自動車メーカーの再編の動きは激しくなり、最も新しいところでは、フィアット・クライスラー・オートモービルズとPSAグループが合併し、2021年からステランティスという新会社としてスタートを切ることが発表されている。
そのほか、昔から存在したメーカーが消滅、吸収されるケースも珍しくない。
トヨタ車だけどオーラは完璧に欧州車…トヨタプロエースシティが日本で買えるとな??
そんな激動の自動車界にあって、単なるアメリカのベンチャー企業と思われていたテスラが大躍進中だ。
年間販売台数では30分の1程度ながら、2020年7月にはトヨタの時価総額を抜いたことも明らかになった。
いち早くEVに特化したのは事実だが、並みいる競合自動車メーカーを相手に、早々とブランドイメージを確立することに成功している、その理由について桃田健史氏が考察する。
文:桃田健史/写真:TESLAR、TOYOTA、NISSAN、PORSCHE
【画像ギャラリー】プレミアムEVの先鞭をつけたテスラの歴代モデルとこれから発売されるモデル
ついにマスマーケット参入か!?
テスラの現行ラインナップで最も価格が安いのはモデル3で、日本では511万~717万3000円。大幅に生産が遅れていたが、現在は安定
「3年以内に、2万5000ドル(約265万円)のEVを発売したい」。
2020年9月にテスラ株主総会でイーロン・マスクCEOが明らかにした。
現行「モデル3」より廉価なエントリーモデルを設定することで、ついに自動車市場の中核であるマスマーケットに参入することになるのか?
その翌日、テスラが本社を置く米カリフォルニア州のニューサム知事が会見した。
「2035年までに州内でインターナル・コンバッション・エンジン車(=ガソリン・ディーゼル車)の新車販売を禁止する」という。
ただし、同州と米連邦政府は、燃費規制に対する考え方で対立しており、2020年11月の大統領選挙を控えて、アメリカでの電動車市場が今後どう変化するのか、現時点でははっきりと見通せない状況だ。
とはいえ、欧州や中国などでCO2総量規制やEVなどゼロエミッション車の販売総数規制などがさらに強化されるのは確実な情勢だ。
そうなるとテスラの存在感も益々固まり、テスラの株もさらに上がり、GM、フォード、そしてトヨタとの時価総額の差も広がっていくのだろうか?
テスラは年間販売台数ではトヨタの約30分の1ながら、時価総額でトヨタを抜いて自動車メーカーでは世界一。このは将来性が加味された結果だろう
混迷したテスラ第一期
テスラの今後を占うために、まずはテスラの歴史を振り返ってみたい。
大きく第一期と第二期の二つに分かれる。
第一期は、2003年から2008年、マーティン・エバーハードCEO時代だ。電気エンジニアだったエバーハード氏がベンチャーキャピタルなどから資金調達しながらテスラを運営し、イーロン・マスク氏は投資家という立場にあった。
テスラの量産型第一号「ロードスター」は事実上、英国ロータス「エリーゼ」のEVコンバージョンだ。シャーシをロータスから調達し、ボディはフランス国内で加工してアメリカへ輸入していた。
テスラの量産型第一号はロータスエリーゼのEVコンバージョンというべきロードスター。日本では2010年から販売を開始し、価格は約1500万円だった
電動化技術について1990年にGMが量産した「EV1」の基礎開発を主導した、アラン・コッコーニ氏のACプロパルジョン社に委託していた。
だが、技術開発は予定より大幅に遅れ販売も停滞し、エバーハード氏は事実上、テスラを追放されてしまう。
この時点で、それまでテスラを見てきたメディア関係者の多くが「テスラは夢半ばで終わった」という印象を持った。
大化けした第二期はトヨタ効果がきっかけか?
テスラのオリジナル量産車の第一号が高級EVセダンのモデルS。日本での販売価格は989万9000~1229万9000円
その後、複数のCEOが就任したが事業は立ち直らず、イーロン・マスク氏が事業活動の先頭に立つことになる。ここからが、テスラの第二期だ。
第二期の冒頭に打ち出したのが、自社オリジナルモデルの投入計画。のちの「モデルS」である。
テスラが活用したのが、オバマ政権が推進していたグリーンニューディール政策による低利子融資制度だ。
アメリカでEVなど次世代車を開発し、その製造をアメリカ国内で行うことが条件だ。テスラの他、日産やフォードが同制度を活用し数百億から数千億規模の融資を受けた。
こうしてテスラは、アメリカ連邦政府から「次世代車ベンチャーの星」としてお墨付きを受けたことが、部品調達先の開拓などで大きな支えとなった。
トヨタはテスラとRAV4 EVを共同開発し、2012年に正式発表。トヨタと共同開発した事実はテスラにとって非常に有益だった
さらに、工場用地の確保については様々な候補が挙がる中、最終的には当時のアーノルド・シュワルツェネッガー知事が仲介役となり、北カリフォルニアのトヨタ工場をテスラに売却することが決まり、さらにトヨタからテスラへの投資や、同州ZEV法への対策として「RAV4 EV」開発をテスラに委託した。
このトヨタ効果こそが、テスラ大化けのきっかけだった。
10年ほど一気に独走できた2つの側面
では、なぜテスラは、トヨタ効果後にEV市場で独走態勢に入ることができたのか?
