されている。しかし井口はアウトラップも悪くなく56号車を追いかける展開。ポジションを回復したいがGT-Rも速い。56号車のウエイトは57kgでBRZ GT300より軽い。厳しい展開だ。
次第に56号車は逃げ、88号車が追いついてくる。レース終盤になるとポジション4の確保が大事になる。だが88号車からのプッシュも激しい。52周目には3コーナーで88号車と軽い接触をするほどの接近戦だ。GT500クラスが追い越していくタイミングに併せて88号車もBRZ GT300に仕掛けてくる。
こうした攻防が数ラップつづき、55周目V字コーナーでGT500クラスが集団で追い越しを掛けてきた。順位争いをする500クラスも隙間があればノーズを差し込んでGT300クラスを押しのける。井口は88号車を意識しながら500クラスのマシンに抜けるスペースを作る。が、インに飛び込んできたGT500の3号車との接触を避ける際に姿勢を崩しBRZ GT300は痛恨のスピンを喫した。
不幸中の幸いですぐにコース復帰ができ、レーシングスピードにも戻せた。後続を大きく引き離していたおかげでポジションダウンは6位までで食い止めることができたのだ。
BRZ GT300は6位でフィニッシュ。5ポイントを獲得。56号車が3位表彰台。優勝は21号車、2位55号車という順番で、55号車はシリーズポイントでも競うことになってしまった。
それでもドライバーポイントはBRZ GT300が55点で首位をキープ。2位56号車で6点差に縮められ49点となった。3位55号車は10点差で45点だ。そしてシリーズチャンピオンの可能性としては5番手11号車の35点までに可能性が残った。
シリーズチャンピオン争いは、もてぎ戦が始まる前までの優位なポジションから、混戦へと激変してしまった。そして次戦の富士スピードウェイが最終戦となり、サクセスウエイトは全車が降ろしたノーハンデ戦のガチ勝負になる。
SUBARU BRZ GT300は今季第2戦の富士ではポールポジションを獲得し、決勝も2位に入る好走をしている。苦手といわれた富士も、新型BRZ GT300にとっては得意なコースへと変わり、シリーズチャンピオンへの期待が膨らむのだ。<レポート:髙橋明/Akira Takahashi>
The post スーパーGT第7戦もてぎ SUBARU BRZ GT300インサイドストーリー 混戦となったシリーズチャンピオンシップ first appeared on オートプルーブ - Auto Prove.
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