筆者は、2つの側面があると考えている。
ひとつは、自動車メーカー各社が「EVは規制ありき」と決めつけ過ぎたことだ。
斬新なドアの開き方をするモデルXはモデルSをベースに開発されたクロスオーバーSUVで、日本での価格は1069万9000~1299万9000円
1900年代初期の自動車創世記、1970年代のオイルショック時など、一時的にEV需要が伸びる可能性があったが、性能面や価格面で本格量産にならず。
1990年にカリフォルニア州がZEV法を施行したことで、それ以降のEV開発は「ZEVありき」と言われてきた。
「ペナルティがないなら、ガソリン車やディーゼル車と比べて動力系部品のコストが極めて高いEVは当面、量産したくない」という大手自動車メーカーの幹部は、2020年時点でも大勢いるのが実情だ。
大手自動車メーカーでは唯一日産がEV戦略を積極展開。量産EVとしては実績を残しているが、経営基盤の大幅な見直し中
つまり、ユーザーや販売店から「EVを是非たくさん作ってほしい」という声が少ないのだ。
その中で、大手メーカーで唯一、EVに可能性を見出したのが日産だったが、周知の通りゴーン体制の崩壊によって経営基盤の大幅な見直し中である。
こうして、大手メーカーのほとんどがEVを遠巻きにし「テスラもそのうち失速する」と高を括っていたが、結果的に、テスラ主導でのプレミアムEV市場が形成されてしまい、ポルシェやメルセデスベンツなどが追従せざるを得なくなった。
テスラが先鞭をつけたEVプレミアムスポーツというジャンルに、ポルシェはタイカンを送り込んで応戦
テスラの上手さ
もうひとつ、テスラ独走には技術的な側面がある。
航続距離を延ばすため、大きな電気容量を持つ電池パックを搭載する手法について「単なるガソリン車の代替的発想であり、根本的にEV開発の思想に反する」と、異論を唱える自動車業界関係者が多かったが、いまではプレミアムEVでの王道となっている。
テスラは第2世代となる新型ロードスターを発表。日本ではまだ発売されていないが、ベースモデルが2270万円(予価)と公表されている
電池の種類についても、そもそもパソコン向けなど家電向けの需要を想定した開発された、直径18mm×高さ65mmの円筒形リチウムイオン二次電池「18650」を数百本単位でモジュール化し、電池パックでは数千本単位で構成することに電池業界から異論が多かった。
その後、パナソニックとの正式な協業体制となり、18650をEV向けとして改良し、さらにひと回り大きな「2170」に拡張。直近では、さらに大きな「4680」の開発に着手している。
それでも、大手メーカーで円筒式リチウムイオン二次電池をEVに使用するケースは少ない。
デザインを放棄した、など賛否両論のサイバートラックは、2021年から生産を開始する予定。GT-R並みの加速性能というのもビックリ
このように、テスラ第二期では、自社技術の発想を貫くことが結果的に奏功し、テスラブランドの独自色を創出した。
さらにいえば、自動運転技術や太陽光パネル事業、大型EVトラックやピックアップトラックEVなど、企業イメージを上げるためのマーケティングでも、大手自動車メーカーではリスキーと思われる領域まで踏み込んだ演出を行うところが、ユーザー目線で、または投資家目線でテスラファンを生む要因になっていると思う。
第一期、第二期での紆余曲折を経て、今後はマスマーケットに挑戦するテスラ。第三期へと、新たる成長軌道に乗れるか?
北米で販売好調が伝えられているテスラだが、日本では販売台数はいっさい公開されていない
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みんなのコメント
ましてフィスカーを知るなら躊躇するでしょう。
自動車のカテゴリーにいながら高級家電的存在。
しかしこうも早くガソリン車がターボのみの時代がやってくるとは、これから免許取る人は可哀想だな。
人気にあやかって、
今があるテスラ。
高級車のニッチマーケットを
いち早く見つけたのは、
運の強さか実力なのかは分からない。
このままの勢いでモデル3を成功させて、
長生きするのか、
やっぱり無くなってしまうのか、
テスラの将来はヤッパリ不明